札幌ドームの「2期ぶり黒字」の裏にカラクリ 楽観できぬ経営状況

ラグビーの「NTTリーグワン」の試合が行われた札幌ドーム(現大和ハウスプレミストドーム)=札幌市豊平区で2024年4月21日、谷口拓未撮影

 大和ハウスプレミストドーム(札幌ドーム、札幌市豊平区)を運営する札幌市の第三セクター「株式会社札幌ドーム」は23日、札幌市内で定時株主総会を開き、最終(当期)損益が4200万円の黒字となった2025年3月期決算を報告した。

 過去最悪の6億5100万円の赤字を計上した24年3月期から回復し、2期ぶりの黒字となったが、そこにはカラクリがある。

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 「安定的な経営ができるように一丸となり、経営を立て直す。第2の創業という意気込みで抜本的に営業を見直し、優先順位をつけて計画的にやっていきたい」

 この日、ドーム社の社長に就任した阿部晃士氏(56)は総会後の記者会見で表情を引き締めた。

 大手旅行会社JTBの元北海道広域代表。17年6月から社長を務めた山川広行氏からバトンを受け、経営のかじ取りを任されたが、課題は山積している。

株式会社札幌ドームの社長に就任し、記者会見に臨む阿部晃士氏=札幌市中央区で2025年6月23日午前11時48分、谷口拓未撮影

 23年にプロ野球・北海道日本ハムファイターズが本拠地を札幌ドームからエスコンフィールド北海道(北海道北広島市)に移転。その後、初めての決算となった24年3月期は大幅な赤字を計上した。

 そんな中、明るい兆しもある。

 24年4月以降、eスポーツの世界大会やポケットモンスターのカードゲーム大会など、新規の大規模イベントの誘致に成功。

 市やドーム社によると、24年8月に大和ハウス工業とネーミングライツ(命名権)の契約を結んだことによる収入のほか、イベント開催日数増加による使用料の増収などで、売上高が伸びた。

 25年3月期決算の売上高は前期比5億1500万円増の17億8700万円。イベント開催日数は同31日増の129日間となり、稼働率は同7・8ポイント増の70・4%に回復した。来場者数は同8・5%増の118万7000人だった。

 ただ、回復傾向とはいえ、経営は楽観できる状況にない。今回の決算には事実上、過去の利益が多く繰り入れられているためだ。

大和ハウスプレミストドーム=札幌市豊平区で2024年12月6日、谷口拓未撮影

 市が保有するプレミストドームはスポーツ振興や地域活性化も目的としており、アマチュア団体の非営利イベント向けに使用料の減免制度を設けている。

 24年度に27日間あったアマチュア利用の減免分計1億6800万円については、市が支出する補助と過去のドーム社の利益を積み立てた市の「スポーツ振興基金」から補塡(ほてん)され、収入の一部となっている。

 23年度以前の減免分の補塡はドーム社の年間利益で賄っていたが、24年度はドーム社の収支が切迫し、従来通りの運用では黒字化は困難だった。

 今期の売上高は日本ハムが本拠地としていた22年度以前の水準には及ばず、ドーム社は引き続き、平日開催のイベントの誘致などを進める。

 阿部社長は現状を踏まえ、アーティスト利用の誘致や大型イベント以外での利用の拡大などを目指す方針を示す。

 その上で「愛される施設を目指す。可能な限り全方位的にスポーツやエンターテインメント、市民や道民に使っていただける施設を目指していきたい。アゲンスト(逆風)をどうフォロー(追い風)に変えていくか」と力を込めた。【谷口拓未】

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