夫婦は海外「リーガル婚」を選んだ 6600キロ先に求めた私の名前
「自分の名前」を守るために、彼女たちは6600キロの海を渡る決断をした。
神戸市に住む坂野水咲(ばんの・みさき)さん(26)と夫(26)は2025年9月、往復26万円の航空券を握りしめ、米ハワイ州ホノルルへ飛んだ。結婚式を挙げるためだ。
向かった先は、豪華なチャペルでも華やかな式場でもない。州保健省の近くにある、6畳ほどの無機質な部屋だ。
そこには参列する親族も友人もいない。牧師役の仲介人が1人いるだけ。
「病めるときも健やかなるときも互いを愛することを誓います」
結婚指輪を交換しながら、仲介人が読み上げる誓いの言葉を英語で復唱する。
所要時間わずか10分の簡素なセレモニーだったが、2人はハワイ州の法律に基づき、法的な夫婦になった。それぞれの結婚前の姓を維持したまま。
手続きもシンプル
選択的夫婦別姓制度の導入を巡る議論が日本で空転するなか、坂野さんたちのように海外へ向かう人たちがいる。
現地の法律に基づいて婚姻の手続きをする「リーガル・ウエディング」のためだ。
海外では別姓のまま法的に婚姻できるため、夫婦同姓を望まないカップルの新たな選択肢として浮上している。
その有力な場所がハワイ州。18歳以上の未婚者であれば国籍を問わずに婚姻でき、居住年数の条件などがある他の地域に比べて法律婚のハードルが低い。
手続きはシンプルだ。坂野さんの場合、渡航前に保健省にオンラインで申請し、パスポートを提示して結婚許可証を取得。仲介人の下でセレモニーを行うと、帰国後に2週間ほどで英文の婚姻証明書が届いた。
手続きにかかった費用は約170ドル(当時のレートで約2万7000円)だった。
坂野さんが時間と費用をかけて海外婚を選んだのには、切実な理由がある。
「名前は積み上げた業績そのもの」
京都大大学院生の坂野さんは古代ローマ史の研究に打ち込んでおり、夫もまた民間企業で研究職の道を歩んでいる。
2人にとって、姓を維持することはこだわりの問題ではない。論文、学位、学会での発表、国際的なネットワーク……。すべてが「名前」にひも付いている。
改姓すれば、それまでの業績はシステム上、別人のものとして扱われかねない。旧姓を通称として使ったとしても、戸籍名のパスポートとの不一致を理由に学会参加のための入国を拒否される恐れもある。
「研究者にとって、名前はこれまで積み上げてきた業績そのものなんです」
坂野さんは改姓をせず、愛する人と法的に結ばれる方法を模索していた。
そんな時、ブログで知ったのがリーガル・ウエディング。夫に相談したところ、「いいね。やってみよう」と快諾してくれた。
海外リーガル婚は「有効」と東京地裁
ただ、海外での法律婚がそのまま日本で通用するわけではない。
記事の後半では、リーガル・ウエディングが当事者にどんなメリットをもたらすのか。その限界は何かについて突き詰めていきます。
米…