主菜「唐揚げ1個」で炎上の学校給食、改善策探るも人手不足や物価高が難題…専門家「将来像を考える機会に」

 福岡市で今春、市立小の給食が「炎上」した。主菜の唐揚げが1個だけという献立が粗末に映り、非難が殺到したのだ。市教育委員会は料理研究家らの力も借りて改善策を探るが、現場の人手や機材の不足に加えて物価高も重なり、解決すべき課題は少なくない。専門家は「ピンチをチャンスに変え、学校給食の将来像を皆で考える機会にしてほしい」と話す。(原聖悟)

1個だけの唐揚げが批判を招いた福岡市立小の給食=市教委提供

■工夫が裏目

 夏休みを控えた7月、福岡市東区にある第2給食センターでは、ずらりと並ぶ直径約1・2メートルの巨大な釜24台で調理員が野菜を炒め続けていた。約20校分の1万4000食を作るのにかけられる時間は、わずか3時間半。約60人が午前6時半から野菜の皮むきなどを始め、午前10時過ぎに完成させる。栄養教諭の古重ゆみさん(47)は「効率と衛生面を両立させ、帽子やマスク姿で10キロ近い材料を混ぜるのは重労働」と漏らす。

 問題になったのは今年4月の給食だった。ご飯とみそ汁、牛乳のほかは唐揚げが一つのみで、「育ち盛りなのに」といった100件近い苦情や意見が市教委に集中した。

 献立は栄養教諭が半年前から原案を作り、校長や教員、調理員らで練り上げたものだ。唐揚げは従来の2個サイズの約60グラムあり、みそ汁にも多くの野菜を使っていて必要な栄養素は満たしていた。調理や配膳の手間を減らす工夫が裏目に出た形で、市教委は「見た目も考えないといけなかった」とするが、現場からは「子どもや保護者にも評価されていた」と不満も漏れる。

大釜が並ぶ福岡市の給食センター。調理は早朝から始まる(7月、福岡市東区で)=田中勝美撮影

■設備不十分

 「もう少し『赤』や『緑』を」「一品加えれば華やかに」。批判を受けた市教委が7月に設置した検討会では、飲食店の経営者や地元の農業・漁業者ら7人が意見を交わした。学校を視察して給食も味わった料理研究家の SHIMA(しま) さん(51)は「見た目も大切な要素。彩りを添え、使いやすい食材を今後も一緒に考えていきたい」と話す。

 ただ、改革は簡単ではない。野菜類は衛生面から原則として生のまま出せず、ゆでた後に急速冷却する機械が必要になる。1台約600万円と高価で市立小146校の約4割にしかない。現場からは、釜で調理してきた焼き料理や揚げ物に必要なオーブン、フライヤーを求める声も上がっている。

 火を扱う調理室は40度を超えることもあるが、空調設備があるのは半数の70校にとどまる。市立小19校で調理を担う「朝日給食サービス」(福岡市)の平岡美穂課長は「夏場は本当に過酷な環境で、調理員を募集してもなかなか集まらない」と明かし、「設備や待遇の改善が必要だ」と訴える。

 市の給食費は小学生が1か月4200円(1食あたり243・15円)で、約10年間にわたって据え置かれたままだ。2025年度に市が肩代わりする高騰分は約12億円で、3年前の3倍に急増。物価高も給食の質を抑える圧力として働いてきた。

■足りぬ予算

 給食問題に頭を悩ませるのは福岡市だけではない。奈良市では予算不足により、1か月の平均カロリーが国の基準を1年以上も下回っていたことが発覚した。福岡県久留米市は今年4月から月額の給食費を小学生500円、中学生で600円増やした。保護者に負担は求めず、公費から捻出するという。

 福岡市の検討会は今月、1食の単価を引き上げる予算の手当てとともに、献立作りの背景や現場の苦労を伝える情報発信を提言した。市教委は子どもたちの意向も踏まえて今年度中に改善策に道筋をつけ、来年度以降は設備などを充実させる予算を確保していく。2学期から給食無償化を控える福岡市の高島宗一郎市長は、「予算面でしっかり支援する」と強調している。

  管理栄養士で鹿児島純心女子短大の榊順子教授(学校栄養教育)の話 「給食は栄養価や作業工程、食育の観点も考えられており、今回の騒動は一面的。問題提起の一つとして、給食をよりよくする契機にすべきだ」

時代とともに役割多様化

 貧しい子どもへの昼食支給から始まり、敗戦国に贈られたパンや脱脂粉乳。国産米への転換を経て、現代では高級ブランド牛まで――。学校給食は時代を映す鏡でもある。

 文部科学省などによると、国内初の給食は1889年、山形県で困窮家庭の児童に出された食事とされる。戦争で中断し、戦後は外国から届いた支援物資が子どもの胃袋を満たした。1954年制定の学校給食法で、「パンや米飯」に「おかず」「ミルク」の「完全給食」を提供する環境が整った。

 96年の集団食中毒を機に衛生管理が図られ、2005年の食育基本法には地産地消など「食育」の観点が入った。福岡市では博多和牛の生産者が学校を訪ねて解説も行う。

 女子栄養大の石田裕美教授(給食経営管理学)は「自ら配膳し、食文化や作り手への感謝も学べる給食は素晴らしい制度」と話し、「給食の役割や課題の背景、コストを理解した上で、将来像を話し合ってほしい」と求めている。

関連記事: