イスラエル、レバノンで地上戦を拡大 南部の城塞を制圧
画像提供, Reuters
セバスチャン・アッシャー(エルサレム)、 ロバート・グリーンオール
イスラエル軍は5月31日、レバノン南部の戦略的要衝であるボーフォート城を制圧したと発表した。ベンヤミン・ネタニヤフ首相はこれを、レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラに対する攻撃における「決定的な転換点」だと述べた。
イスラエルの地上部隊は、これまでの非公式な境界線であるリタニ川を越えて、レバノン領内のさらに奥深くへ進軍する中で、ボーフォート城を制圧した。
リタニ渓谷を見下ろすボーフォート城は、約900年前に十字軍によって築かれて以来、同地域を支配する上で重要な拠点となってきた。イスラエル軍は「第1次レバノン戦争」として知られる44年前の争いでも同城を制圧している。
イスラエル国防軍(IDF)は、レバノン南部のより広範な地域の住民に避難を呼びかけた。イスラエルによる新たな事態激化を、イギリス、フランス、ドイツは批判した。
レバノンのナワーフ・サラーム首相は、イスラエルが「集団的懲罰」を行っていると非難している。
イスラエルが、ザフラニ川以南のレバノン南部全域の住民に避難を命じたのは、この数日で2度目。
IDFの報道官は、「ヒズボラの構成員や施設あるいは戦闘手段の近くにいる者は、自らの命を危険にさらしている」と述べた。
また、今回の作戦には「相当数のIDF地上部隊」が関与しており、作戦は「現在、さらなる地域へと拡大中だ」とした。
イギリスのイヴェット・クーパー外相は31日、ヨーロッパの同盟国とともに、イスラエルとヒズボラに対し戦闘の沈静化を求めた。
「イスラエルによるレバノンでの軍事的エスカレーションは、民間人の死傷や避難を招き、インフラを破壊し、外交の余地を狭めている」と、クーパー氏はソーシャルメディアに投稿。こうした事態を「終わらせなければならない」と述べた。
ヒズボラについては、「イスラエルに対する攻撃を止め、武装解除しなければならない」と付け加えた。
レバノンのサラーム首相はテレビ演説で、同国南部でイスラエルが「焦土作戦と集団的懲罰」を行っていると非難した。
レバノンと歴史的に関係が深いフランスは、イスラエルの軍事作戦について協議するため、国連安全保障理事会の緊急会合を要請。
エマニュエル・マクロン仏大統領は、「すべての武器を、永久に沈黙させることが急務だ」と述べた。
そして、「レバノン南部で現在進行中の重大な事態激化を、正当化できるものは何もない」と付け加えた。
ジャン=ノエル・バロ仏外相は、仏テレビ局BFMTVに対し、現在の状況は「イスラエルにとって重大な過ち」そのものだと語った。
ドイツのヨハン・ヴァーデフール外相は、イスラエル軍がレバノン南部でさらに進軍していることについて、「深刻な懸念の要因」になっているとした。
「さらなる事態激化は、すでに緊迫している状況を悪化させ、レバノン国内での新たな避難の波を引き起こすだろう」と、ヴァーデフール氏は声明で述べた。
イスラエルのネタニヤフ首相はボーフォート城制圧後の声明で、「我々の政策における決定的な段階かつ、決定的な転換点だ」と述べた。
「我々は恐怖の壁を打ち破った。我々は主導権を握り、シリア、ガザ、レバノンとあらゆる戦線で作戦を展開している」
「ヒズボラの支配下にあった場所での我々の支配力を強化・拡大する」ことが目的だとも、ネタニヤフ氏は述べた。
イスラエルのイスラエル・カッツ国防相は、44年前のパレスチナ解放機構(PLO)との戦闘を振り返り、当時この地を制圧したゴラニ旅団が再び戻り、イスラエル国旗を掲げたことを明らかにした。
今回のボーフォート城制圧は、イスラエルにとって戦略的勝利であると同時に、非常に象徴的な勝利でもある。
1982年にイスラエル軍は、イスラエル国境からわずか14.5キロメートルに位置するボーフォート城を占領した。しかし2000年、レバノン南部に自ら設定した緩衝地帯から撤退する際に、同城を手放した。
一方でレバノンにとっては、ここ数日でまた一つ、歴史的拠点を失ったことになる。同城のさらに北に位置する街ナバティエは、IDFの標的になりつつあるとみられる。
イスラエルのカッツ国防相は、ボーフォート城と、同城が建つ尾根の掌握は、国境の反対側のイスラエル人コミュニティーを守る上で重要な一歩だと述べた。
レバノン南部に対する避難命令は、イスラエルの地上部隊がリタニ川を越えて、レバノン領内のさらに奥深くへ進軍していることを明確に示す、新たな動きと言える。
イスラエルは、イランの支援を受けるヒズボラが、レバノン国内のイスラエル部隊や、国境の反対側のイスラエル人コミュニティーに対して、爆発物を搭載したドローンやミサイルによる攻撃を激化させていると主張。その対応として、ヒズボラへの猛攻を強めているとしている。
レバノン保健省は31日、南部ティール近郊のヒラム病院周辺への空爆で病院職員13人が負傷し、施設に大きな被害が出たと発表した。
レバノン軍は兵士1人の死亡も確認した。イスラエルの国境沿いの地域では31日、複数の学校が予防措置として休校となった。
30日にはヒズボラが、イスラエルの国境地域に向けて約25発の飛翔(ひしょう)体を発射した。イスラエルの野党政治家らは、住民の安全確保のためにさらなる措置を講じるよう、政府に訴えた。
イスラエルとレバノンの両政府は先月、停戦で合意し、その後2度にわたり停戦期間が延長されている。イスラエル政府関係者は、ヒズボラがこの一時停戦に違反して攻撃を仕掛けていると主張している。
一方でレバノン政府関係者は、イスラエルの空爆そのものが停戦違反だと指摘している。
イスラエルとレバノンが互いに非難し合っていることから、停戦は事実上崩壊状態にあることがうかがえる。それでも、今週には米ワシントンで、両国の代表団が4回目の協議を行う見通しだ。
レバノンのサラーム首相は、代表者同士による協議が、レバノンが紛争から脱する唯一の道だとしている。ただ、こうした協議にヒズボラは関与していない。そして、レバノンの政府と軍は相変わらず、イスラエルとヒズボラの最新の対立を傍観者として見守ることしかできずにいる。
それ以来、レバノンでは3300人以上が殺害されたと、レバノン当局は発表している。一方でイスラエル軍側の死者は25人に上っている。