任天堂がSwitch 2の販売方法を日米で分けた理由とは?「公平性」に対する認識の違いなどを考察した研究論文が公開

任天堂がNintendo Switch 2の予約販売において、日本国内で抽選販売という方法をとったのに対し、米国やその他の地域では先着順の招待制としたのはなぜだろうか? ⼤阪⼤学がこれに対する答えを求め、日米で異なる予約販売方法を採用した理由について調査を行った論文が公開されている。ここで調査された要因のひとつは、日本と米国における「フェア」の認識の違いだ。これが任天堂のアプローチに影響を与えた可能性があるという。

この研究は、⼤阪⼤学社会技術共創研究センター(ELSIセンター)とメルカリの研究開発組織「R4D」との共同研究の⼀環として⾏われたものだ。なお、任天堂はこの研究に関与していない。

研究では、このように供給が不⾜し、需要が高い状況では、任天堂がSwitch 2の在庫が限られていることを利用できた可能性があると指摘している。例えば、オークション形式やダイナミックプライシング(需要と供給に応じて価格を変動させる戦略)を活用し、発売日に高い金額を支払う意思のある消費者だけにSwitch 2を販売する(つまり需要と供給のバランスをとる)ことで、任天堂は最大の収益を得られただろう。

しかし、任天堂はこの方式を採用しなかった。コンソールメーカーは通常、ハードウェア販売で利益を得ることではなく、コンソールに関連するゲームの販売やサブスクリプションサービスから得る長期的な利益を重視している。任天堂が採用した公式の予約販売方法は、同社が消費者の「⾦銭に関する⽀払意思(willingness-to-PAY)」ではなく「遊ぶ意思(willingness-to-PLAY)」を重視していたことを示唆している。

日本でSwitch 2の抽選販売に応募するには、2025年2月28日時点で初代Switchソフトのプレイ時間が50時間以上、かつ応募時点でNintendo Switch Onlineに累積1年以上の加入期間があり、応募時にも加入していることが条件だった。Nintendo of Americaの招待メールにも同じ条件が設けられており、これらの基準を満たした参加登録者には72時間以内に購入を完了するよう通知されていた。このようにして、任天堂は、Switch 2を転売するのではなく自分で使用するために購入したいと考える消費者に限られた在庫を分配したのだ。同社は日本でこれをさらに一歩進め、フリーマーケットサイトの事業者と協力し、価格のつり上げや不正な出品に対抗した

だが、米国では「先着順」の方式を採用したのに、日本では抽選販売にした理由は何だろうか。研究では、任天堂の決定に影響を与えたであろうさまざまな要因を含めた複数の仮説が立てられている。これらでは、同社のレピュテーション(社会的評判)リスクのほか、日米という異なる市場でのファンカルチャーや社会的規範の違いに重点が置かれている。

消費者がコンソールの発売で不快な経験をした場合、それが同社の評判やその後の利益に悪影響を及ぼす可能性がある。任天堂はSwitch 2の販売において、「遊ぶ意思」を持つ既存の消費者層に予約販売を限定し、日本と米国の両国でフェアな方式をとるよう意識していたようだが、日本では「フェア」だと感じられるようにさらなる措置をとったことがこの研究で注目されている。

抽選販売は運営にコストがかかるにもかかわらず、任天堂は日本の予約販売でこの方式を採用した。研究では、日本の消費者が、需要の高い製品を入手できるチャンスを平等に与えるよう、企業がしっかりと管理されたシステムを導入することを強く期待する傾向にあることが指摘されている。抽選販売は日本の予約販売でよく活用される方式だ(例えば、コンサートチケットの先行販売は抽選で行われることが多い)。したがって、任天堂が抽選販売方式を採用したのは、日本ではそれが予約販売において社会的に容認された一般的な方法となっており、参加者全員にSwitch 2を入手するチャンスを平等に与えているからだろう。

2025年6月5日に東京の小売店でSwitch 2を購入する人々。 写真:KAZUHIRO NOGI/AFP via Getty Images.

さらにこの研究では、「フェアネス」とは何かという倫理的な感覚の違いも作用していることが示されている。日本の消費者は抽選販売の平等性をよりフェアだと感じる傾向があるかもしれないが、米国の消費者は個人の努力に報いる先着順のほうをよりフェアだと考えている可能性があるのだ。

発売から1カ月以上が経過してもなお、日本の任天堂公式サイトではSwitch 2が抽選販売となっており、現在は7月分の抽選受付が行われているところだ。ただし、この販売形態には変化も見られ始めている。ゲオは、7月19日よりSwitch 2の販売方式が抽選から先着順へと変更になることを発表。こうした動きから、今後日本国内でもSwitch 2の供給量が増えるに伴い、先着順への移行が進む可能性がある。

Photo by KAZUHIRO NOGI/AFP via Getty Images.

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