斜め掛け水筒で内臓損傷、子供が走って転倒時に危険性…7歳児が摘出手術に至った例も

 転倒した子どもが、肩から斜め掛けしていた水筒で腹を強打して大けがをする事故が相次いでいるとして、医療関係者らが注意を呼びかけている。熱中症予防のため水分補給は欠かせないが、水筒を掛けたまま走らないといったことを日頃から子どもに教えておく必要がある。(福島憲佑)

 「腹部の前方に水筒が位置している状態での転倒が危険」。子どもの手術に関係する学術団体で作る「日本小児期外科系関連学会協議会」や「日本小児科学会」などは昨年6月、子どもが首や肩から水筒を下げたまま転倒した場合の危険性について、注意喚起を行うことを求める要望書をこども家庭庁に提出した。

 提出資料によると、2024年までの約40年間に、転倒時に子どもが水筒で腹を強く打ち、十二指腸や 脾臓(ひぞう) などの臓器を損傷した事故が14件以上報告されている。けがをしたのは5~11歳で、中には手術が必要で1か月以上入院した事故例もあった。

 子どもは大人と比べ、「転倒しやすい」「転倒時に腕で体を支える動作を取りにくい」「腕の長さが短い」といった特徴がある上、幼い子どもは皮膚や筋肉が薄く伸縮性に富み、 肋骨(ろっこつ) も柔らかいため、水筒の衝撃を防ぐことが出来ずに内臓を傷めるという。

 要望書では典型的な事故例として、10年前の7歳の小学生男児の事案を紹介している。小学校に登校し、傘を差しながら校内で走っていたところ、硬い土の上でつまずいて転倒。首から斜めに掛けていた水筒が地面にぶつかり、水筒の底の部分で腹部を強打した。

 児童はぐったりした様子で 嘔吐(おうと) が続き、病院で外傷性の 膵(すい) 損傷と診断された。手術で膵臓の半分程度と脾臓を摘出したという。

 こども家庭庁は要望書を受けて今年3月、「こどもを事故から守る!事故防止ハンドブック」に、水筒についての注意を加えた。水筒を「リュックサックなどに入れる」「首や肩に掛けている時には走らない」「遊具で遊ぶ場合は置いておく」ように呼びかける。消費者庁も23年、転倒時に水筒で負傷する危険性をメール配信で指摘している。

 メーカーで作る「全国魔法瓶工業組合」も水筒の取扱説明書の内容について協議し、加盟全社が注意喚起の文言を加えている。

 象印マホービン(大阪)はベルト付きの水筒の取扱説明書に「なるべくリュックサックなどに入れる」「製品がおなかの正面にこないようにする」「遊具などで遊ぶときは製品を置いて遊ぶ」などと明記。タイガー魔法瓶(同)はロングストラップが付いた水筒を肩に掛けている時の注意点として「走らない」「運動しない」「遊ばない」と記載している。

 万が一、子どもが水筒を掛けたまま転倒した場合の対処法について、日本小児期外科系関連学会協議会長で医師の松藤凡さんは「子どもの様子を注意して見てほしい」と話す。水筒で腹を打った痛みは通常なら徐々に治まるが、内臓が損傷している場合は、痛みが強くなっていくという。

 転倒を直接見ていなくても、子どもが痛みを訴えたら、保護者は、転んで水筒で腹を打っていないかを問いただしてみる。松藤さんは「顔色が悪い、元気がない、時間がたっても痛みがあるなど、様子がおかしいようなら医療機関を受診してほしい」とアドバイスする。

ランドセル用の補助バッグ

ランドセルに装着する補助バッグ「サンドセル」には水筒が収納できる(デビカ提供)

 斜め掛けしなくても水筒を持ち運べるように、ランドセルに取り付けられる補助バッグが販売されている。デビカ(愛知)の「サンドセル」(参考価格3960円)は二つの収納ポケットがあり、ランドセルを挟み込むように装着する。ポケットはそれぞれ1リットルサイズの水筒が入れられる。担当者は「現代の暑さに水筒は欠かせない。荷物が多い小学生に使ってもらい、安全に登校してほしい」と話す。

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