アボット,日本初となる経皮的三尖弁接合不全修復システム「TriClip システム」の薬事承認を取得

TriClip™ システム

  • 「TriClip™システム」は重度の三尖弁逆流症(TR)に罹患し,かつ,高齢や併存疾患を有するなど外科的手術が最適ではないと判断された患者に,新たな低侵襲の治療選択肢を提供する。
  • 国内の三尖弁にかかわる弁膜症患者推定人数(TR を含む)は約22 万人[1]。後天性の三尖弁にかかわる弁膜症のほとんどがTR[2] で,高齢化に伴い患者数は増加傾向にある。
  • 国内臨床試験で,被験者37 名中37 名がTriClip 術後12 カ月時に全死亡又は三尖弁外科手術実施を回避できた。また,術後12 カ月時の心不全による年間平均入院率は1 患者あたり0.03 件であった。

アボットメディカルジャパン合同会社(以下「アボット」)は,2025 年7 月17 日に,日本初となる経皮的三尖弁接合不全修復システム「TriClip™システム」(以下「TriClip(トライクリップ)」)の製造販売承認を取得した。三尖弁逆流症(Tricuspid regurgitation(TR))は,これまでは積極的な外科的介入を行うことができない場合に薬物療法以外の選択肢がなかった。本システムの導入により,薬物療法でTR の重症度や症状が改善されず,かつ,高齢や併存疾患を有するなど外科的手術が最適ではないと判断された患者に,カテーテル治療による新たな低侵襲の治療選択肢が提供されることになる。

4つのクリップサイズにより幅広い治療オプションを提供

三尖弁は心臓の右心房と右心室の間にある弁で,血液の流れを一方向に保ち,逆流を防ぐ役目を担っている。この弁がきちんと閉まらなくなると血液が右心房へと逆流する。これを三尖弁逆流症(TR)といい,心臓に過度の負担がかかり,腹水,末梢浮腫,肝腫大,食欲不振,頸静脈怒張または腹部膨満などの症状を引き起こす。重度の患者には薬物療法が推奨されるが,治療選択肢が限られることから管理が難しく,心不全による入院の繰り返しが多くみられる。また,単独の三尖弁外科手術は院内での死亡率が高いことが報告されている[3]。日本における心臓弁膜症患者は推計約50万人[1]で,そのうち三尖弁にかかわる弁膜症患者数(TRを含む)は約22万人[1]と推計されている。また,後天性の三尖弁にかかわる弁膜症のほとんどがTR[2]で,高齢化に伴い患者数は増加傾向にある。

TriClipは大腿静脈からカテーテルを挿入し,先端にあるクリップで三尖弁の弁尖を留めることで血液の逆流軽減を図る。TriClipはアボットの経皮的僧帽弁接合不全修復システム「MitraClip™」の技術を基盤として設計されている。2020年に初代TriClipが欧州CEマーク認証を取得してから,すでに15,000件以上の症例実績があり,現在,欧州,米国,カナダを含む50カ国以上で使用されている。国内での発売時期は2026年春を見込んでいる。

TriClipの安全性と有効性を評価した国内のAMJ-504試験は,適切な薬物療法を行ったにもかかわらずTRの症状が改善されず,三尖弁手術が最適治療ではないと判断された患者を対象に行われ,被験者37名中37名がTriClip術後12カ月時に全死亡または三尖弁外科手術実施を回避できた。また,術後12カ月時の心不全による年間入院率は1患者あたり0.03件であった。心不全患者のQOL(自覚症状,生活の自立や社会参加)を評価するカンザスシティ心筋症質問票(KCCQ)のスコアは,術後12カ月時点で15ポイント以上改善した被験者の割合が22%であった。また,80%の被験者において,術後30日時のTR重症度が中等度以下まで軽減され(うち,46%は軽度まで軽減),術後12カ月時においてもTR重症度の軽減が持続した。

TriClipの安全性と有効性において,薬物療法とTriClip治療を受けた患者群(本品群)と薬物療法のみを行った患者群(対照群)を比較評価したTRILUMINATE ピボタル試験(米国,カナダ,欧州で実施)の最新データでは,TriClip治療2年後の結果が以下のとおり示された。なお,本試験結果は2025年3月29日~31日に行われた米国心臓病学会(ACC.25)にて発表され,アメリカ心臓協会の学術誌Circulationに同時掲載された。

  • 心不全による再入院率が有意に減少:本品群の心不全による年間再入院率は1患者あたり0.19件,対照群は0.26件であった。また,対照群の中で後にTriClip治療を受けた患者群の年間再入院率も1患者あたり0.5件から0.35件へと減少した。
  • 84%の被験者のTR重症度が中等度以下に軽減:対照群の21%に対し,本品群の84%が中等度以下のTR重症度(グレード≤2以下)を示した。対照群の中で後にTriClip治療を受けた患者群にも同様の傾向が見られ,術前の3%に対し,術後30日後には81%の被験者においてTR重症度が中等度以下まで軽減された。
  • QOLを評価するKCCQスコアが平均15ポイント改善:本品群では術後2年時で平均15ポイント以上改善した。同様に薬物療法群の中で後にTriClip治療を受けた患者群も,術前・術後の比較で平均13ポイント改善した。

富山大学 第二内科 循環器内科・腎高血圧内科 科長の絹川 弘一郎 教授は,次のように述べている。「心不全を合併する重症僧帽弁逆流に対するMitraClipの有用性は,COAPT試験をはじめとする様々な臨床データの積み重ねで実証されてきました。一方で三尖弁逆流を有する心不全患者に対する治療介入は開心術を含めてエビデンスと呼ばれるものに乏しかったのが事実です。特に単独の三尖弁逆流は利尿薬治療しか施行されていないのが現状でしたが,このTriClip治療により重度の三尖弁逆流が中等度以下に制御できる可能性が高いことがわかりました。1年までは差のなかった心不全再入院率もTRILUMINATE ピボタル試験で2年までフォローアップすると差が見えてきたことで三尖弁逆流の患者の予後を改善する有用性がより明確になったと考えます。今後我が国においてTriClipが実装されていく中で,この再入院予防効果が患者に大きなベネフィットをもたらすことを期待しております。」

また,アボットメディカルジャパン合同会社の執行役員で,ストラクチュラルハート事業部長を務めるジュールス・コーステン氏は,次のように述べている。「TriClipは国内初の経皮的三尖弁接合不全修復システムです。この製品によって,高齢や併存疾患を有するなど外科的手術が最適ではないと判断された重度の三尖弁逆流症患者さんに,外科的手術よりも低侵襲の治療選択肢を新たに提供できることを非常に嬉しく思います。TriClipが重度の三尖弁逆流症の治療に立ち向かう日本の先生方や患者さんにとって新たな希望となることを心より願っています。来春の上市に向けて,社員一丸となって取り組んでまいります。」

アボットはこれからも構造的心疾患のアンメットメディカルニーズに応え,より良いソリューションを提供し,人々が可能な限り充実した生活を送ることができるよう引き続き努めていく。

販売名:TriClipシステム承認番号:30700BZX00164000

AMJ-504試験について国内の10医療機関で実施したAMJ-504試験は,症候性高度三尖弁閉鎖不全症患者のうち,至適薬物療法を行ったにもかかわらず三尖弁閉鎖不全症の症状が改善されず,三尖弁手術が最適治療ではないと判断された患者を対象として,TriClipの安全性及び有効性を評価した前向き多施設共同単群試験。主要評価項目は,術後12カ月時の全死亡または三尖弁外科手術実施の回避率,追加主要評価項目は,術後12カ月時の心不全による年間入院率であった。

TRILUMINATE ピボタル試験についてTRILUMINATE ピボタル試験は,重度の三尖弁逆流症(TR)患者において,TriClipを用いた経皮的三尖弁接合不全修復の安全性と有効性を,薬物単独療法と比較して評価した初のランダム化比較試験で,米国,カナダ,欧州にて実施した。主要評価項目は,全死亡または三尖弁外科手術の回避率,心不全による入院の回避率,およびKCCQスコアで評価されたQOLの改善の複合評価項目であった。術後2年時を評価したTRILUMINATE ピボタル試験結果は,2025年3月29日~31日,米国心臓病学会(ACC.25)にて発表され,アメリカ心臓協会の学術誌Circulation(Two-year Outcomes of Transcatheter Edge-to-edge Repair for Severe Tricuspid Regurgitation: The TRILUMINATE Pivotal Randomized Trial | Circulation)に同時掲載された。

COAPT試験についてCOAPT試験は,中等度~重度または重度の機能性僧帽弁閉鎖不全症(FMR)を有する心不全患者におけるMitraClip経皮的治療の心血管転帰の安全性と有効性を評価したランダム化比較対照試験で,米国およびカナダで実施した。

[1] 2020年アボット調べ  [2] https://jscvs.or.jp/surgery/2_9_syujutu_sansyouben/ (2025年6月12日参照) [3] https://www.jstage.jst.go.jp/article/shinzo/46/7/46_843/_pdf/-char/en (2025年6月12日参照)

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