ぐっすり眠るために──専門家3人がすすめる寝相とは

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睡眠の悩みは、最適なグッズを買えば解決する──。そんなふうに考えてしまうこともあるかもしれない。遮光カーテンにオーガニックマットレス、冷感タイプの低反発枕まで、“眠りをよくする”という触れ込みの商品はあふれている。

寝心地のいいベッドに、高スレッドカウントのシーツ、まるで雲の上に頭を乗せているような感覚の枕は、確かに眠りの質を高めるかもしれない。しかし、どんな商品よりも「寝相」以上に眠りに影響するものはない。

「マットレスや枕がよく注目されますが、人間はそもそも贅沢を前提にした生き物ではありません」。こう語るアヴィナッシュ S・バーは、睡眠医療の専門医で、睡眠と呼吸に関する遠隔医療を提供する企業Sliiipの創設者だ。

バーによれば、よく知られた睡眠衛生のコツ──遅い時間のカフェインを避ける、アルコールを控える、就寝前にスクリーンを見ない──は、想像以上に睡眠の質に影響するという。そして、バーが重要な項目としてここに加えるべきだと強調するのが、寝相なのだ。では寝相は、眠りの深さや朝の目覚めにどんな違いを生むのか。専門医たちに話を訊いた。

寝相の影響について懐疑的な人もいるだろう。快適に眠りに落ちることができるなら、どんな寝方でも問題はないはずだと。しかし、エルゴノミクス(人間工学)について考えてみたらどうだろう。毎日8時間、デスクの前に座っている姿勢がどれだけ大切かすでにわかっているなら、夜、ベッドの中の姿勢も同じくらい大切だと気づくだろう。

アメリカ家庭医療学会(American Academy of Family Physicians )のフェロー会員であり、Sleep to Live Well Foundationの創設者兼医療ディレクターを務めるロジャー・ワシントンは、睡眠中の呼吸に関わる寝相は免疫力に影響するため、非常に大切だと説明する。「免疫機能がうまく働くには、深い呼吸が必要です。胸に十分に空気をおくり、リンパ液が全身を巡るようにしなければいけません」

リンパ液は栄養素を全身に届け、また体の有害物質を排除する働きを担う液体で、全身を感染から守っている。ワシントンの解説によれば、睡眠時の適切な呼吸は、リンパ液が全身を巡るために大切なのである。科学的研究もワシントンの解説を裏付けしている。2024年に『Annals of Neuroscience』に掲載された論文によれば、免疫細胞が血流からリンパ節に移動し、より効果的に炎症と戦うのは睡眠中だという。

神経内科医で睡眠医療の専門家、DAMM Good Sleepの創設者であるアン・マリエ・モースは、睡眠時の呼吸が大切な理由は他にもあるという。主に、閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)の予防がそれだ。

Journal of Clinical Sleep Medicineに掲載された記事によれば、閉塞性睡眠時無呼吸症候群の放置は、高血圧や心臓系の疾患、脳卒中など、さまざまな健康問題を引き起こす可能性がある。2023年の『Journal of Personalized Medicine』掲載の記事には、うつ病の発症リスク、感情のムラ、日中の眠気が強まるなど、日常の暮らしにも強く影響すると書かれている。寝相だけで改善できるわけではないが、寝相を変えることは治療の有効な手段のひとつだとモースは言う。

夜間の胸焼けについても同様で、症状の改善・悪化に寝相は影響するという。これも寝相の重要性を示す要素のひとつだ。

さらに寝相は、朝の体の状態にも直結する。目覚めたときに首や腰が痛むなら、その原因は寝相にあるのかもしれない。

専門家推奨のベスト寝相

閉塞性睡眠時無呼吸症候群や胸焼けの症状がない場合、正しい寝相はひとつではないとモースとバーは言う。仰向けが寝やすいなら仰向けでいいし、横向きが好きなら横向きでいいという。ただし、究極の寝相をひとつあげるとしたら、今回話を聞いた専門医3人が勧めるのは横向きだ。

すでに寝相が呼吸に影響すると説明したとおり、いい寝相とはつまり呼吸のしやすさが主な理由となる。ワシントンいわく、横向きに寝ると、仰向けより空気の通りがよくなるという(うつ伏せと比較するとさらにいい)。

バーいわく、睡眠時の呼吸は、多くの人が考えるより重要だという。とくにアメリカでは男性の25%から30%、つまり4人に1人以上が閉塞性睡眠時無呼吸症候群であることからも、その大切さが窺われる。専門医3人いわく、仰向けの姿勢は舌が落ち、喉を圧迫し、空気の通り道を一部ブロックしてしまう。横向きに寝るとこれが起きず、通り道が開け呼吸がしやすくなるのだ。

胸焼けがある人は、同じ横向きでも体の左を下にするといいとモースはいう。また、枕やクッションを使い、上半身を少し起こしておくのもいい。「(上半身を起こすことで)食べ物がお腹の方に落ちやすくなり、空気の通り道も広く保たれます」

呼吸よりも、体の痛みが気になるという人もいるだろう。痛み軽減に関してはひとつの正解があるわけではない。だが複数の研究が、横向きや仰向けが痛みを和らげやすいと示している。2024年、背中に痛みを訴える354人を調査した『Cureus』掲載の研究では、最も痛みが軽減されたのは横向きの睡眠姿勢、次は仰向けだった。一方、2025年に『Musculoskeletal Care』に掲載された研究では、横向きか仰向けが望ましいとアドバイスされている。

ワースト寝相

最適な寝相が横向きなら、最悪な寝相はどういう姿勢なのだろうか。3人の専門医いわく、それはうつ伏せ。これも呼吸のしやすさが影響しており、仰向け姿勢時と同等の呼吸はうつ伏せでは難しいからだ。

「ワースト寝相はうつ伏せです。胸がマットレスに圧迫され、自然な肺の膨らみができないからです」というバー。ワシントンも、うつ伏せ寝はどの年齢層にとっても好ましくないと続ける。「乳幼児のうつぶせ寝は、乳幼児突然死症候群(SIDS)との関連性が、成人では無呼吸症候群との関連性が指摘されています」というワシントン。2022年の『Journal of Public Health』の記事によれば、横向き寝もSIDSとの関連性が指摘されており、乳児は仰向けで寝るのが最も好ましいという。

うつぶせ寝は、背中の痛みにも良くない。『Cureus』に掲載された2024年の研究によれば、慢性的に背中の痛みを訴える375人を調査したところ、彼らの多くがうつ伏せに寝ていることがわかったという。

今回得た最も大きなことは、どんな時も姿勢がいかに重要かということだろう。立っているとき、座っているとき、そして寝ているとき。より快適な睡眠を求めるなら、うつ伏せは避け、横向きに寝るのを試してみるといいだろう。

From: GQ.COMTranslated and adapted by Soko

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