1歳の男の子は対向車に命を奪われた…ドラレコに残された「恐怖の映像」、警官が遺族に放った「驚きの一言」 誤解と過信を生み出す"自動運転"の落とし穴

現在、国土交通省は自動運転を以下の図のようにレベル分けしています(図表が表示されない場合はプレジデントオンラインでご覧ください)。

2023年12月からデジタル庁で開かれている『AI時代における自動運転車の社会的ルールの在り方検討サブワーキンググループ』で検討委員を務めている高橋正人弁護士は、まず「自動運転の定義」と「刑事責任」についての正しい認識が必要だと指摘します。

以下、高橋弁護士のコメントです(太字部分)。

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●レベル1 [運転支援]→フットオフ/アクセル・ブレーキ操作を自動で行う。 *ただし、運転者はハンドル操作義務や前方左右注視義務を負うので、義務違反があれば、事故が起きたときシステムに欠陥があっても、運転者が刑事責任を負う。

●レベル2 [自動運転機能]→ハンドオフ/アクセル・ブレーキだけでなくハンドル操作も自動で行う。 *ただし、運転者は前方左右注視義務を負うので、義務違反があれば、事故が起きたときシステムに欠陥があっても、運転者が刑事責任を負う。

●レベル3 [条件付き完全自動運転]→ブレインオフ/アクセル・ブレーキ・ハンドル操作だけでなく、前方左右注視義務についてもシステムが負う。 *ただし、自動システムがマニュアルに切り替えるよう警告を出したら、直ちにマニュアルに切り替えなければならない。他方、自動システムが働いている間は事故が起きても刑事責任は運転者ではなく、欠陥車を作った技術開発担当者が負うことが検討される。

●レベル4 [走行場所限定の完全自動運転]→アクセル・ブレーキ・ハンドル操作だけでなく前方左右注視義務についてもシステムが負う。しかも、アクセルペダル・ブレーキペダル・ハンドル自体、車に装着されていない。 *ただし、走行場所が空港内、万博内、ある一定の走行ルートというように限定されている。もちろん、その走行場所内なら事故が起きたときは欠陥車を作った技術開発担当者が負うことが検討される。

●レベル5 [完全自動運転]→アクセル・ブレーキ・ハンドル操作だけでなく前方左右注視義務についてもシステムが負う。しかも、アクセルペダル・ブレーキペダル・ハンドル自体、車に装着されていない。且つ、走行場所も限定されていない。事故が起きたときは欠陥車を作った技術開発担当者が負うことが検討される。

よって、「自動運転」と表現するときは、レベル3以上のものを言う、とされています。

現在、日本で一般ユーザー向けに販売しているのは、「レベル1」と「レベル2」のみです。特定の公共団体には「レベル4」も販売していますが、「レベル3」と「レベル5」は、日本の道路環境が複雑すぎて、技術が追いつかず、製造されていません。

誤解と過信が悲惨な事故を招く

今回、事故を起こした車は、「レベル1」か、あるいは「レベル2」(センターラインオーバーは自動で修正される機能)で作動していたか、自動運転がオフになっていたかのどちらかです。ただ、どちらにしろ、運転者は前方左右注視義務を負っているわけですから、その義務違反の有無を検討し、義務違反があれば責任を問われる余地があります。

某メーカーが、「レベル1」か「レベル2」の機能を紹介するテレビコマーシャルで、ドライバーがまるで前を向かずに、同乗の家族と歌を歌いながら運転している姿を宣伝していたことがありましたが、レベル3や5であるかのようなとんでもない誤解をユーザーに与えかねません。

日本で販売されている「自動運転」の車のレベルを正しく認識せず、それを過信、あるいは誤解しているユーザーがいるとすれば、大変危険です。その意味で、本件事故は、そうした人たちに対する警告にもなると思います。

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父親の諭哉さんは語ります。

「長女の身体にはジュニアシートのベルトの跡がくっきりと残っていましたが、奇跡的に軽傷でした。息子のほうは病院に到着してすぐ、心臓を直接マッサージするため、開胸手術を受けることになったのですが、手術後、医師から『手の施しようがなかった……』という説明を受けました。僕は、『なんとかしてください』とお願いしましたが、もうどうにもならないとのことで納得するしかなく、『わかりました』と伝えました。そのとき、息子の胸は開いたままの状態で、小さな心臓も全て見えていました」

諭哉さん自身もまた、右鎖骨と左手の甲の骨折という重傷を負っており、すぐに手術が必要でした。しかし、泣いている長女を一人にすることはできず、「とにかく今は、娘と一緒にいさせてほしい」と頼むしかありませんでした。

翌日の昼過ぎ、緊急手術を終えた彩乃さんが諭哉さんたちのいる病院に転院し、夫妻はようやく対面することができました。

「息子が亡くなったことは、僕の口から直接話したいと周囲に伝えてあったので、妻には僕から告げました。そして、『煌瑛を守ってやれなくて、ごめん……』と謝りました」(諭哉さん)

煌瑛ちゃんは後部座席できちんとチャイルドシートを着用していました。死体検案書には「外傷性ショック」という死因とともに、その事実も明記されています。また、事故直後に病院へやってきた警察官も、「現場の状況からして、神農さんは完全な被害者で間違いない」と話したそうです。

それでも諭哉さんは、自責の念を拭い去ることができませんでした。

写真=遺族提供

神農さん家族が乗っていた自家用車。衝撃の大きさが一目でわかる

写真=遺族提供

血痕が付いたエアバッグ。フロントガラスはヒビでバキバキの状態に

冷たくなったわが子、絶望の日々

翌朝、この事故は以下の記事で報じられました。

高知の高速道で車正面衝突、大阪の1歳男児死亡 両親重傷〔産経ニュース(2024年9月22日)〕

21日午後0時50分ごろ、高知県香南市の高知東部自動車道下り線で、乗用車同士が正面衝突した。県警によると、下り線の車に乗っていた大阪市淀川区東三国の神農煌瑛ちゃん(1)が死亡した。父親(33)と母親(38)もそれぞれ重傷を負い、姉(6)にはけがはなかった。〈編註:以下略〉

高知県警は上り線からはみ出したとして、自動車運転処罰法違反(過失傷害)容疑で男性会社員(60)を現行犯逮捕。容疑を過失致死に切り替えて捜査すると報じられました。男性会社員は軽傷でした。

事故から9日目の9月30日、高知市内で煌瑛ちゃんの葬儀が営まれました。開腹手術を受けた彩乃さんが、車椅子で何とか参列できるまで待とうと配慮したうえでの日程でした。


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実際に、「レベル2」の自動運転機能を搭載した車による死亡事故の刑事裁判では、無罪を訴えたドライバーに対し、「運転支援システムが搭載されていても、前方を注視して運転をすべき」として、禁錮3年執行猶予5年の有罪判決が下されています(2020年3月31日、横浜地裁)。

本件事故は2018年4月29日、東名高速上り線で発生しました。転倒したオートバイの男性を救助しようとしていたライダーたちに、テスラ車のSUV「モデルX」が加速しながら突っ込み、1人が死亡、2人がけがを負ったのです。

テスラ車を運転していた被告(当時50)は、自身が一時的に居眠りをしていたことを認めながらも、「運転支援システム(クルーズコントロール)の故障によって事故が起きた」と主張。裁判では、人と車、どちらに責任があるかが争点になりました。

しかし、裁判官は「システム故障か機能の限界かは判然としない」と言及を避けたうえで被告の主張を退け、「運転中に眠気を覚えた場合は、運転中止義務がある。この義務に違反した被告の過失は相応に重い」と指摘し、有罪判決を言い渡したのです。

つまり、高橋弁護士が指摘する通り、「レベル2」の自動運転機能の車であっても、運転者は前方左右注視義務を負うので、義務違反があれば、事故が起きたときシステムに欠陥があっても、運転者が刑事責任を負う、ということになるのです。

遺族「悔しくて、悔しくてたまりません」

事故から4カ月が経過しました。諭哉さんは今もフラッシュバックに苦しみ、心療内科に通院していると言います。

「血まみれになりながら、呼んでも反応のない息子。それでもなんとか助けたい一心で、何度も、何度も名前を呼んでいたあのときのことが、繰り返し、今も夢に現れます。でも、開胸されたあの姿を見たのも、息子が死んだと聞かされたのも、妻ではなく僕でよかった……。これは、僕が背負っていかないといけないと思っています」

自動車運転過失致死傷罪で送検された加害者は、「事故のことは覚えていない」と供述しています。捜査は継続中で、まだ刑事裁判は始まっていません。

「中央分離帯のない自動車専用道路で、自車の自動運転機能を過信し、ハンドルから手を離していた? それが事実なら、運転を放棄していると言っても過言ではありません。こんな自分勝手なふざけた運転をしていた人間に、なぜ1歳になったばかりの大切な息子の命を奪われないといけなかったのか、悔しくて、悔しくてたまりません。亡くなった息子のためにも、このような事故を1件でも減らしていけるよう、頑張って活動していきたいと思います。どうか少しでも応援をしていただければ嬉しいです」

写真=遺族提供

事故でなくなった煌瑛ちゃん

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