くら寿司「ちいかわ」転売騒動――メルカリを「闇市」と呼ぶ前の古物営業法の穴|山本一郎(やまもといちろう)
https://yakan-hiko.com/kirik.html※ 有料メルマガ『人間迷路』の巻頭言で書いたところ、某所でpdf回覧をされたとの話だったので、改めて一般公開します。
くら寿司と「ちいかわ」のコラボキャンペーンが、従業員による不正行為の発覚からわずか2週間足らずで中止に追い込まれました。
マクドナルドのハッピーセット転売騒動もクソ迷惑でしたが、くら寿司の景品でそれなりに値のつく代物が頒布されたらそりゃ当然アルバイトさんたちが泥棒に化けるのも当然と言えます。
ことの経緯で言えば、8月21日に始まり、当初は9月30日までの予定だった企画です。発端は9月2日、Xに投稿された一件の告発でした。「ビッくらポン!」の景品であるフィギュアを、コンプリート状態で大量出品しているメルカリのアカウントが見つかったのです。SNS上には「1万円以上つぎ込んでもフィギュアが1つも出ない」といった報告が相次いでいた一方で、その裏でコンプリートセットが右から左へと売れていく画面が拡散し、当然ながら炎上しました。
炎上するべくして炎上するわけですが、まだ話は終わりません。
山本一郎(やまもといちろう)公式メルマガ『人間迷路』
それに追い打ちをかけたのが、9月4日に配布開始予定だった第2弾の「湯呑み」です。全4種、合計100万個限定という規模の景品でしたが、公式配布開始前日の9月3日の時点で、すでにメルカリに複数出品されていることが確認されています。店頭で正規に受け取った客が転売したのなら理屈は通りますが、配布開始前に出品されているとなると、話は変わってきます。景品だけでなく、店舗で使う非売品ののぼりまで出品されていたとの指摘もあり、内部からの横流しを疑う声が強まりました。出品者の一人が「くら寿司の店員です」とコメント欄に書き込んで炎上したことも、疑惑に拍車をかけました。
「ちいかわ」は2020年にX上での連載が始まった漫画で、いまやアニメ化・映画化もされ、幅広い世代から絶大な支持を集める人気IPです。くら寿司にとっても今回が初めてのコラボではなく、過去にも複数回にわたって実施してきた、いわば勝手知ったる企画でした。人気キャラクターとの飲食・小売コラボが定番の集客策になった結果、コラボグッズの争奪戦と転売問題はここ数年、業種を問わず繰り返されてきた構図でもあります。それだけに今回の一件も「またか」で片づけられかねませんが、私はむしろ、この使い古された構図の裏側にある制度上の欠陥にこそ目を向けるべきだと考えています。
くら寿司は9月5日、従業員による不正行為が判明したとしてキャンペーンの中止を発表。景品は原則、鍵付きの倉庫で保管し複数名で開封・補充する体制だったと説明したうえで、警察に相談のうえ当事者に厳格な法的措置を講じる方針を示しました。会社として、信用の関わる枢要な部分ですから、ブランドを守るためにも断乎たる行動をとるぞってのは当然だろうと思います。んで、6日・7日には謝罪として全品10%引きを実施していますが、まだ発覚していない不正がないかの調査も続いているといいます。
ここまでは、一企業の内部統制が破られたという、よくある不祥事の構図です。しかし私が注目したいのは、9月7日にメルカリが「くら寿司と連携し、不正に入手された疑いのある出品商品の削除などの対応を実施している」と公式に声明を出したあたりから、世間の怒りの矛先が急速にメルカリへと移っていった点です。「盗品と知りながら売買を助けているのだから、盗品等有償処分あっせん罪にあたるのではないか」「これは実質的な闇市だ」といった投稿がXにあふれ、削除対応の遅さそのものが批判の的になっています。実際、私が確認した範囲でも、メルカリの声明からわずか1時間ほどで、2026年版「湯呑み」全4種セットが複数出品され、価格帯はおおむね29,800円から31,111円、一部はすでに売却済みという状況でした。正規ルートは会計3,000円ごとに1個という建て付けですから、実勢価格との開きは大きく、メルカリの声明後もこの種の出品自体は止まっていなかったことになります。
ここで一度、言葉を整理しておく必要があります。今回の件を「メルカリでの高額マネロン」と呼ぶ向きもありますが、正確には資金洗浄(マネーロンダリング)ではなく、窃盗ないし業務上横領によって得られた品の故買・転売の問題です。もっとも、この混同には歴史的な理由があります。メルカリは2017年、額面を超える価格で現行紙幣やチャージ済みSuicaが大量出品される騒動を経験し、マネーロンダリングにつながるとして順次出品を禁止してきました。現在の利用規約でも「マネーロンダリングが疑われる行為」は明記で禁止されていますし、2025年3月からは高額商品の出品・購入に本人確認(eKYC)を必須化しています。つまりメルカリは、出品者が「誰か」を確認する仕組みには相応の投資をしてきました。しかし今回問われているのは、出品されている「何か」が正規に入手された物かどうかという、別種のリスクです。本人確認だけでは、正規会員が横流し品を出品することまでは防げないことになるのです。
そして、かねてメルカリには泥棒市同然であるという蔑称もつけられていたわけですが、ただ、仕組みだけで考えれば先行していたヤフーオークションも競合のラクマ他も同様の問題を孕んでいます。
では、批判の中心にある盗品等有償処分あっせん罪(刑法256条2項)は成立し得るのでしょうか。この規定は、盗品と知りながらその有償処分をあっせんした者を10年以下の拘禁刑及び50万円以下の罰金に処するという、盗品等関与罪の中でもとりわけ重い部類に入ります。ただし成立には、あっせんした物が盗品等であることをあっせんした側が認識していたこと、つまり故意があったかどうか要件となります。メルカリが個々の出品を審査の時点で「これは横流し品だ」と具体的に認識しながら放置していたと立証できない限り、この罪は成立しません。感情としての「闇市」批判は理解できますが、法的な当てはめとしては飛躍があると言わざるを得ません。
ただ、盗品等有償処分あっせん罪自体は親告罪ではありません。話の分かっている法曹や消費者団体、個人であったとしても、刑事告発そのものは可能です。この辺は以前、所属する情報法制研究所でも議論になった経緯があるのですが、刑事訴訟法第239条第1項により、「何人(なんぴと)も、犯罪があると思料するときは、告発をすることができる」と定められていて、盗品等有償処分あっせん罪は被害者本人の告訴を必要としない「非親告罪」であるため、被害届を出せる当事者だけでなく、全く関係のない第三者であっても警察や検察に対して刑事告発を行う権利があります。
ハードルとして前述の「盗品であることの認識(故意)」が必要なうえ、プラットフォームの「プラットフォーマーとしての注意義務」が払われていたかが重要になります。メルカリのようなフリマアプリでは、毎日膨大な数の商品が自動的に出品されています。運営会社が「すべての出品が盗品かどうか」を事前に1点ずつ完璧にチェックすることは事実上不可能であるため、メルカリ側が利用規約での盗品出品の禁止、AIや通報システムによる不正検知と削除、警察などの捜査機関への協力といった「通常求められる然るべき安全対策」を講じている限り、運営会社側に「盗品をあっせんする故意」があったとみなすことは極めて困難です。
ただし、現況で「対策する」と言っていたはずのちいかわグッズがいまなお売られて検索に引っ掛かる以上、故意であるかどうかは警察庁警視庁の捜査を行ってもらう前提となり、現状で言えば問題となる商品の削除を行わず、また、出品者のID停止などの措置を行っていなかったとするならば「さすがにアカンやろ」という話になる可能性はあると思います。
さらに、メルカリの商品では引き続き「漫画全巻105万円」など、明らかにお前それカード決済の穴をついたキャッシュ化と思われるものや、生活保護世帯が所得監視逃れのためにメルカリで売買をしポイントで生活費を賄うなどの行為が横行しているとSNSでも指摘されています。人間、そのぐらいのことは考えるものだし、そういったものも全部ダメなのだといっても全件管理はむつかしいとは言え、ネットでそういうものがあった際に通報して取引を止めることは善良管理義務の一端であることは言うまでもありません。
そして、むしろ私が制度上の問題として指摘したいのは、そもそもメルカリのようなフリマアプリが、盗品流通の防止を目的として作られた古物営業法の規制対象から外れているという事実です。同法は、古物商(自ら古物を売買する業者)と、古物競りあっせん業者(インターネットオークションのように「競り」の方法であっせんを行う業者)を許可・届出の対象としていますが、都道府県警の案内によれば、インターネット上でフリーマーケットを運営する場合、この古物競りあっせん業の届出は不要とされています。
業として行っていないのであれば、古物営業法の網に掛けるべきではないのは理屈としては正しいのですが、メルカリの取引は出品者が価格を提示し購入者がそれに応じる「フリマ」形式であって、値をつり上げていく「せり」ではありません。古物営業法第一条は、この法律の目的を「盗品等の売買の防止、速やかな発見等を図る」ことだと明記していますが、皮肉なことに、CtoCで中古品や景品類が大量に流通する現代のフリマアプリの実態にこそ、この目的は当てはまるはずです。にもかかわらず、条文が想定していた「せり」という取引形式の技術的な違いだけで、法の対象からすり抜けてしまっているのです。
そもそも古物営業法における「競り」の規定は、Yahoo!オークションに代表される2000年代のインターネットオークション文化を念頭に整備されたものです。同法には古物競りあっせん業者向けに、盗品等の売買防止に資する方法の基準を満たせば公安委員会の認定を受けられる制度や、遵守事項をまとめた専用の章(第三章の二、第21条の2から第21条の7まで)まで用意されています。しかし出品者が値段を提示し、購入者がそれに応じるだけの「フリマ」形式は、この「競り」の定義に当てはまらないため、こうした届出や認定の枠組みそのものの対象外です。法制度が想定していたビジネスモデルと、現実にCtoC取引の主流となったビジネスモデルとの間に、20年越しのずれが生じたまま放置されてきたと言えます。経済産業省の資料によれば、国内のCtoC EC市場は1兆7000億円規模とされ、メルカリはそのうち大きな割合を占める最大手です。この規模の二次流通インフラが、盗品対策の基本法から構造的に外れたまま拡大してきたことになります。
だからこそ、メルカリが行っている出品削除や出品者への連絡は、法律上の義務ではなく、あくまで利用規約に基づく自主対応です。批判の多くが前提とする「メルカリには盗品流通を止める法的責任がある」という理解は、少なくとも古物営業法上は成り立ちません。
一方、従業員個人の刑事責任については、窃盗罪と業務上横領罪のどちらに当たるかが専門家の間で議論になっています。景品を自分の判断で動かせる「占有」を有していたかどうかが分かれ目で、くら寿司の説明どおり鍵付き倉庫・複数名対応という管理体制だったなら、占有までは認められにくく、窃盗罪の可能性が高いという見立てが弁護士から示されています。ただし実際に持ち出した従業員がどこまでの裁量を持つ立場だったかは、まだ公になっていません。くら寿司側は、今回発覚した以外にも同種の不正がなかったか、引き続き調査を進めているとしており、被害の全容はまだ確定していない段階です。
ここは、実際にメルカリで該当グッズを購入してしまった読者にも関わる論点なので触れておきます。民法上、取引によって平穏かつ公然と動産の占有を始めた者は、善意無過失であれば即時にその物の権利を取得できるのが原則です(民法192条)。ところが対象が盗品または遺失物である場合には例外があり、被害者は盗難または遺失のときから2年間、占有者に対して物の回復を請求できます(民法193条)。くら寿司の説明が事実で、景品が窃盗によって流出したものだとすれば、善意で購入した買い手であっても、理屈のうえでは2年以内にくら寿司側から返還を求められる可能性が生じます。競売や同種の物を扱う商人からの購入であれば代価弁償と引き換えになるという規定(民法194条)もありますが、メルカリのようなCtoCフリマがここでいう「公の市場」に当たるかどうかは、私が調べた限り確立した見解が見当たらず、今後の検討課題として残ります。転売品を高値で掴まされたうえ、返還まで求められかねないという意味では、買い手側にとっても軽視できないリスクだということは、指摘しておきたいと思います。
比較対象として有効なのが、今年5月にあったマクドナルドの「ちいかわ」ハッピーセットのケースです。過去の買い占め・転売問題への反省から、マクドナルドは発売日である5月15日・29日当日に限り、公式アプリで購入券を全会員に配布し、購入できる人数と個数(1人4個まで)を絞りました。さらに重要なのは、メルカリ・LINEヤフー・楽天ラクマという主要フリマ・オークション3社が、発売前の段階から足並みをそろえて一定期間の出品禁止を発表したことです。フリマ各社が発売前から横並びで出品禁止を打ち出すのは異例だったと報じられています。出品側も「ちいかわ」を漢字の「小川」に置き換えるなど検知逃れを試みたようですが、メルカリはAIによる24時間監視と人の目視によるダブルチェックを組み合わせて対応し、結果として発売日には多くの家族が商品を入手できたと報じられました。
つまり、企業とプラットフォームが事前に連携さえすれば、出品そのものを封じ込める強力な予防策は、現行法の枠外でも十分に実行可能だということです。それでもくら寿司側にマクドナルドと同じ発想が働かなかったのは、勝手知ったる企画だったという慢心もさることながら、キャンペーンの設計そのものの違いも大きいのではないかと私は見ています。マクドナルドのハッピーセットは発売日・個数があらかじめ確定した「点」の販売である一方、くら寿司の「ビッくらポン!」は会計のたびに抽選券が発生する「面」の仕組みで、いつ・どの店舗で・誰が何を引き当てるかを事前に管理しにくい設計です。これはあくまで私の推測であり、くら寿司側の意思決定過程を裏付ける材料はまだありませんが、射幸性の高い抽選方式であるほど、外部との事前調整という発想がそもそも働きにくい構造だった可能性はあります。結果として、両社の危機管理の差はくっきりと表れました。
もっとも、法律上の義務がないことと、企業としてやれることがないことは別問題です。メルカリ側にも、法改正を待たずに着手できる打ち手はあるはずです。たとえば、飲食・小売各社との間で大型コラボキャンペーンの実施情報をあらかじめ共有してもらう窓口を常設し、マクドナルドの事例のような事前出品制限を「特別対応」ではなく通常メニューとして提供すること。あるいは、配布開始日より前に投稿された景品出品を自動的に一次ホールドし、出品者に入手経路の申告を求めるといった、時系列に着目した検知ルールを強化することも考えられます。今回、配布前日の出品が容易に見つかった以上、これは技術的に難しい話ではないはずです。実際に手を打つかどうかは経営判断ですが、少なくとも「規約で禁止しているのに悪質な出品者が後を絶たない」という説明だけでは、今後も同じ批判を浴び続けることになるでしょう。
今回の一件の本質は、くら寿司の内部管理の甘さでも、メルカリという一企業の悪意でもなく、盗品等の売買防止を目的とする古物営業法が、フリマアプリという業態を想定できていないという制度疲労だと私は見ています。そしてマクドナルドの事例が示すのは、この疲労は業界の自主的な連携によって埋め合わせ可能だという事実です。だとすれば、次に議論すべきは、事前の出品禁止や監視強化を、個別企業の善意とその都度の調整任せにしたままでよいのかという点です。人気IPとのコラボ商戦は今後も広がる一方であり、実施企業側には景品の在庫管理・配布方式の総点検が求められますし、フリマ・オークション事業者の側にも、一定規模以上のキャンペーン商品については実施企業からの事前届出を受け付け、優先監視の対象とするような、業界横断の枠組みが必要な段階に来ていると私は考えます。マクドナルドの事例のように、発売前に商品情報を登録すれば主要各社が足並みをそろえて出品を止める、という運用は既に一度成功しているのですから、それを個別企業の要請待ちにせず、キャンペーン規模や景品総数といった客観的な基準を満たせば自動的に適用される「標準メニュー」に格上げすることは、決して非現実的な提案ではないはずです。制度としてやるなら、古物営業法の「競り」要件を見直してフリマ形式のCtoC事業者を古物競りあっせん業者に準じた枠組みに取り込む改正が筋ですが、法改正には時間がかかります。当面は消費者庁や警察庁が旗振り役となり、フリマ・オークション事業者と小売・外食業界の双方が参加する自主基準の策定を急ぐべきだと私は考えます。「メルカリは闇市だ」という感情的な批判で終わらせず、制度側の穴をどう塞ぐかという議論に、この一件をきちんとつなげていくべきだと思います。SNS上のプラットフォーム規制や特定商取引法をめぐる議論と同様、ここでも問われているのは「誰が悪いか」ではなく「誰がリスクを引き受ける設計になっているか」です。くら寿司の景品は、ちいかわファンの善意と射幸心を前提に成り立っていました。その前提を裏切ったのが一部の従業員であったとしても、事後対応の枠組みを事実上プラットフォーム任せにしてきた業界全体の設計もまた、問われるべきだと私は考えます。