パイロットやCAの乗務後一律飲酒検査、撤廃に遅れ…JALとピーチで相次ぎ国交省が対策を再確認

 国土交通省が1月に予定していたパイロットと客室乗務員に対するアルコール検査の制度改正が、大幅に遅れていることがわかった。新制度では乗務後の一律検査が廃止されるが、日本航空とピーチ・アビエーションの機長による飲酒問題が相次いだことを受け、国交省は、両社が講じる再発防止策の 進捗(しんちょく) と有効性などを慎重に見定める。(森田啓文)

 国内航空各社のパイロットと客室乗務員には、乗務前後に第三者の立ち会いの下でアルコール検査を行うことが2019年から義務付けられている。18年に飲酒問題が続発したためで、鉄道や船舶より厳しく、国際的に見ても厳格なルールとなっている。

 現行制度の導入後は業務中に酒を飲んだケースはなく、国交省は各社の対策が浸透し、乗務員らの意識改革も進んだと判断。昨年3月に設置した有識者などによる検討会を経て、乗務後の一律検査を不要とするなど制度を合理化する方針を決め、昨年12月上旬に通達改正案を公表した。

 制度が改正された後、航空各社が乗務後のアルコール検査を取りやめるには、自社の運航規程を改定し、国の審査を受ける必要がある。乗務員への教育訓練や健康管理の充実に加え、業務中の乗務員による相互確認の徹底も条件となる。

 しかし、日航では昨年11月末に豪州メルボルンで機長2人が内規の約3倍の飲酒をし、翌日に乗務した上、相互確認に反した「口裏合わせ」で 隠蔽(いんぺい) しようとした。社内調査の過程で、他にもアルコール検査の実施状況について数多くの不備が発覚した。

 国交省は当初、1月に制度を改正した上で、日航に限り、一連の問題を受けた再発防止策の実施・定着状況を厳格に見極め、一定期間は導入を事実上認めない方針だった。

 ところがピーチでも1月上旬、シンガポール発関西行きの機長が勤務前の禁酒時間にビール1リットルを飲んだ上、副操縦士とともに法定の乗務前アルコール検査を忘れたまま乗務したことが発覚した。このため、国交省は制度改正そのものを見送り、航空各社のアルコール対策の状況を再確認することにした。

 日航は1月下旬、飲酒リスクの高い「要注意者リスト」を作り、関係部門で連携対処するなど5本柱の再発防止策を公表した。社外取締役を長とする検証委員会で進捗と有効性を点検し、9月をめどに取りまとめる。ピーチもアルコール問題への対応に特化した会議体を新設し、対策の効果を継続監視している。

 関係者によると、1月に予定されていた制度改正の実施は、6月以降となる見通し。また、日航は社内対策の取りまとめが済むまで当分の間、新たな検査制度を盛り込んだ運航規程改定の申請を見送る方針だ。

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