廃線の時代に、なぜ延伸? ローカル鉄道が150億円投じる「異例の挑戦」
前々回の記事では、茨城県の「ひたちなか海浜鉄道」を、地域経済の振興に貢献するローカル鉄道として取り上げた。人口減の中で利用者数を1.6倍に伸ばし、広告などで約6000万円の収益を上げるなど、積極的な取り組みを続けてきた。 【画像】新駅の建設予定地、どんな場所? そうした中で今、同鉄道は路線延伸を打ち出し、さらに注目を集めている。すでに構想段階は過ぎ、具体的な建設工事に着手しようとしている。全線を市域に含むひたちなか市が過半数(51%)の株式を保有する鉄道会社であるだけに、延伸事業には公共性が認められており、さらなる経済的発展につなげる狙いがある。 もっとも、ローカル線の多くは赤字に苦しみ、廃線に追い込まれるケースも少なくない。それにもかかわらず、なぜひたちなか海浜鉄道は延伸という選択を取るのか――この点に疑問を抱く読者も多いだろう。 ひたちなか海浜鉄道は現在、勝田~阿字ヶ浦間の「湊線」14.3キロを運行している。延伸計画では、阿字ヶ浦から先に途中1駅を新設し、国営ひたち海浜公園西口付近に設ける新駅2(仮称)までの3.1キロを新たに建設する。2021年1月15日には、この計画の前提となる鉄道事業許可を国土交通省から取得した。 しかしその後、新型コロナウイルス感染症の拡大などに伴う事業費の高騰を受け、計画を一部見直した。まずは阿字ヶ浦から、ひたち海浜公園南口付近に設ける新駅1(仮称)までの1.4キロを第1工区として先行整備する方針に変更。2024年11月18日には、工事着手に必要な工事施行認可を取得した。2026年度からは地質調査が始まり、事業は本格化する見通しだ。
延伸の最大の目的は、終点駅の予定地が示す通り、ひたち海浜公園への観光客輸送の改善にある。この公園は、春のネモフィラや秋のコキアに代表される花の景観で知られ、国内外から一定の評価を得ている。さらに大規模音楽イベントも開催されるなど、繁忙期には来園者が集中。年間の来園者数は約200万人に達し、茨城県内の観光地で最多を誇る。 ただし、公共交通によるアクセスは、JR勝田駅からの茨城交通の路線バス(所要時間約17分)にほぼ限られる。平日でも午前中は20分間隔と比較的高頻度で運行されており、需要の多さはうかがえるものの、実際には来園者の多くが自家用車を利用している。 観光シーズンの渋滞は深刻で、バスの定時運行は極めて困難だ。近隣住民が外出時の車利用を控え、自転車に切り替えるほどで、日常生活に支障をきたすレベルに達している。 これに対し、ひたちなか海浜鉄道も対策を講じてきた。繁忙期には、阿字ヶ浦と渋滞の影響を受けにくい海浜口の間で、列車と接続する無料シャトルバスを運行。入園券付き乗車券も販売し、勝田から約38分で確実に到着できる点をアピールしている。列車も最大3両編成まで増結するなど対応を強化し、一定の利用を集めている。 それでもなお、抜本的な改善が求められてきた。湊線の延伸構想が浮上したのは2013年のことだ。当時のひたちなか市長である本間源基氏が、市の観光計画を見直す中で検討に着手。那珂湊おさかな市場や阿字ヶ浦の温泉、海水浴場などを結ぶ湊線を、ひたち海浜公園まで延ばせば、観光資源を有機的に結ぶルートになるという発想である。 確かに湊線は、JR勝田駅とひたち海浜公園を一直線に結ぶ路線ではない。しかし沿線には人気の観光資源が点在しており、これが公園までつながれば回遊性が高まり、観光地としての魅力向上につながる。 この構想は大きな反響を呼んだ。JRや大手私鉄、地下鉄といった都市鉄道とは異なり、ローカル線の延伸は極めて珍しいためだ。一方で、巨額の投資を伴う計画でもあり、効果への期待と財政負担への不安が入り交じる反応となったのも無理はなかった。 こうした中、延伸構想を後押ししたのが地域の動きである。ひたちなか商工会議所会頭の呼びかけにより、行政、地元選出の県議、企業関係者、教育関係者、自治会長らで構成される「ひたちなか海浜鉄道湊線の延伸を実現する会」が結成された。 ここで実現に向けた課題の検討が進められ、実際に事業を進めていくための基本構想がまとまったのは、2018年頃のことである。