〈目撃〉母シャチが子の前でウミガメ狩り、すぐに仕留めずもてあそぶ いったいなぜ?

 母シャチはウミガメを簡単に仕留められたはずだ。しかし、子どもが近くで見守る中、母親はウミガメを転がしたり、くるくる回したり、水面下に引きとどめたり、ヒレ状の足をつかんで引っ張り回したりしていた。数分後、母子はウミガメの足と栄養豊富な肝臓を夢中になって食べ始めた。 【動画】母シャチが子の前でウミガメ狩り  この狩りのしかたは研究者たちに一つの疑問を抱かせた。母親はただ獲物で遊んでいただけなのだろうか、あるいは子どもに狩りを学ばせようとしていたのだろうか?  この動画を撮影したとき、映像作家のアロンソ・ロドリゲス氏はシャチを探していたわけではなかった。シャチを調べる研究者たちと協力する一方、メキシコのバハ・カリフォルニア半島沖のカリフォルニア湾へイカ漁に向かう地元の漁師に同行していたのだ。  太陽が水平線に沈み始めると、9頭のシャチの群れが船の近くに現れた。母子が群れから離れるのを見て、ロドリゲス氏はドローンを発進し、シャチの母親が子どもを傍らに泳がせながらウミガメを狩る様子を撮影した。 「私はカメラを常に手元に置き、いつでも撮影できるように準備しています。海ではいつ何が起こるか分かりませんからね」と、メキシコの海洋環境保護を目的とする非営利団体「マレス・デ・メヒコ(メキシコの海)」の創設者でもあるロドリゲス氏は言う。 「カメラの視野にウミガメが入ってきたとき、『いつもとは違う何が起こりそうだ』とワクワクしました」

 ハチからミーアキャットまで、動物たちが他の個体を見て学習していることについては、多くの証拠が知られている。しかし、他の個体に教えていることを証明するのははるかに難しいと、ニュージーランド、カンタベリー大学の行動生態学者フィリッパ・ブレイクス氏は言う。 「教えることは、相手の意図や心の動きを、相手に直接尋ねることができない中で考える必要があるため、はるかにハードルが高いのです」  ある動物の行動が「教えている」に相当すると判断するとき、科学者には3つ基準がある。経験豊かな個体が経験未熟な個体の目前で、自らの行動を修正していること。そのおかげで、若い個体は独学するよりも早く学習できること。そして教える側に、時間、エネルギー、食べる機会の喪失など、ある程度のコストが生じていることだ。  教えるという行為が野生の中で非常によく記録された例の一つがミーアキャットだ。ミーアキャットの大好物のサソリは、ハサミと毒針を持つ危険な生きものだ。そのサソリの食べ方をミーアキャットは子どもに教えると、ブレイクス氏は言う。  まず親は子どもに死んだサソリを与える。次に毒針を除去した生きたサソリを与え、子どもにハサミへの対処のしかたを覚えさせ、最終的には毒針をそのままにしてある生きたサソリを与える。  こうした訓練のために、親は余分な時間と労力をかけてサソリから危険を取り除かなければならない。しかし、そのおかげで子どもはサソリの安全な食べ方を学ぶことができる。 「子どもが試行錯誤を繰り返しながら自力で学ぶことはまずないでしょう。その前に死んでしまいますからね」とブレイクス氏は言う。  今回の動画についてブレイクス氏は確かなことは言えないものの、3つの基準に合致すると考える。特に母親がさっさと食べてしまわずにウミガメに時間をかけているからだ。状況を考えると、「たとえ母親がウミガメと遊んでいたとしても、それは回転させたり、噛みついたりすればウミガメを抵抗できないようにできると教えている可能性が非常に高いと思います」  動画を撮影したロドリゲス氏も、この意見に賛成だ。「私は子どものシャチが母親のすることを眺めていたのを見ていました。子どもは時々集中力を切らして、離れていってしまうこともありました」と氏は言う。「親子の間で起こっていることを理解しようとするのは面白い体験でした」  シャチの子どもは長い時間を母親と過ごすなかで保護、餌、学習の機会を与えられる。シャチは世界中の海に生息するが、食べる獲物は各地で異なる。  南極では氷の上にいるアザラシを捕まえ、ニュージーランドではアカエイを食べ、アルゼンチン沿岸ではゾウアザラシの子どもやアシカを狙う。隣り合わせで暮らす群れ同士でも、一方は魚を捕り、もう一方は海洋哺乳類を捕るというように獲物が全く違うこともある。しかもその習性は世代を超えて受け継がれていく。 「餌の探し方を学ぶことは、シャチのアイデンティティーの大変重要な部分です」とブレイクス氏は言う。「何を食べるか学ぶこの時期は、彼らにとって欠かせない時間なのです」

文=Bethany Augliere/訳=三好由美子

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