あまり人と話さない人は危険?死者増加の「誤嚥性肺炎」予防のための10のポイント【医師が解説】(ダイヤモンド・オンライン)
4/5 8:02 配信
日本人の死亡原因は、がん・心疾患・脳血管疾患がトップ3だが、近年は「誤嚥性肺炎」が増加している。いまや高齢者にとって、3大疾患にも劣らぬほどの大きな死亡リスクとなっているのだ。食べかすなどから繁殖した口の中の細菌を、知らないうちに気道から肺に吸い込んでしまう誤嚥性肺炎の予防法を、呼吸器内科のスペシャリストが解説する。本稿は、大谷義夫『「よくむせる」「せき込む」人のお助けBOOK』(主婦の友社)の一部を抜粋・編集したものです。● 肺炎を起こしやすい生活習慣を セルフチェックしよう 誤嚥性肺炎を中心にお話ししたいと思います。そこでまず、下のリストをチェックしてみてください。誤嚥性肺炎を起こすリスクがあるかどうかを自分で確認することが目的のチェックリストです。 (1)は高齢であるかどうか。高齢であるほど、免疫力が低下している可能性があるので、リスクは高くなります。 (2)〜(6)は動脈硬化のリスク。「誤嚥性肺炎と動脈硬化がどういう関係にあるの?」と疑問に思う方もいるのではないでしょうか。でも大きな原因の1つなのです。その理由はあとで詳しく述べますが、例えば高血圧や糖尿病などで動脈硬化が進んでいると、脳の嚥下反射やせき反射(編集部注/気道に異物が入ったときに起こる防御反応で、咳をすることで異物を体外に排出する反射運動)を起こす機能が低下して、誤嚥しやすくなります。 (7)は逆流性食道炎(胃食道逆流症)があるかどうかのチェックです。胸焼けは胃酸の逆流によって起こります。胃食道逆流症は誤嚥性肺炎のリスクとして知られており、胸焼けしやすい人は誤嚥性肺炎のリスクも高くなるのです。 (8)〜(10)はのどの筋力低下があるかどうかをチェックしています。 年齢が上がるほど誤嚥しやすくなりますが、その大きな原因の1つはのどの機能の衰え。なかでも飲み込む力が衰えてくると、誤嚥しやすくなります。 飲み込む力に必要なのは、のどの筋力。例えば、1人暮らしの高齢者など、人と会話する機会が少ない生活を続けていると、のどの筋肉を使わないので、だんだん筋力が衰えていきます。
また、のどに違和感があったり、声がかすれたりするのも、のどの筋力が低下している可能性があります。
● 免疫は70代で1割になる 肺炎死の9割が高齢者という現実 セルフチェックの結果はいかがでしたか?ここからは、ご自分の結果を踏まえた上でお読みください。 誤嚥性肺炎を起こす主な原因は4つあります。 1つは免疫力の低下。肺炎で亡くなる人の97%以上が65歳以上の高齢者です。これは高齢による免疫力低下が原因と考えられます。 免疫力とは細菌やウイルスなどの侵入や増殖を防ぐ力のこと。また、がん細胞の発生や増殖を抑える力もあります。このため、高齢になると肺炎やインフルエンザなどの感染症にかかりやすくなり、がんにもなりやすくなるのです。 年齢と免疫力の関係は下の図を見るとわかりやすいでしょう。この図は加齢と免疫に関する研究の第一人者、東京医科歯科大学名誉教授の廣川勝昱先生がわかりやすくまとめたものです。 免疫力は成長とともに上昇し、成長期にピークを迎えます。しかし、その後はゆるやかに低下していき、40代でピーク時の50%に。さらに70代ではピーク時の10%まで減少するといわれています。 ただ免疫力には個人差があり、同じ年齢でも感染症にかかりやすい人もいれば、かかりにくい人もいます。これは免疫力の差によるものと考えられます。 ところが、免疫力というのは簡単に測定することができません。 一方で、誰でも確実に免疫力を上げる方法があります。それはワクチンです。 新型コロナウイルス感染症のワクチンは接種された方も多いと思いますが、肺炎も肺炎球菌ワクチンの接種によって、発症を防いだり、重症化を防ぐことができます。● 睡眠中に肺炎になる人の共通点 “ある小さな脳梗塞”の正体 誤嚥性肺炎を起こす主な原因の2つめは、動脈硬化。先ほどのセルフチェックで(2)〜(6)にチェックした人は動脈硬化のリスクがあります。 動脈硬化とは、主に加齢にともなって血管が硬くなること。
健康な血管はしなやかで柔軟性がありますが、加齢や喫煙、高血圧、糖尿病、脂質異常症(コレステロールや中性脂肪が異常値を示す)があると、動脈硬化が進行し血管が広がりにくくなるため、血液がスムーズに流れなくなります。そのため、血管が詰まりやすくなり、脳や心臓の太い血管が詰まって、脳梗塞や心筋梗塞などを起こすのです。
動脈硬化で詰まりやすいのは脳や心臓の太い血管だけではありません。脳の微細な血管が詰まることを「ラクナ梗塞」といいますが、大脳の基底核という部位にラクナ梗塞が起こると、脳内の神経伝達物質の1つであるドーパミンの分泌が減少。嚥下反射やせき反射を促す物質であるサブスタンスPはドーパミンによって合成されるので、大脳基底核にラクナ梗塞があるとサブスタンスPもつくられにくくなります。 サブスタンスPは嚥下反射やせき反射を促す物質なので、大脳基底核の細い血管が詰まると、誤嚥してもせき反射が起こりにくくなってしまうのです。 その結果、睡眠中の唾液などの誤嚥(不顕性誤嚥)の際、せき反射が起こらなくなり、細菌に感染して肺炎を起こすことがわかっています。ですから、ラクナ梗塞を起こす動脈硬化の予防が大事なのです。 なお、セルフチェックの脂っこい食事や野菜をあまり食べない、といった生活習慣も動脈硬化の危険因子です。 また大きないびきをかく人は、高血圧を引き起こす睡眠時無呼吸症候群の疑いがあるので、専門医の受診をおすすめします。● せきが止まらない…でも風邪じゃない それ、胃からくるサインかも 誤嚥性肺炎を起こす主な原因の3つめは、胃食道逆流症。先ほどのセルフチェックで、「胸焼けがある」にチェックが入った人は、胃食道逆流症が疑われます。 胃食道逆流症とは胃酸を含む胃の内容物が食道に逆流して起こること。胃の内容物を誤嚥することで誤嚥性肺炎のリスクになります。 胃酸が逆流すると食道の粘膜が刺激されるため、胸が焼けるような症状が出てきます。また、げっぷが多いのも胃食道逆流症の症状の1つです。 一般的には、逆流性食道炎の名称が知られていますが、胸焼けやげっぷの症状があり、かつ内視鏡検査で食道に炎症が認められるのが逆流性食道炎です。しかし内視鏡検査で炎症が認められない場合もあります。両者を合わせた病名が胃食道逆流症です。今は炎症がなくても、胸焼けやげっぷなどの症状を放置すると、いずれ炎症が起こる可能性があります。 胃食道逆流症の原因は早食いや食べすぎ(とくに脂肪の多いものの食べすぎ)、肥満などの生活習慣にあるといわれています。 食道の胃とつながる部位には、食道を逆流から守るため下部食道括約筋という筋肉があるのですが、肥満の人はこの筋肉の働きが弱いので、胃酸が増えすぎると逆流しやすくなります。
また、胃食道逆流症が関わって誤嚥性肺炎を生じなくても、せきが出ることがあります。逆流した胃液がのどを刺激したり、食道の粘膜を通して神経を刺激したりして、せきが出ると考えられています。長引くせきの原因の1つです。
● むせやすい、食べこぼす… 口腔機能の低下のおそれ 誤嚥性肺炎を起こす主な原因の4つめは、口腔機能の低下です。「口腔」は「こうくう」と読み、口からのどの入り口までを指します。 口腔機能の低下というのは、食事のときに、食べ物をかんだり、飲み込んだり(嚥下したり)する機能の低下をいいます。飲み込む機能が衰えることで、誤嚥しやすくなり、誤嚥性肺炎のリスクも高くなるのです。40代、50代の人はまだピンとこないかもしれませんが、口腔機能低下症という病名もあるくらいです。原因は複合的で、例えば、高齢者の場合は、むし歯や歯周病、入れ歯が合わない、といったことで口腔機能が低下しやすいといわれています。 口腔の専門は、歯科(口腔外科も)です。口腔機能低下症による誤嚥性肺炎を予防するには、歯科と医科(とくに呼吸器内科と耳鼻科)との連携が重要になります。 政府は2022年6月公表の「経済財政運営と改革の基本方針2022(骨太の方針)」に「国民皆歯科健診」を盛り込みました。これを受けて、日本歯科医師会も3〜5年後をめどに取り組みを進めていく考えを示しています。歯科健診が義務化されれば、口腔機能症の予防にもつながるでしょう。 ちなみに、口腔機能低下症の症状と似た状態を表す言葉に「オーラル・フレイル」があります。「オーラル」は「口腔」、「フレイル」は「虚弱」を意味する言葉で、病名ではなく、食べこぼしたり、むせたり、滑舌が低下するといった状態を表しています。
両者は混同されやすいのですが、オーラル・フレイルは国民を啓発して口腔機能の低下を予防するためのキャッチフレーズ的によく使われます。これに対して、歯科で検査を受けて診断名がついたものが口腔機能低下症です。
ダイヤモンド・オンライン
最終更新:4/5(土) 8:02