豪先住民の調査委員会、イギリス人入植者による「ジェノサイド」認定

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画像説明, 報告書には、イギリス人入植者による被害を「是正」するための100項目の勧告が盛り込まれている

オーストラリア・ヴィクトリア州において19世紀、イギリスの入植者が先住民に対してジェノサイド(集団虐殺)を行っていたことが、先住民主導の調査で明らかになった。

「ユールック正義委員会」が実施した調査によると、1830年代初頭に同州が植民地化されてからの20年間で、暴力と病気のため、現地の先住民人口が4分の1にまで減少したという。

報告書には、「侵略と占領」によって引き起こされた被害を「是正」するための勧告100項目が盛り込まれている。一方、報告書の執筆者の一部は、特定されていない「主要な調査結果」に異議を唱えている。

ユールック正義委員会は、2021年に設立されたオーストラリア初の正式な「真実を語る」調査機関。ヴィクトリア州の先住民が過去と現在に受けてきた「制度的な不正義」の実態を検証することを目的としている。

この取り組みは、オーストラリアがアボリジナルおよびトレス海峡諸島民との和解プロセスを進めるための、全国的な動きの一環とされている。地域の指導者らは、このプロセスに歴史に関する調査、条約の締結、そして「ファースト・ネイションズ(最初の人々)」の政治的発言権の拡大を含めるべきだと主張している。

ユールック司法委員会は4年間にわたり、アボリジナルおよびトレス海峡諸島民に対し、自分たちの体験や証言を正式に共有する機会を提供した。調査対象も、土地および水資源の権利、文化的侵害、殺害やジェノサイド、医療、教育、住宅など、多岐にわたる問題を網羅した。

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画像説明, メルボルンで先住民の権利拡大を求める抗議デモに参加する人々。プラカードには「ジェノサイドに誇りは持てない」と書かれている

報告書によると、1834年以降、「集団殺害、病気、性的暴力、排除、言語の消滅、文化の抹消、環境破壊、児童の強制移送」、そして同化政策が、ヴィクトリア州の先住民社会の「ほぼ完全な物理的破壊」に寄与したとされている。

先住民人口は、1834年時点の6万人から、1851年には1万5000人にまで減少した。

報告書は「これはジェノサイドだった」と明記している。

この報告書は、2カ月以上にわたる聴聞会と、1300件を超える提出資料に基づいて作成されたもので、さまざまな人権侵害を認めるための「是正措置」を求めている。これには補償の可能性も含まれている。

勧告にはこのほか、教育制度の大幅な見直しが含まれており、先住民の意見をより反映させることが求められている。また、2度の世界大戦に従軍した先住民の兵士が、帰還兵に土地を与える制度から除外されたことについて、政府が謝罪するよう求めている。

報告書は、医療制度にも人種差別が「蔓延(まんえん)している」と指摘。先住民向けの医療サービスへの資金拡充や、先住民の職員採用を促進する政策の必要性を訴えている。

ユールック正義委員会の委員5人のうち、スー=アン・ハンター氏、マギー・ウォルター氏、アンソニー・ノース氏の3人は、「最終報告書に主要な調査結果を盛り込むことに同意しなかった」とされている。ただし、その詳細については明らかにされていない。

ヴィクトリア州の労働党政権は、この調査結果を「慎重に検討する」と表明した。ジャシンタ・アレン州首相は、「この報告は厳しい現実に光を当てるものだ」と述べた。

同州先住民の健康と福祉を担う主要機関の代表を務めるジル・ギャラガー氏は、ジェノサイドの認定に「議論の余地はない」と語った。

豪公共放送ABCに対してギャラガー氏は、「私たちは、こうした残虐行為について、今日生きている誰かのせいだと非難するのではない」と述べた上で、「しかし、今日を生きる私たちには、この真実を受け入れる責任がある。すべてのヴィクトリア州民が、こうした事実に向き合い、認識し、受け止めなくてはならない」と語った。

こうした報告書は、オーストラリアで初めてのもの。他州や準州でも同様の調査が進められているが、その進捗(しんちょく)状況は政権を担う政党によって異なっている。

たとえばクイーンズランド州では、労働党政権が自由・国民党連合に交代した後、真実究明調査が中止された。

オーストラリアでは近年、中央政府から地方自治体にいたるまで、土地の伝統的な所有者である先住民の権利をどのように認めるか、議論が激しさを増している。

2023年10月には、アボリジナルおよびトレス海峡諸島民の意見を法律に反映させるための国家機関「The Voice(声)」を憲法に明記するという歴史的な国民投票が実施されたが、有権者はこれを否決した

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