究極のプライバシー? スマホの「強要リセット」機能が賛否を呼ぶ
証拠隠滅に使うこともできちゃいますよね? 捜査で自分のスマホが没収された瞬間に、データを自動削除できる機能、これは違法なのか、それとも正当な権利なのか。法廷にその判断が持ち込まれたようです。 アメリカでは入国の際、税関でスマホやPCの中身を調べられることがあります。これを回避する唯一の方法は、中身を空にした旅行用の端末だけを持っていくことです。でも現実的にそれは無理ですよね。
そこで、プライバシー重視のAndroid系OSであるGrapheneOSがもっと現実的な機能を作ったそうです。それが「デュレスパスワード」と呼ばれる仕組みです。 デュレスとは「強要」という意味で、端末のパスワードやPINを求められた場面でこの特別な認証情報を入力すると、中身が完全に消去されます。インストール済みのeSIMも一緒に消え、元に戻すことはできません。 捜査で「スマホのロック、外すからパスワード教えなさい」と言われて、素直に番号を伝えます。捜査官はその番号を打ち込んでロックが解除されると思いきや、それで中身がすべて自動削除されるというわけです。
お見事!という感じですが、アメリカの活動家Sam Tunickさんは、この機能を使ったとのことで、証拠隠滅の罪で起訴されています。起訴内容は以下のとおりです。 2025年1月24日ごろ、ジョージア州北部地区において、被告人SAMUEL TUNICKは、そうした捜索および押収を行う権限を有する税関・国境警備局の対テロ戦術対応チーム監督官L.C.による財産の捜索および押収の前および最中に、政府が当該財産を管理下に置く適法な権限を妨げ、損なう目的で、Google Pixel携帯電話のデジタル上の内容を故意に破壊し、損壊し、無駄にし、処分し、その他削除する行為を行った。合衆国法典第18編第2232条(a)に違反する。 この裁判の影響は、かなり大きいものになる可能性がありそうです。 Guardian紙によると、プライバシーの専門家であるChristophe Boutryさんと、電子フロンティア財団の技術者Bill Buddingtonさんの2人がこの件に懸念を示し、前例のないケースだと語っているとのこと。Boutryさんは、この起訴は「(GrapheneOSが)そもそも犯罪的なものだというメッセージを送ってしまう」と説明しています。 また、抗議活動の逮捕者を支援する団体Atlanta Solidarity FundのメンバーであるMarlon Kautzさんは、「わたしたちには、憲法に反する捜索から自分の私的なデータを守る権利があります。そして権威主義が強まっている今だからこそ、その権利は大切にされるべきです」と語っています。 一方でTunickさんは、「Stop Cop City」というスローガンでも知られる抗議運動「Defend the Atlanta Forest」に関わっている人物で、そもそもこの技術を起訴の土台にさせるわけにはいかないと、全力で争っています。 弁護団が提出した申し立ては、GrapheneOS関連の証拠を「違法な捜査で得た証拠は使えないとする原則」にもとづいて排除するよう求めるものです。
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まず、申し立てによれば、Tunickさんは立ち去ることのできない身柄拘束下での取り調べを受けていたにもかかわらず、ミランダ警告を受けておらず、弁護士を求めたのに面会も認められなかったとされています。 ちなみにミランダ警告とは、逮捕や身柄拘束下の取り調べの前に、警察が必ず読み上げる決まり文句のこと。ドラマや映画でおなじみの「あなたには黙秘する権利がある。供述は法廷で不利な証拠として使われることがある。弁護士を呼ぶ権利がある」というあれです。 さらに、起訴に関する書類からは当局がTunickさんの政治的な活動を理由にマークしていたことが明らかだと報じられているにもかかわらず、弁護団は今回の申し立てで、Tunickさんがでっちあげの口実で取り調べを受けたと主張しています。 その口実とは、当局がTunickさんのデバイスの中に児童性的虐待の画像がないか探しているというものでした。また、Tunickさんが話した内容「スマホの調子がおかしいのは、さっきソフトで中身を消したからです。もう帰っていいですか」といったやりとりは、正当な手続きを踏まずに引き出されたものなので、証拠として使うべきではないと弁護団は主張しているとのことです。
Tunickさんと税関との最初のやりとりがあったのは昨年1月、ドミニカ共和国での休暇から帰国した時のことでした。GiveSendGoのクラウドファンディングページに載っている事件の流れによると、逮捕されたのはそれから10か月以上後で、「運転中に車を止められ、テールランプの不具合を確認するために降りるよう求められた」時だったとされています。そして、車から降りたところでFBIとDHSの職員に手錠をかけられ、拘束されたとのことです。なんだか仕込まれた逮捕劇のようなニオイもしますね。 セキュリティコンサルタントのRuna Sandvikさんは、TechCrunchにこう話しています。 こういうケースは今まで見たことがありません。ただ、活動家やジャーナリストとは何年も前から、こういった状況が起こりうるという話はしてきました。この事件は、当局から「あなたは意図的にデータを破壊した」と主張されうるのだという注意喚起になると思います。だからこそ、特定の国境を越えるときには、そもそもそのデータを持ち歩かないほうがいいのです。 そんなわけで、GrapheneOSのこの機能を使うことが実際問題として違法なのか、それとも憲法上の権利をただ守っているだけなのか、この先決定してくるんでしょうね。 でも実は、Tunickさんは、この機能を使ったことは公式には否定しているんですよ。なので、Tunickさんにとっては、起訴されずに済んでくれると穏便に事がおさまるようです。
岩田リョウコ