《兵庫知事疑惑》「歴史的なヤバさ」パワハラを認めて謝罪も、対応は「適切だった」と…絶望的な内容だった新聞各紙の社説(文春オンライン)

 ああ、やっぱりこのフレーズが出たか。次の言葉だ。  「県政を前に進めていきたい」  兵庫県の斎藤元彦知事の言葉である。知事によるパワハラなどの疑惑を調査した第三者委員会の報告書を受け、斎藤知事は初めてパワハラを認めて謝罪した(←ここ、かなり重要)。しかし、告発者を探し出して懲戒処分とした県の対応は「適切だった」とし、告発文についても「誹謗中傷性の高い文書」と、従来の見解を変えなかった(←ここ、さらに重要)。 【画像】斎藤知事と慶應卒でPR会社社長女性の“密着写真”

 そのうえで「県政を前に進めていきたい」と語ったのである。話をずらしている人の表情をリアルタイムで見るのは人間観察の勉強になる。何か問題があって問われているのに「前に進めていきたい」。これは現状を矮小化して目線を先にずらすトリックワードだ。さぁこれで終わり終わり、前に進ませてくれ。それとも邪魔する人がいるの? という誰かへの目配せにもみえる。 「前に進める」は大阪府知事を務める日本維新の会の吉村洋文代表も言っていた(斎藤氏は2021年の選挙で、自民・維新の推薦を受けて初当選し、吉村氏も応援に駆けつけていた)。  吉村氏は斎藤知事に対して「パワハラ認定されたことについて、反省すべきところは反省して、改革など兵庫県政を前に進めてほしい」。まったく同じ言葉で驚く。でも理解もできる。「前に進める」を「吉村案件」で言うと大阪・関西万博があるからだ。万博は開幕を目前にしても洪水のようにトラブルが後を絶たない。当事者は目線を先にずらすしかない。  いろいろ言われたけど始まったら、ほら、やってよかったよねという機運を醸成するしかない。しかし過去やプロセスに問題があったことは間違いない。その吉村氏が斎藤知事に対して「前に進めてほしい」というのだからこの言葉はやはり危険だ。正解は「立ち止まって考えてほしい」ではないか。

 さて今回の件がいかに緊急事態かをお知らせしたい。斎藤知事の会見を受けて新聞各紙が社説を書いたのだが、どれも絶望的な内容だったのだ。 朝日新聞『斎藤兵庫知事 組織の長として失格だ』   産経新聞『兵庫県知事 「違法」の責任を直視せよ』   毎日新聞『「違法」認めぬ兵庫知事 トップの任に値するのか』 まず朝日新聞は斎藤知事について、 《この人には、言葉や論理が通じない。そう思わせるようではトップの資格はない。》  兵庫県の知事には言葉や論理が通じない。なんて絶望的な状況なのか。そして、 《報告書を「真摯に受け止める」と繰り返しながら実質的に拒否する姿勢は、もはや独善と言っても過言ではない。斎藤氏こそが「知事として失格」と言うほかないだろう。》  兵庫県の混迷は1年前、斎藤氏が会見で男性を「うそ八百」「公務員として失格」と非難したことから始まった。しかし「失格」なのは斎藤知事だと断言したのだ。  続いて産経新聞。 第三者委の報告書は職員への厳しい叱責など10件をパワハラと認定した。冒頭にも書いたように斎藤氏は、告発者捜しを命じた初動の対応は「当時としてはやむを得なかった」と釈明し、告発文書を作成した元県民局長への処分見直しも否定した。  産経はひとこと、 《これはおかしい。》  注目は最後の一文だ。 《議会は斎藤氏に責任の取り方を具体的に示すよう強く促すべきだ。うやむやなままでは県政を前に進められない。》  あ、うやむやなままでは「県政を前に進められない」とある。「前に進める」に関して当たり前のことが書いてある。それより何より、普段は論調が正反対と言っていい朝日新聞と産経新聞がほぼ同じことを言っていた。斎藤知事が原因で兵庫がいかに異常事態に陥っているかがわかる。


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 ちなみに朝日は斎藤知事会見の舞台裏も書いていた。第三者委の報告書に知事見解を示すにあたり、県幹部らは水面下で知事と協議を続けていたという。県幹部の間では、懲戒処分の一部撤回や知事自らの報酬カットをするべきだという考えもあったと。しかし知事会見のライブ中継を見ていた県幹部らは、一様に驚いた。「事務方の想定とは全く違う内容になっていた」(ある県幹部)からだ。  県幹部の証言は他にも次々とあった。 「パワハラは認める一方で、自らの処分に触れないのはおかしい」 「これは知事の見解で、県の見解ではない」  それにしても県職員は恐怖であろう。知事は公益通報として扱わず、自身や側近幹部の判断で告発者の処分を急いだからだ。毎日新聞社説は「そうした行為が容認されるなら、トップに不祥事があっても、部下は報復を恐れて告発を控えるようになる」と指摘。読売新聞社説はさらに恐怖の予言をした。「これでは、再び同じような事態が起きても、また告発者潰しをやると言っているに等しい」。兵庫県職員はこんな状況で声を上げることができるのだろうか。  地元の神戸新聞はどうか? 第三者委員会が報告書を出した翌日に『知事は非を認めるべきだ』と書いていた(3月20日)。地元紙だけに県民目線も書く。《文書問題に端を発した混乱は1年に及ぶ。県政の停滞で影響を受けるのは県民だ。》  さてここまで新聞の論評を紹介してきたが、「オールドメディアが何を書いても意味が無い」という人もいるかもしれない。嘲笑し、全否定する人もいるだろう。しかし自分が見たくないものには向き合わない、耳を貸さないという態度は斎藤知事と合わせ鏡なのである。それは知っておいたほうがいい。  新聞読み比べとしては、とにかく朝日と産経がほぼ同じことを斎藤知事に対して言っているのが衝撃だった。これしか書きようがないからだろう。そんな状況は歴史的なヤバさだと思うのです。 ◆◆◆  文春オンラインで好評連載のプチ鹿島さんの政治コラムが一冊の本になりました。タイトルは『 お笑い公文書2025 裏ガネ地獄変 プチ鹿島政治コラム集2』 。

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