「ペットボトルの蓋をすぐ開けられますか?」 わずかこの1問でフレイルをスクリーニング

ペットボトルの蓋をすぐに開けることができるか?という、たった一つの質問で、フレイルの有無をスクリーニングできる可能性が報告された。国際医療福祉大学保健医療学部理学療法学科の沢谷洋平氏、同大学医学部老年医学講座の浦野友彦氏らの研究によるもので、「Physical Therapy Research」に論文が掲載された。

フレイルのより簡便なスクリーニング方法を探る

人口の高齢化とともにフレイルの早期発見・介入が求められるようになり、2020年度からは75歳以上の後期高齢者を対象とする「フレイル健診」が行われている。しかし、面接の手間や健診非受診者の存在などの課題があり、日常生活の中で高齢者自身が施行可能な、より簡便なスクリーニング手法の模索も引き続き重要な課題とされている。

一方、日常生活で頻繁に行う機会のある、ペットボトルの蓋を開けるという作業が可能か否かの違いが、握力や全身の筋力と関連するとする先行研究の報告がある。さらに、サルコペニアの有無と、ペットボトルの蓋を開けられるか否かが関連するとの報告もある。しかし、フレイルの有無とペットボトルの蓋を開けられるか否かの関連は検討されていない。仮にこの両者に関連があるのであれば、高齢者に限らず一般生活者のフレイルリスクの検出という公衆衛生対策として、広く活用できると考えられる。

なお、ペットボトルの蓋を開けられるか否かを二分する握力の最適なカットオフ値は17.7kgというデータがあり、この値はサルコペニアに関するアジアワーキンググループによる女性の基準値である18kgとほぼ一致している。

要介護認定を受けていない高齢者対象の横断研究で検証

この研究は、国内のある1都市に居住する高齢者対象の横断研究として、2023年6~8月に実施された。要介護認定を受けていない73歳または78歳の地域住民603人に調査票を郵送。519人(回答率86.1%)から回答を得て、認知症や脳血管疾患、がんの既往者、データ欠落者などを除外し、427人(男性217人、女性210人)を解析対象とした。

約4人に1人はペットボトルの蓋をすぐに開けられない

「ペットボトルのふたを開けるのにどれくらい時間がかかりますか?」との質問に対して、1)すぐにできる、2)何回か力を入れてできる、3)誰かにお願いすることがある、4)いつも誰かにお願いする――から四者択一で回答してもらい、1)を選択した人を「すぐに開けられる群」、それ以外を選択した人を「すぐには開けられない群」とした。

その結果、すぐに開けられる群が326人(76.3%)、すぐには開けられない群が101人(23.7%)であり、高齢者の約4人に1人はペットボトルの蓋を開けるという作業に何かしらのハードルがあることがわかった。

4割強がプレフレイル・フレイル

フレイルの有無は、介護予防リスクの評価のために用いられている25項目の質問からなる「基本チェックリスト」を利用し、スコア3点以下はフレイルなし、4~7点はプレフレイル、8点以上はフレイルと判定した。

その結果、フレイルなしが247人(57.8%)、プレフレイルが116人(27.2%)、フレイルが64人(15.0%)であり、4割強がフレイルまたはフレイルのリスク状態だった。

たった一つの質問で、フレイル判定に対するAUCが0.65、特異度は81%

ペットボトルの蓋をすぐに開けられる群では、フレイルなしが64.7%、プレフレイルが25.5%、フレイルが9.8%であった。それに対して、すぐには開けられない群では同順に、35.6%、32.7%、31.7%であり、全体としてこの分布に有意差があり後者の群にフレイルやプレフレイルが多かった(p<0.001)。<>

二項ロジスティック回帰分析の結果、交絡因子未調整モデルでは、ペットボトルの蓋をすぐには開けられない群においてフレイルが有意に多いことが示された(オッズ比〈OR〉4.26 〈95%CI;2.44~7.43〉)。さらに、年齢、性別、BMI18.5未満、独居、高血圧、脂質異常症を調整したモデルにおいてはOR7.62(3.83~15.15)と、より高いオッズ比が示された。

なお、25項目の「基本チェックリスト」の質問のうち、「バスや電車で1人で外出しているか」、「階段を手すりや壁をつたわらずに昇っているか」、「半年前に比べて固いものが食べにくくなったか」、「今日が何月何日かわからない時があるか」、「わけもなく疲れたような感じがするか」などの15項目において選択率に有意差があり、いずれも蓋をすぐには開けられない群でフレイルを示唆する回答が多かった。

次に、ROC解析にてフレイルの判別能を検討。その結果、ペットボトルの蓋をすぐに開けられるか否かという単一の質問で、フレイルの判定を感度50.0%、特異度81.0%、AUC0.65(p<0.001)で判別できることが明らかになった。<>

著者らは、「我々の知る限り、本研究はフレイルとペットボトルの蓋を開ける能力との関連性を明らかにした初の研究である」としたうえで、「得られた結果は、自己申告に基づく、ペットボトルのキャップをすぐに開けられないという状態が、フレイルを表すさまざまな側面と関連していて、かつ、フレイルのスクリーニングツールとしての利用可能性を示唆している」と述べている。

文献情報

原題のタイトルは、「Association between Frailty and the Self-reported Inability to Immediately Open a Polyethylene Terephthalate Bottle Cap in Older Japanese Adults」。〔Phys Ther Res. 2025;28(1):37-44〕 原文はこちら(J-STAGE)

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0.001)で判別できることが明らかになった。<>0.001)。<>

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日本食の伝統的な調理素材であり、自宅で簡単に作ることのできる昆布だしが、高齢者の健康を支えるかもしれない――。口腔乾燥感のある患者に、昆布だしを自作して含漱(うがい)を継続してもらったところ、唾液分泌や味覚の客観的指標が改善し、かつ、摂食・嚥下などに関する主観的評価も改善したという。東北大学病院総合歯科診療部の佐藤しづ子氏らの研究によるもので、「Frontiers in Nutrition」に論文が掲載された。

唾液分泌の低下に伴う味覚障害は、高齢者の健康リスク

高齢者には唾液分泌の低下がよくみられ、それが味覚障害につながることが多い。唾液分泌低下はオラールフレイルとして高齢者のフレイルに関与するが、唾液分泌低下で生じた味覚障害は、食欲の低下を招きフレイルの危険性をより一層高める。

唾液分泌の低下に対する治療として、副交感神経を刺激するコリン作動薬などが用いられているが、頭痛、嘔気・嘔吐、発汗などの副作用のリスクがある。それに対して、味覚―唾液反射の利用が有用と考えられるが、酸味刺激は、唾液分泌が低下した高齢者には口腔粘膜炎が併発しているために痛みを生じてしまう。一方、基本五味のうち、うま味は酸味と同程度に唾液分泌を刺激し、かつその作用が長く続くという報告がある。

以上を背景として佐藤氏らは、うま味だしとして国内で古くから広く用いられてきている昆布だしが、高齢者の唾液分泌低下を改善し、それを介して味覚機能も改善するのではないかとの仮説の下、以下の研究を行った。

なお、唾液は大唾液腺と小唾液腺から分泌され、前者が9割以上を占める。小唾液腺から分泌される唾液は量はわずかだが、ムチンや免疫グロブリンA(IgA)が豊富であり、嚥下や免疫など口腔の健康に重要と考えられている。近年、世界的に、総唾液分泌量(大唾液腺唾液が主体)が正常であっても小唾液腺の分泌量低下は、高齢者の口腔乾燥症に強く関わることが明らかにされている。本研究では、大唾液腺の分泌についてはガムを10分間咀嚼するテストで評価するとともに、小唾液腺の分泌も専用の機器を用いて測定した。

口腔乾燥感のある高齢者に昆布だし含漱を続けてもらい、唾液分泌や味覚への影響を検討

研究参加者は、2017年5月~2021年12月に口腔乾燥感を主訴として東北大学病院歯科を受診した患者から、20歳未満、認知機能低下、頭頸部・口腔への放射線療法または化学療法の既往、ヨウ素摂取の禁忌(甲状腺疾患ほか)、昆布アレルギーなどを除外した54人。治療介入前(ベースライン時点)に、大唾液腺・小唾液腺の唾液分泌量、基本五味に対する感度、自覚症状を評価した後、全患者に対して以下の方法で、昆布だしを用いた含漱を行ってもらった。

まず、通常の水を口に含み、味をよく味わいながら30秒間含漱することを、1日10回(朝、昼、晩に3~4回ずつ)、2週間継続。次に、昆布10gを細かく刻み、500mLのペットボトルの水に混ぜて室温でひと晩抽出させ、冷蔵庫で保管。これを2日ごとに作成し、常に新鮮な昆布だし液で、水含嗽と同様に1日10回、2週間にわたり含漱。最後に、昆布を40gに増やした昆布だし液で、同様に2週間の含漱をしてもらった。

ベースライン時の主な特徴

研究期間中の脱落や昆布だしを規定外の方法で作成した患者などを除外し、35人(72.31±10.61歳、女性94.2%)を解析対象とした。このうち14人は、総唾液分泌量は基準値内ながら小唾液腺の分泌が低下していた(normal whole saliva secretion flow rate with low minor saliva secretion flow rate;NWS-LMS)。他の21人は、総唾液分泌量が少なく、小唾液腺の分泌も低下していた(low whole saliva secretion flow rate with low minor saliva secretion flow rate;LWS-LMS)。

この両群間で、年齢、性別の分布、喫煙状況、処方薬数、糖尿病・不安症/うつ病の割合などに有意差はなかったが、シェーグレン症候群はLWS-LMS群に多かった(p=0.045)。基本五味の味覚障害の割合は、すべてLWS-LMS群のほうが高かったが、群間差は非有意だった。また、嚥下困難、発話困難、口腔粘膜の灼熱感なども、群間差は非有意だった。

なお、患者が作成した昆布だしを分析した結果、含有されるアミノ酸量はアルギン酸、アラニン、プロリンなどはごくわずかであるのに対しグルタミン酸が圧倒的に多く、その濃度は患者間で有意差がなかった。また、グルタミン酸は、昆布10gより40gによる昆布だし液のほうが有意に高濃度だった。

昆布だしの含漱は、小唾液腺分泌が低下している場合において、より有効

唾液分泌への影響

小唾液腺分泌量の変化

まず、水の含漱を2週間継続した前後で比べると小唾液腺の分泌量は前後で変わらず、両群ともに有意な差はなかった(NWS-LMS群p=0.902、LWS-LMS群p=0.862)。

しかし、10g/500mLの昆布だしの含漱を2週間継続した前後での比較では、両群ともに小唾液腺の分泌量が増加していた(同順にp=0.028、0.029)。さらにその後、40g/500mLの昆布だしの含漱を2週間継続した前後での比較でも、両群ともに小唾液腺の分泌量が増加していた(p=0.048、0.011)。

また、NWS-LMS群およびLWS-LMS群の両群において、40g/500mL昆布だし含漱による小唾液腺分泌量の増加幅は、10g/500mL昆布だし含漱での増加幅よりも有意に大きかった(p=0.048、0.011)。 総唾液分泌量の変化:

一方、総唾液分泌量は、水の含漱を2週間継続した前後で変わらず、両群ともに有意な差はなかった(いずれもp=1.000)。また、NWS-LMS群では、昆布だしの含漱を2週間継続した前後での比較でも、用いた昆布の量にかかわらず有意な変化がなかった(10g/500mLはp=0.960、40g/500mLはp=0.852)。

それに対して、LWS-LMS群では、昆布だしの含漱を2週間継続した前後での比較で総唾液分泌量が有意に増加した(10g/500mLはp=0.041、40g/500mLはp=0.005)。また、40g/500mL昆布だし含漱による総唾液分泌量の増加幅は、10g/500mL昆布だし含漱での増加幅よりも有意に大きかった(p=0.005)。

味覚感度への影響

続いて味覚感度への影響をみると、水の含漱を2週間継続した前後の比較では、NWS-LMS群、LWS-LMS群ともに、有意な変化はみられなかった。

しかし、昆布だしの含漱を2週間継続した前後での比較では、用いた昆布の量にかかわらず、両群ともにうま味の感度が改善していた(すべてp<0.0001)。<>

うま味以外の四味に関しては、LWS-LMS群では、10g/500mL昆布だし含漱の前後で有意な変化がなかったものの、40g/500mL昆布だし含漱の前後では有意に改善していた(p値は甘味0.002、塩味0.016、酸味0.016、苦味0.040)。NWS-LMS群については用いた昆布の量にかかわらず、有意な変化がみられなかった。

総唾液分泌量が正常でも小唾液腺分泌の低下が摂食困難を招き、昆布だしがそれを改善

本研究の特筆すべきこととして著者らは、高齢者においてはたとえ総唾液分泌量が基準範囲内であっても、小唾液腺の分泌が低下していると、味覚障害、摂食・嚥下障害、口腔粘膜灼熱感などを生じさせ得ると判明したことを挙げている。そして、昆布だしの含漱で、水の含嗽では変化がなかった、主観的摂食・嚥下障害および口腔粘膜灼熱感などの症状にも改善が認められた。

以上より論文の結論は、「昆布だしは高齢者の味覚を維持し、健康的な食習慣を促進する可能性がある」と総括されている。

なお、昆布だしが唾液分泌量を持続的に増加させるメカニズムについては、先行研究を基に、うま味の後味が寄与している可能性が考察として述べられている。すなわち、酸味刺激による唾液分泌は、酸味の後味は急速に減衰するために続かないのに対して、昆布だし液は、うま味の後味が長時間持続するために、唾液分泌により大きな効果を与えると考えられるという。

文献情報

原題のタイトルは、「Contribution of kelp dashi liquid to sustainable maintenance of taste sensation and promotion of healthy eating in older adults throughout the umami-taste salivary reflex」。〔Front Nutr. 2024 Aug 27:11:1406633〕 原文はこちら(Frontiers Media)

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ふだん摂取している炭水化物食品の“質”の高さが、身体活動を楽しいと感じる強さと正相関し、燃え尽き症候群の程度とは逆相関するという研究結果が報告された。トルコで行われた、アスリート対象横断研究の報告。

炭水化物の質はスポーツを行う楽しみや燃え尽きリスクにも影響を及ぼすのか?

筋グリコーゲンの枯渇や低血糖防止のために、スポーツでは炭水化物の適切な摂取が重要であり、そのことによってパフォーマンスの向上も期待できる。パフォーマンスが向上すれば、スポーツを行うことの楽しさが高まり、バーンアウト(燃え尽き状態)になるようなリスクが低下すると考えられる。ただし、ひと口に炭水化物食品といっても、食物繊維の多寡、グリセミック・インデックス(GI)の高低、個体か液体かなどによって品質が異なる。

今回紹介する論文の著者らは、アスリートがふだん摂取している炭水化物食品の質の高さが、スポーツの楽しみや燃え尽きのリスクに関連している可能性を想定し、以下の検討を行った。

炭水化物の質、スポーツの楽しみ、燃え尽きリスクの評価方法について

この研究の解析対象は、トルコ国内の19~35歳のアスリート139人。1回60分以上のトレーニングを週3回以上行っていることを適格条件とし、それ以下の場合は除外された。男性が82.7%で、行っている競技はバレーボール54.7%、サッカー25.9%など。スポーツを行う目的はキャリアを伸ばすためが73.3%、健康のためが14.3%などだった。

食物摂取頻度調査票(food frequency questionnaire;FFQ)の回答に基づき、ふだん摂取している炭水化物食品について、食物繊維含有量、GI値、全粒穀物が占める割合、固形食品が占める割合という四つの項目を、それぞれ1~5点でスコア化し(GI値は高値であるほど低スコアと判定)、合計4~20点の範囲となる「炭水化物の質指数(Carbohydrate Quality Index;CQI)」を算出。CQIはスコアが高いほど、摂取している炭水化物の質が高いことを表す。

スポーツを行うことを楽しいと捉えているか否かは、身体活動の楽しさ尺度(Physical Activity Enjoyment Scale;PACES)で評価した。PACESは8項目の質問からなり、1~7点で回答を得て、合計8~56点にスコア化する。スコアが高いほど身体活動を楽しいと感じていることを表す。

燃え尽き症候群のリスクについては、アスリートバーンアウト質問票(Athlete Burnout Questionnaire;ABQ)で評価した。ABQは13項目の質問からなり、合計15~65点にスコア化する。スコアが高いほど燃え尽き状態に近いことを表す。

炭水化物の質はスポーツの楽しみと正相関、燃え尽きレベルと逆相関

解析の結果、性別、行っている競技、および、スポーツの目的は、スポーツの楽しさ(PACES)や燃え尽きレベル(ABQ)と関連が認められなかった。

一方、炭水化物の質指数(CQI)の五分位で5群に分けた場合、第1五分位群(質の低い下位20%)はPACESが37.1±8.27、第5五分位群(質の高い上位20%)は同44.2±5.50であり、ふだん摂取している炭水化物食品の質が高いアスリートはスポーツを行うことを楽しいと感じていることがわかった。

同様の手法でCQIと燃え尽きレベル(ABQ)との関連を検討すると、第1五分位群はABQが27.0±8.87、第5五分位群は21.2±6.02であり、ふだん摂取している炭水化物食品の質が高いアスリートは燃え尽きレベルが低い傾向があったが、五分位群での比較では有意でなかった(p=0.093)。

CQIはPACESと正相関し、ABQとは逆相関

次に、炭水化物の質指数(CQI)と他の指標との相関を検討。

すると、スポーツの楽しさ(PACES)とは正相関し(r=0.290、p=0.001)、燃え尽きレベル(ABQ)とは逆相関することがわかった(r=-0.205、p=0.016)。

なお、そのほかには、全粒穀物の摂取量(r=0.676、p<0.001)、固形の炭水化物の摂取量(r=0.758、<0.001)、および、年齢(r=0.208、p=0.14)、bmi(r=0.197、p=0.020)と正相関し、精製穀物の摂取量(r=-0.417、<0.001)、液体の炭水化物の摂取量(r=-0.297、<0.001)、gi値(r=-0.665、<0.001)とは逆相関していた。<>

続いて、炭水化物の質指数(CQI)を従属変数とする回帰分析を行うと、単変量解析でABQスコア(β=-0.207、p=0.014)、PACES(β=0.277、p=0.001)が有意な関連が認められ、多変量解析でもABQスコアは独立した関連因子として特定された(β=-1.126、p=0.004)。なお、PACESスコアについては、多変量解析の結果が論文に示されていない。また、研究の主題からは従属変数をCQIではなくABQやPACESとした解析の結果が気になるが、その点も触れられていない。

論文の結論として著者らは、「本研究が横断研究であるために因果関係は不明」と限界点を挙げたうえで、「アスリートは摂取している炭水化物の質が高いことで、身体活動の楽しみが増し、燃え尽き症候群のリスクが軽減される可能性のあることが示された。因果関係の検証のため、縦断研究やランダム化比較試験の実施が望まれる」と述べている。

文献情報

原題のタイトルは、「Evaluation of the association of carbohydrate quality on enjoyment of physical activity and burnout in athletes」。〔BMC Sports Sci Med Rehabil. 2025 Apr 21;17(1):87〕 原文はこちら(Springer Nature)

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スポーツ栄養Web編集部

0.001)、固形の炭水化物の摂取量(r=0.758、<0.001)、および、年齢(r=0.208、p=0.14)、bmi(r=0.197、p=0.020)と正相関し、精製穀物の摂取量(r=-0.417、<0.001)、液体の炭水化物の摂取量(r=-0.297、<0.001)、gi値(r=-0.665、<0.001)とは逆相関していた。<>

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国内の女性持久系アスリートを対象として、栄養素摂取量と睡眠の質との関連を検討した研究結果が報告された。1日のタンパク質摂取量が多いことや、夕食時の炭水化物摂取量が多いことは睡眠の質の高さと正の関連があり、脂質の摂取量が多いことは負の関連があるという。順天堂大学スポーツ健康科学部の鯉川なつえ氏、鈴木良雄氏、順天堂医院睡眠・呼吸障害センターの葛西隆敏氏らが行ったパイロット研究によるもので、「Nutrients」に論文が掲載された。

女性持久系アスリートは食事を制限しがちで、栄養による睡眠への影響が懸念される

近年、アスリートにとって睡眠は、トレーニングや栄養とともに、パフォーマンスの向上に欠かせない要素として位置づけられるようになってきている。また、特定の栄養素の不足または過剰、あるいはエネルギー摂取量の多寡が睡眠の質に影響を及ぼし得ることを示す多くのエビデンスが蓄積されつつある。さらに、睡眠の質の低下と、利用可能エネルギー不足(low energy availability;LEA)との関連についても報告されている。

LEAは持久系競技などのアスリートでリスクが高く、とくに女性アスリートでハイリスク。以上から、女性の持久系競技アスリートは栄養素摂取量が十分でないことが多く、そのことが睡眠の質に悪影響を及ぼしている可能性が懸念される。しかし、これまでのところ、そのような観点で行われた調査研究は報告されていない。

女子大学生持久系アスリート対象に、6日間にわたり食事と睡眠を評価

この研究は、大学の運動部に所属する持久系アスリートを対象とする横断研究として、8~11月のプレシーズに実施された。月経中でない27人が参加したが、6日間の研究期間中に月経が始まった1人、後述の睡眠測定デバイスによるデータが記録されていなかった1人、研究参加後に睡眠障害の既往が報告された1人を除外し、24人を解析対象とした。

解析対象者のおもな特徴は、年齢は平均19.5±0.9歳、BMIは19.4±1.2、体脂肪率(中央値)14.2%、トレーニング時間3.3±0.6時間/日で、種目は長距離が58.3%、中距離と競歩が各20.8%だった。

栄養素摂取量

6日間にわたり、食事の内容と時間を記録、および写真を撮影してもらい、摂取栄養素量を推定した。なお、研究期間中は、カフェイン、アルコールの摂取を禁止した。

エネルギー摂取量は中央値1,983.02kcal(47.3±11.7kcal/kg除脂肪体重〈FFM〉)であり、LEA(30kcal/kgFFM未満)の該当者はいなかった。また、夕食後から就寝までに飲食した記録はなかった。

主要栄養素の摂取バランス(%エネルギー)は、炭水化物52.9±4.7%、タンパク質17.2±1.7%、脂質28.2±4.3%だった。

睡眠関連パラメータ

睡眠関連パラメータは、手首装着型のウェアラブルデバイス(Fitbit Charge 3)を用いて、就床時間、就床から起床までの覚醒時間(以下、覚醒時間)、睡眠時間(就床時間-覚醒時間)、および、レム睡眠、浅いノンレム睡眠(N1~2)、深いノンレム睡眠(N3)の時間を測定した。なお、入眠潜時(就床から入眠までの時間)も重要な睡眠指標だが、Fitbit Charge 3での入眠潜時の測定結果は睡眠時脳波検査の結果との相関が十分でないことが報告されているため、本研究では用いなかった。

就床時間は平均440.7±42.2分であり、覚醒時間は56.0±10.7分、睡眠時間384.6±39.1分で、レム睡眠73.9±23.5分(睡眠時間に対して16.8%)、浅いノンレム睡眠243.1±31.8分(同55.3%)、深いノンレム睡眠は67.6±15.4分(15.3%)だった。

栄養素摂取量と睡眠関連パラメータの相関を検討

得られた結果から、栄養素摂取量と睡眠関連パラメータの関連性を検討したところ、以下のような有意な相関が認められた。

タンパク質や炭水化物の摂取量の多さは睡眠の質の高さと関連

まず、1日単位の摂取量でみると、タンパク質の摂取量が多いほど覚醒時間が少ないという、睡眠の質を高めるような関連が認められた(R=-0.491〈95%CI;-0.752~-0.097〉)。ただし、夕食でのタンパク質摂取量に限ってみると、睡眠関連パラメータとの有意な関連はみられなかった。

一方、炭水化物については、1日単位の摂取量と睡眠関連パラメータとの有意な関連はなかったが、夕食での摂取量が深いノンレム睡眠の時間と正相関しており、睡眠の質を高めるような関連が認められた(R=0.417〈0.004~0.709〉)。

脂質の摂取量の多さは睡眠の質の低さと関連

タンパク質や炭水化物とは反対に、脂質に関しては摂取量が多いほど睡眠の質が低下するという関連が認められた。

具体的には、1日単位の摂取量が多いほど深いノンレム睡眠が少なく(R=-0.477〈-0.744~-0.078〉)、かつ、夕食での摂取量も深いノンレム睡眠の時間と逆相関していた(R=-0.417〈-0.709~-0.004〉)。

夕食時の主要栄養素バランスの最適化が睡眠の質の向上につながり得る

著者らは本研究の限界点として、サンプルサイズが小さいこと、観察研究であり因果関係の考察が制限されること、睡眠の質をゴールドスタンダードとされるポリグラフ検査ではなくウェアラブルデバイスで評価していること、および、対象者に利用可能エネルギー不足(LEA)が含まれておらずLEAの影響を検討できなかったことなどを挙げ、さらなる研究の必要性を指摘。一方で、単一大学の学生を対象としたため、日々のスケジュールやトレーニングのばらつきが小さく、潜在的な交絡因子の影響が少ないと考えられることは、本研究の強みであるとしている。

論文の結論は、「LEAでない健康な女性持久系アスリートでは、とくに夕食時の脂質摂取量が多いことが、深いノンレム睡眠に悪影響を及ぼし、一方で炭水化物はそれを促進する。よって、夕食時の主要栄養素バランスを最適化することで、睡眠の質が向上し、それが運動能力の向上につながる可能性があるのではないか」と総括されている。

文献情報

原題のタイトルは、「The Impact of Macronutrient Intake on Sleep Quality in Female Endurance Athletes: A Pilot Observational Cross-Sectional Study」。〔Nutrients. 2025 Apr 17;17(8):1368〕 原文はこちら(MDPI)

SNDJ特集「相対的エネルギー不足 REDs」

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薬物の使用や医療処置の利用を許容する競技会「Enhanced Games」(強化された大会)の開催が決定したことに対し、世界アンチ・ドーピング機構(WADA)およびWADAアスリート評議会は22日、これを非難する声明を発出した。

ドーピングし放題、むしろ推奨する世界大会が来年5月開催

報道によると、薬物や医療処置の利用を可とし、むしろその利用を推奨する「Enhanced Games」と称する国際競技会が2026年の5月21~24日の4日間にわたり、米国・ラスベガスで開催されることが決定した。競技は陸上、競泳、重量挙げが予定されており、競泳については既に、世界選手権のメダリストも参加を表明している。主催者らはこの競技会を、「スポーツと科学の革命」、「人体の潜在能力を解放する試み」などと喧伝し、医薬品の開発促進、健康長寿の推進につながり得ると表明している。

これに対して、さまざまな団体・個人が、アスリートの身体的健康・安全性、そして、アスリートを中心にスポーツ界が目指す高い精神性への悪影響などの懸念を指摘している。世界アンチ・ドーピング機構(World Anti-Doping Agency;WADA)アスリート評議会は、この競技会の計画が発表されて以降、積極的に介入することでかえってこの競技会への注目度が高まるリスクを考慮し、これまで表立った反対活動をしていなかった。しかしこのたび開催の詳細が決定したことを受けて、明確な非難声明を発出した。

声明はWADAによるものと、WADAアスリート評議会によるものが出されている。以下はそれらの要約。

WADAは、いわゆる「強化大会」を危険かつ無責任な概念として非難する。

WADAの最優先事項は、アスリートの健康と幸福である。この大会は、娯楽やマーケティング目的で、アスリートによる薬物・その他の使用を推進しようとするものであり、明らかにWADAの優先事項を脅かすものだ。禁止薬物の使用によって深刻で長期的な副作用に苦しむアスリートの例は数多くあり、なかには死亡したアスリートの例も存在する。

これは、世界中のすべてのアンチ・ドーピング機関と各国政府、とくに開催が予定されている米国が団結して対応すべき事態である。我々は、アスリートを含むすべてのクリーンスポーツパートナーに向けて、影響力のある支持者がいるか否かにかかわらず、このイベントを非難するために、ともに立ち上がるよう呼びかける。

ラスベガスでのイベント計画が明らかになって以降、主催者の狙いは、自社製品の販売促進や、その使用に伴うリスクを軽視しようとするものであることが明らかになっている。エリートアスリートが、自身のプロフィールを利用して、禁止薬物や潜在的な危険性のある薬物の使用の推奨に加担することは、有害な行為である。

WADAは、世界アンチ・ドーピング規程(コード)の規制対象となるスポーツへの参加を希望するアスリートおよびサポートスタッフに対し、強化大会への参加は、コードに定められた規則違反のリスクを伴うことを警告する。また、世間の評判という、ドーピングとの関連が永遠に社会に記憶されるリスクを背負うことになる。

WADAは、正当なスポーツの公正性を守るため、各地のアンチ・ドーピング機関に対し、本大会の開催前、開催中、そして開催後に、関与した選手の検査を実施するよう奨励する。また、WADAはアスリート評議会と緊密に連携し、選手がリスクについて十分に理解できるよう努めていく。WADAはまた、すべての政府と法執行機関に対し、パフォーマンス向上薬の使用を認めた選手、あるいはそうした薬物を供給または投与する医師が、自国であれ競技会の開催地であれ、刑法や職業規則に違反している可能性があるかどうかを評価するよう求めている。

スポーツの美しさと人気は、クリーンでフェアな競技という理想に基づいている。これらの価値観は守られなければならない。アスリートは模範となる存在であり、WADAは今回の出来事が、世界中の若者に危険なメッセージを送っていると考える。

WADAアスリート評議会は強化大会に強く反対する

WADAのアスリート評議会(Athlete Council;AC)として我々は、アンチ・ドーピングに関するアスリートの声を代表し、支援し促進している。ACはまた、アスリートによって選出されたアスリートがWADAの統治機関において重要なポストに就くための場でもある。この立場から我々は、クリーンなスポーツと世界中のアスリートを脅かす問題、すなわち、昨日(5月21日)発表された、2026年5月に米国ネバダ州ラスベガスで開催される強化大会(Enhanced Games)について言及したい。

2024年初頭、アスリートによるパフォーマンス向上のための物質や方法の使用を奨励する多種目競技大会「強化大会」の開催に関する報道が初めて行われた。ACは当時、早すぎる介入によって、正当性に欠けクリーンなスポーツへの脅威となるプロジェクトへの注目が、意図せず高まってしまうリスクを考慮して、公式声明を出さないことを選択した。

しかし今、ACは、強化大会、およびパフォーマンス向上のための物質や方法の使用を促進するあらゆるイベントに、断固反対することをここに表明する。これらの大会は、数十年にわたる医学的エビデンスと、ドーピングの被害を受けたアスリートたちの実体験を無視した、危険な概念である。このようなイベントは、アスリートを深刻なリスクにさらし、スポーツの中核的価値を根本的に損うものだ。このようなイベントを奨励することは、無責任であり容認できるものでない。したがって、ACはWADAと協力し、アスリートがこのイベントに伴うリスク、つまりアスリートの健康と幸福だけでなく、スポーツ選手のキャリアにも影響を与えるリスクについて、アスリートに情報を提供していく。

我々は、クリーンなスポーツを推進する者として、いかなるアスリートにも、今大会に参加しないことを強く推奨する。

公正な競争とアスリートの幸福を信じるすべてのアスリートは、ぜひ声を上げてほしい。今こそ、アスリートを守り、スポーツが安全で、誠実、そして敬意に満ちたものであり続けるよう、我々はこれまで以上に団結して尽力しなければならない。

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国内の高校生アスリートを対象とする横断研究から、血清ビタミンDレベルと筋力との関連を示す結果が報告された。さらに、6カ月にわたり1,000IUのサプリメントを摂取するという介入により、ビタミンDレベルが上昇し、かつ筋力上昇にもつながり得ることが示された。専門学校健祥会学園の武田英二氏らの研究であり、論文が「The Journal of Medical Investigation」に掲載された。

日本人若年アスリートのビタミンD不足/欠乏の実態と影響を探る

ビタミンD(VD)は、古くは骨代謝に関連する栄養素として位置付けられていたが、近年は免疫や筋肉機能など、さまざまな機能にとっても重要な栄養素であると理解されるようになっている。実際、VDの受容体は筋肉にも多数発現していて、リン脂質代謝の調節や筋肉の収縮に関与していることが知られている。

VDは世界的に不足している人の多い栄養素であり、日本人でも50~70%が不足または欠乏状態にあると報告されている。VD不足により筋力の低下が生じる可能性があり、既に高齢者のサルコペニアとの関連で精力的に研究されている。その一方、若年アスリートにおけるVD不足の実態は不明点が少なくない。

これを背景に武田氏らは、国内の高校生アスリートを対象とする横断研究により、ビタミンD不足の実態と筋力との関連を検討。あわせてサプリメントを用いた介入効果を検討した。

横断研究:高校生アスリートのVD不足の有病率と筋力との関連が明らかに

VDが充足している割合は3割足らず

研究参加者は、高校生アスリート21人(男子6人、女子15人)。大半の生徒が1回90~120分、週5日のトレーニングを行っていた。

血清25-ヒドロキシビタミンD [25(OH)D]が30ng/mL超を「充足」、21~30ng/mLは「不足」、20ng/mL未満は「欠乏」と定義すると、充足は6人(28.6%)、不足/欠乏が71.4%であり、前者の群の25(OH)D中央値は35.8ng/mL(四分位範囲33.0~38.9)、後者は同24.2ng/mL(22.3~27.0)だった。

2日間の食事記録から算出したエネルギー摂取量や水分摂取量は、VD充足群と不足/欠乏群との間に有意差がなかった。

不足/欠乏群はピークパワーが低く、女子ではVDレベルと総仕事量が相関

筋力パフォーマンスは、無酸素性パワーや筋持久力を評価するウィンゲートテスト、下肢筋力を評価するカウンタームーブメントジャンプ、および握力で評価した。

VD充足群と不足/欠乏群を比較すると、ウィンゲートテストにおけるピークパワーが、充足群は440W(415~535)、不足/欠乏群は393W(367~431)であり、前者が高い傾向にあった(p=0.056)。性別に解析した場合も、女子において全体解析と同様の傾向が認められた(p=0.078)。

さらに女子では、血清25(OH)D値と総仕事量との間に有意な相関が認められた(rs=0.637、p=0.011/体重換算値ではrs=0.515、p=0.049)。

介入研究:6カ月のサプリ摂取でVDレベルが上昇し、筋力向上

次に、毎日1,000IUのVDサプリを6カ月間摂取するという介入研究が行われた。

介入前の血清25(OH)Dのベースライン値は、全体で27.0ng/mL(22.9~32.1)、性別では男子は27.3ng/mL(21.1~33.7)、女子は26.6ng/mL(23.7~29.9)だった。介入6カ月後には同順に、37.9ng/mL(28.9~40.9)、35.4ng/mL(27.3~39.7)、38.5ng/mL(29.3~43.3)であり、それぞれ有意に上昇していた(全体と女子はp<0.001、男子はp<0.05)。<>

介入前後で骨格筋量の有意な変化はみられなかったが、ウィンゲートテストの一部の指標に、以下のような有意な変化が認められた。

全体解析では、無酸素パワー(580W〈509~678〉から598W〈556~798〉、p<0.001)とピークパワー(386w〈301~425〉から396w〈367~472〉、p<0.05)が有意に上昇していた。性別の解析では、男子はピークパワー(441w〈386~495〉から480w〈459~601〉、p<0.05)、女子は無酸素パワー(550w〈485~582〉から573w〈532~598〉、p<0.01)が向上していた。<>

本研究により、日本人高校生アスリートの間でビタミンD不足/欠乏が少なくないこと、サプリメント摂取によりそれが充足されるとともに、筋力が向上する可能性のあることが明らかになった。著者らは、「本研究の結果は、とくに成長期の健康効果という観点から、ビタミンDの重要性を強調するものと言える」と述べている。

限界点としては、サンプルサイズが小さいこと、栄養素摂取量を想起法に基づき評価していること、および介入研究で対照群を設けていないことなどが挙げられるが、論文の結論には、「高校生アスリートのパフォーマンスを最適化するために、通常の食事摂取に加えて1,000IUのビタミンDサプリメントを摂取することを推奨すべきかもしれない」と記されている。

文献情報

原題のタイトルは、「Effects of vitamin D on muscle mass and function in high school athletes」。〔J Med Invest. 2025;72(1.2):167-171〕 原文はこちら(J-STAGE)

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スポーツ栄養Web編集部

0.001)とピークパワー(386w〈301~425〉から396w〈367~472〉、p<0.05)が有意に上昇していた。性別の解析では、男子はピークパワー(441w〈386~495〉から480w〈459~601〉、p<0.05)、女子は無酸素パワー(550w〈485~582〉から573w〈532~598〉、p<0.01)が向上していた。<>0.001、男子はp<0.05)。<>

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国内で緊急搬送され熱中症と診断された子どもの8割は、スポーツ活動に関連して発症した症例であることが明らかになった。日本救急医学会が毎年、全国規模で行っている疫学調査のデータを二次解析した結果であり、京都大学大学院医学研究科予防医療学分野の岡田遥平氏らの論文が「Clinical and Experimental Emergency Medicine」に掲載された。

子どもは熱中症ハイリスクにもかかわらず、詳細なデータがなかった

熱中症のリスクが高い集団として、屋外労働者、スポーツ選手、高齢者、そして子どもが挙げられる。これらのうち子どもは成人より身長が低いこと、体重あたりの体表面積が大きいことにより、体内での熱産生量や体外からの熱吸収量が大きく、輻射熱(地面の照り返し)を受けやすいことなどが熱中症リスクを押し上げると考えられる。さらに、周囲の成人の指示で行動が規定されやすいこと、幼少期では不調を訴えることができないことも、リスク上昇に関係している可能性がある。

このように子どもの熱中症は成人とはリスク関連因子が異なり、また医療対応や転帰も異なる可能性がある。しかしそれにもかかわらず、子どもの熱中症の特徴に関するデータは不足している。これを背景として岡田氏らは、日本救急医学会「熱中症および低体温症に関する委員会」が行っている「熱中症に関する疫学調査(Heatstroke Study)」のデータを用いて、子どもの熱中症の特徴に関する詳細な検討を行った。

7割は屋外で発生し、8割はスポーツに関連して発生

「Heatstroke Study」は毎年、夏季(7~9月)に、全国の二次・三次医療機関が参加して実施されている観察研究である。参加施設数は例年100施設以上で、2020年と2021年は165施設が参加した。今回の研究では、2017~21年の夏季に救急外来で熱中症と診断されていた3,154人から、18歳未満の146人を抽出して解析した。

年齢は中央値15歳で、男子に多い

146人のうち男子が60%を占めていた。

年齢は中央値15歳(四分位範囲13~16歳)であり、高校生(15~17歳)が41%と最多で、次いで中学生(12~14歳)が38%、小学生(6~11歳)が16%、乳児や未就学児(0~5歳)が4.8%だった。

8割がスポーツ活動中、7割が屋外で発生

発生の時期は8月が47%と最多で、次いで7月が42%だった。時間帯については、午後(12~18時)が半数以上(52%)で、次いで夕方(18~24時)が22%を占めていた。

発生場所は屋外が70%であり、80%はスポーツ活動に関連して発生していた。なお、消防庁が毎年発表している熱中症による救急搬送状況の統計では、発生場所の最多は「住居」であり、今回の研究により、救急対応を要する子どもの熱中症の発生場所が、成人を含めた全体的な傾向とは大きく異なることが示された。

6割強は救急車で搬送され、62%が重症度Ⅲ度

全体の62%は救急車で救急外来に搬送されていた。体温は中央値37.2℃(四分位範囲36.7~38.0℃)で、多く(73%)は腋窩で測定されていた。

熱中症の重症度は62%がIII度(日本救急医学会のガイドラインで入院が推奨される状態)と判定されていた。また、36%に急性腎障害、25%に肝障害、39%に意識障害(グラスゴー・コーマ・スケールが14点以下またはけいれん発作)が認められたほか、ヘモグロビンやヘマトクリット、尿素窒素(BUN)、血清ナトリウムの上昇などの脱水を示す所見が多く認められた。

16%がICU入室、2人が死亡

救急外来での初療後に、75%は一般病棟に入院し、16%がICUに入室、7.5%は入院せずに帰宅していた。救急外来での死亡が2人(1.4%)記録されており、いずれも乳幼児だった。

入院期間は中央値2日(四分位範囲2~3日)で、生存退院した患者は全員、modified Rankin Scale(mRS)が3(生活の一部に介助が必要な中等度の障害)未満であり、機能的転帰不良は認められなかった。

著者らは本研究の限界点として、研究参加施設以外の医療機関を受診した患者や、救急外来受診前に死亡した症例のデータが不明であること、調査期間が7~9月であり、5~6月など熱中症が発生し得る他の月のデータが収集されていないことなどを挙げている。

そのうえで、「救急外来に搬送された熱中症の子どもの大半は中学生か高校生であり、8月の午後の発症、屋外スポーツ活動に関連した発症が多いことが明らかになった。入院を要した患者の多くは、意識レベルの低下、脱水、急性腎障害を呈していた。これらの知見は、今後の子どもの熱中症に対する予防策や医学的対応の検討に役立つのではないか」と総括している。

文献情報

原題のタイトルは、「Characteristics of pediatric patients with heat-related illness transferred to emergency departments: descriptive analysis from Japan」。〔Clin Exp Emerg Med. 2025 Apr 30〕 原文はこちら(The Korean Society of Emergency Medicine)

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1日の中である時間帯のみ摂取量を気にせずに飲食し、その他の時間帯はカロリーのあるものを一切絶つという、「時間制限食」と呼ばれる食事スタイルが、減量や代謝改善を目指す人の間で人気となっている。では、ふだん筋力トレーニングを行っている人がこのような食事スタイルを採用した場合、トレーニング効果が変化するのだろうか。この疑問について、摂取カロリーを+10%とする条件下での無作為化比較試験で検討した結果が報告された。

高カロリーの16:8時間制限食の筋トレ効果への影響を検証

断続的断食の一つのパターンである時間制限食(time-restricted eating;TRE)については、体重管理、体組成、代謝、免疫能への影響や効果という視点で多くの研究が行われてきており、減量に関しては一定程度のエビデンスが蓄積されてきている。その一方、筋トレで筋量を増やすということは減量とは正反対に近い作用を期待するということであり、従来の研究における時間制限食(TRE)の効果とは相いれない。

実際、これまでの研究の大半は、総摂取エネルギー量を変更せずに減量効果を得られるかという検討、または、総摂取エネルギー量を減らし、かつTREとすることで、単に総摂取エネルギー量を減らすよりも減量効果が拡大するかという視点で検討されてきている。それに対して今回の研究は、筋トレを継続しつつ、総摂取エネルギー量を増やしたうえでTREを行った場合に、筋肉関連指標にどのような影響が生じるのかが検討された。

習慣的に筋トレを行っている17人を無作為に2群に分け8週間介入

研究参加者は、過去1年間に週3回以上の筋トレを行っていて、1RM(one repetition maximum〈1回だけ施行可能な最大負荷量〉)が、男性はバックススクワットが体重の1.5倍、ベンチプレスが1.0倍、女性は同順に1.0倍、0.55倍という基準をクリアした17人。除外条件として、ビーガンやケトン産生食、地中海食などの特別の食事スタイル、体脂肪率35%以上、パフォーマンス向上薬の使用歴などが設定されていた。

無作為に2群に分け、1群を1日に8時間のみ摂食可とする「TRE」群、他の1群を任意の時間に摂食可とする対照群とした。この割り付けの情報は、トレーニング指導やパフォーマンス測定を行う研究者にはマスクされた。また、後述の栄養サポートに当たる栄養士は、栄養指導のみを行い、データ解析を含むその他の過程には関与しなかった。

TRE群(男性6人、女性4人)は、午前中に筋トレを行い、筋トレ終了から1時間以上経過した後の8時間を、摂取可能な時間帯とした。対照群(男性7人、女性3人)も午前中に筋トレを行ったが、食事は任意の時間に摂取した。

両群ともに筋トレ終了後、0.35g/kgのホエイプロテインを摂取した。その摂取量は常に0.35g/kgとなるように、体重変化にあわせて週単位で調整された。

食事の摂取エネルギー量は、必要とされるエネルギー量の1.1倍(10%過剰)とし、これも週単位で体重の変化にあわせて調整された。栄養素バランスは、脂質を25%エネルギー、タンパク質を2.2g/kgとし、残りを炭水化物で満たすように調整した。この食事介入のため、週ごとに栄養士によるリモートサポートが行われた。

筋トレは週4回行われ、適切な負荷量を自動で設定するプログラム(autoregulatory progressive resistance exercise;APRE)を用いて、ワークセットの反復回数が規定回数から2回以上超過した場合は負荷量を2.5%増やし、規定回数に届かなかった場合は10%減らした。

時間制限食(TRE)群の筋力への介入効果は一部の指標を除き対照群とほぼ同等

8週間の介入期間中、TRE群の1日の摂食時間は中央値7.9(四分位範囲0.1)時間に遵守されていた。対照群は同13.2(0.6)時間だった。摂取エネルギー量は、TRE群3,090±643kcal/日、対照群3,115±629kcal/日で有意差がなく(p=0.94)、炭水化物、脂質、タンパク質の摂取量も有意差がなかった。

筋トレの実施状況:TRE群では総運動量が有意に少ない

筋トレ参加日数は、TRE群59±2日、対照群59±4日で有意差がなく(p=0.59)、自覚的運動強度(rating of perceived exertion;RPE)も有意差がなかった。

その一方、総トレーニング量は、TRE群は6,960±287回であり、対照群の7,334±289回より有意に少なかった(p=0.02、効果量〈d〉=1.3〈大〉)。ただし、週あたりの総負荷量は、TRE群438±112kg、対照群441±138kg(p=0.97)で有意差がなかった

筋力への影響:TRE群ではスクワット1RMの上昇幅が少ない傾向

上半身および下半身の最大筋力(1RM)と筋持久力(muscular endurance;ME)は、両群ともに介入期間中に有意に上昇した。ただし、上昇幅を比較すると、TRE群のスクワット1RMは対照群に比較して4.0±1.9kg少なく、有意水準未満の差が認められた(p=0.058)。

ベンチプレスの1RM、ME、レッグプレスのME、レッグエクステンションの1RMには有意差がみられなかった。

体組成への影響:対照群では除脂肪量とともに脂肪量が増加

除脂肪量は、TRE群では介入後に2.67kg増加し、対照群では1.82kg、ともに有意に増加していた。ベースライン値を調整すると、介入期間中の変化幅は有意差がなかった(p=0.46)。

一方、脂肪量の変化については、ベースライン値を調整後、TRE群のほうが1.4±0.6kg少なく、有意差が認められた(p=0.047)。それに伴い、介入後の体脂肪率もTRE群のほうが1.6±0.7%低値だった(p=0.04)。

TREをより長期間継続した場合の筋量・筋力への影響は現時点で不明

このほかに、気分状態や睡眠への影響も調査されたが、それらについては群間差はみられなかった。

著者らは本研究を、「脂肪量の減少が目的ではなく、筋肥大とパフォーマンスの向上を目的として、高カロリー状態を維持した時間制限食による介入の初のエビデンス」だとしている。結論は以下のようにまとめられている。

「十分な筋トレの実践者が漸増レジスタンス運動を行い、十分なタンパク質を含む高カロリーの食事を摂取している場合、16:8TREアプローチは、筋量、筋力、筋持久力を向上させ得る。ただし、総トレーニング量、下半身の1RM、脂肪量の変化については有意差が認められ、実践に際しては留意が求められる。トレーニング量の減少は、より長い介入(つまり、本研究の介入期間である8週間よりも長い期間)においては、筋量や筋力へ影響が生じる可能性があり、この潜在的な懸念の証明または否定のため、さらなる研究が必要。TREと対照条件には、それぞれ利点と欠点があるようだ。TREは、筋肉の発達を促すというよりも、脂肪減少に重点を置くダイエットに適している可能性がある。ただし、個人の目標、ライフスタイル、嗜好などの、より広い文脈で適応を考慮するべきだろう」。

文献情報

原題のタイトルは、「Hypercaloric 16:8 time-restricted eating during 8 weeks of resistance exercise in well-trained men and women」。〔J Int Soc Sports Nutr. 2025 Dec;22(1):2492184.〕 原文はこちら(Informa UK)

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スポーツ栄養Web編集部


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20~69歳の日本人1,047人を対象として、時間栄養学からみた食行動を幅広く調査した結果、時間栄養学的食行動と食事の質および肥満との関連は、時間栄養学的行動をどのような方法で調べるかによって大きく異なることが明らかにされた。東京大学の研究グループの研究によるもので、「Nutrition Journal」に論文が掲載されるとともに、大学のサイトにプレスリリースが掲載された。研究グループでは、「本研究は時間栄養学的行動と食事の質および肥満との関連を、異なる二つの調査法(質問票法と日記法)を用いて検討した世界で初めての研究であり、この成果は、世界で急速に進む時間栄養学分野において、調査方法を慎重に吟味することの必要性を強調する貴重な科学的根拠となることが期待される」としている。

研究の背景:時間栄養学研究の結果に一貫性がない原因は?

不健康な食生活と肥満は、世界的に主要な公衆衛生上の課題であり、これらに関連する要因をより良く理解することが必要となってきている。

近年、時間生物学と栄養学をつなぎ合わせた新しい学術分野として「時間栄養学(chrononutrition)」が注目を集めている。時間栄養学的な視点では、例えば摂取時刻や摂取頻度という観点から食事を考えることになる。これらは日常生活の中で比較的簡単に変更可能な因子であるため、食事の摂取時刻や摂取頻度が健康的な食事や肥満に関連するかどうかを検討する研究は急速に増えてきている。しかし、その結果は必ずしも一貫していない。一貫性のなさの要因として、時間栄養学的食行動の調査法の違いが考えられる。複数の食事調査法を用いて時間栄養学的食行動を調べ、そのうえで、食事の質あるいは肥満との関連を検討した研究は存在しないのが現状。

そこで本研究では、二つの異なる食事調査法(質問票法と日記法)を用いて時間栄養学的食行動を調査し、それらと食事の質および肥満との関連を検討することを目的とした(図1)。

図1 本研究のスケジュール

(出典:東京大学)

研究の内容:2種類の調査法で時間栄養学的食行動を評価して肥満等との関連を比較

本研究は、2023年2~4月に全国26都道府県で実施された「食の5Wスタディ」のデータを基にしている。研究参加者は、20~69歳の日本人男女1,047人。本研究で用いた調査法は表1のとおりの2種類。

表1 本研究で用いた調査法

(出典:東京大学)

Chrono-Nutrition Behavior Questionnaire(CNBQ)は、最近1カ月の生活について、「仕事や学校のある日」と「仕事や学校のない日」に分けたうえで、以下の時刻を尋ねるもの。

就寝時刻、起床時刻、朝食の開始時刻、午前の間食の開始時刻、昼食の開始時刻、午後の間食の開始時刻、夕食の開始時刻、夜間の間食の開始時刻。

本研究で検討した時間栄養学的行動は、1日あたりの三食(朝・昼・夕食)の頻度、間食の頻度、すべての食事(朝・昼・夕・間食)の頻度、最初の食事の開始時刻、最後の食事の開始時刻、摂食中央時刻および摂食時間の長さ(図2)。

図2 主な時間栄養学的変数

(出典:東京大学)

また、Meal-based Diet History Questionnaire(MDHQ)は、各食事場面(朝食、午前の間食、昼食、午後の間食、夕食、夜間の間食)ごとの食品・栄養素摂取量の推定を目的とした、妥当性が検証済みの簡易食習慣評価ツール。食事の質の評価には、健康食インデックス(表2)を用いた。

表2 健康食インデックス

健康食インデックス(Healthy Eating Index)は、現時点での科学的知見を網羅的にまとめたうえで定められた「アメリカ人のための食事ガイドライン」(Dietary Guidelines for Americans)の遵守の程度を測る指標で、日本人における有用性も検証済み。健康食インデックスに含まれる因子は以下のとおりで、100点満点でスコアがつけられ、点数が高いほど食の栄養学的質が高いことを示す。

(出典:東京大学)

表3に示したのは、質問票法を基にした、時間栄養学的食行動と食事の質、肥満および腹部肥満との関連の結果。食事の質が低いことと関連していたのは、間食頻度が多いこと、すべての食事の頻度が多いこと、最後の食事の開始時刻が遅いこと、摂食中央時刻が遅いことだった。また、肥満(BMI25以上)および腹部肥満(腹囲長が男性90㎝以上、女性80cm以上)と関連していたのは、間食頻度が多いこと、すべての食事の頻度が多いこと、摂食時間が長いことだった。さらに腹部肥満とは、三食の頻度が多いことと最初の食事の開始時刻が遅いことも関連していた。

ここで示したのは「仕事がある日」の結果だが、「仕事がない日」の結果もおおむね類似していた。

表3 質問票法を基にした、時間栄養学的食行動と食事の質、肥満・腹部肥満との関連a

+:統計的に有意な正の関連、-:統計的に有意な負の関連、空欄:統計的に有意な関連なし。 a. 調整変数は、性、年齢、最終学歴、雇用形態、世帯収入、喫煙、身体活動、過去3カ月間におけるシフト勤務の有無、クロノタイプ(朝型か夜型かの指標)、睡眠時間、エネルギー摂取量の申告誤差。肥満と腹部肥満についてはさらに食事の質で調整。 b. 体格指数(BMI)25以上を肥満とした。

c. 腹囲長が、男性90㎝以上、女性80cm以上を腹部肥満とした。

(出典:東京大学)

表4に示したのは、日記法を基にした、時間栄養学的食行動と食事の質、肥満および腹部肥満との関連の結果。食事の質が低いことと関連していたのは、最後の食事の開始時刻が遅いこと、最後の食事の開始時刻が遅いこと、摂食中央時刻が遅いことだった。一方、肥満あるいは腹部肥満と関連している項目はなかった。

ここで示したのは「仕事がある日」における結果だが、「仕事がない日」においては、食事の質、肥満、腹部肥満と関連を示した項目はなかった。

表4 日記法を基にした、時間栄養学的食行動と食事の質、肥満・腹部肥満との関連a

+:統計的に有意な正の関連、-:統計的に有意な負の関連、空欄:統計的に有意な関連なし。 a. 調整変数は、性、年齢、最終学歴、雇用形態、世帯収入、喫煙、身体活動、過去3カ月間におけるシフト勤務の有無、クロノタイプ(朝型か夜型かの指標)、睡眠時間、エネルギー摂取量の申告誤差。肥満と腹部肥満についてはさらに食事の質で調整。 b. 体格指数(BMI)25以上を肥満とした。

c. 腹囲長が、男性90㎝以上、女性80cm以上を腹部肥満とした。

(出典:東京大学)

今後の展望

本研究は、時間栄養学的行動と食事の質および肥満との関連を、異なる二つの調査法を用いて検討した世界で初めての研究。本研究の成果は、世界で急速に進む時間栄養学分野において、調査方法を慎重に吟味することの必要性を強調する貴重な科学的根拠となることが期待される。

プレスリリース

時間栄養学の視点からみた食行動――食事の質および肥満との関連――(東京大学)

文献情報

原題のタイトルは、「Chrononutrition behaviors in relation to diet quality and obesity: do dietary assessment methods and energy intake misreporting matter?」。〔Nutr J. 2025 Apr 28;24(1):67〕 原文はこちら(Springer Nature)

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北米小児・思春期婦人科学会議(NASPAG)の研修医教育委員会はこのほど、スポーツにおける相対的エネルギー不足(relative energy deficiency in sport;REDs)を抱える思春期女性アスリートの生殖関連の健康管理に関する推奨事項をまとめたレポートを発表した。思春期/若年成人(AYA)の女性アスリートにおけるREDsのスクリーニング、診断、および治療等を総括しつつ、とくに長期的な後遺症を来し得る、生殖機能低下のリスク評価や介入について解説されている。

AYA女性アスリートのREDsに関連する生殖機能への影響

この文書の冒頭では、「女性」とは出生時に女性と指定された人を指し、「アスリート」とは習慣的に身体活動に参加する個人と定義するとしたうえで、REDs状態にある女性AYA(adolescent/young adult)アスリートのケアを担当する医療提供者によって使用されることを想定し、この文書が書かれたと述べている。

全体の構成は、まず推奨事項を羅列し、その推奨にいたる研究方法、各項目の詳細な解説というもの。本稿では、「研究の目的と方法」、その研究に基づく「推奨事項」の一部、および、各項目の詳細な解説のうち「栄養に関する推奨の解説」の一部を紹介する。

研究の目的と方法

2005年に国際オリンピック委員会(International Olympic Committee;IOC)は、女性アスリートのトライアド(三主徴〈female athlete triad;FAT〉)という病態に関する合意声明を発表した。その後、2014年には知見をブラッシュアップするかたちで、現在使われている「REDs」と定義し、さらに2023年に新たなエビデンスに基づき詳細な定義づけと、スクリーニングおよび管理方法が提示された。

REDsは、パフォーマンス低下というアスリートの成長やキャリアの妨げるとなる重要なリスク因子であるのと同時に、骨量低下、易感染性、抑うつ、成長・発育不全など、種々の健康リスクを高める。中でも女性アスリートに好発する生殖機能の低下は、アスリートを引退後にも回復せず、生涯にわたる妊孕性低下を来すことがある。

北米小児・思春期婦人科学会議(North American Society for Pediatric and Adolescent Gynecology;NASPAG)により今般発表されたレポートは、REDsのこれらの健康リスクにうち、AYA世代の女性アスリートの生殖機能への影響を主な焦点として、AYA女性アスリートに接する医療従事者への推奨事項をまとめたもの。

この推奨の策定にあたり、2023年9月に文献データベース(PubMed、Cochrane Wiley、Cochrane)を用いたシステマティックレビューが行われた。2005年以降に報告されたヒトを対象とする論文を、「REDs」、「トライアド(FAT)」、「骨密度」、「無月経」などの検索キーワードで検索。英語で執筆されている論文を抽出した。

女性アスリートの生殖機能障害の実態と、医療従事者の認識の不十分さの実態が明らかに

レビューの結果、高校生女子アスリートの約24%が稀発月経を経験し、78%がトライアド(月経異常、摂食障害、骨代謝障害)のうち少なくとも一つを報告していた。また大学生アスリートの原発性無月経は全体で7%、体操やチアリーディングのアスリートでは22%だった。大学生アスリートの続発性無月経の有病率は2~5%で、長距離ランナーでは65%、ダンサーでは69%にも達していた。

医療従事者のトライアド(FAT)に対する理解は不十分で、医師、コーチ、理学療法士、アスレチックトレーナーのうち、IOC2018合意声明に示されている診断に必要な3要素をすべて特定できるのは50%未満だった。FATの診断項目を認識していると回答した医療従事者は3分の1だった。患者のケア、または受診勧奨に抵抗がないとの回答は、半数に過ぎなかった。

推奨事項(一部のみの抜粋・要約)

推奨の根拠と強さについて

  • .1件以上の適切に設計されたランダム化比較試験から得られたエビデンス。
  • Ⅱ-1.無作為化なしで適切に設計された対照試験から得られたエビデンス。
  • Ⅱ-2.適切に設計されたコホート研究または症例対照研究から得られたエビデンス(多施設または複数の研究グループからの報告であることが望ましい)。
  • Ⅱ-3.介入の有無にかかわらず、複数の時系列での報告のエビデンス。コントロールされていない実験での劇的な結果も、このタイプのエビデンスと見なされる。
  • .臨床経験、記述的研究、または専門委員会の報告書に基づいた権威者の意見。
  • レベルA.推奨事項は、強力かつ一貫した科学的エビデンスに基づいている。
  • レベルB.推奨事項は、限定的または一貫性のない科学的エビデンスに基づいている。
  • レベルC.推奨事項は、主にコンセンサスと専門家の意見に基づいている。

レベルIBの推奨

  • REDsのAYA女性アスリートに対して、月経回復または骨保護のいずれかの目的のみで、複合経口避妊薬を使用することは推奨されない。
  • エネルギー利用能(energy availability;EA)の改善が1年以上成功せず、骨密度低下および/または反復性骨ストレス障害のあるAYA女性アスリートには、経皮エストラジオールと経口プロゲステロンによる薬理学的治療が検討される。これらの薬剤は、十分なEAの回復と維持に向けた栄養介入および身体活動の変更に加えて処方する必要がある。

レベルII-3の推奨

REDsの第一選択治療は非薬物療法であり、栄養介入および身体活動の変更を通じてEAを回復し維持することに重点が置かれる。 AYAの場合、血清25-ヒドロキシビタミンD(25OHD)濃度の至適範囲は30~50ng/mL(75~125nmol/L)。ビタミンD欠乏症では、ビタミンD3またはD2経口投与を要する。

レベルIIIBの推奨

無月経のAYAアスリートは、血清25OHD濃度の測定を通じてビタミンD欠乏症を評価する必要がある。

レベルIIICの推奨

  • AYAアスリートは、毎年の健康診断やスポーツ参加前の身体検査の際に、REDsの検査を受ける必要がある。
  • 以下の症状を呈するAYAアスリートに対して、EAの低下(利用可能エネルギー不足〈(low energy availability;LEA〉)および/または摂食障害のスクリーニングを実施する必要がある。 体重減少または期待される成長と発達の欠如/月経障害/骨ストレス障害の既往

栄養に関する推奨の解説(抜粋・要約)

すべてのアスリートの毎日の栄養摂取量を評価する必要がある。

注意すべきこととして、利用可能エネルギー不足(LEA)は、意図的でない場合がある。つまり、(ボディーイメージやパフォーマンスのためではなく)食品に関する知識や食品へのアクセスが限られているために、摂取量が不十分でLEAを来すケースがある。

摂食障害行動(意図的なカロリー制限、過食、または嘔吐)がある場合は、摂食障害の専門医への紹介が推奨される。摂食障害の行動や態度を評価するための有効な質問票が開発されているが、全年齢・性別、全パフォーマンスレベルに適用可能な、普遍的に有効な単一の質問票は存在しない。

非薬物療法

REDsの治療は、EAを増やして毎日の必要量を満たすことに重点が置かれる。目標は、視床下部-下垂体-卵巣系および、その他の生理学的機能をサポートするために、十分なEAを一貫して維持することである。

REDsの発症・悪化に関連するすべての因子に対処するため、学際的なチームアプローチが有用である。そのチームには、AYAの生殖機能に関する専門家(小児/思春期婦人科医、思春期医学専門家)、スポーツ医学者、スポーツ栄養士、AYAアスリートの摂食障害の治療経験のあるセラピストを含めることを考慮する。

スポーツ栄養カウンセリングは、個別化し、栄養素の摂取量と種類に関する具体的な推奨事項とする必要がある。治療に関する一貫したメッセージを伝えることが、アスリートの回復と、患者や家族との明確なコミュニケーションの確保に最も役立つ。

REDs治療に際し、大半のアスリートはREDs悪化リスクを最小限に抑えるために、日々の栄養ニーズが満たされるまでは一時的に身体活動を減らすか中止する必要がある。身体活動を減らすことが困難な場合には、心理的サポートが援用される。

文献情報

原題のタイトルは、「Reproductive Health Management of Female Adolescent Athletes With Relative-Energy Deficiency in Sport」。〔J Pediatr Adolesc Gynecol. 2025 Apr;38(2):108-116〕 原文はこちら(Elsevier)

SNDJ特集「相対的エネルギー不足 REDs」

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スポーツ栄養Web編集部


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長谷川 博 氏 広島大学大学院人間社会科学研究科教授

横浜国立大学大学院教育学研究科修了(体育学修士)。東京都立大学大学院理学研究科修了(理学博士)。運動生理学を専門として、運動及び環境ストレス時における生体反応や身体の適応反応について生理学的手法を用いて分析している。日本スポーツ協会「スポーツ医科学専門委員会スポーツ活動中の熱中症事故予防に関する研究プロジェクト」班員、国立スポーツ科学センター「東京オリンピック特別プロジェクト」研究員などを務めている。著書に「リカバリーの科学,ナップ(2014)」、「もっと使えるスポーツサイエンス,講談社(2017)」、「スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック,公益財団法人日本スポーツ協会(2019)」、「スポーツ現場における暑さ対策,ナップ(2021)」,「人間の許容・適応限界事典,朝倉書店(2022)」など。研究のキーワードは、熱中症予防、暑さ対策、身体冷却、体温調節、スポーツパフォーマンス。関連する分野において、新聞、TV、雑誌などで解説。ベルギービールとラーメンに目がない。


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閉経後女性の食後脂質・糖代謝を改善することの重要性と、最適な運動タイミングが明らかにされた。早稲田大学の研究グループの研究によるもので、「European Journal of Clinical Nutrition」に論文が掲載されるとともに、大学のサイトにプレスリリースが掲載された。運動の60分前よりも、120分前に低グリセミック食品を摂ることにより、運動後の脂質代謝が促進するという。一方、運動中の代謝や運動後の食欲への影響はみられないとのことだ。

研究の概要

グリセミック指数(glycemic index;GI)※1の低い「低グリセミック食品」は、食後血糖とインスリン※2の上昇を抑えて、その後の運動の脂質代謝を促進することが明らかになっている。早稲田大学スポーツ科学学術院の宮下政司氏、同大学スポーツ科学研究科博士後期課程の坂崎未季氏(当時)らの研究グループは、女性は加齢に伴って肥満や脂質代謝異常を生じやすくなるため、低GIの朝食を摂ったあとに運動を行うことが脂質代謝を改善する観点から有用ではないかと考えた。とくに閉経後の女性を対象に、GIの違いによる食後の血糖・インスリンの経時的な変化において、異なるタイミングで運動を行うことによる代謝や食欲への影響を検討したところ、歩行中の脂質・糖代謝やその後の食欲に影響はみられなかったが、歩行後の脂質代謝は、歩行の60分前よりも120分前に低GI食を摂る方が促進することを明らかにした。

図1

(出典:早稲田大学)

これまでの研究でわかっていたこと

低GIの食品は、食後の血糖値の急激な上昇やインスリンの分泌を抑えることによって、食後の脂質代謝を促すことが知られている。また、GIの違いは食欲を調節するホルモンに影響することもわかっている。ただし、食事のGIの違いだけでは体重管理や生活習慣病の予防・改善に与えるインパクトは限られていることから、運動との組み合わせによるアプローチが重要だと考えられる。

低GI食と運動を組み合わせたこれまでの多くの研究では、アスリートや運動習慣を持つ人を対象として運動パフォーマンスに与える影響を検討していた。これらの研究では、運動前に低GI食を摂ることによって、糖質だけでなく脂質をエネルギー源として効率的に利用することができ、運動パフォーマンスを向上させる可能性が示唆されていた。

さらに健康の維持や改善の観点では、同研究グループでは既に、中年女性を対象に歩行の120分前に低GIに設定された朝食を摂ることによって、高GIの朝食と比較して運動中の脂質代謝を促進し、糖代謝を抑制することを報告している(J Nutr Sci. 2023 Nov 20:12:e114.)。

今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

低GI食を歩行前に摂ることによって脂質代謝を促進させることは、加齢とともに肥満や脂質代謝異常を生じやすい閉経後の女性にとって、より重要な役割を果たすと考えられる。一方で、食後の血糖・インスリンの経時的な変化を考慮すると、食事から運動開始までの時間がどの程度であれば運動中の脂質代謝を促すのに最も適したタイミングであるのかは不明だった。そこで、本研究では閉経後の女性15名(平均年齢58歳)を対象に、運動前の食事のGIと運動のタイミングの違いが、代謝や食欲に及ぼす影響について検討した。

試験の参加者は、(1)食事開始から運動開始までの時間が120分で高GI試行、(2)同じく120分で低GI試行、(3)食事開始から運動開始までの時間が60分で高GI試行、(4)同じく60分で低GI試行――という4条件の試行を、それぞれ1週間以上あけて行った。

高GI試行の場合は高GIの朝食(パンやマッシュドポテトなど)、低GI試行の場合は低GIの朝食(玄米やヨーグルトなど)を9時に摂ることとして、120分後または60分後に30分間の歩行運動を行ったあと、13時まで安静にした。試験中は脂質・糖質の利用量を測定するために呼気ガスを継続的に採取した。また、30分間隔で血液を採取し、食欲に関するアンケートを行った。

その結果、30分間の歩行中の脂質・糖質の利用を示す「累積脂質・糖質酸化量」は4試行間に違いがみられなかった。また、食欲に関してもGIや運動のタイミングの違いによって明確な影響はみられなかった。

一方で、歩行後の1時間の血糖(図2左)およびインスリン(図2右)の上昇曲線下面積※3は、120分の試行よりも60分の試行で、高GI、低GIのいずれの試行においても高値を示した。インスリンの経時的な変化をみると、とくに60分-高GI試行において、運動により低下したインスリンが再度上昇していた。

図2

*:試行間の統計学的な有意差。

(出典:早稲田大学)

また、脂質代謝の血液中の指標である遊離脂肪酸は、60分の試行よりも120分の試行で高値を示し、120分-低GI試行がどの試行よりも有意に高値だった(図3)。

図3

*:試行間の統計学的な有意差。

(出典:早稲田大学)

したがって、低GI食を摂ってから120分後に運動をすることによって、血糖およびインスリンの上昇を抑えることにより、運動後の脂質代謝が亢進することがわかった。

研究の波及効果や社会的影響

本研究では、閉経後の女性が低GIの食事を摂って60分後に運動を行うよりも時間を空けて120分後に運動を行う方が、運動後の脂質代謝を促進することを明らかにした。加齢とともに食後の血糖およびインスリンの応答が異なるため、単純に低GIの食事を摂ったからといって、すぐに食後の血糖やインスリンの上昇が抑制されるとは限らず、健康維持や生活習慣病の予防の観点から、「どのような食事を摂るべきか」に加え、「食後どのタイミングで運動をしたら最適か」という疑問に対する一つの提案となるような結果であり、実生活に活用が可能な研究であると考えられる。

今後の課題

閉経前の女性を対象とした同研究グループのこれまでの研究(J Nutr Sci. 2023 Nov 20:12:e114.)と比較して、閉経後の女性では低GIとして推定値で設定していた朝食を摂取した後でも、インスリンが比較的高い値まで上昇していたことが本研究で確認された。これにより、運動中の脂質・糖質代謝の違いがみられなかった可能性がある。したがって、食事と運動による生活習慣病の予防・改善のためのアプローチには、加齢に伴うインスリン抵抗性※4を予防することが必要不可欠であると考えられる。

今後の展望として、高齢者や男性を含む幅広い年代や性別を対象に、低GI食の摂取と最適な運動のタイミングを検討する必要がある。

研究者コメント

これまで、女性を対象として低GI食の摂取と運動の組み合わせによる代謝や食欲への影響を検討した研究はなかった。また、当該研究領域は、欧米の若年者を対象にこれまで主に研究されてきているため、加齢や人種による食後のインスリン分泌能が異なることで、その後の運動に伴う脂質代謝に影響するのではないかという疑問を抱いていた。さらに、とくに日本人は欧米と比較して炭水化物の摂取割合が高い傾向にある一方で、近年、極端な糖質制限が体重管理や生活習慣病の予防・改善の一つのアプローチとして実践されていることに疑問を抱き、GIは「食後の代謝応答を把握する」うえで食事の質的管理として重要な指標の一つになると考え、本研究に着手した。

本研究では、食事のGIの違いだけでなく運動のタイミングというアプローチを加えることにより、加齢とともに脂質代謝に関する健康リスクが上昇する可能性のある閉経後女性において、実生活に応用可能な汎用性の高い知見を得ることができた。今後も、日常生活における食事や行動の改善から健康維持・増進に繋がるような研究に取り組んでいきたい。

プレスリリース

閉経後女性の代謝に最適な食事・運動のタイミングとは?(早稲田大学)

文献情報

原題のタイトルは、「Acute effects of pre-exercise high and low glycaemic index meals and exercise timings on substrate metabolism and appetite in postmenopausal women」。〔Eur J Clin Nutr. 2025 Apr 15〕 原文はこちら(Springer Nature)

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スポーツ栄養Web編集部


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3~8歳の子どもが屋外で過ごす時間、および、スポーツクラブなどの組織化されたスポーツ活動に参加しているか否かが、6~11歳に成長した時点の運動能力の予測因子であるとする研究結果が報告された。また、これらの関連性はそれぞれ独立したものであって、屋外で過ごす時間が長く、かつ、組織化されたスポーツ活動に参加していることによる、成長後の運動能力に対する相互作用は観察されないという。

子どもの外遊びやスポーツへの参加による運動能力への影響を縦断的に解析

運動能力の発達は小児期を通じて比較的安定しており、幼少期に何らかの理由で運動能力の発達が阻害された場合、後年まで影響が持続することが多いとする報告がある。子どもの運動能力の発達を促す因子として、いわゆる「外遊び」と言われる屋外での一般的な(組織化されていない)身体活動と、指導を受けながら体力や技量向上を目指す、組織化されたスポーツへの参加という、二つの因子が考えられる。

ただ、それらが成長後の運動能力にどの程度、影響を及ぼすのかという点や、両者が相乗的に運動能力をより高めるのかという点を、縦断的に検討した研究は少ない。今回取り上げる論文は、フィンランドで行われた子どもの運動能力に関する縦断研究のデータを解析した結果であり、屋外で過ごす時間と組織化されたスポーツへの参加の有無と運動能力を調査し、その3年後に再度運動能力を評価して関連を検討している。

屋外で過ごす時間の分布と、組織化されたスポーツの参加状況

この研究は2015~16年に、フィンランド国内の人口の分布を考慮して選ばれた24地域から、3~8歳の子どもとその保護者を募集。その3年後の子どもが6~11歳になった時点で追跡調査を行った。両方の調査に参加した627人(女児51.0%)を解析対象とした。

ベースライン(3~8歳時点)における年齢は5.5±1.1歳で、平日1日に屋外で過ごす時間は、全くない2.9%、30分未満22.8%、30~60分58.1%、60分以上16.3%、休日1日に屋外で過ごす時間は、全くない0%、30分未満1.0%、30~60分10.4%、1~2時間48.8%、2時間以上39.9%。性別で比較すると、平日の屋外で過ごす時間については、男児が女児よりも有意に長く(p=0.004)、休日については群間差が非有意だった(p=0.064)。

組織化されたスポーツの参加は、非参加が43.9%、参加が56.3%で、後者は単一スポーツが38.1%、複数のスポーツが18.0%だった。性別で比較すると、非有意ながら男児の参加率のほうが高い傾向にあった(p=0.057)。

追跡調査時点の年齢は、8.7±1.1歳だった。

複数の組織化されたスポーツに参加していることは、性別を問わず運動能力向上に関連

運動能力の評価には、粗大運動発達テスト3版(Test of Gross Motor Development-3rd edition;TGMD-3)、および、身体協調性を把握するKTKテストを用いた。

ベースライン時点での屋外で過ごす時間、および組織化されたスポーツの参加と、3年後のTGMD-3およびKTKテストの結果との関連性は、線形回帰モデルで検討された。なお、運動能力に対する社会経済的地位の影響も想定されたため、共変量として検討した結果、有意な影響は観察されなかったことから、最終的な解析モデルでは除外された。

解析は、TGMD-3とKTKテストに基づき、横跳び(jumping sideways;JS)、移動スキル(locomotor skills;LMS)、ボール等のコントロールスキル(object control skills;OCS)、基本的動作スキル(fundamental movement skills;FMS)という4項目について行われた。

横跳び(JS)

男児は、複数の組織化されたスポーツ活動を行っていた場合に、3年後の横跳び(JS)の成績が有意に良好だった(スポーツ活動非参加に対してp=0.005)。単一の組織化されたスポーツ活動を行っていたことは、3年後のJSの成績に有意な関連がなかった。また、屋外で過ごす時間の長さは、平日・休日問わず、3年後のJSの成績に有意な関連がなかった。

女児は、平日に屋外で過ごす時間が長いことが、3年後のJSの成績が良好という有意な関連が認められた(30分未満に対して30~60分はp=0.009、60分以上はp=0.024)。休日に屋外で過ごす時間の長さは、3年後のJSの成績と有意な関連がなかった。また、組織化されたスポーツ活動を行っていた場合に、3年後のJSの成績が良好という有意な関連が認められた(単一のスポーツでp=0.025、複数のスポーツでp=0.013)。

移動スキル(LMS)

男児・女児ともに、複数の組織化されたスポーツ活動を行っていた場合に、3年後の移動スキル(LMS)が有意に良好だった(男児はp=0.001、女児はp=0.020)。単一の組織化されたスポーツ活動を行っていたことは、3年後のLMSに有意な関連がなかった。また、屋外で過ごす時間の長さは、平日・休日問わず、男児・女児ともに3年後のLMSに有意な関連がなかった。

ボール等のコントロールスキル(OCS)

女児は平日に屋外で過ごす時間が30~60分の場合に、3年後のボール等のコントロールスキル(OCS)が良好という有意な関連が認められた(p=0.006)。平日に60分以上屋外で過ごすことや、休日に屋外で過ごす時間の長さは、3年後のOCSと有意な関連がなかった。また、組織化されたスポーツ活動を行っていた場合に、3年後のOCSが良好という有意な関連が認められた(単一のスポーツ、複数のスポーツともにp=0.026)。

男児はすべての関連が非有意だった。

基本的動作スキル(FMS)

男児・女児ともに、複数の組織化されたスポーツ活動を行っていた場合に、3年後の基本的動作スキル(FMS)が有意に良好だった(男児はp=0.002、女児はp=0.005)。単一の組織化されたスポーツ活動を行っていたことは、3年後のFMSに有意な関連がなかった。このほかに、女児が平日に30~60分屋外で過ごしていた場合に、3年後のFMSが良好だった(p=0.003)。

運動能力の発達にはスポーツへの参加と屋外活動が、重要かつ独立した役割を果たす

全体的な傾向として、組織化されたスポーツへの参加は、とくに複数のスポーツに参加している場合に、性別を問わず、3年後の運動能力がより高いことと有意な関連が認められた。その一方で、屋外で過ごす時間の長さは女児でのみ、有意な関連が認められた。この点について著者らは、男児は総じて屋外で過ごす時間が長いのに比べて、女児は屋外で過ごす子どもとそうでない子どもの差が大きいことが、このような差が生まれる原因ではないかと考察している。

なお、屋外で過ごす時間が長いことと、組織化されたスポーツに参加していることの、運動能力発達に対する相乗効果は観察されなかった。著者らは、「我々の研究結果は、子どもの運動能力の発達を促すうえで、組織的なスポーツへの参加と屋外での活動が、重要かつ独立した役割を果たすことを示している」と総括している。

文献情報

原題のタイトルは、「Children’s outdoor time and multisport participation predict motor competence three years later」。〔J Sports Sci. 2025 Mar;43(5):431-439〕 原文はこちら(Informa UK)

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スポーツ栄養Web編集部


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時間栄養に関する幅広い行動を簡易的に評価することを目的とする「Chrono-Nutrition Behavior Questionnaire;CNBQ」の妥当性が報告された。東京大学の研究グループの研究によるもので、著者らはCNBQを、食行動や睡眠行動を十分な妥当性をもって測定できる、世界初の簡易ツール」だとしている。「International Journal of Behavioral Nutrition and Physical Activity」に論文が掲載されるとともに、大学のサイトにプレスリリースが掲載された。

研究の概要:時間栄養学研究の基盤となる評価ツールの開発と妥当性検証

東京大学の研究グループは、時間栄養に関する幅広い行動を簡易的に評価することを目的とした「Chrono-Nutrition Behavior Questionnaire;CNBQ」が、11日間にわたって収集された食事日記との比較において、十分な妥当性を有することを明らかにした。

CNBQは、時間栄養に着目した研究で必要とされる、さまざまな食行動や睡眠行動を十分な妥当性をもって測定できる、世界初の簡易ツール。今後、時間栄養に関する大規模な観察研究や介入試験で広く活用され、食に関する政策立案に不可欠である、信頼できる科学的根拠の構築に大きく寄与することが期待される。

研究の背景:時間栄養学研究に必要な評価ツールがこれまではなかった

近年、時間生物学と栄養学をつなぎ合わせた新しい学術分野として「時間栄養学(chrononutrition)」が注目を集めている。時間栄養学の研究を行うためには、時間栄養に関するさまざまな行動(例えば、最初の食事や最後の食事の開始時刻や摂食頻度、起床時刻や就寝時刻など)を測定する必要がある。ところが、このような行動を包括的に測定可能な簡易ツールは存在しなかった。そこで本研究では、時間栄養に関する幅広い行動を簡易的に評価することを目的としたCNBQを開発し、11日間にわたって収集された食事日記を基準法として、CNBQの妥当性を検証した。

研究の内容

本研究は、2023年2~4月に全国26都道府県で実施された「食の5Wスタディ」のデータを基にしている。研究参加者は、20~69歳の日本人男女1,050人で、まず、CNBQに回答してもらった。

CNBQは、最近1カ月の生活について、「仕事や学校のある日」と「仕事や学校のない日」に分けたうえで、以下の時刻を尋ねる。(1)就寝時刻、(2)起床時刻、(3)朝食の開始時刻、(4)午前の間食の開始時刻、(5)昼食の開始時刻、(6)午後の間食の開始時刻、(7)夕食の開始時刻、(8)夜間の間食の開始時刻。

その後、11日間にわたって各食事の開始時刻や起床・就寝時刻を、食事日記に記録してもらった。CNBQと食事日記のそれぞれから、睡眠中央時刻、睡眠時間の長さ、摂食中央時刻、摂食時間の長さ(図1)、摂食頻度といった、時間栄養に関するさまざまな項目を算出した。

図1 睡眠中央時刻、睡眠時間の長さ、摂食中央時刻、摂食時間の長さ

(9)睡眠中央時刻は、(1)就寝時刻と(2)起床時刻の中央値。(10)睡眠時間の長さは、(1)就寝時刻から(2)起床時刻までの時間の長さ。(13)摂食中央時刻は、(11)最初の食事の開始時刻と(12)最後の食事の開始時刻の中央値。(14)摂食時間の長さは、(11)最初の食事の開始時刻から(12)最後の食事の開始時刻までの時間の長さ。

(出典:東京大学)

その結果、表1に示すように、どの項目においても、CNBQから得られた平均値は、食事日記から得られた平均値とかなり類似していた。さらに、CNBQから得られた値と食事日記から得られた値の間のスピアマンの相関係数を計算したところ(表1)、多くの項目において十分に高い相関(0.5以上)が観察された。

表1 食事日記との比較によるCNBQの妥当性(「仕事がある日」の結果)

(出典:東京大学)

以上より、CNBQは時間栄養に関するさまざまな項目において、十分に妥当な推定能力を有することが明らかになった。ここに示されているのは「仕事がある日」の結果だが、「仕事がない日」の結果もおおむね類似していた。

今後の展望:食に関する政策立案のためのエビデンス構築に寄与

CNBQは、時間栄養に着目した研究で必要とされる、さまざまな食行動や睡眠行動を十分な妥当性をもって測定できる、世界初の簡易ツール。CNBQは自由に使用できるように、日本語版も英語版もともに、もと論文のオンライン補足情報として公開されている(CNBQ(論文のオンライン補足情報))。

著者らは、「CNBQは時間栄養に関する大規模な観察研究や介入試験で広く活用され、食に関する政策立案に不可欠である信頼できる科学的根拠の構築に大きく寄与することが期待される」としている。

プレスリリース

時間栄養学のための簡易評価ツール(Chrono-Nutrition Behavior Questionnaire; CNBQ)―11 日間食事日記との比較による妥当性研究―(東京大学)

文献情報

原題のタイトルは、「Relative validity of the Chrono-Nutrition Behavior Questionnaire (CNBQ)against 11-day event-based ecological momentary assessment diaries of eating」。〔Int J Behav Nutr Phys Act. 2025 Apr 25;22(1):46〕 原文はこちら(Springer Nature)

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スポーツ栄養Web編集部


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女性持久系アスリートの暑熱環境での運動の際に、ナトリウム(Na)を積極的に摂取することが、パフォーマンス上有利に働くことを示唆する研究報告を紹介する。タイムトライアルが有意に向上し、直腸温や心拍数などへの負の影響は生じないという。また、月経周期との関連を考慮すると、とくに黄体期においてこの効果が大きく現れるとのことだ。オーストラリアの研究。

女性アスリートの月経周期を考慮した暑熱対策戦略を探る研究

高温多湿の環境での長時間の運動は、体温や心血管系へのストレスを増大させてパフォーマンスを低下させる。とくに水分摂取量が少ない場合や発汗により体内水分が喪失した場合、脱水によりそのリスクがさらに上昇する。それに対して運動前に、例えばナトリウムを摂取して血漿浸透圧を高めておくと、体内の水分量が定常状態(平衡状態)を超えて増加し、脱水症状の発現を遅らせることができる。実際、このような戦略により、陸上長距離種目や自転車競技において疲労困憊に至る時間が延長するといったエビデンスがある。

しかし、これらのエビデンスの大半は、男性アスリートで検討された研究の結果である。女性は男性に比較し最大発汗量が少なく熱放散が低い可能性があり、さらに、月経周期によって体内水分量や熱産生・放散が異なるという点で、男性でのエビデンスの適用が制限される。今回紹介する研究は、このような背景の下で実施された。

Tier 2~3の持久系アスリート対象のプラセボ対照無作為化クロスオーバー研究

この研究は、メルボルンの涼しい時期(4~10月、気温は6~16°C)に実施された。これにより、自然環境による暑熱馴化が生じることを回避した。

研究参加者は、オーストラリア国内のスポーツ団体またはソーシャルメディアを通じて募集された、持久系競技(自転車またはトライアスロン)の女性アスリート13人。研究参加のための要件として、競技歴2年以上、週3回以上かつ5時間以上のトレーニング、疾患を有していない、月経異常がないこと、除外条件として、妊娠・授乳中、過去6カ月以内の避妊薬使用の変更、過去2カ月以内の暑熱環境(気温25°C超)曝露が、それぞれ設定されていた。1人が脱落し解析対象は12人だった。競技レベルは、Tier 2が9人、Tier 3が3人だった。

研究デザインは、プラセボ対照無作為化クロスオーバー法で、月経周期のフェーズ1(月経開始後3~6日〈以下、月経期〉)とフェーズ4(尿中黄体化ホルモン陽性後7~9日〈以下、黄体期〉)に、ナトリウム摂取条件、またはプラセボ摂取条件を試行。つまり、被験者1人につき4回の試行を行った。

試験の試行手順について

各試験の試行の手順は以下のとおり。

24時間前から、高ナトリウムの飲食物とアルコールの摂取、および激しい運動を禁止。前日の夕食は標準化された冷凍食品(平均2,236kJ〈534kcal〉、ナトリウム883mg)を摂取。またスマートフォンアプリを用いて、初回試験の24時間前からの食事・水分摂取量、運動量を記録し、2~4回目の試行前に再現することとした。なお、事後解析の結果、栄養素・水分摂取量はすべて、試験条件間で有意差がないことが確認された(p値が0.700~0.965)。

体温および内分泌状態の日内変動を抑制するため、起床時刻を一定とし一晩絶食(約10時間)後に研究室に来訪。標準化された朝食(平均1,857kJ〈444kcal〉、ナトリウム306mg)と250mLの水を摂取。カフェイン摂取習慣のある人は標準化されたコーヒー(カフェイン約50mg)を摂取した。

運動負荷の開始2時間前から4回に分けて、7.5g/Lの塩化ナトリウムを含む水、またはプラセボを含む30mL/kgの水を摂取。ともにスクロースで味付けされ、区別がつかないようにされていた。

運動負荷は、60%VO2peakで75分間の定常走行を課したあと、34°C、相対湿度60%のチャンバー内で200kJのタイムトライアル(TT)を実施。直腸温と心拍数は、ベースラインと定常走行中に5分ごと、TTの50kJごと、およびTT完了時に測定した。また、体重の変化により脱水レベルを評価した。

これらを、月経期と黄体期に行った。

ナトリウム摂取条件で水分の喪失が抑制されタイムトライアル記録が向上

プラセボ条件とナトリウム条件を比較した結果、直腸温や心拍数は有意差がなかった。その一方、体重やパフォーマンスには、以下のような有意な影響が観察された。

定常走行試験での体重変化

体重は、定常走行のベースライン値は有意差がなかったにもかかわらず、定常走行の後は黄体期のナトリウム条件で有意に高値となっていた(月経周期を考慮しない全体解析〈p=0.040〉と黄体期〈p=0.009〉で有意、月経期は非有意)。つまり、運動開始前にナトリウムを摂取したことによって運動中の体内の水分の喪失が抑制されること、とくに黄体期でその作用が大きいことが示唆された。

タイムトライアルのパフォーマンス

タイムトライアル(TT)の記録は、ナトリウム摂取条件で有意に向上していた(月経周期を考慮しない全体解析〈p=0.01〉と黄体期〈p=0.005〉で有意、月経期は非有意)。つまり、運動開始前にナトリウムを摂取したことによって、持久力パフォーマンスが向上し、とくに黄体期でその作用が大きいことが示唆された。

ナトリウムの積極的な摂取は、とくに黄体期の女性の有効な暑熱緩和戦略となり得る

著者らは本研究を「ナトリウム摂取が女性サイクリストの運動パフォーマンスに及ぼす影響を調査し、その影響を月経フェーズ間で比較した初の研究」と位置づけている。得られた結果は、ナトリウム摂取により暑熱環境下でのTTパフォーマンスが約5%有意に向上し、とくに黄体期でより有効だった。また、体温や心拍数への負荷はプラセボと変わらなかった。このことから、心血管系に負の影響を及ぼすことなく体液保持効果が発揮されると考えられた。

論文の結論には、「水分補給が不十分な状態で長時間、暑熱環境下での運動・競技を行う女性持久力アスリートにとって、ナトリウムの積極的な摂取は有用な暑熱対策となり得る。黄体期にはより高い効果がもたらされる可能性がある」と述べられている。

文献情報

原題のタイトルは、「Sodium Hyperhydration Improves Performance With No Change in Thermal and Cardiovascular Strain in Female Cyclists Exercising in the Heat Across the Menstrual Cycle」。〔Int J Sport Nutr Exerc Metab. 2025 Jan 23;35(2):99-111〕 原文はこちら(Human Kinetics)

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スポーツ栄養Web編集部


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レクリエーションレベルの運動を行っている女性が、運動後に必須アミノ酸1.5g、ホエイプロテイン15g、同20gのいずれかを摂取し比較した結果、筋原線維タンパク質合成(MyoPS)速度に有意差はみられないという研究結果が報告された。著者らは、女性の場合、MyoPS刺激は、主として男性を対象とする研究から確立された従来の推奨よりも、少量のアミノ酸で十分なのではないかと述べている。米国、英国、オランダの研究者らの報告で、米国生理学会のジャーナル「American journal of physiology. Endocrinology and metabolism」に論文が掲載された。

女性のMPS刺激に必要なタンパク質はどのくらい?

骨格筋量は、筋タンパク質合成(muscle protein synthesis;MPS)とその分解(muscle protein breakdown;MPB)のバランスによって調節され、食事によるタンパク質摂取はMPSを一時的に刺激してMPBを阻害し、レジスタンス運動はMPSを刺激してMPBも軽度刺激する。

アミノ酸の安定同位体を標識して静脈内投与する手法による研究から、食直後(4時間以内)のMPSの上昇はタンパク質20gの摂取で頭打ちになることが示唆されており、これが現在の若年成人の運動後タンパク質摂取推奨量の指針となっている。しかし、これらの研究の大部分は男性を対象に実施されたものであり、1件存在する女性対象研究は、食直後ではなく24時間後までのMPSを標識物質の静注ではなく経口による投与で評価するなど、男性での推奨の根拠とされている研究とは異なる手法で実施されている。

よって、女性に対する推奨量はまだ確立されていないと言える。また、必要量以上のタンパク質を摂取することは、とくに女性の場合、体重管理上の懸念がより大きくなる。

一方、MPS刺激のための栄養素摂取という研究領域では、タンパク質食品よりもそれに含まれている必須アミノ酸、とくにロイシンの重要性が注目されており、現在、約2gのロイシン摂取で運動後の筋タンパク質同化反応が最適化するとされている。ただし最近行われたシステマティックレビューでは、より少量の約1gでも十分な可能性が報告された。

これらを背景として、本論文の著者らは、運動後の女性のMPSを最適化する戦略を探る研究を行った。

用量の異なる3条件でMPSの速度などを比較

この研究の参加者は、レクリエーションレベルの運動を行っている18~40歳の女性28人(アジア人2人のほかは白人)。レクリエーションレベルとは、週に2時間以上の運動を行っているものの、週3回以上のレジスタンストレーニングは行っていないことで定義した。喫煙者、なんらかの疾患有病者、タンパク質代謝に影響を及ぼし得る薬剤の服用者は除外されている。

試験デザインは無作為化二重盲検並行群間比較試験。後述のように摂取用量別の3群に分け、男性対象の先行研究と同様に、アミノ酸の安定同位体を標識して静脈内投与する手法により、食後4時間までの筋原線維タンパク質合成(MyoPS)速度や、血漿アミノ酸濃度などを比較検討した。負荷は片側(きき足)のレジスタンストレーニングとして、70%1RMによる伸展と屈曲を疲労のため自発的に終了するまで行った。なお、1RM(repetition maximum)は1回だけ施行可能な負荷強度で、本試験の5日前に計測した。

無作為化割付けされた3群

低用量群

ロイシン0.6gを含む1.5gの必須アミノ酸ドリンク。なお、ロイシン0.6gは、高齢女性対象の先行研究で有意なMPS刺激作用が報告されている。

中用量群

ロイシン1.5gを含む15gのホエイプロテイン。なお、この値は、男性対象研究から得られた現在の推奨であるホエイプロテイン20gを、平均的な男女の体重比を基に設定した。

高用量群

ロイシン2.0gを含む20gのホエイプロテイン。この値は、女性に対する用量としては現在の推奨よりも高い可能性のある条件として設定した。

女性は現行の推奨より少ないタンパク質やロイシンで、筋肥大が最適化される可能性

血漿アミノ酸濃度は、中・高用量群が低用量群よりも高値

まず、血漿アミノ酸レベルを比較すると、低用量群、中用量群、高用量群の3群いずれも、摂取後に、総アミノ酸、必須アミノ酸、分岐鎖アミノ酸、非必須アミノ酸のすべてが有意に上昇するという時間効果が認められた。

一方、4時間後までの血漿中濃度上昇曲線下面積(AUC)として比較すると、総アミノ酸、必須アミノ酸、分岐鎖アミノ酸、非必須アミノ酸のすべてについて、中用量群と高用量群は低用量群より有意に高値であり、中用量群と高用量群は有意差がなかった。

筋原線維タンパク質合成(MyoPS)速度は3群間で有意差なし

既報研究の計算式に基づき、筋原線維タンパク質合成(MyoPS)の速度(fractional synthetic rates;FSR)を算出。するとFSRは、摂取2時間後まで、摂取後2~4時間、および摂取4時間後までのFSRは、3群すべてベースラインより有意に上昇していた。かつ、FSRの3群間の比較では、摂取2時間後まで、摂取後2~4時間、および摂取4時間後までのいずれにおいても、有意差がなかった。

以上より論文の結論は以下のようにまとめられている。

「若年女性において、トレーニング後のタンパク質またはロイシン摂取により、血漿アミノ酸濃度が上昇し、その上昇の程度は摂取量により異なっていたにもかかわらず、MyoPSに差はなかった。我々の研究は、現在広く考えられている至適用量であるタンパク質20gまたは約2gのロイシンよりも低用量であっても、女性の筋肥大の最適化に十分である可能性があることを、初めて実証した」。

文献情報

原題のタイトルは、「Postexercise myofibrillar protein synthesis rates do not differ following 1.5 g essential amino acids compared with 15 and 20 g of whey protein in young females」。〔Am J Physiol Endocrinol Metab. 2025 Mar 1;328(3):E420-E434〕 原文はこちら(American Physiological Society)

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スポーツ栄養Web編集部


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スポーツ栄養に関する現行の主要なガイドラインでは、持久力運動中の糖質摂取量について、体重を問わず、単位時間あたりの摂取量を示した推奨がなされている。このような推奨に疑問を投げかける研究結果が昨年、国際スポーツ栄養学会発行の「International Journal of Sport nutrition and Exercise Metabolism」に掲載されている。英国とスペインの研究者の報告。要旨を紹介する。

持久力運動中の糖質摂取量の推奨のこれまでの変化と著者らの仮説

長時間運動中の糖質補給は、持久力パフォーマンス向上戦略の一つとして確立されている。論文のイントロダクションではまずこの戦略について、これまでの考え方の変化が概説されている。それによると、現行のガイドライン等の推奨に至るまでに以下のような変遷があったという。

過去のガイドライン等では、持久力運動中の糖質摂取量の設定に関して、体重を考慮することが示されていた。例えば、「体重1kg、1時間あたり0.7gの糖質摂取(0.7g/kg/時)」といった推奨が掲げられていた。しかし、外因性(運動中に摂取する)糖質の酸化速度は体重と関連がないことなどの報告がなされたことから、現在では例えば「1時間あたり30~60g、より長時間の運動では90g/時」といった推奨がなされるようになった。

一方、本論文の著者によると、外因性糖質の酸化速度と体重が相関しないとした報告は、その相関を検討することを主目的とした研究で実施されたものではない研究の二次解析で得られた結果だという。そのために、被験者の体重が狭い範囲に分布していて、相関の検討に適したものでなかった可能性があるとのことだ。

これに対して、外因性糖酸化速度を規定する主要な因子は腸管における糖質の吸収速度であり、腸管での糖質の吸収速度は小腸の表面積に比例し、小腸の表面積は種を超えて体格に比例するというエビデンスがある。よって、体格が大きい個人は時間あたりの糖質吸収量が多いと考えられ、結果として外因性糖酸化速度も速い可能性がある。

このような理論的背景の基もと著者らは、体格の大きいアスリートの方が体格の小さいアスリートよりも、外因性糖酸化率が高いという仮説を立て、以下の検討を行った。

体重70kg未満/以上で二分して持久力運動中の糖酸化率を比較

研究対象は、英国内から募集された、レクリエーションレベルのサイクリストまたはトライアスリート20人(女性2人)。研究参加の適格条件は、年齢18~60歳、VO2peak40~75mL/kg/分で、中等強度のサイクリングを2時間連続可能なこと、脂肪量指数(fat-mass index;FMI)5.5kg/m2未満などであり、除外条件は、低炭水化物高脂肪食の実践者、妊娠中・授乳中、クローン病や大腸炎などの消化管疾患、糖尿病などの代謝性疾患。

体重(70kg未満/以上)に基づき2群に分類。後述のテストをすべて完了したものは15人で、内訳は、体重70kg未満のsmall群が9人(女性2人)、体重70kg以上のlarge群は6人(全員男性)となった。この2群を比較すると、年齢、体脂肪率、体重補正した乳酸閾値およびVO2peakは有意差がなかった。一方、身長、体重、除脂肪量、乳酸閾値およびVO2peakの絶対値はlarge群の方が有意に高かった。3日間の食事記録から栄養素摂取量は、タンパク質はlarge群、食物繊維はsmall群が有意に多く、その他は有意差がなかった。

検討方法

研究ではまず、自転車エルゴメーターを用いて参加者個々の乳酸閾値を測定。次に、small群に対して、第一乳酸閾値の95%で120分間の負荷試験を実施。一方、large群に対しては、試行順序を無作為化したうえで、small群と絶対強度が一致する条件、および、個人の第一乳酸閾値の95%の強度という2条件で、120分間の負荷試験を実施した。すべての試行は一晩絶食後に行われた。またlarge群では最初の試行の直前72時間に摂取したものと身体活動を記録してもらい、2番目の試行の前にそれを再現してもらった。

負荷試験開始直前に、42g(14%、300mL)のブドウ糖溶液を摂取し、その後、負荷中は15分ごとに20g(140mL)を摂取。平均摂取速度は1.5g/分(2時間で合計180g)とした。外因性糖酸化率計測のため、ブドウ糖は安定同位体である炭素13で標識した。負荷中には30分ごとに呼気および血液を採取し、VO2、VCO2や代謝関連マーカーを測定。また主観的な運動強度と不快感を報告してもらった。

体格差が大きい集団では、その差を考慮した糖質補給戦略が必要な可能性

large群の負荷中の運動強度(W)やVO2、VCO2は、体重補正しない場合、乳酸閾値の95%の強度という条件ではsmall群より有意に高値だった。それに対して、運動強度をsmall群の絶対値にあわせる条件では、small群と有意差がなかった。

そしてlarge群の外因性糖酸化率は、乳酸閾値の95%の強度ではsmall群と比較して有意に高かった(平均差13g/時〈95%CI;2~24〉、p=0.03)。これは、small群に含まれていた女性2人を除外した感度分析、および、large群の中で最も体格の大きい男性を除外した感度分析でも、同様の結果だった。一方、large群の負荷強度をsmall群の絶対値にあわせて下げる条件では群間差が非有意だった(平均差13g/時〈95%CI;-1~27〉、p=0.07)。

また、外因性糖酸化率と体格(身長、体重、体表面積)との間に有意な相関が認められた。例えば、体表面積は外因性糖酸化のピーク値との相関が、r=0.85(95%CI;0.51~0.95)だった。

必要に応じてガイドラインの推奨のアレンジを考慮すべきか

これらの結果を基に著者らは、「体格の大きいアスリートは、体格の小さいアスリートよりも、運動中に外因性の糖質を酸化する能力が高いことを示している。この差が絶対的な運動強度の差にどの程度寄与しているのかという点については、さらなる研究が必要だが、持久力運動中に糖質の可用性を最大化しようとする場合に、現行のスポーツ栄養ガイドラインの推奨をアレンジして、体重に基づき調整したほうが、アスリートにとって有益かもしれない」と結論づけている。

文献情報

原題のタイトルは、「Exogenous Glucose Oxidation During Exercise Is Positively Related to Body Size」。〔Int J Sport Nutr Exerc Metab. 2024 Sep 27;35(1):12-23〕 原文はこちら(Human Kinetics)

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スポーツ栄養Web編集部


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国際オリンピック委員会(IOC)が2023年に策定した、スポーツにおける相対的エネルギー不足(RED-S)の重症度/リスク分類ツール(CAT2)の精度を検証した結果が報告された。カナダのエリートアスリート200人以上を対象とする研究により、重症度分類が妥当であり、より重症と判定されるほど、その後の骨ストレス傷害発生が多いことが明らかになった。

2023年に策定されたIOCによるRED-S評価ツールの妥当性を検証

国際オリンピック委員会(International Olympic Committee;IOC)は2015年に、それまで「女性アスリートのトライアド(エネルギー不足、無月経、骨粗鬆症の三主徴)」と呼ばれていたアスリートに好発する状態を、より病態メカニズムに則した症候群として男性アスリートも含め、「Relative Energy Deficiency in Sport;RED-S(スポーツにおける相対的エネルギー不足)」と定義。それに合わせ、臨床評価ツール(Clinical Assessment Tool;CAT)も策定していた。ただ、そのCATはエビデンスベースでなく、評価指標も限られていて、実用性が限られていた。

その後、2023年になりIOCは、CATに代わる評価ツールの第2版(CAT2)を策定。これは、180報以上の研究報告のエビデンスに基づくものであり、重症度カテゴリーが3種類から4種類と細分化され、実用性の高いものとなった。しかし、CAT2策定時点では、大規模集団での精度検証はなされていなかった。これを背景として、今回紹介する論文の著者らは、カナダ国内のエリートアスリートを対象として、CAT2の精度検証を行った。

解析対象アスリートの特徴

この研究には、カナダのオリンピック・パラリンピックの代表チーム、コーチ、スタッフを通じて募集された248人(女性67%)が参加した。適格基準は、年齢15歳以上、調査時点でオリンピック・パラリンピック競技のトレーニングを行っていること、カナダに居住していることであり、除外基準は、妊娠中、内分泌疾患の存在だった。調査時点ではエリートレベルでないと判断されたアスリート、後述の評価項目のデータ欠落、年齢的に閉経期に近づいていると判断された女性、およびパラアスリート(11人)などを除外し、213人を解析対象とした。

解析対象アスリートは、女性が143人(23.3±4.3歳)、男性70人(23.1±3.7歳)であり、パフォーマンスレベルは、Tier 3(準エリート)が52%、Tier 4(国内トップクラス)が36%で、Tier 5(トップアスリート)が12%だった。行っている競技は、陸上69人、ボート60人、自転車17人、水泳16人、トライアスロン16人、スピードスケート11人、ラグビー8人、柔道8人などだった。

評価項目

本研究の評価項目は、CAT2の判定、骨密度、自己申告に基づく骨ストレス傷害(bone stress injury;BSI)の発生状況、血液検査値(甲状腺ホルモン〈トリヨードサイロニン/tri-iodothyronine;T3〉、男性ホルモン〈テストステロン〉、血清脂質〈コレステロール〉など)、摂食障害診断質問表(Eating Disorder Examination-Questionnaire;EDE-Q)のスコア、および、RED-Sに関する知識。

骨密度は二重エネルギーX線吸収測定(DXA)法で測定した。骨ストレス傷害(BSI)については、ベースラインでの横断的評価に加えて6~24カ月追跡して発生状況を把握し、CAT2の判定区分などとBSI発生リスクの関連を検討するという探索的評価にも用いた。

RED-Sに関する知識は、「RED-Sの概念をどの程度認識しているか?」という単一の質問で評価した。選択肢は、「1. 知らない。初めて聞いた」、「2. 多少知っている。以前に聞いたことがある」、「3. ある程度認識している。概念を聞いたことがあり、基本を知っている」、「4. 概念と基礎理論を理解している」、「5. 概念をよく理解しており、資料を読んだり勉強したりしたことがある」の五つ。

CAT2の判定結果と多くの指標が有意に関連

CAT2の判定結果は、女性アスリートはリスクなし(緑)53%、低リスク(黄色)36%、中リスク(オレンジ)6%、高リスク(赤)6%であり、男性アスリートは緑60%、黄色34%、オレンジ4%、赤1%だった(以下ではCAT2の判定結果を色の名称のみで記載)。

全体として、CAT2の判定結果(RED-Sリスク)は除脂肪体重の低さと有意な関連があり(p<0.001)、女性ではオレンジと赤は体重とbmiが有意に低く、red-sに関する知識レベルはred-sリスクが高いほど(cat2が緑寄りでなく赤寄りなほど)高かった。<>

その他、論文ではCAT2の判定区分とさまざまな評価指標との関連が詳細に述べられている。以下にその一部を紹介する。

CAT2の判定区分別の該当者数や検査値の比較

骨ストレス傷害(BSI)を有する割合は、緑は118人中0人(0%)、黄色は75人中15人(20%)、オレンジは11人中3人(27%)、赤は9人中3人(33%)。緑に比較して他の3群はすべて有意に多い。

T3低値の割合は、緑は118人中0人(0%)、黄色は75人中9人(12%)、オレンジは11人中4人(36%)、赤は9人中6人(67%)。緑に比較して他の3群はすべて有意に多く、かつ黄色に比較して赤は有意に多い。

摂食障害診断質問表(EDE-Q)のスコア高値の割合は、緑は118人中0人(0%)、黄色は75人中17人(23%)、オレンジは11人中5人(45%)、赤は9人中4人(44%)。緑に比較して他の3群はすべて有意に多い。

女性アスリートの無月経の割合は、緑は34人中0人(0%)、黄色は27人中9人(33%)、オレンジは7人中7人(100%)、赤は8人中8人(100%)。緑に比較して他の3群はすべて有意差に多い。

男性アスリートの低テストステロン血症の割合は、緑は42人中0人(0%)、黄色は24人中1人(4%)、オレンジは3人中3人(100%)、赤は1人中1人(100%)。赤は緑および黄色に比較して有意に多い。

脊椎骨密度のZスコアは、緑に比較し他の3群はすべて有意に低い。大腿骨骨密度のZスコアは、緑に比較し黄色と赤の2群は有意に低い。

新たな骨ストレス傷害(BSI)が発生するリスク

6~24カ月の追跡期間中の、新たに骨ストレス傷害(BSI〈大半は自己申告ではなく医師により診断されたケース〉)の発生リスクは、緑よりもオレンジ(OR7.71〈95%CI;1.26~39.83〉)、性欲減退のある男性(OR16.0〈4.79~1038.87〉)、摂食障害(EDE-Q)スコアが高い場合(OR1.45〈0.97~1.97〉)で有意に高く、無月経の女性(OR4.6〈0.98~17.85〉)も高い傾向が認められた。

以上一連の結果に基づき著者らは、「CAT2はRED-Sの重症度を評価するうえでの高い妥当性があり、より重度のカテゴリーに判定されたアスリートは、将来のBSI発生リスクが高い」と総括。ただし、「さまざまな人種、年齢、競技レベルのコホートでの検証が必要であり、さらに、今後のRED-S指標の開発も求められる」と付け加えている。

文献情報

原題のタイトルは、「Application of the IOC Relative Energy Deficiency in Sport (REDs) Clinical Assessment Tool version 2 (CAT2) across 200+ elite athletes」。〔Br J Sports Med. 2024 Dec 23;59(1):24-35〕 原文はこちら(BMJ Publishing Group Ltd & British Association of Sport and Exercise Medicine)

SNDJ特集「相対的エネルギー不足 REDs」

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0.001)、女性ではオレンジと赤は体重とbmiが有意に低く、red-sに関する知識レベルはred-sリスクが高いほど(cat2が緑寄りでなく赤寄りなほど)高かった。<>

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女性アスリートまたは活発な身体活動を行っている女性の、パフォーマンス、回復、健康のための栄養戦略に関するシステマティックレビューの報告を紹介する。スペインやブラジルの研究者によるもので、著者らは本報告を「このトピックに関する初のシステマティックレビュー」だとしている。

女性アスリートの食事・栄養戦略のシステマティックレビュー

オリンピックなどの大規模スポーツイベントにおける女性アスリートが増加し、活発な身体活動を行っている女性の増加が世界的に進行しており、昨年のパリ五輪の参加選手数は男性と女性がほぼ同数となった。それにもかかわらず、女性に特化した身体活動のための栄養に関する推奨事項は確立されていない。これを背景に著者らは、「食事やサプリメントのアプローチを含む、どのような食事戦略が、女性アスリートや身体的に活動的な女性のスポーツパフォーマンス、回復、健康状態を改善できるか」という疑問の答を、システマティックレビューにより検討した。

システマティックレビューとメタ解析の推奨報告項目(PRISMA)ガイドラインに準拠し、Pubmed、Scopus、Web of Scienceという文献データベースを使用して、各データベースに2000年1月1日~2023年7月3日に収載された論文を対象とする検索が行われた。包括基準は、研究対象が女性のみであり「アスリート」と明示されているか米国スポーツ医学会の推奨する身体活動量を超える集団で、比較対照群を置き食事・栄養介入のスポーツパフォーマンスや健康状態に対する影響を検討し、英語、ポルトガル語、スペイン語のいずれかで報告されている無作為化比較試験。

一次検索で3,431報がヒットし重複削除後の3,169報を2名の研究者が論文のタイトルと要約に基づき独立してスクリーニングを実施し、99報を別の2名の研究者が全文精査。採否の意見の不一致は3人目の研究者との討議により解決した。最終的に71件の研究の報告を適格と判断した。

抽出された研究報告の特徴

71件の研究の参加者総数は1,654人で、32.5%が競技アスリート、30.7%が中~高強度のトレーニングを行っているアスリートであり、37.2%がレクリエーションアスリートだった。食事介入を行った研究が17件、サプリメント介入を行った研究が54件だった。

食事介入を行った研究のうち7件は並行群間比較デザイン、11件はクロスオーバーデザインであり、参加者数は計393人で、26.0%が競技アスリート、16.5%が中~高強度のトレーニングを行っているアスリート、57.5%がレクリエーションアスリートだった。サプリメント介入を行った研究のうち20件は並行群間比較デザイン、30件はクロスオーバーデザインであり、参加者数は計1,261人で、34.6%が競技アスリート、37.7%が中~高強度のトレーニングを行っているアスリート、27.7%がレクリエーションアスリートだった。

論文では、食事介入とサプリメント介入とに分けて、レビューの結果がまとめられている。それぞれについて、一部を紹介する。

食事介入研究の結果の要約

食事中の炭水化物摂取量を操作した研究のうち、1件の研究では運動前のグリコーゲンレベルの上昇、運動中の炭水化物酸化の促進、グリコーゲン消費量の増加が報告され疲労困憊に至る時間の延長が報告されていた。グリセミックインデックス(GI)に関しては、運動前に高GI食を摂ると、最大強度以下の運動で炭水化物の酸化が促進されることが報告されている。

ある研究では、運動前にオートミールを牛乳と一緒に摂取すると、運動後の活性酸素種(ROS)レベルが低下する可能性が示されている。一方、炭水化物の生物学的利用能(バイオアベイラビリティー)が非常に低い食事(具体的にはケトン食)は、体組成にプラスの影響(体脂肪率の低下と除脂肪体重の増加)を与えるが、神経筋の適応には影響しないと報告されている。

高タンパク質食に焦点を当てた研究では、そのような食事が健康に悪影響を及ぼすことはないが、介入期間とパフォーマンス変数との関連は認めなかったと報告されていた。ただし、高タンパク質食(2.0g/kg/日)は低タンパク質食(1.0g/kg/日)に比べて、筋関連指標に有益な影響が認められると報告されている。筋肉への影響という点では、多価不飽和脂肪酸リッチな食事(高PUFA食)も対照食と比較して、筋線維の断面積の増加と関連していることが報告されている。

その他、就寝前の牛乳(355mL)の摂取は最大強度以下の運動での代謝反応に影響を与え、炭水化物代謝を促進すると報告されている。一方、月経異常のアスリートに対する抗酸化食や高エネルギー食については、肯定的な結果の報告がみられない。

サプリメント介入研究の結果の要約

欠乏症の予防・治療のためのサプリ摂取の有用性を検討した研究のうち、鉄補給に焦点を当てた3件の研究では、競技アスリートのヘモグロビンレベルと血清フェリチン値に対するプラス効果が報告されている。ビタミン補給に関しては、葉酸は血行改善とわずかに関連している可能性があるが、ビタミンCやEなどの抗酸化作用を有するビタミンは、身体パフォーマンスの向上や回復の促進という点でのエビデンスは示されていない。

パフォーマンス向上のためのサプリメントに関して最も重要な知見は、カフェインの有効性を検討した10件の研究のうち9件で、少なくとも1種類の指標にエルゴジェニック効果が報告されていることである。一酸化窒素(NO)前駆物質に関しては、エリートホッケー選手を対象に実施された研究で、ビート根ジュースの摂取後に模擬試合で身体能力の向上が見られなかったという報告がある一方、身体的に活発、または中程度のトレーニングを行っている女性を対象とする4件の研究では、何らかの評価指標にエルゴジェニック効果が報告されている。

クレアチンに関しては、介入期間が1週間未満の研究では身体パフォーマンスの改善は示されなかったが、介入期間がより長い研究では体組成上のメリットと、一部の研究で身体パフォーマンスの向上が報告されていた。

女性対象研究が少なく、さらに月経の影響を考慮した研究は非常に少ない

結論は以下のように述べられている。「食事については、炭水化物含有量の多い食事は筋グリコーゲン枯渇を引き起こす活動でのパフォーマンスを高める。また、運動前の高GI食や高炭水化物食の摂取は、炭水化物代謝を促進する。他方、1日を通して5~6回、タンパク質食品を摂取し、1回の摂取量が25gを超えると、筋タンパク質の同化が促進される。サプリについては、パフォーマンスを高めるために摂取するカフェイン、NO前駆物質、β-アラニン、特定のスポーツ食品サプリ(炭水化物、タンパク質、またはその組み合わせ、微量栄養素など)は、女性アスリートおよび身体的に活動的な女性のスポーツパフォーマンスや健康状態に良い影響を与える可能性がある」。

なお、「女性アスリートや身体的に活動的な女性のパフォーマンスと健康状態に対する食事戦略の効果を検討した研究は非常に限られており、研究間に大きな異質性が認められる。さらに、月経機能への影響に関する情報が非常に限られている。また、全体として、食事介入の研究よりもサプリ介入の有効性に関する研究のほうが多かった」と総括し、「食事やサプリ摂取が男性と女性にどのような異なる影響を与えるかについて、現在の知見の不足を埋めるために、性別に特化したさらなる研究が不可欠」と述べている。

文献情報

原題のタイトルは、「Nutritional Strategies for Optimizing Health, Sports Performance, and Recovery for Female Athletes and Other Physically Active Women: A Systematic Review」。〔Nutr Rev. 2025 Mar 1;83(3):e1068-e1089〕 原文はこちら(Oxford University Press)

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スポーツ栄養Web編集部


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茶に多く含まれている非タンパク質性アミノ酸であるL-テアニンが睡眠に及ぼす影響を、システマティックレビューとメタ解析で検討した結果が報告された。入眠潜時、睡眠の質、日中の機能低下に対する有意な好ましい影響が確認されたという。ただし、他の成分と併用した研究が多く、“純粋な”L-テアニンに関する研究が不足していることを著者らは指摘している。

薬物によらない睡眠改善

睡眠は世界的に主要な公衆衛生上のトピックであり、世界人口のおよそ3割が睡眠関連の健康課題を抱えているとされている。臨床においては即効性を期待できる薬物療法が頻用されるが、副作用の点で長期使用は制限されるため、食品中の生理活性化合物への関心が高まっている。

水溶性の非タンパク質性アミノ酸のL-テアニンは、茶に含まれるアミノ酸の約50%を占め、乾燥重量の約1~2%を占めるとされる。摂取後約40分以内に血流に吸収され、血液脳関門を通過してドーパミン、セロトニン、グルタミン酸、グルタミン、γ-アミノ酪酸(GABA)などの神経伝達物質のレベルに影響を及ぼす。ヒトにおいて、血圧や心拍数の低下、コルチゾールの低下、脳のアルファ波の増強(リラックス感の増加)、ストレスの軽減などが報告されている。

L-テアニンの睡眠の質に及ぼす影響は、複数の無作為化比較試験で示されてきている。ただし、摂取方法、摂取量などが異なり、総合的な評価がなされていない。これまでに、L-テアニンが心理的ストレスパラメータに及ぼす影響を調査したシステマティックレビューは1件発表されているが、睡眠への影響については総括的な検討がまだ行われていない。

これを背景に本論文の著者らは、L-テアニンの睡眠に対する影響に関する、システマティックレビューとメタ解析を実施した。

文献検索につい

ステマティックレビューとメタ解析のための優先レポート項目(PRISMA)のガイドラインに則して、五つ(APA PsycINFO、CINAHL、Medline、Scopus、Web of Science)と一つのレジストリ(Cochrane Central Register of Controlled Trials)の文献データベースを用いて、それぞれの開始から2024年9月までに収載された報告を対象とする検索が行われた。検索キーワードを「テアニン」、「緑茶」、「茶」、「睡眠」などとし、包括条件は、L-テアニンのみ、または他の成分と併用し、比較対照群を置いて睡眠への影響を定量的に検討した無作為化比較試験(RCT)であり、L-テアニンの用量が記され、査読付きジャーナルに英語で報告され全文を入手可能な論文とし、対象者の年齢や性別、健康状態は問わなかった。

一次検索で2,763報がヒットし、重複削除後の1,738報を2名の研究者が独立して、タイトルと要約に基づくスクリーニングを実施し53報に絞り込み、全文精査を行った。採否の意見の不一致は3人目の研究者が解決し、17件の研究報告を抽出。それらの報告に記されている参考文献のハンドサーチにより2報を追加し、最終的に19件の研究報告を適格と判断した。

抽出された文献の特徴

抽出された19件のうち10件はクロスオーバー試験、9件は並行群間比較試験であり、対象者数は3~113人で合計897人、平均年齢は10~53.6歳であって、8件はL-テアニンのみ、11件は他の成分も含む条件設定で実施されていた。睡眠への影響の評価指標として、多くの研究でピッツバーグ睡眠品質指数(Pittsburgh sleep quality index;PSQI)が用いられていた。

L-テアニンの用量は50~1,000mgの範囲であり、介入期間は一晩のみから8週間であって、摂取タイミングは夕方のみ、1日2回、4回などさまざまだった。15件で睡眠への影響が主要評価項目として評価されており、他の4件は副次評価項目として設定されていて、それらの研究における主要評価項目はうつや不安、ストレス、認知機能などとされていた。14件の研究では有害事象がモニタリングされていた。

これら19件のうち1件はデータ不十分のため、メタ解析は18件の研究報告を対象に行われた。

日中の機能障害の抑制などの有意な影響を確認

入眠潜時への影響

10件の研究で主観的な入眠潜時(就床から睡眠に入るまでの時間)への影響が検討されていた。いずれも単独では有意な影響がみられなかったが、メタ解析の結果、L-テアニンによる入眠潜時の短縮が示された(標準化平均差〈standardized mean difference;SMD〉=0.15〈95%CI;0.01~0.29〉)。研究間の異質性は認めなかった(I2=0%)。

7件の研究では、客観的な手法で入眠潜時への影響が検討されていた。有意な影響を報告した研究が1件あったがメタ解析の結果は非有意であり、また研究間の異質性が高かった(SMD=0.13〈-7.96~8.22〉、I2=73%)。

睡眠効率への影響

7件の研究で主観的な睡眠効率(就床時間に占める睡眠時間の割合)への影響が検討されていた。いずれも単独では有意な影響がみられず、メタ解析の結果も非有意だった(SMD=-0.09〈-0.29~0.10〉)。研究間の異質性は認めなかった(I2=0%)。

7件の研究では、客観的な手法で睡眠効率への影響が検討されていた。有意な影響を報告した研究はなく、メタ解析の結果も非有意だった(SMD=0.18〈-0.04~0.40〉、I2=15%)。

睡眠障害の程度

8件の研究で主観的な睡眠障害のスコアへ影響が検討されており、2件はL-テアニンによる有意な改善効果を報告していたが、メタ解析の結果は非有意であり、また研究間の異質性が高かった(SMD=0.31〈-0.06~0.68〉、I2=72%)。

8件の研究では、客観的な手法で睡眠障害への影響が検討されており、有意な影響を報告した研究はなく、メタ解析の結果も非有意だった(SMD=2.54〈-1.11~6.19〉、I2=3%)。

睡眠時間への影響

7件の研究で主観的な睡眠時間への影響が検討されており、いずれも単独では有意な影響がみられず、メタ解析の結果も非有意だった(SMD=0.02〈-0.14~0.18〉)。研究間の異質性は認めなかった(I2=0%)。

7件の研究では、客観的な手法で睡眠時間への影響が検討されており、有意な影響を報告した研究はなく、メタ解析の結果も非有意だった(SMD=5.91〈-8.08~19.91〉)。研究間の異質性は認めなかった(I2=0%)。

日中の機能障害の程度

9件の研究で日中の機能障害のスコアへの影響が検討されており、4件はL-テアニンによる有意な改善効果を報告しており、メタ解析の結果も有意であって、研究間の異質性も認められなかった(SMD=0.33〈0.16~0.49〉、I2=0%)。

総合的な睡眠の質への影響

12件の研究で総合的な睡眠の質への影響が検討されており、2件はL-テアニンによる有意な改善効果を報告しており、メタ解析の結果も有意であったが、研究間の異質性が高かった(SMD=0.44〈0.04~0.84〉、I2=83%)。

有用性が示されたが、L-テアニン単独での効果の検証が必要

このほか、有害事象については頭痛や消化器症状などが報告されていたが、いずれも医師の診察を受けることなく軽快していた。

論文の結論は、「得られた結果は、L-テアニンが入眠潜時、日中の機能障害、睡眠の質の改善に役立つ可能性を示唆している」とまとめられている。ただし、他の成分との組み合わせで影響を評価した研究が11件と多く存在していたことから、「“純粋(pure)な”L-テアニンの効果を検証するための研究が不足している」との付記もなされている。

文献情報

原題のタイトルは、「The effects of L-theanine consumption on sleep outcomes: A systematic review and meta-analysis」。〔Sleep Med Rev. 2025 Feb 25:81:102076〕 原文はこちら(Elsevier)

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スポーツ栄養Web編集部


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ハンデ20以下のゴルフプレーヤーを対象に行われた研究で、動物性タンパク質と植物性タンパク質の混合サプリメントを8週間摂取すると、ゴルフパフォーマンスや筋力などが有意に向上するという結果が報告された。韓国で実施された無作為化プラセボ対照二重盲検並行群間比較試験の報告。

動物性/植物性タンパク質の混合サプリはゴルフパフォーマンスを高めるか?

タンパク質の摂取が筋量や筋力の向上につながることはよく知られており、また一般的にこの作用は、必須アミノ酸の豊富な動物性タンパク質のほうが植物性タンパク質よりも優れていると考えられている。ただし、動物性タンパク質の積極的な摂取は環境負荷の懸念があり、また牛乳由来のために乳糖が含まれている動物性タンパク質サプリメント(ホエイプロテインやカゼインプロテインなど)は、乳糖不耐症症状を引き起こすことがある。一方、植物性タンパク質はこれらの懸念が低く、大豆や一部のナッツ類は必須アミノ酸量も多い。

いくつかの研究で、動物性タンパク質と植物性タンパク質の混合サプリメントのスポーツパフォーマンス上の有用性が既に報告されている。ただし、ゴルフでの検討はなされていない。以上を背景として、今回紹介する論文の著者らは、ゴルフパフォーマンスを左右するスイング速度や筋力、平衡機能などに混合サプリが及ぼす影響を、無作為化プラセボ対照二重盲検並行群間比較試験で検討した。

ハンデ20以下のゴルファー60人を2群に分けて8週間介入

事前の統計学的検討により、このトピックの有意性の検証に必要なサンプルサイズは60人と計算され、66人の健康な成人がスクリーニング対象とされた。全員がゴルフのハンディキャップ20以下だった。

除外基準として、BMI18.5未満または30超、腎機能低下、肝機能低下、管理不良の高血圧・高血糖・甲状腺機能異常、大量飲酒、最近の身体・精神疾患の既往歴、妊娠・授乳中または妊娠の計画あり、過去1カ月以内のサプリメント(分岐鎖アミノ酸〈BCAA〉、クレアチン、プロテイン)摂取、介入成分に対するアレルギーなどが設定されていた。これらに該当しない26~64歳のカジュアルゴルファー60人(男性45%)が研究に参加した。

無作為に2群に分け、1群は動物性タンパク質と植物性タンパク質の混合サプリメント(mixed protein)を支給する介入群(M群)、他の1群はプラセボを支給する対照群(C群)とした。混合サプリメントは動物性タンパク質であるカゼインカルシウム(11.112g)とホエイプロテイン(5.748g)に加えて、植物性タンパク質のエンドウ豆プロテイン(5.718g)、およびデキストリン(5.142g)が含まれていた。プラセボはデキストリン(27.72g)のみだった。

介入期間は8週間で、被験者は毎日昼食後に約200mLの純水にサプリメントを混ぜて摂取するよう指示された。盲検化のためサプリメントの外観と風味を統一した。試験期間中、被験者には通常の食事とライフスタイルを維持するよう求め、また3日間(平日2日、休日1日)の食事記録をとってもらった。

介入前後に後述の指標の変化および群間差を検討した。これらの指標の測定の48時間前からは激しい運動を禁止し、24時間前からはアルコールとカフェインの摂取を禁止した。

評価項目

主な評価項目は以下のとおり。

ゴルフスイングのパフォーマンス

ゴルフシミュレーターを用いて、ドライバーと7番アイアンのスイングを5回連続で施行。飛距離、ヘッドスピード、ボールスピードを測定し、良好な3回の記録の平均値を解析に用いた。

パフォーマンスを支えるパラメータ

等速性膝関節筋力、等速性体幹筋力、および握力を測定した。また、2分間で施行可能な腕立て伏せの回数を測定した。その際、速度は毎分40回、最大80回に設定した。女性の場合は膝が床に触れることが許可された。

このほかに、円盤の中央で20秒間、立位のまま静止するテストで、平衡機能を評価した。このテストは、1(perfect)から5(poor)の範囲で評価された。

介入期間中に、混合サプリ群(M群)の3人が脱落し、解析は57人で行われた。ベースラインにおいて、両群間に年齢は有意差がなく(M群48.44±9.18歳、C群50.40±10.18歳)、また、性別の分布、身長、体重、BMI、体脂肪率、血圧、安静時心拍数にも有意差がなかった。また、介入条件のコンプライアンス、食事摂取量、身体活動量も有意差がなかった。

介入前後の変化をみると、ゴルフスイングのパフォーマンスおよびパフォーマンスを支えるパラメータについて、以下の群間差が観察された。

ゴルフスイングのパフォーマンスへの影響

ゴルフスイングのパフォーマンスについて、ベースラインの値を調整後、多くの指標で介入前後の変化幅に有意差が認められ、いずれもM群のほうが優れていた(ドライバー飛距離p=0.004、同ボールスピードp<0.001、7番アイアン飛距離p=0.035、同ヘッドスピードp=0.018、同ボールスピードp=0.026)。唯一、ドライバーのヘッドスピードの変化幅のみ、群間差が非有意だった(p=0.113)。<>

パフォーマンスを支えるパラメータについて、ベースラインの値を調整後、多くの指標で介入前後の変化幅に有意差が認められ、いずれもM群のほうが優れていた(等速度性膝伸展筋力p<0.001、等速度性体幹屈曲筋力p<0.001、等速度性体幹伸展筋力p=0.016、握力p=0.001、腕立て伏せp<0.001、平衡機能p=0.005)。唯一、等速性膝屈曲筋力の変化幅のみ、群間差が非有意だった(p=0.111)。<>

一方、BMIや体組成(体脂肪率、骨格筋量)、および、安全性の指標として評価した血液検査値(乳酸、クレアチニン、LDH、CK、BUN、AST、ALT、GGTなど)の変化幅については、群間に有意差が認められなかった。

以上に基づき論文の結論は、「動物性タンパク質と植物性タンパク質の両方を含む混合タンパク質サプリの摂取は、筋肉量の増加にはつながらなかったものの、ゴルフのパフォーマンスと筋肉機能に好ましい影響を及ぼした。混合タンパク質は、ゴルファーにとって骨格筋の健康とゴルフのパフォーマンスを向上させる安全で効果的なアプローチとなる可能性がある」とまとめられている。

文献情報

原題のタイトルは、「Effect of mixed protein supplementation on golf performance and muscle function: a randomized, double-blind, placebo-controlled study」。〔J Int Soc Sports Nutr. 2024 Dec;21(1):2393368.〕 原文はこちら(Informa UK)

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スポーツ栄養Web編集部

0.001、等速度性体幹屈曲筋力p<0.001、等速度性体幹伸展筋力p=0.016、握力p=0.001、腕立て伏せp<0.001、平衡機能p=0.005)。唯一、等速性膝屈曲筋力の変化幅のみ、群間差が非有意だった(p=0.111)。<>0.001、7番アイアン飛距離p=0.035、同ヘッドスピードp=0.018、同ボールスピードp=0.026)。唯一、ドライバーのヘッドスピードの変化幅のみ、群間差が非有意だった(p=0.113)。<>

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女性リーダー・コーチを支援する“日本で唯一”の取り組みとして、順天堂大学女性スポーツ研究センターが2015年から毎年開催し、今年で11年目を迎える「女性リーダーアカデミー(WCA)」。このたび、下記要項のとおり、「WCA2025」の応募申込を開始しており、6月30日(月)12時まで応募申込を受付しています。

詳細は、順天堂大学女性スポーツ研究センターのWCA専用サイト をご覧ください。

詳細・お申し込みはこちら

WCAの “ここがスゴイ!”

3日間のアカデミーでは、米国NCAAとWeCoachが主催する本家「NCAA Women Coaches Academy」の講師陣はじめ、日本国内からもトップレベルの専門家が登壇します。科学的研究に基づいたカリキュラムのなかには、日本ではここでしか受けられない「CoachDISC プログラム」も含まれるなど、唯一無二のプログラムとなっています。 昨年、節目となる10回の開催を終え、これまでに305名の修了生を輩出。日本だけでなく世界のスポーツ現場で、様々な立場で活躍しています。ナショナルレベルの監督・ヘッドコーチとしては、テニスの杉山愛さん(1期生)、柔道の塚田真希さん(1期生)、クレー射撃の中山由起枝さん(2期生)、車いすバスケットボールの添田智恵さん(6期生)の4名が日本代表の指揮を執られています(2024年12月現在)。

セミナー名

女性リーダーアカデミー2025

講習テーマ・講師

  • 女性とスポーツⅠ 小笠原悦子(女性スポーツ研究センター センター長)
  • リーダーのためのモチベーション戦略 Nicole LaVoi(ミネソタ大学 タッカーセンター センター長)
  • リーダーシップ&コラボレーション Lisa O’Keefe(IWG(国際女性スポーツワーキンググループ)事務局長(2022-2026))
  • CoachDISC プログラム Elizabeth Masen(アスリート・アセスメント CEO)、伊藤 真紀(法政大学スポーツ健康学部 准教授)
  • CoachDISC ケーススタディ 守屋 麻樹(ローレルゲート株式会社 代表取締役)
  • Body Confident Sport Nicole LaVoi(ミネソタ大学 タッカーセンター センター長)
  • 思考と感情整理のメンタルトレーニング 田中ウルヴェ京(スポーツ心理学者、博士、慶應義塾大学 特任准教授)
  • 女性アスリートのコンディショニング 鯉川なつえ(女性スポーツ研究センター 副センター長)
  • スポーツ栄養 鈴木志保子(神奈川県立保健福祉大学大学院保健福祉学研究科 研究科長)
  • ダイバーシティとインクルージョンの意義と促進方法 羽石 架苗(ウェスタン・コロラド大学 准教授)
  • スポーツとジェンダー 山口理恵子(城西大学経営学部 教授)
  • ネットワーキング 小林美由紀(公益社団法人日本女子プロサッカーリーグ(WEリーグ) 業務執行理事)
  • パネルディスカッション Navigating the Future for Women Sports Leaders

※講義内容は変更になる可能性があります ※外国人講師の講義には通訳または字幕が入ります

開催日

2025年10月7日(火)13:00~10月9日(木)14:00 ※予定

選考結果通知

対象者(応募資格)

  • アスリート・パラアスリートを指導する女性コーチ、およびコーチを目指す元女性アスリート・パラアスリート
  • 専門的技術や資格をもつ女性サポートスタッフ等
  • スポーツ組織等においてリーダー的立場にある女性、およびそれを目指す女性

※ただし、20歳未満、学生(高校生、大学生)は除く

開催場所

参加費


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日本肥満学会は4月17日、「女性の低体重/低栄養症候群(Female Underweight/Undernutrition Syndrome;FUS)」に関するステートメントを公開した。かねて社会問題として指摘されていた、日本の若年女性の痩せすぎ傾向を医学的に新たな症候群として位置付け、問題点を整理し対策をまとめた内容。肥満学会のホームページに掲載されている情報を紹介する。

日本人若年女性の痩せすぎ問題を医学的に定義し対策を総括

日本の20代女性の2割前後が低体重(BMI18.5未満の痩せ)であり、先進国のなかでもとくに高率である。低体重や低栄養は骨量の低下や月経周期異常をはじめとする女性の健康にかかわる、さまざまな障害と関連していることが知られている。

我が国で低体重(痩せ)女性が多い背景として、ソーシャルネットワークサービス(SNS)やファッション誌などを通じた「痩せ=美」という価値観が深く浸透し、それに起因する強い痩身願望があると考えられる。近年では糖尿病や肥満症の治療薬であるGLP-1受容体作動薬の適応外使用が「安易な痩身法」として紹介され、社会問題となっている。

しかしながら、従来の医療制度や公衆衛生施策においては、肥満への対策が重視されており、低体重や低栄養に対する系統的アプローチは不十分であった。その原因として、第一に、低体重や低栄養と疾患の関係性を表すような疾患概念が存在しないことが挙げられる。また、この問題を解決するためには、個人の意識や行動に焦点を当てるだけではなく、痩身願望を生み出す社会構造へのアプローチが不可欠である。

このような背景から、日本肥満学会は、日本骨粗鬆症学会、日本産科婦人科学会、日本小児内分泌学会、日本女性医学学会、日本心理学会と協同してワーキンググループを立ち上げた。ワーキンググループでは、骨量の低下や月経周期異常、体調不良を伴う低体重や低栄養の状態を、新たな症候群として位置付け、診断基準や予防指針の整備を目的とすると同時に、本課題の解決方法についても議論を進めている。

今回発表されたステートメントでは、閉経前までの成人女性を中心とした低体重の増加の問題点を整理し、新たな疾患概念の名称・定義・スティグマ対策を示すとともに、その改善策を論じている。

ステートメント「閉経前までの成人女性における低体重や低栄養による健康課題」

ステートメントは「「閉経前までの成人女性における低体重や低栄養による健康課題―新たな症候群の確立について―」としてまとめられている。以下はその抜粋。

背景:低体重および低栄養による健康リスクや症状

骨量低下および骨粗鬆症

若年期は骨密度ピークを獲得する最重要期である、しかし、低栄養やエストロゲンの低下、低体重による物理的な過重負荷の低下が骨形成を阻害し、20代における骨減少をもたらし、将来的な骨粗鬆症リスクを高めると考えられる。

月経周期異常、妊孕性および児の健康リスク

低栄養や極端な体重減少は視床下部−下垂体−卵巣系に影響し、月経不順や排卵障害を引き起こす。長期的には不妊や妊娠合併症リスクの上昇が懸念される。低体重に伴う希発月経や視床下部性無月経は、妊娠前の体格や栄養状態の不良と相まって、切迫早産や低出生体重児の増加など児の健康にも影響を及ぼす可能性が示唆されている。

微量元素やビタミン不足による健康障害

低栄養の場合、複数のビタミン・ミネラルの不足が生じやすく、さまざまな健康障害を引き起こす可能性がある。鉄、葉酸、ビタミンB12の不足は貧血を引き起こし、亜鉛欠乏は創傷治癒の遅延や免疫機能の低下、味覚異常をもたらす。さらに、ビタミンDやカルシウムの不足は骨密度の低下を招き、骨粗鬆症や骨折のリスクを高める。

代謝異常

低体重は糖尿病発症リスクとして知られ、日本人若年女性の低体重では耐糖能異常のリスクが高いことが最近の研究で明らかとなっている。また、エネルギー制限により、体の代謝を調整する甲状腺ホルモンの一種であるトリヨードサイロニン(T3)が減少する低T3症候群や脂質異常症(LDLコレステロール上昇)を引き起こす。

サルコペニア様状態

加齢に伴う筋量や筋力の低下はサルコペニアと定義されるが、若年女性の低体重や低栄養状態においても、筋量低下との関連が指摘されている。筋量や筋力低下は将来的なロコモティブシンドロームやフレイルにつながる懸念もあり、ライフコースや老年期の健康維持の観点からも、若年期のサルコペニア予防は重要である。

摂食障害

痩身願望が内面化しやすい社会的風潮のなかで、摂食制限行動が行き過ぎると摂食障害へ移行することがある。心理的ストレスや自己肯定感の低下と相まって重症化する例も少なくない。とくに若年女性では、理想的な痩せボディイメージの内面化が食行動の異常を促進し、メディアを含む社会からの痩身への圧力と相まって、摂食障害の発症リスクが高まる。

精神・神経・全身症状

低体重や低栄養状態は、倦怠感、睡眠障害、低血圧、頭痛、便秘、冷え性、肌質・髪質の低下などの身体症状を引き起こす。また、神経精神症状としては抑うつ、不安、集中力低下、認知機能の低下や身体活動の低下なども認められる。

現状の課題や問題

肥満症対策として特定保健指導が推進される一方で、低体重に対する介入の枠組みは未だ確立されていない。健診で低体重が判明しても、骨密度や生殖機能への評価といった関連疾患のスクリーニングが実施されることは少ない。教育現場においても思春期の子どもたちに対する適切な食育やボディイメージ啓発が十分に行われているとは言い難い。

また、肥満症や2型糖尿病を対象に開発・承認されたGLP-1受容体作動薬などを、「痩せ薬」として販売・使用されるケースが常態化し、低体重や正常体重の女性が用いていることも報告されている。このような使用に対して、副作用リスクに加えて、過度なダイエット行動の助長といった社会的懸念が高まる状況にある。

新たな症候群の概念

閉経前女性の低体重や低栄養に関連する健康障害を体系的に整理し、新たな概念(症候群)として提示し、かつ、貧血、月経周期異常、倦怠感といった表面的な指標のみではなく低体重・低栄養という根本的な病態に着目して、健診や診療の場で活用されるだけでなく広く一般に認識されることを期し、この症候群の名称として「Female Underweight/Undernutrition Syndrome;FUS(女性の低体重/低栄養症候群)」を提案する。

FUSに含まれる主な疾患や状態は以下のとおり。

  • 低栄養・体組成の異常:BMI18.5未満、低筋肉量・筋力低下、栄養素不足(ビタミンD・葉酸・亜鉛・鉄・カルシウムなど)、貧血(鉄欠乏性貧血など)
  • 性ホルモンの異常:月経周期異常(視床下部性無月経・希発月経)
  • 骨代謝の異常:低骨密度(骨粗鬆症または骨減少症)
  • その他の代謝異常:耐糖能異常、低T3症候群、脂質異常症
  • 循環・血液の異常:徐脈、低血圧
  • 精神・神経・全身症状:精神症状(抑うつ、不安、集中力低下、認知機能低下)、身体症状(全身倦怠感、睡眠障害、冷え性、頭痛、便秘、髪質・肌質の低下)、身体活動低下

なお、摂食障害や二次性の低体重(甲状腺機能亢進症・悪性疾患など)はFUSとして捉えるべきではなく、原疾患に対する治療を優先するべき。また、閉経後の女性や男性はFUSの概念に含まれない。

FUSの原因

FUSの原因は多面的であり、個人の身体的特性や社会的要因、心理的要因が複雑に絡み合って生じると考えられ、大きく三つの視点から整理する。

体質性痩せとは、やせ願望や摂食障害、過剰な運動がなく、低体重状態が長期間持続する体質的特性を指す。一般に、体重が増えにくいが、内分泌機能や月経周期は正常に保たれている。日本人女性の痩せのうち、約40%はとくに食事制限を含む意図的減量行動を行っていないという報告もあるが、そのすべてが体質性痩せであるかは不明である。

SNS、ファッション誌などのメディアの影響によるやせ志向

メディアによる影響で「痩せ=美」という価値観が浸透し、とくに若年女性において、食事摂取制限を中心とした減量行動(いわゆるダイエット)の志向が強まっている。過度な食事制限や偏った食生活が長期化すると、低体重や低栄養状態に陥り、骨密度低下や月経周期異常など、多彩な健康障害を招きやすくなると考えられる。

社会経済的要因・貧困などによる低栄養

貧困を背景として十分な食事を得られず、結果的に低BMI 低栄養状態に陥るケースも報告されている。このような場合、個人の努力だけでは解決が困難であり、社会構造的な支援や政治的施策が不可欠となる。

これらの要因は相互に重なり合いながら、低体重や特定の栄養素不足、骨密度低下、月経周期異常、体調不良などを引き起こし、FUSへと至る可能性がある。

ステートメントでは、このほかに、FUSの対処法やスティグマに対する注意、今後の方向性などについて整理したうえで、「日本において、閉経前までの成人女性の低体重や低栄養がもたらす健康障害は、個人の健康の問題にとどまらず、社会全体に影響を与える重要な課題。FUSは、これらの課題を包括的に整理し、体系的な診断と介入を促す基盤となることが期待される」と述べられている。

関連情報

閉経前までの成人女性における低体重や低栄養による健康課題―新たな症候群の確立について―(日本肥満学会)

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スポーツ栄養Web編集部


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汗腺機能の指標である発汗誘発剤に対する発汗反応は、8歳ごろから性差が生じることが報告された。男子は女子よりも年齢に伴う発汗量増加が早く、顕著だという。また、春から夏にかけて、子どもの汗腺機能が顕著に向上することもわかった。早稲田大学などの研究グループの研究によるもので、「Annals of the New York Academy of Sciences」に論文が掲載されるとともに、大学のサイトにプレスリリースが掲載された。著者らは、将来的に、汗腺機能に基づくオーダーメードの熱中症予防法を提案できる可能性を述べている。

研究の概要

早稲田大学スポーツ科学学術院、新潟大学教育学部、筑波大学体育系の研究グループは、新潟大学附属新潟小・中学校の児童・生徒を含む6~17歳の子ども405名(男子229名、女子176名)、および18~25歳の若年成人52名(男性25名、女性27名)を対象に、発汗を誘発する薬剤(ピロカルピン)を経皮的に汗腺に投与して、誘発された発汗量から汗腺機能を年齢層ごとに評価した。

その結果、薬剤によって誘発された発汗量(汗腺機能の指標)の性差が8歳ごろから認められ、年齢に伴う発汗量の増加は男子が女子よりも早く、顕著に生じていた。また、研究に参加した子どものうち111名は春と夏の両方で測定を実施し、季節適応を調べたところ、夏には発汗量の顕著な増加(春の1.5倍)が認められた。

研究の背景:子どもの汗腺機能はどのように発達するのか?

発汗はヒトが進化の過程で獲得した特有の体温調節機能であり、暑熱環境下や運動時に体内の熱を体外に放散する役割がある。一般的に「子どもは汗っかき」と思われがちだが、実際には子どもの汗腺機能は大人より低く、未発達。

しかし、例えば身長や体格、あるいは筋力が子どもから大人になるに従い発達するように、汗腺機能がどのように発達するのか、またその様相が男女で異なるのかなどは明らかでなかった。さらに、大人は夏にかけて暑熱に適応して汗腺機能が高まることが報告されていたが、このような適応が子どもでも起こるのかどうかはわかっていなかった。

これらを明らかにすることは、子どもの体温調節特性や発達段階を踏まえ、子どもの熱中症リスクやその対策を考えるうえで重要。

研究の概要:小児と若年成人対象の発汗量を測定し、その関連因子を検討

新潟大学附属新潟小・中学校の児童・生徒を含む新潟市・県内外の子ども(6~17歳)、および若年成人(18~25歳)、合計457名(男子254名、女子203名)を対象に研究を行った。実験は2023年2~4月、11~12月に実施した。

電流を用いて非侵襲的に薬剤を皮膚に浸透させるイオントフォレーシスという手法を用いて、発汗を誘発する作用のあるピロカルピン(ムスカリン受容体刺激薬)を前腕部に経皮投与した(図1)。これによって誘発される発汗量、活動汗腺密度、単一汗腺当たりの発汗量を計測した。併せて身長、体重、握力などの測定も行い、汗腺の発達様相と比較をした。また、2~4月に測定を行った子どものうち111名(男子57名、女子54名)については8月にも同様の実験を行い、夏への季節適応を調べた。

図1 実験の様子と方法

(出典:早稲田大学)

研究の成果:8歳から発汗量の性差が拡大、季節適応は大人以上の可能性

17歳以下は2歳ごとの群に分け、若年成人は単群として解析した。

ピロカルピンによって誘発される発汗量の性差は、早くて8歳ごろから認められた(男子>女子)。男女とも年齢に伴い発汗量が増加したが、男子の方が発汗量の増加が早く(6~7歳と比較して男子では14歳以降に、女子では18歳以上で増加)、顕著だった(図2)。

図2 年齢による発汗量の変化

(出典:早稲田大学)

このような年齢や性別による発汗量の差は、主に一つの汗腺が出す発汗量の違いに起因していた。汗腺機能の発達様相は体格や握力とは異なっており、汗腺独自のものだと考えられる。

汗腺機能を春と夏で比較したところ、男子、女子ともに夏の発汗量が春のおよそ1.5倍に増加し(図3)、この増加は汗腺密度と汗腺当たりの発汗量の双方に起因していた。

図3 春から夏にかけての発汗量の変化

(出典:早稲田大学)

子どもは大人と比べると運動や環境変化に対する身体の適応程度が小さいと考えられているが、汗腺の季節適応に関しては大人と同等か、より顕著に生じる可能性が考えられる。

今後の展開:汗腺機能に基づくオーダーメードの熱中症予防法に期待

本研究の結果は、子どもの汗腺機能、ひいては暑熱環境下における体温調節の発達特性に基づき熱中症リスクや予防を考えるうえで貴重な資料となる。今後、このような発達様相を引き起こすメカニズムの解明(例えば性ホルモンが関与するのかどうかなど)も必要とされる。また汗腺機能の発達は、究極的には個人間で異なると考えられ、著者らは「身長や体重、あるいは握力を計測するように汗腺機能を簡便に評価する方法を確立することで、個人の汗腺機能に基づくオーダーメードの熱中症予防法提案などにもつながるかもしれない」としている。

プレスリリース

子どもの汗腺機能発達と暑熱への適応(早稲田大学)

文献情報

原題のタイトルは、「Biological maturation and sex differences of cholinergic sweating in prepubertal children to young adults」。〔Ann N Y Acad Sci. 2025 Apr 15〕 原文はこちら(John Wiley & Sons)

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スポーツ栄養Web編集部


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筋力トレーニングを行っている男性が、高用量のクレアチンを5日間摂取することで、筋持久力が上昇したとする研究結果を紹介する。ブラジルで行われた研究で、昨年論文が発表された。

日常的に筋トレを行っている男性対象の研究

この研究は、日常的に筋力トレーニングを行っている18~30歳の健康な男性12人を対象に実施された。参加者全員が適格条件である、過去3年以上の筋トレ歴があり、過去3カ月以内にサプリメントや同化ステロイドを使用していないことを満たしていた。

主な特徴は、年齢25.2±3.4歳、体脂肪率14.8±6.0%、骨格筋量41.8±4.0kgで、筋トレ歴は5.9±3.1年でトレーニング頻度は5.0±0.6回/週、1回あたり64.2±17.8分であって、ベンチプレスでの1RM(1回だけ施行可能な最大負荷量〈one repetition maximum〉)は106.8±10.6kgだった。

20gのクレアチンまたはプラセボを5日間摂取して比較

研究デザインは無作為化プラセボ対照クロスオーバー二重盲検法で、研究参加者、および結果判定者以外の現場スタッフには、クレアチンかプラセボか分からないように盲検化したうえで、参加者の半数はクレアチン、他の半数はプラセボを5日間摂取。30日のウォッシュアウト期間をおいて、割り付けを変更したうえで5日間、プラセボまたはクレアチンを摂取してもらった。

クレアチン摂取条件では、クレアチン一水和物20gとマルトデキストリン10g、計30gを4分し7.5gとして、400mLの水とともに1日4回摂取。プラセボ摂取条件では、とうもろこしでんぷん20gとマルトデキストリン10g、計30gを4分し7.5gとして、400mLの水とともに1日4回摂取することとした。

参加者には試験期間中、食事・運動習慣を変更しないことを求めた。また、筋力への影響の評価日の前日に24時間の食事記録をつけてもらい、栄養士が栄養素摂取量を評価した。

評価項目は、最大筋力(ベンチプレスでの1RM)、筋持久力(70%1RMで施行不能に至るまでの反復回数)、総作業量(負荷強度×反復回数)、血中乳酸値、自覚的運動強度(rate of perceived exertion;RPE)、疲労指数(fatigue index;FI)、活力と疲労の状態(ブルネル気分尺度)などとした。

では、結果をみていこう。

短期間のクレアチン摂取で筋持久力は向上するが最大筋力は変わらない

クレアチン条件で筋持久力が有意に向上

総反復回数は、クレアチン条件では摂取前の23.8±7.9回に比べて摂取後は27.3±5.4回と+14.7%有意に増加していた(p=0.036、効果量〈g〉=0.52)。その一方、プラセボ条件では摂取前が25.1±6.9回、摂取後が25.4±7.1回で変化は+1.2%であり非有意だった(p=0.414、g=0.06)。変化量の絶対差については、クレアチン条件は3.4回でプラセボ条件は0.3回であり前者が高値だが、この比較では有意でなかった。

総作業量は、クレアチン条件では摂取前の1,791±592.4au(任意単位)に比べて摂取後は1,991±395.4auと+11.1%有意に増加していた(p=0.038、g=0.52)。その一方、プラセボ条件では摂取前が1,848±422.9au、摂取後が1,875±450.1auで変化は+1.4%であり非有意だった(p=0.402、g=0.07)。変化量の絶対差については、クレアチン条件は199.5auでプラセボ条件は26.7auであり前者が高値だが、この比較では有意でなかった。

最大筋力は有意な変化なし

次に、ベンチプレスでの1RMで評価した最大筋力への影響をみると、クレアチン条件では摂取前が106.8±11.7kg、摂取後が107.0±11.5kgであり、+0.2%の変化であって統計的に非有意だった(p=0.688)。同様にプラセボ条件も、摂取前が107.8±11.7kg、摂取後が105.3±10.2kgであり、-2.3%の変化であって統計的に非有意だった(p=0.219)。

このほかに評価した、血中乳酸値、自覚的運動強度(RPE)、疲労指数(FI)、活力と疲労の状態に関しては、いずれも条件間に有意差が認められなかった。なお、食事摂取量は、エネルギー量(p=0.263)、炭水化物(p=0.167)、タンパク質(p=0.466)、脂質(p=0.225)のいずれも条件間に有意差がなかった。

筋持久力が向上することでトレーニング量が増え、筋肉量が増えるのではないか

以上より論文は、日常的に筋トレを行っている男性においても、5日間にわたりクレアチンを1日あたり20gと高用量摂取することで、筋持久力が向上することが示されたが、最大筋力は有意な変化が認められなかったとまとめられている。ただ、考察において以下のように、介入をより長期とすることで筋力にも有意な変化が生じる可能性を記載している。

すなわち、本検討もそうであるように、研究においては1RMを評価したうえで負荷を調節するが、一般的な筋トレのシーンにおいて1RMテストに基づいて負荷を設定することはあまりなく、通常は負荷量が任意とされるため、筋トレ効果は反復回数と総作業量によって規定される。よって、クレアチン摂取により筋持久力が向上し反復回数と作業量が増加した状態で長期的に筋トレが行われれば、結果的に筋肥大につながると考えられるという。

文献情報

原題のタイトルは、「Short term creatine loading improves strength endurance even without changing maximal strength, RPE, fatigue index, blood lactate, and mode state」。〔An Acad Bras Cienc. 2024 May 10;96(2):e20230559〕 原文はこちら(Academia Brasileira de Ciências)/

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スポーツ栄養Web編集部


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2型糖尿病患者において、1日の摂取エネルギーに占める炭水化物の割合が高いことが、心血管イベントや死亡のリスクの増加と関連することが明らかになった。順天堂大学の研究グループの研究によるもので、「Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism」に論文が掲載されるとともに、大学のサイトにプレスリリースが掲載された。

研究の概要:2型糖尿病患者の心血管イベントや死亡リスクを規定する食事とは?

順天堂大学大学院医学研究科代謝内分泌内科学の研究グループは、1日の摂取エネルギーに占める炭水化物の割合が高いことが、2型糖尿病患者の心血管イベント※1や死亡のリスクの増加と関連することを明らかにした。

2型糖尿病患者を対象に、食事を含む生活習慣を質問票で評価し、最大10年間にわたって心血管イベントや死亡の発症状況を追跡した結果、炭水化物の摂取割合が高いほど心血管イベントや死亡のリスクが増加し、逆に、炭水化物の摂取量が少なく、タンパク質や脂質の摂取量が多いことがそのリスク低下に寄与することがわかった。とくに、動物性のタンパク質や脂質が多いことで、心血管イベントや死亡の発症リスクが低下した。

また、飽和脂肪酸※2の摂取割合が高いことも、心血管イベントや死亡のリスク低下に関連していた。

これらの結果は、2型糖尿病患者の心血管疾患予防のために、食事に含まれる栄養素の調整が非常に重要である可能性を示唆するとともに、その方法は欧米人と日本人では必ずしも同じではない可能性を示唆している。

研究の背景:カロリー制限では心血管イベントや死亡リスクが低下しない

2型糖尿病患者は、心血管イベントや死亡のリスクが高いことが広く認識されている。糖尿病治療においては、これらのリスクを軽減するために、食事、運動、睡眠、そして生活リズムの改善が重要。しかし、これまでの研究では、脂肪摂取量を減少させることを主としたエネルギー制限食などの生活習慣への介入では、2型糖尿病患者心血管イベントや死亡リスクの低下には結びつかないことが示されている。このことから、単に食事量を制限するのではなく、食事の質や食事以外の生活習慣も考慮することが重要であると考えられる。

「糖尿病治療ガイドライン」(2024年版日本糖尿病学会)では、2型糖尿病患者に対して、初期設定としてエネルギー摂取量の40〜60%を炭水化物から摂取することを提案しているが、適切な栄養素の割合については依然として明確でない。さらに、2024年版の日本糖尿病学会の糖尿病診療ガイドラインやアメリカ糖尿病学会のガイドラインは、総炭水化物摂取量を減らすことが血糖管理の改善に寄与する可能性を示唆している。しかし、炭水化物摂取割合が心血管イベントや死亡リスクに与える影響や、炭水化物摂取量を減らした場合にタンパク質や脂質を増やすことがどのような影響を及ぼすのか、さらに動物由来と植物由来のタンパク質や脂質では影響が異なるのかについては、依然として不明な点が多い。

そこで研究グループでは、2型糖尿病患者を対象に、食事の栄養素を含むさまざまな生活習慣と心血管イベントや死亡リスクとの関連性を検討した。

研究の内容:低炭水化物で適度な動物性タンパク質・脂質摂取がリスクの低さと関連

本研究では、順天堂医院などに通院中で心血管イベントの既往がない2型糖尿病患者731名を対象に、試験開始時、2年後、5年後に食事、身体活動量、睡眠時間、睡眠の質、生活のリズムなど、さまざまな生活習慣を質問紙により評価し、心血管イベント発症日や死亡日または追跡終了日までの各生活習慣スコアの平均値を算出した。食事評価には、日本人の食習慣を反映させるために設計された簡易型自己記入式食事歴質問票(Brief-type Self-administered Diet History Questionnaire;BDHQ)を使用し、摂取エネルギーや主要栄養素の摂取量を推定した。

炭水化物、タンパク質、脂質の三大栄養素は密接に関連しており、例えば炭水化物摂取量が多いと、タンパク質や脂質の摂取量が少なくなる傾向がある。そのため、各栄養素単独での摂取量を検討するのではなく、これら三つの栄養素のバランスを考慮することが重要。このため、炭水化物、タンパク質、脂質の摂取量に基づき、低炭水化物ダイエットスコアを算出した。炭水化物摂取量で11等分し、摂取量が最も少ないものを10点、最も多いものを0点、タンパク質と脂肪の摂取量でも同様に計算し、これらを合計して「総低炭水化物スコア」を算出した。このスコアが高いほど、炭水化物摂取が少なく、タンパク質や脂質摂取が多いことを示す。また、動物性食品と植物性食品に基づくスコアも別々に算出し、それぞれ「動物性低炭水化物スコア」※3と「植物性低炭水化物スコア」※4として評価した。

最大10年間にわたって心血管イベントや死亡の発症状況を追跡し、各生活習慣と心血管イベントまたは死亡のリスクとの関連性を検討した。

対象者の平均年齢は57.8±8.6歳、62.9%が男性で、BMIは24.6±4.1だった。平均追跡期間は7.5±2.4年で、その間、55人(7.5%)に心血管イベントまたは死亡というアウトカムが発生した。

分析の結果、年齢、性別、総エネルギー摂取量、動脈硬化のリスク因子を調整した後も、炭水化物摂取割合が高いほど主要アウトカムの発生リスクが高いことが示された。また、「総低炭水化物スコア」や「動物性低炭水化物スコア」が高いほど、主要アウトカムのリスクが低いことも明らかになった。さらに、飽和脂肪酸の摂取割合が高いと、リスクが低いという関係が認められた。

図1

明らかな心血管イベントの既往のない731名の2型糖尿病患者を対象とした観察研究において、炭水化物摂取割合が高いほど心血管イベントと死亡のリスクが高いことが示された。また、「総低炭水化物スコア」や「動物性低炭水化物スコア」が高いほど、主要アウトカムのリスクが低いことも明らかになった。さらに、飽和脂肪酸の摂取割合が高いとリスクが低いことも認められた。

(出典:順天堂大学)

これまでの一般人口を対象とした研究では、炭水化物摂取割合と死亡リスクとの関係に一貫性がなかったが、本研究では、2型糖尿病患者において、炭水化物摂取割合が多いほど主要アウトカムの発生リスクが増加することが示された。糖代謝異常を伴う2型糖尿病患者は、一般人口に比べて炭水化物摂取の影響を受けやすい可能性がある。とくに、日本人の主食である米の摂取量が多いと、主要アウトカムが増加する可能性が示唆された。

西洋諸国の研究では、「動物性低炭水化物スコア」が高いと総死因および心血管イベントによる死亡リスクが高まる一方で、「植物性低炭水化物スコア」が高いとリスクが低下することが示されている。しかし、アジア諸国の研究では、「動物性低炭水化物スコア」が高いと死亡リスクが低下することが報告されている。本研究でも、日本の2型糖尿病患者において「動物性低炭水化物スコア」が高いと主要アウトカムのリスクが低下することが確認された。この結果は、動物性タンパク質や脂質を増やし、炭水化物摂取量を減らすことが、主要アウトカムの発生リスクを低下させる可能性があることを示唆している。

なお、日本における動物由来のタンパク質源としては魚が主であり、本研究の対象者においても肉類の摂取量は比較的少なかった。肉類はタンパク質、ミネラル、ビタミンが豊富で、エネルギー源として優れており、適量の肉類摂取の有用性が動物性脂質摂取のリスクに優り、心血管リスク低減に寄与したと考えられる。したがって、過剰な動物性タンパク摂取を勧めるものではないと考えられる。

以上の結果から、日本人2型糖尿病患者においては、炭水化物の摂取割合が高いと心血管イベントや死亡リスクが増加し、逆に、炭水化物摂取量が少なく、動物性のタンパク質や脂質摂取量が多いことがリスク低下に関連していることがわかった。これらの結果は、2型糖尿病患者の心血管疾患予防において、食事に含まれる栄養素の調整が重要であることを示唆している。

今後の展開:低炭水化物とする介入によって予後を改善させ得るか?

本研究では、炭水化物摂取割合と心血管イベントや死亡リスクとの関連について明らかにした。しかし、今後は炭水化物摂取割合を減らすことで、どのようなメカニズムで心血管イベントが抑制されるのかを明らかにする必要がある。また、本研究では炭水化物摂取割合が約45%で予後に良い影響を与える可能性があることがわかったが、さらに厳格な糖質制限食が予後に与える影響についても検討することが今後の課題。さらに、食事の栄養素バランスを調整した介入研究を通じて、長期的に心血管イベントの発生リスクを低下させるかどうかを検討することが重要であると考えられる。

研究グループでは、「2型糖尿病の治療において、食事療法は最も重要な要素であり、今後の研究によって適切な栄養素の割合が明らかになることが望まれる。さらに、個々の健康状態、生活習慣、血糖値の管理目標に基づき、最適な栄養素の摂取バランスを調整した食事プランを提供する個別化されたアプローチによって、心血管イベントなどの合併症の発症や進展が抑制されることが期待される」としている。

関連情報

2型糖尿病を有する人の炭水化物摂取割合と予後の関連性が明らかに― 食事栄養素のバランスの重要性 ―(順天堂大学)

文献情報

原題のタイトルは、「Relationship of carbohydrate intake proportion to cardiovascular events in Japanese people with type 2 diabetes mellitus」。〔J Clin Endocrinol Metab. 2025 Mar 21:dgaf179〕 原文はこちら(Oxford University Press)

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スポーツ栄養Web編集部

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