それでも株価の上昇は続く?米AI相場の「バブル論」を検証(土信田雅之)
2025年10月3日、アマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏が現在の人工知能(AI)ブームを「良いバブル」と評したことが話題を呼びました。
これは、最近の株式市場でAIをテーマにした半導体関連株やテック株が上昇を続けている状況に対する発言なのですが、そもそも「バブル」とは、株価が本来の企業価値から大きく乖離(かいり)して高騰していく相場局面を指し、バブルが崩壊すれば株価が急落してしまう危うい状態とも言えます。
ベゾス氏の発言からは現在の状況がバブルであることを半ば認めつつも、あえて「良い」という形容詞を付けたわけです。
こうした発言の裏にあるベゾス氏の真意としては、今回のAIブームを単なる投機的な「金融バブル」ではなく、社会の礎を築く「産業バブル」と捉えている点にあると思われます。
かつてのバブルと言えば、1990年代後半の「ドットコムバブル」が思い出されます。当時も熱狂的な株価上昇が崩壊したことで、多くのIT企業の倒産と投資家の損失という痛みを伴いましたが、結果的に世界中に光ファイバー網という現代に不可欠なインフラを残したほか、生き残った企業のいくつかは、大手テック企業として現在も輝きを放っています。
当時の株式市場の熱狂がなければ、これほど大規模で急速なインフラ整備は実現しなかったかもしれません。
現在のAIブームもこの視点から捉えることができそうです。世界中のテック企業が投じている年間数十兆円規模の巨額資金によって、次世代の社会基盤となるAIインフラ(データセンターや半導体開発)を猛烈なスピードで構築しています。
「現在のAIへの巨額投資が、将来のAI社会に欠かせない価値ある遺産を前倒しで構築している」というのがベゾス氏の見解と思われます。
現在はAIバブルか否か?
ベゾス氏の発言はいったん脇に置いておいて、「足元のAI株の上昇はバブルか否か?」という問いについては、現在も相場参加者の間で意見が割れている状況です。
「バブル派」の根拠としては、一部の巨大テック企業の株価が株価収益率(PER)などの面でITバブル時のピーク時に迫る歴史的な水準にあることをはじめ、少数の銘柄に集中する格好で株価が上昇していること、そして、AIインフラを提供する企業は巨額の利益を上げているものの、そのAIインフラを使ってサービスを展開する多くの企業が、投資に見合うだけの利益を将来にわたって生み出せるのかがまだ不透明であることなどが挙げられます。
<図1>「ハイプ・サイクル」
また、上の図1は、「ハイプ・サイクル」というモデルを示したものです。
ハイプ・サイクルとは、IT調査会社のガートナーが提唱している、新しい技術やイノベーションが世に登場してから定着するまでの過程を、期待度と時間を軸にして可視化したグラフです。
「黎明期」から始まり、「過度な期待のピーク期」を迎え、期待が行き過ぎたところで、現実とのギャップを埋め合わせしていく「幻滅期」へと入り、イノベーションによる現実的な利点や限界が理解され始め、社会的な認識が深まる「啓発期」を経て、イノベーションや技術が広く利用されてビジネスへの貢献が安定していく「生産性の安定期」へと至っていきます。
あらためて、AIをこれに当てはめて考えていくと、現在のAIはそろそろ「過度な期待のピーク期」の天井に近づき、現実的な課題に直面する「幻滅期」に差し掛かっている可能性があります。連日でメディアをにぎわす報道や、「AI」という言葉がつくだけで株価が上がるような状況は、期待が先行している証左と言えます。
その一方で、「非バブル派」については、エヌビディアなどに代表されるテック企業がきちんと収益や利益成長を生み出しており、かつて赤字企業が中心となっていたITバブル時代の構図とは異なり、AIブームは「実需」に支えられている面があります。
そのため、実態を伴わない熱狂ではなく、AI相場をけん引している大手テック企業の財務基盤も健全なのでバブルではないという見方です。
こうした議論は、株価の急ピッチな上昇を金融現象として見るか、産業革命として見るかの視点の違いに起因していますが、現時点では、「確かな技術革新を土台としながらも、投資家の期待がやや先行し過ぎて、バブル的な側面も併せ持っている」状態と判断するのが妥当なところかもしれません。大きい泡の「バブル」ではなく、小さい泡の「フロス」という見方もあります。
とはいえ、どれだけ「良い」とされたバブルだとしても、歴史を振り返れば、いつかは終わりを迎えます。ベゾス氏率いるアマゾンもITバブル崩壊時には株価が90%以上暴落した過去があるため、今後もバブルを巡る議論は続くことになります。
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