【番記者の視点】負けないではなく勝ちたい 劇的な後半AT弾から見る柏の変化…昨季の悪夢を乗り越え

◆明治安田J1リーグ ▽第10節 FC東京1―1柏(11日・国立)  【柏担当・浅岡諒祐】劇的な展開だった。FC東京は試合終盤、後ろに引き強固なブロックを敷いた。崩すのは簡単ではない。しかし、そこで諦めない。後半アディショナルタイム(AT)4分。今季ブレイク中のMF熊坂光希の右クロスを、190センチのFW木下康介が長い足を伸ばしながら合わせた。  敗戦濃厚のところから勝ち点1をもぎとり、リカルド・ロドリゲス監督は「価値のある勝ち点1」と称賛すると、値千金の同点弾を決めた木下も「先制されて苦しい展開の中、0で終わるのと、1で終わるのは全然違う。そこは大きい」と言葉に力を込めた。 *  *  *  「後半ATに得点」。昨季の柏もよく聞いたフレーズだ。しかし、これは“やられた側”で頻出した。  Jリーグは今年の1月3日に公式Youtubeで「天国と地獄を分ける一発。アディショナルタイム弾特集」というタイトルの動画を作成した。ふと気になり、動画を見てみた。とにかく柏が出てくる。コメント欄でもあまりに多い柏のハイライトを指摘する声が出た。  Jリーグがまとめたのは全61ゴール。動画の最初は開幕戦・京都戦(1△1)で決められた同点弾からスタート。柏が絡んだシーンは11か所あった。シーズン終盤の5戦連続のAT失点を含み、そのうち7ゴールが失点の場面だ。動画では紹介されなかったが、昨季得点王の横浜FMのFWアンデルソン・ロペスと昨季限りで引退した湘南のMF阿部浩之にも、それぞれ失点している。合計すると13試合で後半ATに試合が動いたことになる。良い意味では「刺激的」、悪い意味では「心臓に悪い」試合を3試合に1回ほどのペースでやっていた。  昨季は先発がベンチに下がってからの選手層が課題だった。加えて、シーズン終盤には疲労もあったのだろう。試合終盤で耐え切れず、悪夢の5戦連続後半AT失点を許した。「攻撃で押し込むことができれば」「2点目を取れれば」と、原因は挙がった。対策も施した。しかし、悪い流れを止められず、井原正巳前監督も「私の人生の中で経験したことがない」と振り返るしかなかった。  だからこそ、今季は選手層を厚くした。ロドリゲス監督を招き、攻撃力の強化とパスサッカーという新たな基盤も作った。その結果、試合終盤での粘り強さが増した。試合後の会見で指揮官に同点弾について尋ねると、「シーズンの頭から全ての試合において、試合終盤まで自分たちのスタイルを信じ続けることができています。それ故に、終盤で勝ち点1もしくは勝ち点3をもぎ取る展開が生まれているかと思います」と答えた。 *  *  *  しかし、この結果で満足はしていない。木下は試合後のフラッシュインタビューで勝ち点1に対し、「最低限」という表現を用いた。FW細谷真大も「最低限負けていないことをポジティブに捉えたい」としつつも、「こういう試合はしっかり勝ちたい。勝てたら順位も上がっていく」と、その先にある勝ち点3を見据えていた。  DF古賀太陽も厳しい表情でこう語った。「暫定ではありますけど、勝てば首位に立てる状況で、そのチャンスを自分たちで逃してしまったのは危機感を持つべき。そういうチャンスを1個1個拾っていけるようなチームになっていかなければいけない」。今季の黒星は1回のみ。しかし、あくまでも狙うのは勝ち点3と、昨季からの主力3人が口をそろえた。  「監督からも勝つことにこだわるのは日頃から言われていますし、引き分けでオッケーとか、勝ち点拾えればオッケーという考えはみんなないと思っている。今日の(勝ち点)3を取らなければいけない試合だったと思いますし、満足することなくやり続けられれば」(古賀)。  ボールを支配する中でどのように攻めるかなど、課題もまだまだ多い。しかし、今季は試合ごとに他の記者やライターから「面白いね」と言われるサッカーはやはり魅力的だ。それに加えて、勝利を常に狙いに行く思考が継続できれば、上位進出とタイトルも夢じゃない。そう、信じたくなるような光景が、雨の国立で広がった。

報知新聞社

スポーツ報知
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