MLB:二刀流資格失った大谷翔平、開幕は投げずとも投手登録? スポーツライター 丹羽政善
- 記事を印刷する
- メールで送る
- リンクをコピーする
- note
- X(旧Twitter)
- はてなブックマーク
- Bluesky
2022年に大谷翔平(ドジャース)とエンゼルスでチームメートだったマイケル・ロレンゼンがロイヤルズと再契約した。今年は二刀流に挑戦するという。
大学時代は外野手兼クローザーで、100マイル近い球を投げられるほどの強肩だったことから、大学2年からクローザーを兼ねるようになった。その投球がレッズのスカウトの目に留まり、1巡目(全体38位)で指名されたという経緯がある。
ロレンゼンによれば、「投手をやるつもりはなかった」とのこと。「投手として指名したい、というチームにはすべて断りを入れた。でもレッズは『9月にはメジャーデビューさせてやる』と伝えてきた。まんまとそれに乗せられた」。当時は6月にドラフトが行われ、契約後、すぐにマイナーで投げ始めたが、約束は実行されなかった。さすがにメジャーのレベルには達していなかったのである。
ただ、2015年にメジャー昇格すると、大谷がメジャーデビューした18年からは野手として起用される機会も増え、その年は55試合で4本塁打、打率.290と非凡なところを見せた。翌年の試合数はほぼ倍に。だがエンゼルスに移籍してからは、先発に転向したことで二刀流を封印している。
では、なぜこのタイミングでまた二刀流に挑戦するのか? 彼の代理人は昨年末、「そうすれば、そのチームは14人の投手を登録できる。メリットが大きい」と説明した。
大リーグでは2021年から、選手登録枠が26人に拡大された。一方で翌年から、投手登録の上限は13人に制限された。それまで多くのチームは14〜15人の投手をベンチに入れていたので、削減を迫られたのである。その結果、どのチームもリリーフのやり繰りに苦労することになったが、二刀流選手の場合、その13人にはカウントされない。14人目の投手ということになるので、ロレンゼンを二刀流選手として売り込んだ方が、価値が高まると代理人は考えたのだ。
やや前置きが長くなったが、ドジャースは大谷によって今年、その恩恵を受けられる。
先発を5人で回すとすれば、大谷の復帰でロングイニングも投げられる投手がブルペンに回る。ブルペンの人数が増えるわけで、それはおそらくシーズン終盤に入って違いをもたらす。ドジャースはブルペンを多用する戦いを好むので、最後にはみんな疲労困憊(こんぱい)なのである。
ただ、ドジャースが大谷を含め、14人の投手で試合に臨むことができるのは、少し先のことになる。昨季、投手として全休したことで、大谷は二刀流の資格を失ってしまった。二刀流として登録されるには、前年、もしくはその年、投手として20イニング以上投げ、かつ野手として20試合(1試合3打席以上)に出場する必要がある。
後者は問題ないが、前者の条件を満たしていない。指名打者として出場しながら登板し、イニング数を稼ぐ手段はあるが、野手が登板できるのは延長か、点差が6点以上ついた試合のみ。現実的ではない。
では、どうするのか。実は、20年に二刀流という選手登録枠が生まれたときも話題になった。その前年、大谷はやはり側副靱帯再建術(トミー・ジョン手術)のリハビリで投手としては全休していたため、その資格がなかったのだ。
ただあのときは、ルール導入1年目ということで、18年の実績も考慮されることとなった。大谷への配慮である。ところがその20年に大谷は投手として復帰したものの、2試合に先発し、計1回2/3しか投げられなかったため、再び二刀流としての資格を喪失した。結果、翌21年は、投手登録で開幕を迎えることになった。
5試合に先発した時点で20イニングに達したため、登録が二刀流に切り替わったが、当時、そのことが特に話題になることはなかった。というのも、投手登録の上限が13人になったのは22年から。21年のエンゼルスは常に14〜15人の投手で戦っており、大谷が二刀流登録されようがされまいが、たいした影響はなかったのである。
しかし、今は違う。大谷が投手として復帰すれば、ドジャースは彼を入れて14人の投手をベンチ入りさせられる。彼らだけが得られるメリットだ。
とはいえ、大谷の投手復帰は5月の見込み。二刀流に切り替えられるのは、順調にいって6月半ば。大谷が開幕を投手登録で迎えることは間違いないが、となると、ドジャースは大谷が復帰するまで、投げられない投手を13分の1としてカウントしなければならないのか?
それは逆に痛手だ。指名打者で開幕を迎え、投手復帰に合わせて投手登録に変更し、20イニングに達するのを待つ――という選択肢も考えられるが、それは可能なのか。
実はそこにちょっとしたトリックがある。20年、新型コロナウィルスの感染拡大がなければ、シーズンは通常通りに開幕し、大谷は5月に投手として戻る予定だった。今回と同じである。そのときエンゼルスのビリー・エプラー(当時のGM)は一計を案じ、大谷を投手登録したのち、負傷者リストに入れ、その間、指名打者として出場を続けられるという特例をリーグに認めさせた。エプラーは実にいい仕事をしていたのだ。
今回、ドジャースもその特別ルールを利用すると見られる。大谷の投球回数が20イニングに達するまでは13人でしのぐしかないが、そこは他球団と同じ条件である。
もちろんドジャースが、過去の実績から、大谷が投手として復帰した瞬間に二刀流選手扱いしてくれと働きかける可能性も否定できない。投手降板後、指名打者として出場を続ける、いわゆる〝大谷ルール〟などもそうして生まれた。大前提として、「二刀流を増やしたい」という思惑がリーグにあるので、チャンスがないわけではない。
同様の配慮がロレンゼンに対しても行われるのかどうかわからないが、本人は「20試合、最低3打席という条件はかなり厳しい」と打者としてのハードルの高さを口にする。現実的に二刀流選手を増やすなら、ロレンゼンクラスの選手にどう機会を与えるか、ということになる。条件を見直すのか、付帯事項で補うのか。あまりに緩くすると、他球団から不公平との声が上がるので、バランスが難しい。
ただ、マイナーでは二刀流でドラフトされたものの、早々に断念するケースが増えており、このままではルールが意味を持たなくなる。裏を返せば、大谷がいかに特別か、ということになるのだが、それで終わらせたくないリーグにとってはジレンマともなっている。
- 記事を印刷する
- メールで送る
- リンクをコピーする
- note
- X(旧Twitter)
- はてなブックマーク
- Bluesky
操作を実行できませんでした。時間を空けて再度お試しください。
権限不足のため、フォローできません
日本経済新聞の編集者が選んだ押さえておきたい「ニュース5本」をお届けします。(週5回配信)
ご登録いただいたメールアドレス宛てにニュースレターの配信と日経電子版のキャンペーン情報などをお送りします(登録後の配信解除も可能です)。これらメール配信の目的に限りメールアドレスを利用します。日経IDなどその他のサービスに自動で登録されることはありません。
入力いただいたメールアドレスにメールを送付しました。メールのリンクをクリックすると記事全文をお読みいただけます。
ニュースレターの登録に失敗しました。ご覧頂いている記事は、対象外になっています。
入力いただきましたメールアドレスは既に登録済みとなっております。ニュースレターの配信をお待ち下さい。