「なぜ実名報道しないのか」佐藤優氏、道新記者拘束で苦言「同胞が20年ぶち込まれる」

作家で元外務省主任分析官の佐藤優氏=10月22日午後、国会内(奥原慎平撮影)

作家で元外務省主任分析官の佐藤優氏は22日、国会内で講演し、ロシア当局による北海道新聞の男性記者のスパイ容疑での拘束を巡り、日本の報道機関に「どうも緊張感に欠けている」と苦言を呈した。記者が最長20年の禁錮刑を科される恐れがあるにもかかわらず、実名や過去の記事を公表し、正当な取材活動だったことを示そうとしていないと問題視。「同胞が、それだけの期間ぶち込まれるかどうかという危うい橋にいる」と訴え、ロシア側の論理を踏まえた救出策を考えるよう求めた。

「仲間をどうやって助けるのか」

「ロシアでスパイ罪がどういうものか分かっているのか。最低限10年で最高刑20年だ」

佐藤氏は、ロシアでスパイ罪に問われた米紙ウォールストリート・ジャーナルの記者が2024年7月に禁錮16年の判決を受けた事例を挙げ、「自分たちの仲間をどうやって助けるのか」と訴えた。

北海道新聞本社

ロシア外務省は拘束された男性記者の実名を公表している一方、北海道新聞は氏名を伏せており、産経新聞を含む国内メディアの多くも匿名で報じている。

ロシア連邦保安局(FSB)は男性が日本の情報機関に提供するために国防に関する情報を収集したと主張している。これに対し、佐藤氏は、男性記者の実名と過去の記事を明らかにし、正当な取材活動だったことを裏付けるべきだと強調。「名前を出すことで、その人を守ることになる」と述べた。

ロシア側が何を問題視しているのかを正確に把握した上で、記者を守る方策を考えるべきだとも強調。「相手の論理を理解することは、相手の論理に賛成するとか、ましてや支持することではない」と述べた。

領事面会できず「条約違反だ」

記者は13日にサハリン州で拘束され、モスクワに移送された。佐藤氏は、移送の早さからFSBが事前に内偵を進めていたと分析した。勾留先とされるレフォルトボ拘置所の厳しい収容環境にも言及し、「非常に厳しい状況に今置かれている」と指摘した。

日本政府が求める領事面会も実現していない。佐藤氏は、現在も有効な日ソ領事条約の議定書が拘束から4日以内の領事面会を定めているとして、「今ロシアがやっていることは日ソ領事条約違反だ」と指摘した。FSBが捜査への影響を懸念し、第三者との接触を認めていないとの見方を示した。

高市政権は安倍外交を継承しているか

元外務省主任分析官の佐藤優氏

安倍晋三元首相とロシアのプーチン大統領が18年に、平和条約締結後の歯舞群島と色丹島の引き渡しを明記した日ソ共同宣言を基礎に交渉を加速させることで一致した「シンガポール合意」に言及。ロシア側は高市政権に対し、「シンガポール合意を引き継ぐのか」と問いかけているとの見方を示した。

プーチン氏による8月の北方領土・択捉島訪問についても、高市政権の対露外交を探る意図があったと分析。日本政府が強く抗議したことを受け、ロシア側は「引き継がれていない」と判断したとみている。

政治家に対しても矛先を向けた。佐藤氏は、ロシアのスパイ容疑を「でっち上げ」と批判する政治家がいるとして、「インテリジェンスに関連することだったら、ノーコメントで通すべきだ」と戒めた。断定的な発言でロシアの捜査機関を刺激することを避け、領事面会や人道的待遇の確保に力を注ぐべきだとした。

佐藤氏は、自民党の鈴木宗男参院議員が主宰する勉強会「東京大地塾」で講演した。

宗男氏「勇ましい言葉では始まらない」

自民党の鈴木宗男参院議員

鈴木氏も「勇ましいことを言っても始まらない。相手のある話だ」と冷静な対応を求めた。

鈴木氏は拘束された記者と面識があり、在日ロシア大使館に人道的な配慮を要請したと説明した。大使館側からは「健康状態は何も問題ない。薬など必要なものがあれば対応する」との返答があったという。

政治家について「その場の勢いで言っているような発言が多い」と指摘。「一歩引いても二歩前進、二歩引いても三歩前進という外交力を身につけなければならない」と語った。(奥原慎平)

日露外務省高官が会談 北海道新聞記者の拘束問題を協議か

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