リーマン・ショックを予言したレイ・ダリオが話題の「ビッグサイクル」を解説─イランはすでに秩序崩壊の「最終段階」に入っていた(クーリエ・ジャポン)
2008年の世界金融危機を予言した世界的投資家、レイ・ダリオ。彼はその新著で、歴史には大きなサイクルがあるという説に基づき、いかにして強国が生まれて繁栄し、その後、衰退して没落するかを示している。 【後編】レイ・ダリオが予言「多国間主義崩落のシナリオ」 米国屈指のマクロ経済投資家の一人が、「世界の混沌へと繋がる『星の配列』が揃っている」と言っているとなると、人は好奇心と不安をもってその話に耳を傾けざるをえない。さらにその投資家が、あのレイ・ダリオだとなると、胃が痛くなるような緊張感を覚えるはずだ。ダリオは、2008年の世界的金融危機と2010年のユーロ危機を見事に予言した人である。 ベストセラー『国家はいかに破綻するのか』(未邦訳)のなかで、世界最大級のヘッジファンド「ブリッジウォーター・アソシエイツ」の設立者でもあるダリオは、数世紀にわたる債務のサイクルを分析し、債務危機と混乱を引き起こす他の大きな力──政治、地政学、自然、そしてテクノロジー──とがどのように絡まり合っているのかを説明する。 それらが組み合わさることで、ダリオが呼ぶところの、世界秩序を塗り替える「ビッグサイクル」を動かすのだ。このサイクルには6つの段階があり、彼の計算によると、いまは既に第5段階にある。 それが意味するのは、「民主主義大国は歴史のサイクルによって後退しつつある」ということである。これは帝国の衰退のサイクルであり、その特徴は債務の膨張、過激派の台頭、権威主義の回帰だ。
──あなたの考えでは、民主主義国家が人々の期待に応えられなくなるとき、エリート層への拒絶が生まれ、専制主義的な体制の出現を招くとされています。この現象は対策を講じない限り、周期的にほぼ不可避的に訪れるものであり、あなたが「ビッグサイクル」と呼ぶものの産物です。これについて説明していただけますか? このビッグサイクルには6つの段階があり、私たちはいま第5段階にいます。最終段階は通貨秩序、内政秩序、国際政治秩序の崩壊が同時に起こる時期のことで、1930〜1945年のような状況です。 私にとって今日見ているものは、何度も見た映画を再び見るようなものです。歴史を通して世界の動向を組織する「システム」、「秩序」とも呼ばれるものがあるからです。こういった秩序はさまざまな形をとっており、観察すべきポイントがわかってさえいれば理解できる図式に従って変化します。 たとえば、通貨や経済の秩序にもさまざまなタイプが存在します。それは「信用貨幣制度」や「金本位制」といった通貨システム、あるいは「資本主義」、「社会主義」、「共産主義」などの経済体制です。内政秩序にも「民主主義」、「ファシスト独裁制」、「君主主義」など、いくつかのタイプがあります。最後に、国際的地政学の秩序には条約に基づいた「多国間主義体制」と「一国行動主義体制」があります。 これらの秩序はすべて、周期的な大きな変化を経験してきており、いまもそのなかにいます。この変化の連鎖は、簡単に理解できるものなのです。なぜなら、歴史上さまざまな国で何度も繰り返し生じてきたからであり、同じメカニズムによってこれらのサイクルは自らを造り上げ、そして崩壊してきたからです。 通貨・経済秩序の崩壊が起こるのは、収入に対して債務の水準と債務返済の割合が高くなりすぎたときです。これによって支出が圧縮され、経済・財政の破綻をもたらします。これが不況と呼ばれるものです。この不況は、貨幣発行の規模によってインフレまたはデフレにもなり、そのために新しい経済秩序と債務秩序が出現します。 これは歴史が示していることです。各秩序は相互に影響し合い、その影響には整合性があるため、容易に観測することができるのです。通貨・経済面で起こることが政治・地政学の力学に影響し、逆もまたしかりです。 ビッグサイクルにおける各段階には特徴的な徴候があるため、それによってサイクルがどこまで進行しているかを評定できます。 いま、イランで起こっていることがよい例です。この国は第6段階に入っています。この段階では通貨・経済秩序、内政構造、国際地政学上のバランスが同時に崩壊していくのです(註:「レクスプレス」で本記事は2026年1月25日、米・イスラエルによる攻撃開始前に公開)。 ──通貨・経済、政治、地政学という3つの大きな力はビッグサイクルによって変化するものですが、無視してはならない力が他に2つあるとおっしゃっています。それは洪水やパンデミックなどの自然現象と、人間の創造性、特に新テクノロジーの開発力ですね。 その通りです。その2つの力も先の3つの力に対し、相互に影響を与え合う関係にあります。私たちが扱う大きなテーマのすべてが、その5つのカテゴリーのどれかに分類できます。こういった変化を司る因果関係が理解できれば、最重要とされる出来事を追うことも、かなり正確に予測することもできます。 理解すべきなのは、通貨秩序、内政体制の秩序、国際地政学の秩序がサイクルのなかに常に存在するということです。繋がり合ったサイクルにおいて権勢を拡大し、衰退していく際にもこれらの秩序は存在し、最後にはすべて恐慌、内戦、国際紛争などの形態をとって崩壊しました。 このような衰退がいかにして生じたのかを理解することも大切です。ビッグサイクルは平均して人間の一生の間、だいたい80年続きますが、その長さは条件によって変化します。 よって、ある国がビッグサイクルのどこまで進んでいるかは、具体的な条件を考慮して評価するのが適切です。サイクルの進み具合を示す明確な指標によって、客観的に見定めることができますから。 ──それはどういった指標なのでしょうか? 手短に言うと、これらの秩序は通常、3つの主要因によって崩壊します。 まず、債務が許容範囲を超えます。次に国内で富と価値観の差が拡大し、体制の機能に対する深い不満が生まれ、衝突が生じます──伝統的に、それは右派のエリート集団と左派の労働者階級です。最後に、国家間においては大国同士の覇権争いが生じ、合意によって解決することができないとき、戦争が避けられなくなります。 最近の例で言うと、このタイプの秩序の崩壊は1905〜1918年と1930〜1945年に起こりました。経済危機と債務危機、激しい階級間の対立、より専制的な体制への変化、そして世界大戦が起こったのです。 1930年代にはドイツ、日本、イタリア、スペインという4つの民主主義国家が独裁者主導の専制的体制を選択しました。体制を変化させなかった民主主義国家においてすら、政府が以前よりも強権的になり、指導者が有無を言わせずに政策を実施し、反対派を抑圧しました。 大きな紛争と専制主義が経済的緊張の時期に生じるのです。それは、特に対立を抑止するために充分な優位性をもった力が存在しない場合に起こるものです。