月の危険な砂塵「レゴリス」を取り除け!NASAの防塵技術が月面で実地試験に成功
月の有人探査計画が進行する一方、最大の障害のひとつが月の表面に舞う細かい砂塵「レゴリス」だ。
レゴリスとは、隕石衝突などで岩石が砕けて天体の表面にたまった細かい破片の層で、月や火星に広く分布している堆積物の一種である。
宇宙飛行士にとって非常に危険で厄介なこのレゴリスが、革新的な技術によって無力化されようとしている
NASAがが開発した電気式の防塵システムが、月面での実地試験に成功したのだ。
2025年3月16日、アメリカの民間宇宙開発企業ファイアフライ・エアロスペースが実施した「ブルーゴースト・ミッション1」が無事終了した。
ファイアフライ・エアロスペースは、NASAからの委託を受けて探査機を開発。
この月探査ミッションは、NASAの「商業月面輸送サービス(CLPS)」の一環として行われたもので、NASAの10種類の実験装置が搭載されており、その中には今回の主役とも言える、レゴリスを防ぐ、NASA開発の「エレクトロダイナミック・ダスト・シールド(以下EDS)」も含まれていた。
探査機は、2025年1月にフロリダ州ケネディ宇宙センターから打ち上げた後、3月2日に月の北東半球に位置する濃い色の玄武岩で覆われた月の海の1つ、「危難の海」近くの「モン・ラトレイユ」と呼ばれる地域に着陸した。
この画像を大きなサイズで見る月の表面を覆う砂塵のような堆積層、レゴリス NASA月の表面には「レゴリス」と呼ばれる微細な塵や砂粒「レゴリス」が大量に存在している。
水が一切存在せず、数十億年にわたって無数の微小な隕石が衝突したことで、極端に鋭くとがった粒子が生まれた。
また、宇宙線の影響でそれぞれの粒子が静電気を帯びており、宇宙服や機械、さらには人体にも付着しやすい性質を持つ。
過去のアポロ計画でも、宇宙服がすぐにすり減ったり、機材に不具合が起きたりする原因となってきた。
この問題は、1969年のアポロ計画からすでに知られていた。
当時の宇宙飛行士たちは、ミッション後にまるで炭鉱労働者のような姿で月面車に戻ってきたという。
スーツ、ヘルメットのバイザー、工具、電子機器までもが砂に覆われ、健康や装備の劣化にまで悪影響を及ぼした。
そのため、レゴリスへの対策は、今後の有人月面探査における重要な課題とされてきた。特に、将来の長期滞在では、機器の性能低下や人体への影響が深刻な問題になりかねない。
この画像を大きなサイズで見るアポロ11号での月面調査時に付けられた月表面の足跡 AS11-40-5877 / WIKI commonsレゴリス問題に対処するために、NASAが開発したのがEDSだ。
これは、装置の表面に配置された電極に電圧をかけることで、宇宙飛行士や機器の表面に付着したレゴリスを電気的な力で弾き飛ばすという仕組みになっている。
EDSは、NASAのフロリダ州ケネディ宇宙センターで設計・開発されたもので、NASAの「ゲーム・チェンジング開発プログラム」から資金提供を受けている。
今回のブルーゴースト・ミッション1では、EDSが月面に運ばれ、実際の月の環境下でその効果が検証された。
実験対象は、ガラス板と熱放射パネルの2つの表面だ。
EDSを使用する前のBEFORE画像では、それらがレゴリスで覆われていたが、EDSを作動させた後のAFTER画像では、表面がきれいになり、レゴリスがしっかりと除去されていたことが視覚的に確認された。
この画像を大きなサイズで見るEDSを作動前(BEFORE)と作動後(AFTER)でガラスと熱放射パネルの表面のレゴリスを比較した画像 NASA今回の実験結果は、EDSが月面での現実的な防塵技術になり得ることを示している。
EDSは現時点では試験用の装置で、実際の探査に使うには改良が必要だが、今回の実証実験により、今後の探査機や宇宙基地にこの技術が組み込まれる可能性が大きくなった。
宇宙飛行士の健康と任務の安全を守るため、見えない電気のバリアが新たな標準装備になる日も近いかもしれない。
References: Nasa.gov
本記事は、海外の記事を参考に、日本の読者向けに重要な情報を翻訳・再構成しています。