トランプ関税回避目指す日本、対米黒字解消に「特効薬」なし

トランプ米大統領は日本に対し25%の関税を通告した書簡で、巨額の対米貿易黒字を依然問題視していることをにじませた。日本では黒字削減策として液化天然ガス(LNG)や農産物、自動車などの輸入拡大案も浮上しているが、課題も多く解消は容易ではない。

  トランプ関税は経済的合理性を欠き相手国を脅す政治的な道具になりつつあり、合理的な解決策を見いだすことは難しく「銀の弾丸(特効薬)はない」との見方が広がっている。トランプ氏が輸入拡大を強く求めている産品と、日本側がその対応策として輸入を検討していると報じられている品目について、それぞれ現状と課題を整理する。

自動車:逆輸入、90年代貿易摩擦時にも経験

  自動車は、昨年の対米輸出137万6000台に対して、輸入はわずか1万6000台とトランプ氏が「不公平」と批判する原因となっている。車両が大きく燃費が悪いなどを理由にした不人気ぶりには日本側では解決策がない。ゼネラル・モーターズ(GM)やフォードといった米国車の日本販売は数十年にわたり低迷しており、短期間で改善するのは困難だ。

  トヨタ自動車は米国生産車を日本に逆輸入する選択肢も示唆しており、日本政府も交渉カードとして検討していることが5月に報じられた。逆輸入は1990年代に日米貿易摩擦を背景にトヨタやホンダなどが取り組んだことがある。ただ、米国生産モデルを右ハンドル仕様に変更したり、日本の保安基準を満たす必要があり、企業には負担となる。

  また、トランプ政権は日本の自動車輸出台数に上限を設ける可能性に言及したとウォールストリート・ジャーナル(WSJ)が報じている。80-90年代にかけて、日本の自動車産業は対米輸出の自主規制を受け入れ、同時に米国での現地生産を積極的に進め、自動車輸出が減少した経緯がある。今後の交渉次第では、現地生産の拡大に伴い輸出台数が減少し、結果として貿易黒字削減に寄与する可能性もある。

  自動車を巡っては既に4月から追加関税が適用されており、日本政府は撤回を求めてきた。米国政治外交などを専門とする同志社大学の三牧聖子教授は、米国から「台数制限という最悪の提案」を避けるために、一定台数までは追加関税を10%と、それ以上は25%を適用といった数量スライド式の関税も視野に入れる必要があるという。

LNG:輸入拡大の余地あるが即効性に欠ける

  米国はシェール革命を経て世界有数のLNG輸出国となったが、日本の輸入量全体に占める割合は昨年で1割弱にとどまる。輸入量を一定程度増やす余地はあるとみられ、実際、国内最大の発電事業者JERAは先月、年間最大550万トンもの米国産LNGを長期購入する契約を締結した。

  JERAはこれらの契約で、供給が始まる時期を明らかにしていないが、30年前後に開始するとみられ、対米貿易黒字削減の点では即効性に欠ける。当面は、既に供給が始まっている米国プロジェクトのスポット(随時契約)や短期契約を増やすことが考えられるが、豪州など他地域からの調達よりも割高となるリスクもある。

原油:調達のリスク分散ではメリット、割高懸念

  トランプ氏は6月29日に放送されたFOXニュースとのインタビューで、「日本は大量の原油を受け入れることができる」と発言し、米国産原油の輸入拡大により対米貿易黒字を減らすよう求めた。経済産業省によると、米国産原油の割合は輸入量全体のわずか2.4%だった。

  ウクライナ侵攻を受けた対ロシア制裁の影響などで、日本の中東産原油への依存率は95%に達している。直近のイラン・イスラエルの対立のように中東情勢が緊迫化すれば、原油を運ぶタンカーの多くが通過するホルムズ海峡が封鎖される恐れがあり、米国からの調達拡大はリスク分散の点でも意味がある。

  しかし、原油は性状によって得られるガソリンや軽油などの石油製品の割合が変わってくるため、無計画に米国産原油の輸入を増やせば、需要に合わない製品の生産割合が高まる恐れがある。また、輸送コストを含めると、中東産よりも割高となる可能性もある。

コメ:米国の実利低く「あくまで交渉カード」

  日本が輸入に依存する穀物や肉といった農畜産物は米国からの輸入を増やす対象の選択肢となり得る。実際、大豆やトウモロコシの輸入拡大は自民党から容認する声が上がっており、5月の日米閣僚会議で米国との交渉を担当する赤沢亮正経済再生相が米側に提示したと報じられている

  一方、トランプ氏が日本は消極的と不満を示すコメの輸入拡大について、日本政府内では交渉の俎上(そじょう)に載せることが検討されていると日本経済新聞などが4月に報じている。価格高騰で輸入米のニーズも高まっており、5月の民間業者による米国からの精米輸入量は7894トンで、4月に比べ4割超増えた

  ただ、これまで政府が高関税などを通じて手厚く保護してきたコメ市場で安価な米国産米が増えれば価格下落を引き起こすと農家の反発を招く恐れがある。

  三菱総合研究所の稲垣公雄研究理事は5月のコラムで、米国には4500のコメ生産農家しか存在せず、米国全体が日本のコメ市場開放を求めているわけではないと指摘。米国が農業交渉に注力しても大きな実利を見込めないことはトランプ政権が一番よく理解しているはずで、「あくまで交渉カード」と稲垣氏は見ている。

パッケージ案、トランプ氏に「刺さってない」

  米シンクタンク、ハドソン研究所のシニアフェロー、ライリー・ウォルターズ氏は、自動車輸出で生じる巨額の黒字削減には大量のコメやボーイング機を購入する必要があるという。ただ、真の長期的な解決策とはならず、「日米貿易関係を改善するための政治的な努力に過ぎない」と指摘。日本にとって貿易黒字を削減するための「銀の弾丸はない」と分析する。

  一方、日本は農産物やエネルギーの輸入拡大などを組み合わせてパッケージで条件を提示し、自動車関税の引き下げを求めてきたが、同志社大の三牧教授は自動車産業復活に固執するトランプ氏には「刺さっていない」と見ている。トランプ関税は製造業を取り戻すための経済合理的な裏付けに欠いている可能性があり「交渉の難航は必至だ」と言う。

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