「死んだンゴ」予約投稿して逝った22歳 父が語る最期の〝らしさ〟

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聞き手・小川尭洋 小田邦彦

北海道がんセンターで闘病していた中山奏琉さん=2025年9月30日、札幌市、父の和彦さん提供

 希少がんと闘い22歳で亡くなった中山奏琉(かなる)さん。生前に予約してXに投稿された「最期のつぶやき」が感動を呼び、医療機関などへの相次ぐ寄付につながりました。「一度きりの『祭り』でも十分だけど、希少がんにもっと関心が集まる後押しになるのなら、インタビューにお答えしたい」。闘病の一方で学生生活を精いっぱいに楽しむ姿を見守った父親の和彦さん(48)が、感謝の思いと、未来に向けた願いを語りました。

やらない善より、やる偽善

 奏琉が、生前の予約設定で「グエー死んだンゴ」(冗談で死んだことを表現するネットスラング)と投稿したのは、亡くなった2日後の10月14日午後8時でした。

 17日の葬儀の際、奏琉の友達に教えてもらい、驚きました。奏琉と面識のない人たちが、ここまで共感してくれたり、お悔やみの言葉をかけてくれたりしたことは素直にうれしいです。一番最初に「寄付した」と表明した人や、葬儀後に新聞のお悔やみ欄の画像を投稿した人……。それぞれの善意や配慮がよく伝わってきました。

 奏琉はたぶん、意識がもうろうとしていた10日ごろ、死が近いと覚悟し、数日後の設定で予約投稿をしたんでしょうね。「最後に仲間うちで笑ってもらえるといいな」ぐらいの軽いノリだったのかなと。自分の死までネタにして笑わせようとしたのは奏琉らしいなと思いますが、それがここまで拡散するとは、本人が一番驚いているんじゃないかな。何より、北海道がんセンター(札幌市)にはお世話になったので、寄付が増える形で恩返しできたのは、すごく喜んでいると思います。

 奏琉が「偽善的な行為」のために利用されているのではないかと気遣ってくれる方々もいます。ただ、ぼくらとしては、それも含めてみんなに広まって、結果としてたくさんの人が良い方向で動いてくれたことを知っているので、うれしいなと受け止めています。誰かがXでも書いていましたけど、「やらない善よりやる偽善」ですよね。

中山奏琉さんが両親にプレゼントしようとしていた時計つき写真立て。家族写真を入れるつもりだったとみられる=2025年10月24日、北海道津別町、小川尭洋撮影

 (遺影を見ながら)いい笑顔でしょう。

 水色のTシャツを着ていますが、通っていた北海道大学のボーカロイド(ボカロ、歌声合成ソフト)同好会の仲間とおそろいで着たものだったそうです。

 遺影の横にあるエレキギターやベースはその音楽活動で使っていたものです。同好会では会長も務めていました。友達のことが大好きで、彼らと一緒にいる時が一番笑っていたんじゃないかな。

中山奏琉さんが使っていたエレキギターとベース=2025年10月24日、北海道津別町、小川尭洋撮影

 多くの友達に恵まれました。お見舞いでは、中学卒業以来会っていなかった旧友たちも来てくれたし、地元を離れて東京で働く中で飛んできてくれた人もいます。高校時代の同級生たちはお見舞いの隙間が空かないように調整してくれていたそうです。親ながら「こいつ、人望あるなあ」と思いましたよ。ボカロ同好会の仲間たちが「奏琉は人を引き寄せる力がある」と話してくれたのもうれしかった。

 奏琉は3人兄弟の次男です。長男の名前には「音」が入っている関係で、次男も「奏」を入れ、覚えてもらいやすい変わった読み方にしようと思いました。一度やると決めたらがんばる性格でした。ソフトテニスは高校まで10年以上打ち込み、中学では全国大会に出場しました。習字でも上級者の八段を取りました。

 1年間の浪人生活を経て、北大の総合理系に合格しました。家業の農業を継ぐとまでは言っていませんでしたが、「北大で農業機械や地中の微生物について研究したい」と言っていました。

 がんになったと発覚したのは、奏琉が1年生秋のことでした。夏休み中に背中の痛みとこぶに違和感を覚え、総合病院やがんセンターで精密検査を受け、2023年10月25日に診断を受けました。「類上皮肉腫」。主に手足や骨盤、背中など軟部組織に発生することが多い腫瘍(しゅよう)の一種で、年間でも20人ほどしか発症しないそうです。

 後に腫瘍とわかったこぶは握りこぶし大になっていました。本人は1年生の春ごろから、背中の痛みや腫れが気になってはいたそうですが、強い痛みはなく、重大なことだとは思わなかったようです。

「あと1カ月でも生きたい、という希望を失ってなかった」。家族と友人たちが見届けた最期の様子を、インタビュー動画とともにお届けします。

楽観的に見ていたが

 がんだと知らされた時は、ド…

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この記事を書いた人

小川尭洋
デジタル企画報道部
専門・関心分野
人種差別、海外ルーツの人々、歴史認識、政治と教育
小田邦彦
青森総局|高校野球、事件・事故
専門・関心分野
スポーツ(高校野球、陸上、相撲)、法律

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