致死率27%、マダニから感染「SFTS」 東日本でも拡大の兆し
マダニを媒介種とする感染症「重症熱性血小板減少症候群」(SFTS)が拡大している。今月に入り、これまで感染例のなかった神奈川県内で確認された。国内初のマダニ感染確認から10年以上を経て、「脅威」は関東にまでおよび、全国的な拡大が懸念されている。
SFTSは、ヒトと動物がともに感染する人獣共通感染症の一種だ。マダニから感染することが多く、約1~2週間程度の潜伏期間を経て、発熱や嘔吐(おうと)、下痢、出血症状などを発症する。国内の発症者の約9割を抵抗力の弱い60代以上が占め、致死率は27%に上る。
日本で感染が最初に確認されたのは平成25年だが、2000年代に入ってから関連が疑われる感染者は出ていた。これまで感染地域は西日本に集中していたが、今年に入って異変が起きている。
感染、東へ
神奈川県は17日、ホームページ(HP)で県内でのSFTS感染が確認されたと発表した。
女性は6月28日に発熱したという。血小板の減少、白血球の減少などの症状もあり、7月8日に感染が判明した。県が女性から聞き取りを実施するなどして調べたところ女性が県外に出ていないことや、畑仕事や草むしりに従事していた生活状況から、県内で感染したと判断された。
秋田県でも今月に入り他県への移動歴があったものの、70代の女性の感染を確認。平成29年に千葉県内で発熱した男性がSFTSに感染していたことが判明した例もあったが、その後は感染報告はなく、東日本での感染拡大が懸念される状況になっている。
人と動物近くなり
SFTSの感染拡大にについて、東京医科大の濱田篤郎客員教授(渡航医学)は、国内で生息していた野生動物が感染の源流にいると推測。その上で、開発によって野生動物と人間の生活圏が近づいたことや、アウトドアレジャーの浸透がヒトとウイルスの〝出会い〟の背景となった可能性を指摘する。
気象条件も見過ごせない。温暖化によってマダニの活動期間が長くなったことも感染の広がりにつながったとみる。
近年に入って感染が顕在化したSFTSは人間にとって未知の部分も多い。濱田氏は「ウイルスを封じ込めるためには、野生動物の動きや感染状況をより詳しく調査する必要がある」と話している。(内田優作、外崎晃彦)
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外飼いの猫、感染注意
犬や猫などのペットとして飼育されることが多い動物も、SFTSに感染するケースがある。
国立健康危機管理研究機構の調べによると、令和5年時点で、感染は犬が約40例、猫は約700例を確認している。
ペットの体液や排泄(はいせつ)物などから飼い主などが感染するリスクもある。東京医科大の濱田篤郎客員教授は、特に行動範囲の広い外飼いの猫は感染する可能性が高まると指摘する。今年5月には茨城県で一時屋外へ逃げ、マダニに刺された猫が高熱などを発症して死んだ例も確認されたという。
また、動物病院などの医療関係者の感染リスクも見落とせない。国内では平成30年以降、獣医師や動物看護師の感染例が複数確認されているほか、今年6月には、三重県の一見勝之知事が今年に入って県内の獣医師がSFTSで死亡したことを明らかにした。医師は猫の診察を行っており、猫から感染した疑いもある。これを受け、日本獣医師会も全国の動物医療関係者へ注意喚起を行っている。
感染対策…屋外では長袖で 付着しても手で取らない
SFTSは都市部よりも自然の多い地域の感染リスクが高いとされる。特にハイキングなどのアウトドアレジャーや、農作業などは感染原因になりやすい。
厚生労働省はマダニが生息している可能性のある屋外では、長袖、長ズボンなどの肌の露出の少ない衣類や、帽子、手袋などの着用を推奨。入浴時には身体にマダニが付着していないか確かめるよう求めている。手首や膝の裏だけではなく、頭髪なども注意が必要だ。
通常、マダニに刺されても痛みやかゆみなどの自覚はない。一方で血を吸ったマダニは身体が膨れ上がり、肉眼でも付着に気付くことができる。
マダニは数日からおよそ10日間にわたって人間から血を吸い続けるが、無理に取り除こうとすれば器官が皮膚に残ったり、マダニの体内のウイルスが移動したりする恐れもある。皮膚科を受診し除去するのが無難だ。