中国の経済的威圧とは?-2010年代以降に頻出、成果は限定的との見方も

中国政府が日本産水産物の輸入を事実上停止した。同国は日本への渡航を控えるよう自国民に呼び掛けており、日中の外交摩擦に端を発した経済活動上の措置が相次いでいる。こうした他国の政策決定に影響を及ぼそうとする行為は「経済的威圧」と呼ばれ、近年関心が高まっている。

  日本でも警戒感が強まっている。小野田紀美経済安保担当相は、18日の会見で中国を念頭に「なにか気に入らないことがあったらすぐに経済的威圧をしてくるところ」に依存しすぎるのはリスクだと述べていた。経済的威圧の事例や対応策、今後考えられるシナリオについてまとめた。

経済的威圧とは?

  法的な定義はない。通商白書によれば、貿易措置やその執行をちらつかせる脅しにより、他国の政策決定に影響を及ぼそうとする行為自体は、以前から認識されていた。中国による経済的威圧行為が国際社会で話題になったのは2010年代ごろからだと、丸紅経済研究所の玉置浩平上席主任研究員は説明する。同国の巨大市場が「世界経済で無視できない存在」になったことが背景にあるという。

どのような事例があるか?

  日本が対象になった事例には、10年のレアアース(希土類)輸出制限がある。沖縄・尖閣諸島沖での日本の海上保安庁巡視船と中国漁船の衝突事件で両国間の緊張が高まったことを背景に、中国が輸出を事実上停止した。オーストラリア戦略政策研究所の調査によると、20年から22年までの間に73件の威圧行為を確認したという。

  ただこうした取り組みは必ずしも成果を上げているわけではない。米国の戦略国際問題研究所(CSIS)が、日本やノルウェー、フィリピンなど8つの事例を対象に実施した分析によると、一定程度成功だといえるのはフィリピンとモンゴルへの2事例にとどまる。分析によれば、中国は政策目的をほとんど達成できておらず、達成できたとしても、多くの場合は中国に長期的なコストをもたらしているという。

中国による主な経済的威圧の事例 2010年 日本 沖縄・尖閣諸島沖での日本の海上保安庁巡視船と中国漁船の衝突事件と船長の逮捕を受け、レアアースを輸出制限 10年 ノルウェー 中国の反体制活動家、劉暁波氏のノーベル平和賞受賞を受けて、ノルウェー産サケの輸入を制限 12年 フィリピン 南シナ海のスカボロー礁近海で起きた中国漁船乗組員の逮捕未遂を背景に、フィリピン産バナナやパイナップルを輸入禁止 16年 韓国 米軍の高高度防衛ミサイル配備に韓国が合意したことを受け、同国への団体旅行の禁止や同国企業に圧力 16年  モンゴル ダライ・ラマのモンゴル訪問を受け、インフラ投資や融資に関する協議を延期、資源輸送車両に対する国境での通関税引き上げ 17、20年  オーストラリア 外国による干渉への対抗法案提出を背景に牛肉やワインに対する輸入制限を実施、新型コロナウイルスの起源に関する調査の要請を受け、牛肉や大麦、石炭、ロブスター、ワイン、木材などの輸入制限措置 18年 カナダ 華為技術(ファーウェイ)CFOの逮捕を受け、カナダへの渡航注意を呼びかけ、大豆や豚肉輸入に関して遅延行為や制限。菜種油輸出大手2社のライセンス取り消し 21年 リトアニア 台湾との関係強化などを背景に、リトアアニア産品の輸入を制限したとされるほか、ドイツ企業に同国製部品の使用排除などを要求 CSISの調査などを基に作成

今回の事例の影響は?

  丸紅経済研究所の玉置氏は、今回の措置で日本経済に大きなダメージが生じるとは「言い切れない」と話す。中国の渡航制限が強制力をもって徹底された場合、訪日客(インバウンド)消費に大きく響く可能性はあるが、現時点では呼びかけ段階にとどまる。

今後のシナリオは?

  現措置の継続が楽観的なシナリオとして考えられる一方、悲観的なシナリオとしてレアアースや、バッテリーなどの機器の輸出制限が想定されるという。

  日本が輸入するレアアースの6割は中国産で、以前に比べて比率は下がったものの、最大の輸入相手国となっている。三菱総合研究所の田中嵩大氏は、ネオジムなど「軽希土類」の調達多角化は比較的進んだ一方、ジスプロシウムなど「中・重希土類」は今も中国に依存していると指摘する。中・重希土類は電気自動車(EV)をはじめ、レーザー機器や航空機部品にも使われ、安全保障の観点からも重要な物質だ。

  中国が措置強化に動くかどうかは不透明だが、強硬措置にはデメリットもあると玉置氏は指摘する。米国との関係に悪影響を与えるリスクがあるほか、中国市場に対するネガティブな印象が強まることで、諸外国からの対中投資などにマイナスに働く可能性もある。

日本が取るべき策は?

  対中輸出の観点では、取引先の多様化を官民連携で進めるのが重要だと三菱総研の田中氏は話す。23年に起きた福島第一原子力発電所からの処理水海洋放出に伴う中国の日本産水産物輸入禁止措置の際には、東南アジアや米国などへの代替販路の開拓を進め、一定程度の効果があった。

  米国の関税政策など保護主義が台頭する中、特定の国への依存はリスクが高いとして、長期的に市場が伸びるであろうグローバルサウスの国々などへ平時から売り込みしていくことが重要だという。一方で中国に対して切れる「カード」を持つことも重要だ。中国の経済活動にとって必要不可欠になり得る「高付加価値、高技術分野」を育てることが欠かせないと、田中氏は指摘する。

  同盟国・同志国など第3国との連携も欠かせない。23年5月に広島で開かれた主要7カ国首脳会議(G7サミット)では、「経済的威圧に対する調整プラットフォーム」を立ち上げ、連携を強化しつつ、G7以外の国との協力も推進する方針が声明に盛り込まれた。レアアースを巡っては、日米で南鳥島の周辺海域での採掘に共同で取り組むことで合意している。

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