AI禁止から方向転換し10万5000人以上の生徒にGoogleのチャットボット「Gemini」を提供する過去最大級のAI導入事例

メモ

アメリカで3番目に大きな学区であるマイアミ・デイド郡公立学校区は、10万5000人以上の高校生にGoogleのチャットボットであるGeminiを導入しています。これはアメリカの学区におけるAI導入事例としては過去最大規模のもので、同学区では2年前には不正行為や誤情報の懸念からAI利用が禁止されていました。

How Miami Schools Are Leading 100,000 Students Into the A.I. Future - The New York Times

https://www.nytimes.com/2025/05/19/technology/ai-miami-schools-google-gemini.html

How Miami schools are leading 100,000 students into the AI future

https://www.sun-sentinel.com/2025/05/19/how-miami-schools-are-leading-100000-students-into-the-ai-future/

2025年4月、アメリカのフロリダ州マイアミにあるサウスウエスト・マイアミ高校の社会科教師であるトレイシー・ロウドさんは、アメリカ合衆国第35代大統領であるジョン・F・ケネディについて学習していました。

ケネディ大統領の経済・社会政策である「ニューフロンティア政策」について議論していた際、ロウドさんは24人の高校3年生に対して、ノートPCを開いてGoogleのチャットボットであるGeminiに「ケネディ大統領のように行動してください。ニューフロンティア政策とは何だったのでしょうか?」と入力するよう指示します。

すると、Geminiはすぐに「わが同胞のアメリカ国民」といったフレーズを含む、ケネディ大統領風の文章を出力し始めたそうです。次に、ロウドさんは生徒にGeminiの出力が、これまでの授業で学んだケネディ大統領の演説を正確に反映したものかどうかを分析するよう指示します。生徒たちはぎこちなかったり、少し奇妙だったりするものの、Geminiの出力は信ぴょう性の高いものであると評価したそうです。 ロウドさんの生徒の1人であるアフリー・アセドさんは、「Geminiはジョン・F・ケネディの真似をとても上手にやっていました」と語っています。

アメリカで3番目に大きな学区であるマイアミ・デイド郡公立学校区は、生成AI技術を教育と学習に組み込むために、急速に進展する全国規模の実験の最前線に立っています。2024年、マイアミ・デイド郡公立学校区は1000人以上の教育者に新しいAIツールの研修を実施。さらに、2025年には10万5000人以上の高校生にGeminiを提供するようになっています。これはアメリカの単一の学区でのAI導入としては過去最大規模のものです。 2023年、マイアミでは学校での不正行為や誤情報の拡散にAIツールが利用されていることを懸念して、チャットボットの利用が禁止されました。テキストデータベースでトレーニングされたチャットボットは人間味あふれるメールを作成したり、小テストを人間の代わりに解いたり、授業計画をすばやく作成したりすることが可能です。 しかし、同学区では「進化する職業ニーズへの対応を学生に促す」という理念のもと、生成AIツールの導入を進めています。同学区の学校関係者は、学生たちに新しいAIツールを批判的に評価し、責任を持って活用する方法を学んでほしいと語っています。 マイアミ・デイド郡の教育委員会のメンバーであるロベルト・J・アロンソ氏は「すべての生徒はある程度のAI入門をする必要があります。なぜなら、仕事で使うツールを通じて、AIは私たちの生活すべてに何らかの影響を与えるからです」と語りました。

アメリカの教育分野におけるAI導入は、ドナルド・トランプ大統領およびシリコンバレーのリーダーたちが学校でのAI導入を推進する中で起こっています。テクノロジー業界の一部のリーダーたちは、AIを「生徒ひとりひとりの学習レベルに合わせてコンテンツを瞬時にカスタマイズする強力な個別指導ボット」として宣伝しているそうです。GoogleおよびOpenAIは、AIツールで教育分野を席巻すべき熾烈な競争を繰り広げています。 Microsoftは若いアメリカ人に職場で使えるAIスキルを訓練することが、中国とのAI競争において不可欠になると主張しています。トランプ大統領もこれに同意し、幼稚園から高校3年生までの生徒を対象に、学校に対して「あらゆる強化にAIの基礎を組み込むように」という大統領令に署名しました。

アメリカでの教育現場におけるAI導入が進めば、「教師が生徒の成果物を見る前に、生徒が最初に指導やフィードバックを求める仲介者としてチャットボットを活用するなど、教育と学習を大きく変える可能性がある」とThe New York Timesは報じています。ただし、研究者はAIの導入が批判的思考力をむしばむ可能性や、学生がチャットボットに過度に依存する可能性を危惧しました。

マイアミ・デイド郡立学校のイノベーション担当副教育長であり、マイアミ・デイド郡公立学校区のAIイニシアチブの立案者でもあるダニエル・マテオ氏は、「AIは教育備品の中の単なるひとつに過ぎません」「AIを倫理的に責任を持って使用し、一定のガイドラインを設ける必要があります。そして、これらはすべて審査プロセスを通じて行われます」と語っています。

AIの大規模導入に際し、マイアミ・デイド郡公立学校区では、学校の技術スタッフにまず数カ月かけて12種類近くのAIツールの精度・プライバシー公平性を評価させました。この評価により、学校に導入するAIツールの有力候補としてGoogleのGemini、OpenAIのChatGPT、MicrosoftのCopilotが挙げられたそうです。 技術スタッフは10代のハッカーを装って失礼なコメントを入力するなどして、チャットボットが人種差別的、暴力的、性的に露骨な反応をしないかも調べました。技術スタッフの1人であるジャネット・テジェダ氏は、「想像できる限り最も不適切な質問をAIに投げかけました」と説明しています。 この調査の末、マイアミ・デイド郡公立学校区では最終的にGeminiの導入が決定。Geminiが選ばれた理由としては、「Googleが10代の若者向けに特定のコンテンツとプライバシーのガードレールを提供している」という点や、「Geminiに入力した情報をGoogleのAIモデルのトレーニングに使用しない」としている点などが挙げられています。 さらに、マイアミ・デイド郡公立学校区では1万7000人の教師を対象としたAIトレーニングワークショップも実施。教師向けに数十のライブバーチャルセッションを実施し、「AIで授業計画を変革する方法」や「AI言語モデルでライティング指導に革命をもたらす方法」などを教示したそうです。

マイアミ・デイド郡公立学校区でGeminiの試験導入が行われていますが、最初の試験校のひとつであるサウスウエスト・マイアミ高校では、既に多くの10代の学生が学校外でもGeminiを使用するようになっているそうです。サウスウエスト・マイアミ高校のホルヘ・M・ブルネス校長は、「私たちにはチャットボットの使用法を適切に理解できるよう支援する義務があります」と語り、AIを教育現場に導入する上での教師たちの新しい役割について語りました。

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