フィンランドのトナカイが危機に直面 原因はロシアで急増のオオカミか

ラップランド地方で5代続くトナカイ農家を営むユハ・クヤラさん/David von Blohn/CNN

フィンランド北部クーサモ(CNN) サンタクロースの出身地として知られるフィンランド北部ラップランド地方のトナカイが次々とオオカミに襲われ、危機に直面している。隣接するロシアでオオカミが急増し、越境してくるためとの見方が強い。

ユハ・クヤラさんはラップランド地方のクーサモで、400年以上続くトナカイ農家を営んでいる。近年の観光ブームを受けて、農場を「トナカイの世界」と名づけて開放し、流行の「トナカイヨガ」教室やそり体験を提供したり、トナカイの角や毛皮のラグ、缶詰の肉など土産物を販売したりしてきた。

だが最近、そのトナカイが異例の危機にさらされている。クヤラさんはほぼ毎日、トナカイの死骸(しがい)に遭遇するようになった。

ユハ・クヤラさんは世界中から訪れる観光客向けにヨガ教室やそり体験などのアトラクションを提供している(David von Blohn/CNN)

オオカミがトナカイを「ひたすら殺す」

クヤラさんは、雪の上に横たわったトナカイの死骸のわきにかがみ込んで、「このあたりでは今年が過去最悪だ」と語った。

数日前にオオカミに殺されたメスのトナカイだ。クヤラさんにとって、メスを失うのは特に痛い。成長して繁殖が可能になるまでに約2年かかるうえ、1頭のメスが産む子は通常、1年に1頭だけだ。

フィンランド農林省の推計によると、繁殖適齢のメス1頭が殺された場合、飼い主がこうむる損失は1572ユーロ(約29万円)に上る。

クヤラさんと同僚はほぼ毎日、トナカイの死骸に遭遇する(David von Blohn/CNN)

クヤラさんは「オオカミはひたすら殺すばかりだ」と嘆いた。「何もしなければ、あと数年で地域全体からトナカイがいなくなってしまう。トナカイの放牧は全フィンランドの最古の伝統なのに」

農林省傘下の研究機関、フィンランド天然資源研究所によると、同国ではここ数年でオオカミが急激に増えている。昨年春の推定295頭から今年は同430頭と、過去数十年で最も多い数を記録した。

同国のトナカイ農家組合によれば、オオカミに殺されたトナカイは今年だけで約1950頭に上り、昨年より70パーセント近く増加した。

オオカミは欧州各地で増えているが、フィンランドで最も有力なのは、ロシアのウクライナ侵攻に原因があるという説だ。

フィンランド東部、クフモの町の近くの野原で、豚の死骸の上に立つオオカミ/Mick Krever/CNN

オオカミを狩る人手が残っていない

この説によれば、ロシアのオオカミが国境を越え、フィンランドでトナカイを襲っているという。

越境の正確な理由をめぐっては、今も科学界で議論が続く。ロシアの一部メディアは、この一帯で森林伐採が野生生物に与える影響を報じてきた。

だがフィンランド側の研究者やトナカイ農家は、ウクライナ侵攻との関連を指摘する。

それによると、ロシアでは健康な男性が戦闘に動員され、その中には猟師も含まれていたため、オオカミの狩猟が減った。結果としてクマやオオヤマネコ、オオカミが爆発的に増え、トナカイを餌食にしていると考えられる。

クヤラさんは、自身の土地から約40キロというロシア国境の方を指差し、「かれらは今ウクライナで人間を狩っているから、オオカミを狩る人手が残っていない」と語った。

ロシアでは猟師を含む健康な男性が戦闘に動員され、オオカミの狩猟が減ったという(David von Blohn/CNN)

現実性の高い説

問題の責任がロシアにあるとの解釈は、フィンランド国民の間に広がる反ロシア感情とうまく合致する。国民は数十年にわたり、ロシアとの紛争が起きるかもしれないと身構えてきた。

だが同時に、この説には真実味もある。フィンランド天然資源研究所は10年前から、国内各地でオオカミのフンや尿など数千点のサンプルを採取してきた。最近になって、従来はみられなかったDNA指標を持つオオカミが急増していることが分かり、ロシアから越境した個体の可能性が高いと結論づけた。

サンプル分析を率いる上級研究員のカチャ・ホルマラ氏は「現実性が高い説」との見方を示し、「大きな手がかりは、ロシア側でオオカミの狩猟が減っていることだ」と述べた。ウクライナ侵攻前は狩猟が非常に盛んで、オオカミ1頭に対して高額の賞金が出ていたという。

ロシアによるウクライナ侵攻などを監視するフィンランドのNPO「ブラック・バード・グループ」の専門家、ジョン・ヘリン氏も同意見だ。同氏はラップランド地方に隣接するロシア北西部ムルマンスク州などで志願兵に高額の報酬が支払われている点と、ロシアの失業率が全般に下がっている点を指摘。一方で「オオカミの数は増えているのに、駆除は減っている状況だ」と述べた。

ロシア当局の記録が不透明なこともあり、この説を証明するのは難しいが、オオカミを狩る人手は明らかに減っている。

ロシアの国境地帯でこれまで林業や狩猟、野生生物保護を担ってきた季節労働者も減少の一途をたどっていると、ヘリン氏は説明する。

「戦争を終わらせてほしい」

フィンランドではオオカミが今も絶滅危惧種に指定されているが、政府は先月、個体数を制御する必要があるとして、オオカミの狩猟を認める立法を進めた。

トナカイ放牧地域では、すでにクヤラさんのような農家に特別な狩猟免許が交付されている。

クヤラさんは「オオカミを殺すべきでないと思う人たちは、ここに来てみるべきだ」「トナカイを失う苦しみを知ってほしい」と訴えた。将来は4人の息子にトナカイ農家を引き継ぎたいと考えている。

クヤラさんはさらに「戦争が終わることを心から願っている」と語り、和平仲介を試みるトランプ米大統領に「全力を尽くしてほしい」「戦争を終わらせてもらいたい」と呼びかけた。

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