地球科学者・鎌田浩毅「南海トラフ巨大地震は必ず来る。でも、100年に一度クラスの巨大地震を乗り越えれば、また平穏な数十年が始まるということで…」(婦人公論.jp)
政府は今年1月、30年以内に南海トラフ巨大地震が起こる確率を「80%程度」に引き上げました。漠然とした不安が広がるなかで、地球科学者の鎌田浩毅さんは、「2030年代に必ず起きる」と力説します。日本列島に差し迫る危機とは?私たちができる備えとは? エッセイストの岸本葉子さんと考えます。(構成:山田真理 撮影:岸隆子(Elenish)) 【図】日本列島は4つのプレートに取り囲まれている * * * * * * * ◆防災は完璧主義にならないことが大切 岸本 東日本大震災で帰宅困難になった方の話を聞いてから、非常用のセットをポーチに入れて持ち歩くようになりました。中身は携帯トイレ、短く切ったトイレットペーパー、呼子笛付きのミニ懐中電灯。寒い季節はアルミの防寒シートも加えます。あとは黒飴が2個とペットボトルの水です。 鎌田 すばらしいですね。甘い物と水さえあれば、エレベーターに閉じ込められても体力を消耗せずに救助を待てます。LED懐中電灯は一人が持っていれば、ほかの人の避難誘導を助けることもできるでしょう。 岸本 被災地の映像や首都直下地震のシミュレーションを目にすると、「いくら備えても気休めに過ぎないのでは」と無力感に襲われたりもするのですが。 鎌田 防災の備えは、自分でできる範囲でいいんですよ。完璧主義にならないことが大事。たとえば自宅に防災備品をあれこれ準備していても、いざ被災して気が動転したら何がどこにあるか思い出せないというケースも多い(笑)。できるだけ簡単に、家族もわかりやすい場所にまとめておきましょう。 岸本 私は東京のマンションで一人暮らしなので、自宅の防災対策も気がかりです。
鎌田 私自身、ある時数えたら自宅に本棚が23本もありました。「これが倒れてきて死んだら、地球科学の専門家として洒落にならない」と気がついて、一部屋を書庫にできるマンションに引っ越したのです。 本棚はすべて固定し、ほかの部屋も作り付けの家具にしました。自宅の防災は、まず家具の転倒と落下物を防ぐこと。ほかには数日分の水と食べ物、簡易トイレ、電池や発電機など電源となるものも大事です。 岸本 最近の住宅は電化が進んで、トイレもお風呂も電気がないと使えないですものね。 鎌田 ただ、自宅の防災備蓄も、完璧を目指さないことが大事だと私は思っています。《災害ユートピア》という言葉があるのですが、被災した地域では人々の助け合いが活発化するのです。それこそ、水や食料に困っている人がいたら、「うちにあるから、どうぞ」と隣近所と交換したり、シェアし合えばいい。 岸本 私の住むマンションでは、災害が起きた時に「私は無事です」と書いて、玄関ドアに貼り出すための用紙が配られました。最初は何の意味があるのかと思ったのですが、「X号室の住人は無事だ」と知らせることで、救助する人がほかの場所に移動して、別の誰かを助けられるのだとわかって。一人で完結せず、情報も周りとシェアすることが大事なんだと思いました。 鎌田 非常に重要なポイントです。大きな地震が起きたら、まずは自分が無事ということを家族に知らせることが大事。一人暮らしのシニアであれば、近所の人や担当のケアマネジャーなどに伝えられるといいですね。 災害時には通信が集中してスマホや携帯がつながりにくくなりますから、「災害伝言ダイヤル」などを一つの連絡手段として活用するといいでしょう。 岸本 そうしたサービスの使い方も練習しておかなくては。