ドル安圧力強まる、関税巡る判断・FRB人事・日銀利上げの「三重苦」
ドルは今後数週間に「三重苦」に直面するリスクがあり、季節的に弱含みやすいドルを一段と押し下げる恐れがあると、スタンダード・バンクは指摘した。
米最高裁が関税を違法と判断する可能性や、ホワイトハウスのハセット国家経済会議(NEC)委員長が連邦準備制度理事会(FRB)の次期議長に指名される可能性がドルの下押し要因になり得ると同行は指摘。さらに、日本銀行が今月利上げに踏み切った場合、円が急伸する可能性もあるとしている。
スタンダード・バンクのG10戦略責任者スティーブ・バロー氏は「関税に不利な判決やハセット氏率いるFRBに加え、利上げはドルを揺さぶる『三重苦』となり得る。年内残りの数週間で起きなくとも、2026年の幕開けには現実味を帯びる可能性がある」とリポートに記した。
年末に向けて為替取引が徐々に縮小する中、投資家が新年に新たなポジションを取る前に既存の持ち高を解消するため、市場の流動性は細りがちだ。こうした季節要因で取引が低調になる局面とは言え、「トランプ大統領の主要政策の一つが違法と判断されれば、ドルに影響が及ばないとは考えにくい」とバロー氏は付け加えた。
ドイツ銀行も、日銀が利上げを実施する余地に加え、他国の堅調な経済指標が年末にかけてドルへの打撃になるとみている。
ドイツ銀行のマクロストラテジスト、ティム・ベイカー氏は、過去10年を振り返ると、12月は「ドルにとって群を抜いて最悪の月だ」と指摘する。年間を通じて積み上げた他の米国資産での利益を調整するため、トレーダーがドルを売る傾向があるためだという。日銀による引き締めの可能性や、他国の経済指標の意外な強さなども重なり、最近のドル買いは今月反転する可能性があると付け加えた。
「ドルは7-9月(第3四半期)の安値水準まで下落する余地があるとみている。足元のスポット価格を約2%下回る水準だ」とベイカー氏はリポートで述べた。
ブルームバーグ・ドル・スポット指数は10-12月(第4四半期)に入って1.5%上昇。7-9月も3年ぶり安値から持ち直して1%近く値上がりしていた。
次期FRB議長人事も新たなドル圧迫要因となっている。トランプ氏の経済顧問であるハセット氏が次期議長の最有力候補とされ、積極的な利下げを支持する人物として広く認識されている。指名されれば来年の利下げ観測が一段と強まる可能性がある。
ラッセル・インベストメンツのグローバル通貨責任者バン・ルー氏は「ハセット氏が議長に就任すれば、FRBの反応関数がさらにハト派に傾く可能性があると市場はみている」と指摘。ハセット氏が指名されれば、ドルは今年記録した対ユーロでの4年ぶり安値である約1.19ドルを下回る方向に一段と弱含むだろうと付け加えた。
ドイツ銀とスタンダード・バンクによれば、日本の金利が上昇すると、歴史的に円は特に対ドルで急速に上昇する傾向がある。日銀の植田和男総裁が1日、これまでで最も明確に引き締めを示唆したことを受け、市場では今月の25ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)利上げ観測が強まり、確率は80%程度織り込まれている。
原題:Deutsche Bank, Standard Bank See December Gloom for the Dollar(抜粋)
— 取材協力 Vassilis Karamanis