核合意寸前だったのに…アメリカはどうして今、イラン攻撃に踏み切った?(ニューズウィーク日本版)
米国とイランの交渉団は2月26日、スイスのジュネーブで核協議を行った。仲介にあたった関係者によれば、ここ数年で最も真剣かつ建設的な協議だったという。仲介国オマーンのバドル・アルブサイディ外相は「前例のない率直さ」があったと公に語り、双方が自らの立場に固執するだけではなく、新たな枠組みを探っていたという。 【イラン戦争で中東再編へ】トランプを止めるのは湾岸諸国?/ネタニヤフが欲する戦争の果実/親イラン勢力は引き気味 議論では核開発の制限や制裁緩和をめぐり柔軟な姿勢が示され、数日以内には原則合意が成立し得たと、ある仲介者は明らかにした。合意履行のための詳細な検証体制は、その後数カ月以内に整備される見通しだった。イラン攻撃が始まったのは、その矢先の2月28日だった。 見せかけだけの協議ではなかった。各国は本気で譲歩を模索していた。イラン当局は、米国の国内政治を踏まえた提案を提示した。エネルギー分野へのアクセスや経済協力の可能性も含まれていた。ドナルド・トランプ米大統領が2018年5月に離脱した2015年の核合意よりも厳しく、米国に有利なものとして打ち出せるよう配慮した内容だった。 弾道ミサイルや地域の代理勢力といった対立の大きい問題は当面の枠組みから外れていたが、イラン政府は米政府が求める政治的な演出を理解しているように見えた。その協議のさなかに、攻撃によって合意への道は閉ざされた。
交渉が合意寸前にまで近づく一方、軍事的エスカレーションも差し迫っていると察したオマーンのアルブサイディは、外交の道をつなぎとめる最後の試みとして、急きょワシントンに飛んだ。 表に出ない仲介者としては異例の対応として、アルブサイディは27日、CBSテレビに出演し、協議がどこまで進展したかを説明した。 高濃縮ウランの在庫を解消し、既存の核物質をイラン国内で低濃縮化し、国際原子力機関(IAEA)による全面的な査察を受け入れるという内容だった。IAEAの査察に米国の検査官が加わる可能性も示された。イランは濃縮を民生目的に限定すると約束した。 原則合意は数日以内に署名可能だったとアルブサイディは述べた。差し迫る戦争を回避するため、合意直前の交渉内容を明らかにするという思い切った発言だった。 だが米国とイスラエルは外交の決着を待たず、イラン各地に攻撃を開始した。テヘランや他の都市で爆発が報告された。トランプは「大規模な戦闘作戦」を発表し、核やミサイルの脅威を排除するために必要な措置だと説明。イラン国民に今こそ指導部を打倒する機会だと呼びかけた。イランは、中東の米国の同盟国や米軍基地を標的にミサイルとドローンで反撃した。 注目すべきは、外交が失敗したという事実だけではない。目に見える進展のさなかに頓挫させられた点だ。仲介者は実行可能な枠組みを公然と議論し、イランも柔軟性を示していた。 核エスカレーションを抑え込む道筋は具体性を帯びていた。その局面で軍事的エスカレーションを選択したことは、外交は武力に優先するという戦後秩序の原則に対する挑戦だ。外交が進展していても、武力行使が避けられる保証はないということを示している。 しかも今回の場合、平和は甘い幻想ではなく十分に現実的だった。 ジュネーブでのイランの対応は戦略的なものであり、屈服ではなかった。エネルギー協力を含む経済的インセンティブを提示したのは一方的な譲歩ではなく、米政府と持続可能な合意を形づくるための計算された妥協だった。 交渉の核心ははっきりしていた。強制力のある制限と検証を通じて核開発計画を抑制し、制裁や武力の威嚇が防ごうとしてきた核拡散リスクそのものに対処することだった。 協議は言葉の応酬を超え、具体的な提案の段階に進んでいた。数年ぶりに、核問題の安定化に向けた信頼できる前進が見られた。その交渉の時間枠のなかで攻撃に踏み切ったことで、米国と同盟国は外交の窓を閉ざしただけでなく、交渉に対する米国の関与の持続性に疑念を生じさせた。 イラン政府や他の敵対国にとってのメッセージは明確だ。交渉がうまく行っているように見えるときでも、いつ武力に置き換えられるかわからないということだ。