アングル:中南米が中国と貿易関係強化、薄まるトランプ氏の影響力

 3月3日、 リバタリアン(自由至上主義者)として知られるアルゼンチンのミレイ大統領は2023年の大統領就任時に中国を共産主義の「暗殺者」と呼び、対中関係の見直しを示唆していたが、実際にはミレイ政権の1年目にアルゼンチンは大豆やリチウムなどの対中輸出が15%も増加した。ペルー・チャンカイ港で2024年10月撮影(2025年 ロイター/Angela Ponce)

[ブエノスアイレス/ブラジリア/北京/ワシントン 3日 ロイター] - リバタリアン(自由至上主義者)として知られるアルゼンチンのミレイ大統領は2023年の大統領就任時に中国を共産主義の「暗殺者」と呼び、対中関係の見直しを示唆していたが、実際にはミレイ政権の1年目にアルゼンチンは大豆やリチウムなどの対中輸出が15%も増加した。

本来は米国の同盟国であるアルゼンチンのこうした実利重視の政策転換は、トランプ米大統領の対南米政策の課題を浮き彫りにしている。豊富な天然資源を抱える南米諸国では近年、コモディティー(1次産品)ブームを追い風に中国の影響力が高まっている。

一方でトランプ政権は脅しや関税をテコに貿易相手国に対して米国の利益になるような条件を飲ませようとしている。既にコロンビア、パナマ、メキシコに譲歩を求めたほか、ブラジルも鉄鋼に対する新たな関税措置の標的となっている。

しかしロイターが取材した政府関係者や外交筋、貿易専門家など6人は、巨大でなお拡大している中国の貿易面での優位性によりトランプ氏の政策は効果がそがれていると指摘した。これは経済上のライバルが世界的に増える中で米国の懲罰的なアプローチが限界に達しつつあることを示している。

ブラジルのルラ大統領に近い高官は、同国経済は米国に依存しておらず、昨年の貿易収支が300億ドルの黒字となった中国の方がはるかに重要だと述べた。また、トランプ氏による関税の脅しは、米国が長年にわたりブラジルを軽視してきた末に打ち出した政策であり、各国はよりリスクの少ない選択肢として中国や欧州、BRICSなどとの関係を模索するとの見方を示した。米国と違い中国は「実利的なパートナー」であり、「ビジネスをしに来ている」とも語った。

ブラジル、チリ、ペルー、アルゼンチンといった資源大国がけん引する形で南米諸国は対中輸出が過去10年間で2倍以上に増加した半面、対米輸出の伸びは小さいことが、ロイターの貿易データ分析で明らかになっている。低成長と高債務に苦しむ南米の指導者にとって中国の巨大市場は極めて重要であり、たとえ政権のイデオロギーが異なろうとも、南米において中国のソフトパワーは強まっている。

South America's exports to China have boomed in the last decade, pulling well ahead of shipments to the United States.

<近所のいじめっ子>

ルビオ米国務長官は1月下旬、コロンビアなど南米諸国が中国に接近するリスクについて「馬鹿げている」と一蹴。トランプ政権は短期間で成果を上げたと主張した。トランプ政権は関税をちらつかせてメキシコを交渉の場に引き出して貿易協議に応じさせ、国境警備のための軍隊派遣を約束させた。また、重要な貿易ルートであるパナマ運河を取り戻すと宣言。パナマは中国の「一帯一路」インフラ計画からの離脱を決めた。

ワシントンのシンクタンク「戦略国際問題研究所(CSIS)」のディレクター、ライアン・バーグ氏は、トランプ氏はむしろ中南米を重視しており、スペイン語を話すルビオ氏が初の外遊で同地域を訪問先に選んだと述べた。

米下院中国特別委員会の民主党トップ、ラジャ・クリシュナムルティ議員は、米国は「近所のいじめっ子」にならないよう注意すべきだと語った。「なぜなら、いじめっ子に何が起こるかは明白だからだ。人々はいじめっ子に立ち向かうのだ。それはわれわれの長期的な国家安全保障上の利益にとって極めてマイナスな形を取る可能性がある」と危惧を示した。

South America and Central America trade flows with the United States and China over the last decade.

<急成長するコモディティー輸出>

中国は南米全体で貿易面の優位性が一段と大きくなっているが、その原動力となっているのが穀物や銅、リチウムといった重要資源だ。米国はこの面で依然として中国をリードしているものの、その差は縮小している。

10年前に銅の主要生産国であるペルーの最大の貿易相手国は米国だったが、今では断トツで中国がトップだ。中国はペルー産の銅を大量に輸入し、両国間の貿易を加速させるためペルー沿岸に巨大な港を建設した。ペルーのアリスタ前経済相は「米国が関税を導入してもペルーにとっての影響は最小限にとどまるだろう」と予想した。

China has overtaken the United States on trade in South America, driven by huge purchases of raw materials from soy and corn to copper and lithium.

アルゼンチンは米国寄りのミレイ氏が政権を握っているが、やはり中国の影響力は強い。中国はアルゼンチン産の大豆と牛肉の最大の輸出先で、昨年はアルゼンチンのリチウム輸出の約3分の1が中国向けだった。ミレイ大統領の側近は昨年末、「中国と協力することがアルゼンチンの国益に最もかなうのであれば、何の問題もない」と発言している。

コロンビアは米国との貿易関係がはるかに緊密だが、それでも2023年末には中国との外交関係を「戦略的パートナーシップ」へと格上げした。またパナマは2021―23年にかけて中国への輸出額が米国向けを大幅に上回ったものの差は縮小しており、しかもパナマ運河を巡り米国との緊張がくすぶり続けている。

China has a widening trade lead over the United States in South America.

<中国に追い風か>

米国と南米諸国は歴史的に近い関係にあり、文化的にも共通点を持っている。しかしそれにもかかわらず中国は貿易面で本来的に優位性を持っている。

中国と南米の関係は移民の移動や犯罪、麻薬といった問題に左右されず、開発段階の中国では南米産コモディティーの需要が高まることから経済的な相性も良い。

ルビオ米国務長官の中南米歴訪後、中国外務省は珍しく米国の対中南米政策を非難する声明を発表。米国は中国と中南米諸国の間に「不和」を生じさせようとしていると批判し、中南米地域と中国との協力関係の深まりは「不可逆的な流れ」だと強調した。

広東国際戦略研究院のリ・シン教授は、トランプ氏の強硬な外交姿勢は中国にとって有利に働くと指摘。「米国とその同盟国の間に混乱が生じるほど、中国にとって好都合だ」と述べた。

Latin America - outside of Mexico - has a trade deficit issue with the United States that gives Washington less leverage in the region.

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Regional bureau chief in South Latin America with previous experience leading corporate news coverage in China and as an independent film director and producer.

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