Appleが激怒した「保護を求めて保護策を禁止する」EU規制→日本は大丈夫?(g.O.R.i)

Appleは2025年9月23日と10月10日、欧州委員会(以下EC)よりデジタルサービス法(以下DSA)に基づく2件の情報提供要請を受け取りました。これらの要請は、Appleが自社プラットフォーム上での金融詐欺や未成年者に対するリスクを十分に軽減できていない疑いがあるとするものです。

これに対しAppleは11月4日、ECに書簡を提出。DSAとデジタル市場法(以下DMA)の間で矛盾した規制要求がいかに非合理であるかを痛烈に批判しました。

■「DSAとDMAの整合性に疑問を抱かざるを得ない」

Appleは11月4日の書簡で、ECによる規制執行の矛盾を厳しく批判しています。公式声明では次のように述べています。

「DSAに基づくこれらのRFIの前提と、Appleのユーザー保護能力を継続的に損なってきたデジタル市場法(DMA)の過激な執行との整合性について、疑問を抱かざるを得ない」

Appleの主張の核心は、ECがDSAのもとでは詐欺対策や未成年保護を要求しながら、DMAのもとではその保護手段を骨抜きにするという矛盾した姿勢にあります。

App Store創設から17年間、Appleは詐欺やスパムなどの多様な脅威からユーザー、特に子どもやティーンエイジャーを保護するために対策を講じてきました。その結果、iOSは17年間にわたり大規模な消費者向けマルウェア攻撃を許してこなかったという、現代のコンピューティングプラットフォームとしては例外的な実績を築いています。

■ECが生み出した3つの矛盾

EUにおいては、ECによるDMAの強硬な執行方針が、他地域と同じレベルでユーザーを守る能力を阻害しています。Appleは具体的に以下の3つの問題を指摘しています。

1. サイドローディングに審査を適用できない

DMAのもと、AppleはApp Store外でのアプリ配布を許可しなければならず、ユーザーにとってリスクの高い行為が可能になりました。

Appleは詐欺防止や未成年保護のため、従来のApp Reviewと同等の審査をサイドローディングにも適用する必要があると主張してきましたが、ECはこれを拒否。結果として、詐欺対策や児童に有害なアプリの排除に関する重要なガイドラインを適用できない状態となっています。

2. App Store外取引の保護措置を禁止される

DMAにより、Appleは開発者にアプリ外の取引を許可する義務を課されました

ユーザーは、AppleのIn-App Purchaseが提供する安全性の恩恵を受けられず、第三者のウェブサイトやアプリでの詐欺・スパムのリスクにさらされます。Appleはこれらのリスクからユーザーを守るために妥当な保護策を講じようとしましたが、ECはこれも拒否。にもかかわらず、ECはDSAの下でAppleに対し、金融詐欺対策が不十分であると指摘しています。

3. 相互運用性要件によるリスク増大

ECは、NFCチップの使用制限の解除をAppleに要求するなど、Appleの技術を第三者に開放するよう迫っています。しかし、これにより悪意のある開発者がiOSアプリを通じて個人の機密情報を盗む可能性が生じます。Appleはこれらのリスクを繰り返しECに報告してきましたが、ECはほぼ対応しませんでした

■「プライバシーは基本的人権」を掲げるAppleの怒り

Appleは書簡の中で、ECの意図に対する強い疑念を表明しています。

「これらの新たな調査は、委員会の誤ったDMA執行によって引き起こされた核心的な問題から注意をそらすための、皮肉な試みであると懸念しています」

さらに、開発者による不正行為に目をつぶるECの姿勢も批判しています。「米国当局はEpic GamesやMatch Groupなど、ユーザーを欺く行為を行った開発者を非難しているが、欧州委員会は沈黙したままだ」と指摘。「結果として、損害を受けるのはユーザーである」と訴えています。

プライバシーは基本的人権」と訴え続けてきたAppleにとって、ユーザー保護の手段を奪われながら保護が不十分だと批判されることは、到底受け入れられない理不尽な要求なのでしょう。

■日本のスマホ新法、「欧州の失敗を繰り返すな」

日本では「スマホソフトウェア競争促進法(スマホ新法)」が2025年12月18日に施行予定です。Appleはこの法律に対しても、DMA規制は競合他社への利益供与だと批判し、欧州DMAの失敗を繰り返すなと警告してきました。

しかし、日本には希望の光もあります。2025年10月、高市早苗首相とトランプ米大統領の会談後、米ホワイトハウスはスマホ新法の運用方針に関するファクトシートを発表しました。

このファクトシートによると、日本政府はスマホ新法を米国企業に対して差別的に適用せず、公正かつ自由な競争と利用者の安全・利便性のバランスを図りながら運用する方針を明示。知的財産権の正当な行使を尊重することも明言されました。これは、EUの過激なDMA執行とは一線を画す、バランスの取れたアプローチとなる可能性を示唆しています。

■ユーザーが不利益を被る最悪の事態だけは避けなければならない

今回のAppleの書簡が明らかにしたのは、ECがいかに矛盾した要求をAppleに突きつけているかという事実です。一方で「詐欺対策が不十分だ」と指摘しながら、もう一方でその対策を講じる手段を奪う——Appleからすれば、ECは自らのDMA執行の失敗を覆い隠すために、DSAという別の枠組みを持ち出して責任転嫁しているようにしか見えないのでしょう。

結果として、損害を受けるのはユーザーです。EUのユーザーは、他地域のユーザーが享受している安全性と保護を失い、新たなリスクに晒されることになります。

日本のスマホ新法は、EUのDMAとは異なり、セキュリティ例外条項や知的財産権の尊重を明記するなど、よりバランスの取れたアプローチを目指しています。日本がEUの失敗を繰り返さず、ユーザーの安全性と競争促進の両立という本来の目的を見失わないことを願います。競争促進の名のもとに、ユーザーがひたすら不利益を被る最悪の事態だけは、絶対に避けなければなりません。

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