黄金時代追求の日米首脳会談、市場に安堵感-株価にはややプラスか

石破茂首相とドナルド・トランプ米大統領との初顔合わせとなった7日(日本時間8日午前)の日米首脳会談は、日米関係の新たな黄金時代を追求することなどを確認した。追加的な関税などが話題に上ることへの警戒感が強かった金融市場では、安堵感が広がりそうだ。

  トランプ大統領が石破首相との会談で、「全員に影響する」とした貿易相手国と同様の関税を課す相互関税の導入計画を今週公表する予定だと語ったことで警戒感は引き続き残るものの、日米首脳会談が波乱なく終わったことは、日本株にはポジティブとの見方が多い。

     特に日本の対米輸出の3分の1強を占める自動車産業には、関税が導入された場合の影響が特に影響が大きいと見られていたことから、自動車関連株には朗報となりそうだ。

    また、両国間の懸案となっていた日本製鉄によるUSスチール買収については、買収ではなく投資という方向性が示された。詳細は不明であるものの、何らかの前進につながるのではないかとの期待感も出ている。

  ただ、トランプ大統領は10日、日本製鉄について、USスチールの過半数株を取得できないと語っており、日本製鉄の対応が注目される。また同時にトランプ大統領は、鉄鋼・アルミ製品に25%の関税を課すと述べ、朝方の取引では米国株先物が下落した。

  UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメント日本地域最高投資責任者(CIO)の青木大樹氏は、市場では自動車部品などへの関税や為替への言及、防衛費の拡大要求など、さまざまなシナリオが警戒されていたと指摘。

     その上で「警戒された関税もなく、為替も引き続きベッセント財務長官と加藤財務相のもとで緊密に連携する方針を確認したにとどまり、防衛費も拡大の方向性は示されたが新たなものはなかった。市場から見ると、とりあえず一安心という内容だ」と評価した。

  米国の貿易赤字削減を目指すトランプ大統領に対し、石破首相は米国産LNG(液化天然ガス)の輸入拡大を発表、トヨタ自動車いすゞ自動車の対米投資計画にも言及しつつ、日本の対米投資を1兆ドル(約150兆円)に引き上げる意向を表明した。

  「首脳会談は友好的で内容的にも鉄鋼業での顕著な投資を含み、日本の投資家にとってある程度安心感を与えるものになるだろう」とロンバード・オディエ・シンガポールのシニアマクロストラテジスト、ホーミン・リー氏は述べるとともに、日本株については引き続き前向きな見方を取っていると語った。

  また、今回の首脳会談は、与党の支持率にも好影響を与える可能性もある。岡三証券の松本史雄チーフストラテジストは「今後の石破政権の支持率を見る必要があるが、少なくともマイナスにはならないだろう」と指摘する。

     「トランプ政権との交渉において、安倍政権以来関係を築いてきたことがよかったとなれば、こういう難しい局面では自民党以外には政権を任せられない、ということになりやすく、自民党の支持率が上がる方に作用しやすいのではないか」との見方を示した。

  昨年10月の衆議院選挙で自民・公明の与党は過半数割れとなり、政局不安定化への懸念は、日本株の上値を抑える理由となってきたとの声もある。与党の支持率が上昇し、政権が安定することは、株式市場にとっては一般的にポジティブだ。

  とはいえ、トランプ大統領が表明した相互関税への警戒感も強く、市場関係者は手放しで楽観論に傾いているわけではもちろんない。

  KCMトレードのチーフ市場アナリスト、ティム・ウォタラー氏は「日本が米国の関税の対象となる可能性はまだ残っており、トランプ政権の次の関税のターゲットがどこで、関税率がどの程度となるのかが明らかになるまでは、日本株への強気ムードは限定されるだろう」と語る。

  日経平均先物は7日の大阪取引所の夜間取引で、トランプ政権の相互関税に対する警戒感や、米国の利下げ期待が後退したことなどを受けて米国株が下落した流れを受けて1.2%下落した。

     岡三証券の松本氏は、日米首脳会談の結果自体はポジティブと見るものの、この間の下げを帳消しにできるほどの強さがあるかは不透明だと述べた。

  大和証券の木野内栄治チーフテクニカルアナリスト兼テーマリサーチ担当は、7日の米国市場では日本株ETFや日本株のADRは弱含みであったものの、「断片的な情報を消化できてなかった可能性が高い」と指摘。為替での円安けん制もなく、日本の関税率は既に低いことから相互関税の影響も受けにくいとして、今回の首脳会談は日本株高につながるとの認識を示した。

外為市場では大きな反応なしか

  一方、外為市場では週明けのドル円相場には、それほど大きな反応はない、との見方が多い。トランプ大統領は、かねて円が安過ぎるとの不満を述べているが、日米首脳会談では為替について大きな議題にはならなかったとみられる。

  ただ、円相場の長期的な展望については引き続き不透明だ。石破首相のLNG購入計画自体は、ドル買い円売り需要につながるものの、実際に実現するまでには時間がかかると見られ、当面の実需には影響は出ないとみられる。

  また、トランプ政権が今後日本にも追加関税を導入すれば円安圧力がかかるものの、逆に追加関税がない場合には円高圧力がかかりやすくなる可能性もある。

  UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメントの青木氏は、米国は関税をかける国の通貨に対しては、輸入インフレを抑制する観点からドル高を許容する可能性がある一方で、関税をかけない国に対しては、ドル安の方が対米輸出拡大につながりやすいと指摘。「日本に対してはドル高にするメリットはなく、米財務省内部で円安の状況について議論されている可能性もある」との見方を示している。

  また、大和証券の岩下真理エグゼクティブエコノミストは、日本に対する関税がそれほど厳しくないと受け止められれば、日本円は安全通貨として買われやすく、円高傾向が続くだろうとみている。

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