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クマに襲われて死亡した人の数は、今年度は13人とすでに過去最多となっている。冬眠の時期が迫るなかで東北地方では市街地でもクマが目撃されるようになった。
―観光需要や郵便配達など影響拡大に懸念、ドローンやICT技術などの活躍に期待―  クマによる国内での死者数が過去最多となり、被害が深刻化している。紅葉のシーズンに差し掛かるなか、宿泊予約のキャンセルに頭を悩ます観光地もあり、経済活動への悪影響が懸念されている。社会問題化するクマ被害を抑えようと、政府は新たな対策パッケージを11月中旬にも策定する方針だ。株式市場においても「クマ関連株」に対する注目度が高まった状況となっている。 ●英政府が渡航者に注意情報  環境省によると、クマに襲われて死亡した人の数は2025年度に入り5日時点で13人となった。06年度の統計開始以降で最多だった23年度の6人に比べ、すでに2倍以上となっている。上半期(4~9月)の出没件数は2万792件と、昨年度1年間の2万513件を上回っている。

 東北地方ではツキノワグマの主食となるブナの実が大凶作となり、冬眠の時期が迫るなかで同地方では市街地でもクマが目撃されるようになった。岩手銀行 <8345> [東証P]の本店にはクマが立てこもったほか、山形新幹線の新庄駅にある車庫にもクマが侵入し、一部区間で運転を見合わせる事態を引き起こした。日本郵便は近隣にクマが出没している一部地域で夕方以降の二輪車による配達業務を見合わせると5日に発表。イギリス政府は日本への渡航者に対し、クマによる襲撃が増加しているなどとして注意を呼び掛けている。

 日本政府は10月30日、クマ被害への対策に向けて関係閣僚会議を開催した。昨年4月にクマ被害対策施策パッケージを策定し、更に今年4月には人間の日常生活圏で緊急銃猟を可能にする改正鳥獣保護管理法を成立、同年9月に施行させたものの、とどまることのないクマ被害を受けて新たな対策パッケージを早急に取りまとめる方針だ。自治体がハンターを公務員として雇うための仕組みを整備するとともに、 ドローンやICT技術の活用による出没防止対策が強化される見通しとなっている。

 このうちハンターに関して言えば、クマの銃猟を適切に行うには経験が不可欠であり、人材の育成・確保には相応の時間が必要となる。地方での社会生活基盤の脅威であり続けている以上、中長期的な視点での対策が求められており、その意味では株式市場において「クマ対策」は息の長いテーマとなる素地を備えていると言えるかもしれない。 ●ミロクとティムコが急動意

 猟銃製造のミロク <7983> [東証S]は国内でのクマによる人的被害が相次ぐなか、いち早く物色人気化した銘柄だ。米銃器メーカーのブローニング・アームズ・カンパニーと1966年に販売・技術提携を行い、同社へのOEM生産を展開。工作機械や自動車用ハンドルも手掛ける。24年10月期は、猟銃事業での生産トラブルによる収益性の悪化を受け営業赤字に転落。黒字転換を見込む25年10月期は第3四半期累計(24年11月~25年7月)の各利益がすでに通期計画を超過している。ブローニンググループからの受注は堅調に推移しているという。

 同じく脚光を浴びたのがティムコ <7501> [東証S]である。ヤマメやイワナなどをターゲットとする渓流釣りを楽しむには、クマ対策が必須となる。釣り具メーカーの同社が国産のクマ撃退用スプレー「熊一目散」を取り扱っていたことが投資家に注目され、株価は動意づいた。動物医薬品メーカーのバイオ科学(徳島県阿南市)が酪農学園大学教授の監修のもと、得意とするトウガラシ成分を生かして開発した製品で、国内メディアにも相次いで取り上げられている。

 トウガラシは家庭菜園で手軽に育てられる植物でもある。動画共有サイトではクマ防御用スプレーの自作方法を知らせる動画が数多くアップされており、木酢液と組み合わせて忌避剤とする方法もあるようだ。市販のクマ撃退用スプレーを含め、いずれもホームセンターで購入が可能な商品であり、DCMホールディングス <3050> [東証P]やコメリ <8218> [東証P]など各社の業績にどう影響するか注視される。

●猟銃・ドローンや電気柵などが有力候補に

 防衛関連株でもある豊和工業 <6203> [東証S]は防衛省向けの小銃とともに、民間向けの猟用ライフルも展開。命中精度の高さを誇る「Howa Model 1500 Rifle」は世界のハンターから支持を集めているという。日本国内でのハンター育成の取り組みは、中期的な観点で需要拡大に寄与する可能性がある。

 名証単独上場で株式の流動性は乏しいが、プレス機械や加工品の旭精機工業 <6111> [名証M]は小口径銃弾を製造する国内唯一のメーカーだ。なお、前期の有価証券報告書によると、小口径銃弾の納入先はほぼ100%防衛省。クマ対策での需要は未知数ではあるが、防衛力強化の潮流自体は同社の事業には追い風となる構図と言える。

 Terra Drone <278A> [東証G]は7日、クマよけスプレーを搭載したドローンの販売開始を発表した。クマとオペレーターが安全な距離を保ったまま、トウガラシ由来のカプサイシンを主成分とするクマよけスプレーを遠隔操作で噴射する仕組みだ。クマ被害への対策が急務となっている自治体からの引き合いが期待される。

 土木・産業資材大手の前田工繊 <7821> [東証P]の子会社、未来のアグリはクマ対策用電気柵線「ブルーキングワイヤー」を販売する。極太ステンレス線で大型動物に対応。人間の生活圏へのクマの侵入を防ぐ。同社は10月31日に「クマ対策支援チーム」を創設したとも公表。現場の状況にあわせた具体的な対策を提案し、社会課題の解決を図る。

 古野電気 <6814> [東証P]の子会社フルノシステムズは8月、クマを検知できる遠隔監視システムに関する秋田県立大学による実証実験において、新たなIoT向けのWi-Fi規格に対応したアクセスポイント「ACERA 331」が活用されたと公表している。

 鳥獣被害対策として行われるゾーニング管理の領域では、積水樹脂 <4212> [東証P]が農業資材・園芸用品として獣害柵を取り扱う。漁網から陸上用ネット・宇宙ゴミ対策品に展開する日東製網 <3524> [東証S]は獣害防止ネットを製品群に持ち、製造能力は国内最大級。日亜鋼業 <5658> [東証S]は獣害対策用フェンスとともに、有刺鉄線も供給。有刺鉄線はクマの行動範囲を被毛採取を通じて把握する「ヘア・トラップ」で使用される線材もある。トーアミ <5973> [東証S]はゴルフ場や田畑向けにイノシシの侵入を防ぐ溶接金網を展開。京三製作所 <6742> [東証P]は獣道に対して超音波を発信し鉄道への動物侵入を防ぐシステムを手掛けている。

 害獣をわなで捕獲した際にメールで通知するシステムも、社会実装が進むと期待されており、ALSOK <2331> [東証P]やマクセル <6810> [東証P]子会社のマクセルフロンティア、ソラコム <147A> [東証G]などがこうしたシステムを展開する。

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