コラム:トランプ氏勝利・経済対策不発でも中国株上昇の訳

 11月13日、 先週の中国株式市場は一見すると悪材料が相次いだ。上海の金融街で7日撮影(2024年 ロイター/Nicoco Chan)

[香港 13日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 先週の中国株式市場は一見すると悪材料が相次いだ。まず、中国からの輸入品に一律60%の関税を課すと主張するトランプ前米大統領の返り咲きが決まった。

そして中国全国人民代表大会(全人代)常務委員会が発表した地方政府の隠れ債務対策も、大規模な財政刺激策を求める市場の期待に届かなかった。

さることながら中国株式市場の主要株価指数(CSI300指数)(.CSI300), opens new tabは、5.5%値上がりして先週の取引を終えた。

この直観に反する株価上昇を説明するには、次期トランプ政権発足直後の政策を市場をどう予想しているか、掘り下げて分析する必要がある。

まずトレーダーによると、大半の投資家は60%の関税をかけるというトランプ氏の脅しが交渉戦略で、大いに交渉の余地が残されていると考えている。

その証拠に、上海工場を保有する米電気自動車(EV)大手テスラ(TSLA.O), opens new tabのトップで、トランプ氏のアドバイザーを務める実業家イーロン・マスク氏がロビー活動を展開する可能性が高い、とトレーダーは指摘する。
Chart showing year-to-date performance of the CSI 300 stock index

また、ゴールドマン・サックスなど投資銀行のエコノミストは、中国製品に対する関税率について、60%ではなく、20%を基本シナリオとしている。これはトランプ氏が外国からの全輸入品に課すとしている関税率の上限に一致する。

中国は2018─19年に当時のトランプ政権が導入した10%の実効関税にすでに対処しており、メキシコやベトナムといった他の新興国よりもはるかに関税への耐性があるというのがエコノミストの見方だ。

また、中国には準備を万端に整えて待機する理由が十分にある。銀行の資本増強や不動産デベロッパーの支援といった政策について、現時点で詳細を明かさないことで、今後、米国が対中強硬姿勢をさらに強めた場合に柔軟な対応が可能になる。

だからと言って、中国株に強気になれる訳ではない。中国株は今年すでに20%近く値上がりしている。ただ、現時点では答えられない2つの問題があるため、年内はレンジ取引が続く可能性がある。実際の関税率はどの程度になるのか、中国がどのような対応に出るのかという問題だ。その間は中国人民銀行(中央銀行)が打ち出した株式購入支援制度などが株価を下支えする要因になる。

1期目のトランプ政権では関税戦争が始まるまで約1年を要した。今回、トランプ氏ははるかに速いペースで対応を進める意向を示唆している。

また、人民元は対ドルで圧力に見舞われており、トランプ氏が現時点で要職に起用した人物はかなりの対中強硬派に見える。

現時点で市場に織り込まれている最善のシナリオは、控えめに言っても心もとないものに見える。

●背景となるニュース

*米大統領選でトランプ氏の勝利が判明した今月6日以降、CSI300指数は2%上昇している。

*中国の全人代常務委員会は8日、地方政府の「隠れ債務」について10兆元(1兆4000億ドル)規模の対策を発表した。 もっと見る

(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

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