「脱・楽しくなければ」もがくフジ 社員「関係先とのお茶も申告制」
深掘り
フジテレビは12日、「その楽しさは、何のためにある?」などとする新しい企業理念を発表した。一連の問題を受け、全社的にコンプライアンス(法令や社会規範の順守)の強化策に取り組むなかで、長年定着してきたキャッチフレーズ「楽しくなければテレビじゃない」からの脱却を広くアピールする狙いだ。ただ、経営陣が刷新感を打ち出す一方、現場では課題も生まれている。
フジのこれまでの企業理念は、2019年から使われている「挑戦と創造」。一方、「楽しくなければテレビじゃない」は1981年秋の番組改編の際に打ち出したキャッチフレーズだったが、フジを象徴する言葉として長らく社内外に浸透してきた。
フジテレビ社長だった時代の日枝久氏=1997年フジは今回発表した新しい企業理念について、「楽しくなければ~」に代わるものではなく「私たちが自らに掲げる誓いです」としている。
新理念は「三つの指針」で構成されている。
一つ目は、「その楽しさは、何のためにある?」という自らを戒める問い。二つ目が、「フジテレビよ。楽しさを、はき違えるな。」で始まり「楽しさに向き合わなければ、フジテレビじゃない。」でしめくくられた行動規範。最後が、「ひとりの好きからはじまる熱を、世界中へあふれさせていく。」と自分たちの目標を掲げた内容だ。
清水賢治社長は「単なるスローガンではなく、私たち自身に向けた厳しい『問い』であり、決して逃げてはならない社会への『約束』です」などとするコメントを出した。
「楽しくなければ~」のキャッチフレーズがこれまで浸透してきたのは、81年に発表された後にフジが最初の黄金期を迎えたからだ。
それまでは視聴率低迷に苦しんでいたが、キャッチフレーズ発表後は「オレたちひょうきん族」や「笑っていいとも!」など人気番組が次々とヒットした。
当時の編成局長は、のちに約40年にわたり経営の中枢に関わった日枝久氏。59年の開局時のスローガン「母と子のフジテレビ」のイメージを刷新した。
しかし2024年12月、週刊誌などの報道で、元SMAPメンバーでタレントの中居正広氏によるフジの女性アナウンサー(当時)への性加害問題が表面化。フジが、女性から被害申告を受けた後も適切な対応をせず、中居氏をバラエティー番組に出演させ続けていたことが判明した。
第三者委員会は昨年3月に公表した報告書で、問題への対応方針は当時の港浩一社長や専務、編成制作局長の男性3人のみで決め、人権問題だと認識できていなかったと指摘。経営層を中心に男性優位で同質性が高い構造があり、人権意識が鈍くハラスメントが容認されやすい企業風土があったなどとして改善を求めた。
フジテレビが開いた性加害問題に関する2回目の会見で、質問を聞く港浩一社長(当時)=2025年1月27日、東京都港区、友永翔大撮影これを受け、フジは昨年4月、社内の一部に「楽しくなければテレビじゃない」を過度に重視した風土が根付いていた、として脱却を宣言。組織改革や企業理念の見直しなどの改革策を示した。
こうした改革について多くの社員は、一連の問題の背景にあった企業風土との決別を示すものだと受け止めている。一方、港浩一前社長の時代との変化に戸惑う社員も少なくないようだ。
港氏は、お笑いコンビ「とんねるず」などの人気番組を長く手がけた名物プロデューサー。22年の社長就任後、社内外で「軽く野放し」というフレーズをたびたび口にしていた。
当時をよく知り、港氏と関わりのあった元幹部は「現場で生まれたアイデアを上層部が過剰に干渉せず、尊重する考えを『軽く野放し』という言葉に込めたのだろう」と解説する。
人権を尊重する意識を浸透させるため、フジテレビは様々な改革を続けています。一方、改革の意義を理解しつつも、仕事の関係先とのコミュニケーションが取りにくくなった、と話す社員もいます。後半ではそんな現場の声もご紹介します。
ただ、ある社員は「自分は『コンプライアンスが求められる時代ともうまく付き合っていこう』という趣旨だと感じたが、『何でもあり』という意味だと受け取った人も一部にいたのだろう」と振り返る。「今となっては時代錯誤を象徴する言葉となってしまった」
一連の問題を受けて辞任した…
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この記事を書いた人
- 林瞬
- 文化部|放送担当
- 専門・関心分野
- 漫画やアイドルなどのサブカルチャー、ジェンダー
- 西田理人
- 文化部
- 専門・関心分野
- 美術史、民俗学、エコロジー