USAIDめぐるトランプ氏の主張拡散 名指しされたメディアは否定
トランプ米大統領が発した米国際開発局(USAID)をめぐるSNSへの投稿により、混乱が広がっている。米国の対外援助の多くを担うUSAIDなどから数十億ドルが盗まれ、民主党に有利な話を報じるためにメディアに流れていると根拠を示さず主張。これが世界に拡散し、名指しされたメディアが「不正確」などとして相次いで否定した。その余波は、日本にも及んでいる。
問題となったのは、トランプ氏が今月6日、自らが立ち上げたSNS「トゥルース・ソーシャル」にこの主張を書き込んだことだった。
その中で米政治専門サイト・ポリティコの名を挙げ、「800万ドル(約12億2千万円)を受け取っているようだ」と投稿。米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)についても資金を受け取っているかのような表現をし、「歴史的なスキャンダルだ」と記した。
名指しされたメディアは、トランプ政権1期目から批判的な報道をしてきたことから、トランプ氏に敵視された経緯がある。
USAIDをめぐっては、対外援助が「米国民に利益をもたらさない」などとして、トランプ氏は予算と人員の大幅削減を示唆してきた。人道支援などが米国の利益と一致しているかを検証するため、対外援助を一時停止する大統領令にも署名。これを受けてUSAIDによる資金提供なども凍結された。
USAID、60カ国以上に拠点
一方で、首都ワシントンの連邦地裁が国務省やUSAIDなどに対し、資金援助の停止を一時的に解除するよう命じるなどの動きも出ている。
USAIDは1961年に設立され、人道支援や開発援助のほか、紛争後の支援も担ってきた。ロイター通信や英BBCによると、職員は約1万人で、その3分の2は国外勤務。予算は年間約400億ドル(約6兆1千億円)にのぼる。60カ国以上に拠点があり、飢餓に苦しむ国々への食料提供や、パンデミックにつながるウイルス拡散の防止事業などに取り組んできた。
米国は世界最大の対外援助の提供国で、USAIDの役割が制限されれば、世界中の人道支援プログラムが行き詰まるおそれがある。アジアやアフリカでは、すでに深刻な影響も出始めている。
しかし、トランプ政権の「政府効率化省」トップで起業家のイーロン・マスク氏はUSAIDの資金の使い道などに批判を強めていて、3日には「トランプ氏がUSAIDを閉鎖すべきだと同意した」と発言。トランプ政権は4日、USAIDの職員を休職とする通知を出し、国外勤務の職員は30日以内に帰国するよう促した。USAIDのウェブサイトもアクセスできなくなっている。
トランプ氏がポリティコやNYTとUSAIDの資金を結びつけた投稿をしたのは、USAIDへのこうした圧力が強まっているさなかだった。
これに対し、ポリティコは最高経営責任者と編集長名で、トランプ氏の投稿を全面的に否定。ポリティコの有料サービスを購読している米政府機関はあるが、「政府から補助金や助成金などの資金を受け取ったことはない」とのコメントを発表した。
NYT「払っているのは一般の読者と同じ購読料」
NYTも、トランプ氏の投稿は「不正確な情報」と反論。政府から補助金は受け取っていないとし、政府や職員がNYTに支払っているのは一般の読者と同じ購読料だとしている。
しかし、トランプ氏の主張はマスク氏が所有するX(旧ツイッター)などインターネットを通じて世界中に拡散し続けている。
AP通信は「トランプ政権がUSAIDの廃止を進めるなか、虚偽で誤解を招く情報がSNSで拡散している」と報道。英BBCは、報道の自由がない国のメディアを支援するBBCの慈善団体がUSAIDから一部資金を受けていたが、BBCニュース部門とは切り離され、報道は独立していると説明した。
SNS上では、朝日新聞を含む日本メディアがUSAIDに関与しているとの書き込みもある。
NHKは13日夜のニュースで、「『NHKがUSAIDから資金をもらって言論弾圧をしている』などとする誤った情報が広がっている」と言及した上で、「資金提供を受けている事実はありません」などと報じた。
朝日新聞広報部「資金提供の事実ない」
朝日新聞社広報部は「USAIDから当社が資金提供を受けている事実はなく、不正確な情報の拡散は遺憾です。当社としましては、引き続き公正な報道に努めてまいります」としている。
この記事を書いた人
- 奥寺淳
- 編集委員|米中・国際関係担当
- 専門・関心分野
- 米中、日中、国際関係
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