モルディブでの洞窟ダイビング中に死亡、5人はなぜ浮上しなかったのか?

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亡くなったミュリエル・オデニーノさんとフェデリコ・グアルティエリさん、モニカ・モンテファルコーネさん、ジャンルカ・ベネデッティさん、ジョルジア・ソマカルさん/Facebook/University of Genoa/Albatros Top Boat/Instagram

CNN)モルディブの透き通ったターコイズブルーの海や白い砂浜、わらぶきの水上バンガローの下には、深く狭い洞窟網が広がっている。光は差し込まず、浅瀬に生息する色鮮やかな海洋生物も存在しない。

海が荒れ、風も強まり始めていた14日午前遅く、経験豊富なイタリア人ダイバー5人のチームが、バーブ環礁沖の真っ暗な洞窟をめざして潜水した。この環礁はモルディブの首都マレから南へスピードボートで約1時間の距離にある。

グループに参加していたのはインストラクターのジャンルカ・ベネデッティさん、ジェノバ大学准教授(生態学)のモニカ・モンテファルコーネさん、その娘のジョルジア・ソマカルさん、海洋生物学者のフェデリコ・グアルティエリさん、研究者のミュリエル・オデニーノさん。

5人のダイバーは、水深約47メートルの入り口から最深部で深さ70メートルほどに達する洞窟網の奥深くへと進んだ。

5人が戻ることはなかった。

ダイバー5人の遺体は数日続いた捜索の末、ようやく発見された。緊迫した危険な捜索活動の結果、現地の軍のダイバー、モハメド・マフディー軍曹も命を落とした。

地元当局によると、一行はモルディブのレクリエーションダイビングの制限深度である30メートルより深く潜る許可を得ていたという。

ただ、5人が予定よりさらに深く潜ったのか、そうしたリスクの高い探検に適した装備を携えていたのかは不明だ。

懸命の捜索

ダイバーたちが滞在していたのは、「デューク・オブ・ヨーク」と名付けられた全長36メートルの豪華船だ。この船は最大25人の滞在客を対象にオーダーメイドのクルーズを提供している。

海を愛する者にとって夢のようなこの船に乗ることで、ダイバーたちは海鮮ディナーに舌鼓を打ったり、トップデッキの日光浴用ベッドでくつろいだりしながら、モルディブのサンゴの島を間近に望むことができる。

モルディブ政府の首席報道官はCNNの取材に、14日の午後1時30分ごろ、船上の誰かから遭難信号が発信されたと明らかにした。

ダイバーたちはこの時点で2時間ほど潜水していたが、浮上してこなかった。

報道官によると、最初に反応したのは別のダイビングクルーズ船だった。30分も経たないうちに、この船のダイバーが洞窟の入り口付近でベネデッティさんの遺体を発見した。

モルディブ沿岸警備隊は残る4人を探して水上や水中での捜索を開始したものの、ベネデッティさんの遺体発見を受け、当局は残り4人が洞窟内にいるとの前提で作業を始めた。

モニカ・モンテファルコーネさんは長年モルディブで海洋調査に携わっていた環境保護の専門家だった。

夫でジョルジアさんの父でもあるカルロ・ソマカルさんは、妻について「世界屈指のダイバーだった」と振り返る。

ソマカルさんはイタリア紙ラレプブリカの取材に「5000回は潜水経験があったはずだ」と語った。

報道官によると、モルディブ海洋研究センターは今回のダイビングに先立ち、バーブ環礁付近でソフトコーラル(軟体サンゴ)を調査するというモンテファルコーネさん、グアルティエリさん、オデニーノさんの研究計画を承認していた。ソマカルさんとベネデッティさんの名前は申請書に記載されていなかった。

イタリア人研究者の一行はテクニカルダイビングを行う許可も得ており、水深30メートルより深く潜ることも可能だったと、報道官は説明する。

ただ、モルディブ当局はダイバーたちが洞窟潜水(ケーブダイビング)を行うつもりだということは知らなかった。もし知っていれば、沿岸警備隊などの専門家を派遣して複雑なダイビングを支援していただろう、というのが報道官の説明だ。

「洞窟内のこれほど深い場所で行う過酷な仕事だと事前に伝えてくれれば、我々はもっと明確な指針とアドバイスを与えることができたはずだ」

ジェノバ大学によると、モンテファルコーネさんとオデニーノさんは気候変動の生物多様性への影響について調べる目的でモルディブに滞在していたが、ダイビング自体は研究プロジェクトの一環ではなく、「個人的に行われた」という。

ダイビングの危険性をさらに高めたのが悪天候だ。モルディブ気象当局は14日午前、強風と荒れた海への警戒を呼び掛ける「ホワイトアラート」を発出。ダイバーたちがこのアラートについて認識していたかどうかは定かではない。

立ち入り困難な水中生態系

この希少な水中生態系の探検に挑んだ経験を持つダイバーはごくわずか。ロシア人のテクニカルダイビングの専門家、ウラジーミル・トチロフ氏はその一人だ。

トチロフ氏はCNNの取材に「この洞窟に入ることができるのは、適切な準備と経験を備え、適正な計画を立てて潜水を試みる専門のケーブダイバーのみだ」と語った。

2014年に現地で潜水したトチロフ氏によると、イタリア人ダイバーの一行が発見された洞窟は全長約200メートルで、いくつかの開けた空間で構成されている。

トチロフ氏のダイビング会社「ネバ・ダイバーズ」がユーチューブに投稿した動画には、真っ暗で何もない、異世界のような生態系が映し出されている。

ダイバーたちは懐中電灯で進路を照らしつつ、所々で狭い通路を泳いで進む必要がある。閉所恐怖症になりそうな不気味な光景だ。

トチロフ氏によると、ケーブダイビングには集中的な技術訓練だけでなく、恐怖感や方向感覚の喪失に対処するための心の備えも求められる。

洞窟の奥深くへ進むにつれ、出口の光が見えなくなる地点に到達し、あとは完全な暗闇の中を進む必要があると、とトチロフ氏は解説する。

「誰だって暗闇の中でぐるぐる体を回され、暗い部屋から出口を見つけるようにと言われれば困難に直面するはずだ」(トチロフ氏)

危険な遺体収容作業

モルディブ当局によれば、インストラクターの遺体が14日に発見された後、残り4人のダイバーの遺体が洞窟の3番目の空洞で発見されるまでには18日までかかった。

報道官によれば、多国籍の捜索チームが組まれ、地元の専門家や世界的なスキューバ安全団体「ダイバーズ・アラート・ネットワーク(DAN)」に所属するフィンランド人ダイバー3人、さらには英国とオーストラリアから提供された専門装備が投入された。

報道官によると、予測不能な強い潮流に洞窟内の通路の狭さ、暗闇が相まって、捜索活動は困難を極めたという。

報道官は「このレベルのダイビングを行うのは専門家でないと無理だ」と付け加えた。

16日には軍事の上級ダイバーであるマフディー氏が死亡し、捜索活動は丸1日中断された。

当局の見方では、マフディー氏の死因は減圧症。減圧症はダイバーが急浮上して周囲の圧力が急激に低下した際に発生する。

マフディー氏はマレでの式典で、軍による最高の礼遇をもって埋葬された。式にはモルディブのムイズ大統領をはじめ、観光当局者や軍関係者、外国の大使ら数千人が参列して哀悼の意を表した。

当局はダイビングに使われた船を調査中

イタリア人ダイバーたちの身に何が起きたのかはまだ不明だ。

英国洞窟救助評議会の潜水士ジョン・ボランセン氏は、深い場所でのケーブダイビングには様々なリスクが伴うと説明する。ボランセン氏は18年に迷路のような水中洞窟網に閉じ込められたタイのユースサッカーチームの救出で重要な役割を果たした。

この時は少年12人とコーチ1人をひとりずつ救出するという大胆な作戦の末、チェンライの水没した洞窟網から全員が無事救出された。

ディープダイビングの危険の一つに「ガス昏睡(こんすい)」がある。これは水中深くで圧縮されたガスを吸い込んだスキューバダイバーが経験する、麻酔のような効果だ。

ボランセン氏は、イタリア人ダイバーたちは洞窟の奥深くで方向感覚を失ったのかもしれないと指摘する。

「水深が増すにつれ、こうした昏睡作用でパニックになる可能性があるほか、出口が見つけづらくなる可能性もある」(ボランセン氏)

報道官によると、当局は調査の焦点を一行が乗っていた船に絞っており、さらなる調査を行う間、船の免許を停止している。

報道官は「船に全ての書類がそろっていなかったのは事実だ」と述べ、船には「ダイビングスクール免許」が欠けていたと言い添えた。

「娯楽目的であれ専門的な目的であれ、ダイビングツアーを宣伝して顧客を支援するダイビングスクール事業を運営するのであれば、ダイビングスクール免許が必要になる」

CNNは「デューク・オブ・ヨーク」の運航者にコメントを求めている。この人物はロイター通信に対し、船は水深30メートルまでのダイビングの許可を得ており、ダイバーたちは到着時に制限深度について説明を受けていたと語った。

AP通信によると、この船でのツアーを販売していたイタリアの旅行会社「アルバトロス・トップ・ボート」の弁護士は、船の運航者は一行がレクリエーションダイビングの制限深度を超えて潜る計画だと「知らなかった」と説明。知っていれば「決して許可しなかったはず」だと指摘した。

弁護士によると、アルバトロス社は販売のみを担当していて船を所有しておらず、乗員の雇用も行っていなかった。乗員は現地で雇われたという。CNNはアルバトロス・トップ・ボートに追加のコメントを求めている。

当局が5人の死因究明を進める中、ソマカルさんは妻と娘を失った悲しみに暮れている。

ソマカルさんはラレプブリカの取材に、妻は「誠実な人」で、他人の命を危険にさらすようなことは決してしなかったはずだと語った。

「あの水中で何かが起こったに違いない」

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