競馬記者が見たアニメ『ウマ娘 シンデレラグレイ』(11)「カサマツの星」

アニメ『ウマ娘 シンデレラグレイ』第11話。オグリキャップ(左)がシリウスシンボリを差し切るⒸ久住太陽・杉浦理史&Pita・伊藤隼之介/集英社・ウマ娘 シンデレラグレイ製作委員会 Ⓒ Cygames,Inc.

競走馬をモチーフとしたキャラクター、オグリキャップが主人公のTBS系アニメ『ウマ娘 シンデレラグレイ』(日曜後4・30)が放送中だ。地方・笠松競馬からはじまったオグリキャップのレースをリアルタイムで見てきた競馬記者が、毎週の放送に合わせて史実のオグリキャップやライバルたちの動向、実在の騎手、調教師、厩務員、調教助手、馬主、生産者らの言動を振り返ってオグリキャップの実像を紹介し、アニメ『ウマ娘 シンデレラグレイ』と重ね合わせていく。

※以下、アニメ『ウマ娘 シンデレラグレイ』のネタバレが含まれます。

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第11話の冒頭で、いつも以上の食欲を見せるタマモクロスがいた。ゴールドシチーに「どうしたの?その量。ふだん全然食べないのに次の天皇賞のことばっか考えて、自分のキャラ忘れちゃったの?」と言われる。脳裏にオグリキャップが浮かんだタマモは「そーかもしれへんな」とうなずいた。

アニメ『ウマ娘 シンデレラグレイ』第11話。ゴールドシチー(左)とタマモクロスⒸ久住太陽・杉浦理史&Pita・伊藤隼之介/集英社・ウマ娘 シンデレラグレイ製作委員会 Ⓒ Cygames,Inc.

史実のタマモクロスも牡馬ながら食の細い馬で、陣営はカイバを食べさせるために苦労していた。天皇賞(秋)を前にした1988年10月28日付のサンケイスポーツ(東京版)に掲載された、元プロボクサーで競馬好きの矢尾板貞雄さんが注目の陣営に聞く「矢尾さんのけいば人間」に、タマモクロスを管理する小原伊佐美調教師の話が載っている。

「東京の水はいいですねえ。もともと食いが細い馬なので、その点を一番心配していたんですが、見てくださいよ、この食いっぷりを。まったくうれしい悲鳴です」

現実世界の“白い稲妻”も天皇賞(秋)に向けて食欲旺盛だったようだ。

アニメでは、毎日王冠のパドックでシリウスシンボリが「ヨーロッパ仕込みのダンス」(実況の赤坂美聡)を披露し、無意識のうちにロードロイヤルにけがを負わせ、ダイナムヒロインにも蹴りを入れてしまう。

アニメ『ウマ娘 シンデレラグレイ』第11話。シリウスシンボリ(中)がパドックでダンスを踊り、無意識のうちにロードロイヤル(右)にけがを負わせ、ダイナムヒロイン(左)にも蹴りをⒸ久住太陽・杉浦理史&Pita・伊藤隼之介/集英社・ウマ娘 シンデレラグレイ製作委員会 Ⓒ Cygames,Inc.

88年10月9日に行われた毎日王冠で、日本ダービー馬のシリウスシンボリが起こしたアクシデントは、ゲート前で行う輪乗りの際だった。『2133日間のオグリキャップ 誕生から引退までの軌跡を追う』(有吉正徳・栗原純一、ミデアム出版社)にこうある。

<シリウスシンボリの蹴り上げた後肢がレジェンドテイオーとダイナアクトレスに当たり、レジェンドテイオーは左肩に異状を来し、発走除外の憂き目を見ていた。>

同10日付のサンケイスポーツ(東京版)に佐藤洋一郎記者が、レジェンドテイオーの郷原洋行騎手とダイナアクトレスの岡部幸雄騎手の臨場感あるコメントを伝えている。

<「二度だよ、肩先と胸を。十分間隔を取っていたのに、いきなり下がって蹴りに来たんだ。赤いリボンでも着けていればもっと警戒したのに、あれじゃどうにもならんよ!」。郷原騎手の声が上ずっている。レジェンドの肩を蹴り上げたシリウスは、それだけでは不満とばかりダイナアクトレスのヒバラ(腓骨)にも〝回し蹴り〟を入れた。その影響でアクトレスは興奮、「レースで折り合いを欠いてしまった」(岡部騎手)。>

オグリキャップはアクシデントに巻き込まれずに済んだが、ただならぬ雰囲気でレースは始まった。出遅れ気味のスタートを切った芦毛の怪物は11頭中10番手を進む。鞍上の河内洋騎手が、後方待機策から外を回る安全策を取ったからだった。理由はこうだ。

<河内は「勝つことが最低条件」とまでいってしまったからか、アクシデントだけを恐れた。馬群の中にいれば、どんな不測の事態が起こらないとも限らない。進路を大外へと取った。このレースが始まる直前、実際にアクシデントが起こっているのだ。(中略)そうしたアクシデントを避けるため、敢えて距離のロスには目をつぶって河内騎手は安全策を取ったのである>(『2133日間のオグリキャップ-』)

オグリキャップは、直線で横一線になった馬群の大外を一気に抜け出した。シリウスシンボリがゴール前で詰め寄ったが、時すでに遅し。オグリキャップは、日本ダービー馬に1馬身1/4差をつけて快勝した。3、4着はボールドノースマンとランニングフリー。ダイナアクトレスはアクシデントの影響もあって5着に敗れた。

アニメでは、ライバルたちによるオグリキャップ包囲網が敷かれた。トレーナーの六平(むさか)銀次郎は「俺が一番恐れているのは怪我だ。無理に進路を取れば接触。――レースでは全員から距離を取るんだ。誰にも触れられない位置を走れ」と伝える。

オグリは六平のアドバイス通りの走りを見せ、直線で横一線になったバ群の大外から残り400メートルで先頭に並びかけ、鮮やかに差し切った。2着はシリウスシンボリ、3、4着はマッシヴバイキングとロングリヴフリーで、5着はダイナムヒロインだった。記者の藤井泉助が「本物の怪物やんけ」と言うほど、歴代タイとなる中央重賞6連勝を決めたオグリキャップは強かった。

史実のオグリキャップも、中央競馬史上初の3冠牝馬に輝いたメジロラモーヌが1986年に記録した中央重賞6連勝に並んだ。毎日王冠の翌日付のサンケイスポーツ(東京版)では「超怪物」という見出しが躍った。水戸正晴記者がつづる。

<〝新怪物くん〟の進撃を阻止する馬はタマモクロスか、はたまた…。>

オグリキャップに残されたライバルはタマモクロス一頭に絞られた。

アニメ『ウマ娘 シンデレラグレイ』第11話。オグリキャップ(左)がGⅠ勝負服を初めて披露。右はタマモクロスアニメ『ウマ娘 シンデレラグレイ』第11話。オグリキャップ(左)がシリウスシンボリを差し切るアニメⒸ久住太陽・杉浦理史&Pita・伊藤隼之介/集英社・ウマ娘 シンデレラグレイ製作委員会 Ⓒ Cygames,Inc.

第11話の終わりで、GⅠで着る勝負服を初めて披露したオグリキャップが「日本の頂点、いや天下を獲る」と言えば、タマモクロスは「天皇賞(秋)、ジャパンカップ、有マ記念。この秋のGⅠ3つ全部獲ったる」と宣言した。6月22日放送の第12話は「天皇賞(秋)」。雌雄を決する日はもうすぐだ。

毎日王冠を制したオグリキャップ(右)。2着はシリウスシンボリ(7番)=1988年10月9日、東京競馬場

■鈴木学(すずき・まなぶ)サンケイスポーツ記者。シンザンが3冠馬に輝いた1964年に生まれる。慶応大卒業後、89年に産経新聞社入社。産経新聞の福島支局、運動部を経て93年にサンケイスポーツの競馬担当となり、ビワハヤヒデ、ナリタブライアン兄弟などを取材。週刊Gallop編集長などを歴任し現在に至る。サイト「サンスポZBAT!競馬」にて同時進行予想コラム「居酒屋ブルース」を連載中。著書に『史上最強の三冠馬ナリタブライアン』(ワニブックス)。

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