なぜ中国は高市発言に怒っているのか、そもそも解釈に相違-QuickTake

日本の高市早苗首相が今月行った台湾有事に関する国会答弁を巡り、中国との対立が深まっている。高市氏の発言は、仮定の安全保障上の緊急事態について単に説明しただけのように見えたが、中国側はこの発言を越えてはならない一線を越えたと受け止めた。

  中国はその後、経済・外交両面で報復措置を取り、習近平国家主席ら指導部は高市氏の発言撤回を求めて日本への圧力を強めている。一方、高市氏は政府の立場は一貫していると繰り返し述べ、自身の発言を撤回しない考えを示しており、日中関係は緊迫した膠着(こうちゃく)状態に陥っている。日中の対立は世界各国の首脳らの注目を集め、トランプ米大統領は中国との不安定な貿易休戦の維持を図る中、すでに両首脳と会談を行った。

台湾について高市氏は実際、何を言ったのか

  高市氏は首相就任前から、防衛政策の強化を志向していたことに加え、台湾の議員と近しい関係にあることで知られていた。そのため台湾を巡る同氏の見解は、政策転換の兆しや失言が飛び出さないか探ろうとする野党議員らにとって格好の質問テーマだった。

  立憲民主党の岡田克也元外相は7日の衆院予算委員会で高市氏に対し、台湾に関して繰り返し質問を行い、安全保障関連法の下でどういう場合に「存立危機事態」になり得るのかを問いただした。

  高市氏は、「あらゆる事態を想定しておく、最悪の事態を想定しておくということは非常に重要」だと前置きし、例えば、台湾を完全に中国・北京政府の支配下に置くためにどういう手段を使うか、海上封鎖や偽情報の流布の可能性などいろいろなケースが考えられると説明。その上で「戦艦を使って、武力の行使も伴うものであれば、これはどう考えても存立危機事態になり得るケースであると考える」と述べた。

  さらに「実際に発生した事態の個別具体的な状況に応じて、政府が全ての情報を総合して判断する」と述べ、「実に武力攻撃が発生したら、これは存立危機事態に当たる可能性が高い」と続けた。

存立危機事態とは

  第二次世界大戦での敗戦後、日本は軍隊を解体し、戦争放棄や戦力不保持などを唱えた「平和憲法」を採択した。憲法第9条では、「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」とし、「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」と明記された。

  このため、日本は数十年にわたり専守防衛を貫いてきた。自衛隊は保持しているものの、武力の行使が許容されるのは、日本に対する武力攻撃が発生した場合に限定した。

  だが、2015年に安全保障関連法が成立し、この原則が拡大された。日本と密接な関係にある他国への武力攻撃が発生し、日本の存立が脅かされ、国民の生命・自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある「存立危機事態」と政府が認定すれば、武力の行使を可能とした。

  この法律では特定の国名は明示されていないが、日本の唯一の正式な同盟国である米国を想定しているとみなされている。集団的自衛権が行使され得る最も可能性の高いシナリオは、朝鮮半島での紛争再燃や台湾有事だと想定される。

台湾有事は「存立危機事態」となり得るのか

  台湾有事が発生した場合、地理的要因だけでも日本に影響が及ぶのはほぼ確実だろう。台湾に最も近い与那国島は、わずか110キロメートルの距離だ。台湾には数十万人の日本人が居住しているほか、頻繁に渡航する人も多い。

  さらに、台湾有事となれば、数万人規模の在日駐留米軍が関与する可能性が高い。在日米軍は攻撃対象にもなり得るため、日本が戦闘に巻き込まれるリスクが高まる。

  日本経済にも深刻な打撃を与える可能性がある。日本は海上輸送路への依存度が非常に高く、台湾海峡で戦闘が起きれば、これらの航路が混乱し、遮断される恐れがある。

なぜ高市発言が中国を怒らせたのか

  中国は、台湾をいずれは中国本土と統一すべき失われた領土と考えている。そのため、台湾防衛に関する外国政府当局者の発言は、全て内政干渉と見なす。

  米国や日本などが台湾支持を表明することは、台北の「分離主義者」を勢いづかせると中国は捉えている。日本が米国やその他の国々と共に軍事的に関与することになれば、中国による台湾侵攻の試みは、はるかに困難かつ高い代償を伴うものになる。

台湾の主権はどのような変遷をたどってきたのか

  台湾の支配を巡っては、オランダやスペインなどさまざま帝国が何世紀にもわたり争ってきた。中国の清朝は日清戦争で敗北した結果、1895年に日本に台湾を割譲した。

  台湾は約50年間にわたり日本の植民地として統治されたが、1945年の第二次世界大戦敗戦で、日本はすべての植民地を失った。これを受けて、蒋介石氏率いる中華民国が台湾の統治を開始した。

     だが、1949年に蒋氏率いる国民党は「国共内戦」で毛沢東氏の共産党に敗れ、本土を離れて台湾に撤退した。一方、新たに成立した中華人民共和国は中華民国の全ての領土に対する主権を主張したが、米国をはじめとする多くの国々は、数十年にわたり中華民国を中国の唯一の政府として認め続けた。

  独立志向を掲げる台湾の頼政権に対する中国の不信は強く、周辺海域で大規模な軍事演習を行うなど、異例の圧力をかけ続けている。中台の事実上の国境に当たる台湾海峡の中間線を中国側が軍事的に侵犯する事例も著しく増えている。

台湾はなぜこれほど重要なのか

  中国共産党が台湾を統治したことは一度もないが、列強による「屈辱の100年」を逆転させるという目標の完遂に台湾統一は欠かせないと位置づけている。習氏は南シナ海からヒマラヤ高地、香港に至るまで、同様の主権主張を断固として貫く意思を示している。

  日米にとって、台湾は中国を封じ込め、貿易ルートを守る要衝に当たる。米国の保護の下で台湾は繁栄し、半導体などハイテク製品の重要な供給源となった。2350万人の人口を抱える台湾は現在、アジアで最も活気ある民主的な地域の一つで、西側の政治体制は中国の文化とは相容れないとする中国共産党の主張に痛烈な反論を突きつけている。

台湾に対して中国は何を主張しているのか

  台湾に対する主権を主張する上で、中国政府は米英と中華民国首脳による戦時中の2つの宣言を引き合いに出すことが多い。

カイロ宣言(1943年):

  • 1914年の第一次世界戦争の開始以後に日本が奪取、占領した太平洋における一切の島嶼を剥奪すること、ならびに満州、台湾、澎湖諸島など日本が清国から窃取した一切の地域を中華民国に返還する。日本は暴力や貪欲によって略取した他の一切の地域から駆逐される必要がある

ポツダム宣言(1945年):

  • カイロ宣言の条項は履行されなければならない。日本の主権は本州、北海道、九州、四国、ならびにわれわれが決定する諸小島に限定される

  日本は45年に法的拘束力を伴う降伏文書に署名し、ポツダム宣言を受け入れた。これは台湾が中華民国に帰属し、さらにその後を継いだ中華人民共和国が主権を引き継ぐことを意味していると、共産党は主張している。

東京湾上の米軍艦「ミズーリ」号で降伏文書に調印する当時の重光外相

中国の主張に対する反論は

  日米や台湾は中国の主張に反論している。

  まず、カイロ宣言やポツダム宣言は戦時中の政治文書で、法的拘束力を持つ条約ではない。台湾は「国際的に承認されたいかなる法的な枠組みにおいても、台湾の主権が中国に授与されたことはない」とする立場をとる。日本は両宣言の当事国ではない。

  米国やオーストラリア、カナダなど約50に上る連合国は51年に日本と法的拘束力を持つサンフランシスコ平和条約を結び、戦後の日本の領土を確定させた。同条約で日本は「台湾および澎湖諸島に対するすべての権利、権限および請求権を放棄する」とされているが、放棄する相手は明記されていない。

  中国は、中華人民共和国も中華民国も調印に招かれなかった同条約は「違法で無効」だと主張している。それでも、条約は国際的な承認を受けている。この相反する解釈が、台湾の主権を巡り争いが続いている一因でもある。

日本と米国は台湾とその後どのような関係を続けてきたのか

  日米はいずれも1970年代まで、中国全体を代表する政府として台湾の中華民国を承認していた。だが、日米が中華人民共和国との国交回復を進める中で、台湾に対する中国の主張を認識しつつも実際はどちらの側にも立たない、慎重に言葉を選ぶ妥協策をとってきた。

  米国は72年2月、ニクソン大統領の訪中に続いて上海コミュニケを発表し、前例を作った。その文書は以下の通りだ。

  • 米国は、台湾海峡の両側のすべての中国人が、中国はただ一つであり、台湾は中国の一部分であると主張していることを認識している。米国政府は、この立場に異論をとなえない。米国政府は、中国人自らによる台湾問題の平和的解決についての米国政府の関心を再確認する

  米国はその後も中台の軍事衝突がある場合に台湾を防衛するのか曖昧な姿勢を維持し、それが中台の両方と関係を保つ上での原則となっている。

  日本も72年9月に中国と国交を正常化させ、以下の共同声明を発表した。

  • 中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日本国政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第8項に基づく立場を堅持する

  台湾は中華人民共和国の一部だとの主張を日本が支持しなかった点は重要で、その方針はその後50年以上にわたって、日本の政策の中核に据えられている。

  こうした曖昧さを中国は長年容認してきたが、寛容さは後退しつつある。国際的なイベントから台湾を排除し、台湾当局者と接触すれば報復するなど、台湾を孤立化させる動きを強めている。

台湾に対する主張を強めるために中国が取っている行動は

  中国は今年に入り、中華人民共和国が中国を代表する唯一の政府で、台湾は中華人民共和国の一部であることが国連決議で「確認」されたと主張。台湾当局や学者の一部は、この決議は台湾の主権に関するものではなく、中国の主張は「誤解を招くもの」だとして否定している。

  さらに最近では、台湾の主権に対する主張を第二次大戦後の世界秩序と位置づけた。習氏は11月のトランプ米大統領との電話会談で、米国とともに戦った第二次大戦の勝利を守る必要があるとして、「台湾の中国帰属は第二次世界大戦後の国際秩序で欠くことのできない一部」だと語った。

  中国はまた、日本との対立で他国に踏み絵を迫っている。王毅外相は今週、フランスのボンヌ大統領外交顧問と電話会談した際に、両国は「互いの核心的な利益に関わる問題について、相互に強く支持」すべきだと求めた。王氏は北京で会談した英国のパウエル首相補佐官(国家安全保障担当)にも、対日・台湾問題で支持を要請した。

関連記事:中国外相、台湾巡り英国にも支持要請-対日スタンスを英高官に説明

日本は次にどう動くか

  当面は立場を堅持する公算が大きい。中国人観光客の減少による経済的な打撃は対処可能とみられる。一方、舞台裏では関係修復を試みるだろう。だが、中国が高市氏に発言撤回を求めて一段と圧力を強め、レアアース(希土類)の供給を制限するなど強硬な措置に出れば、緊張はエスカレートし、米国も表立って巻き込まれる恐れがある。

原題:Why Japan Leader’s Taiwan Comment Outraged China: QuickTake(抜粋)

— 取材協力 Jing Li and Samson Ellis

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