米中関係「リセット」に暗雲、勢いづくトランプ政権内の対中強硬派
米中貿易戦争の「一時停戦」を受けて、トランプ米大統領が「完全なリセット」を宣言してから数週間後、世界の2大経済大国の間で再び緊張が高まっている。
トランプ政権は28日、中国人留学生のビザ取り消しの手続きを開始すると発表。半導体設計ソフトウエアに対中輸出を制限する新たな措置の導入に踏み切ったほか、米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)によると、一部の航空エンジン部品についても対中輸出を禁止した。
これに先立ち、華為技術(ファーウェイ)が開発した先端人工知能(AI)半導体「Ascend(アセンド)」の使用について、「世界のどこでも」米国の輸出管理規則に違反するとの指針も発表。中国政府の強い反発を招いている。
米民間調査機関のコンファレンスボードの中国センター上級顧問、アルフレド・モントゥファルヘル氏は「ジュネーブでの米中通商交渉は、双方が公式に対話しているという点において前向きだった」と指摘。「しかし、協議は米中間の競争を生む核心的な問題には踏み込んでいない。最も大きな争点は技術を巡る覇権争いだ」と述べた。
米中交渉団は、関税を90日間にわたり大幅に引き下げることで折り合ったが、依然として貿易不均衡の是正に向けた合意を取りまとめる必要がある。合成麻薬フェンタニルの密輸における中国の関与や、レアアース(希土類)、半導体輸出規制といった問題でも、両国の溝は埋まっていない。
トランプ氏は2期目就任後、習近平国家主席との電話会談が近いと重ねて示唆しながら、いまだ直接対話は実現しておらず、包括的な米中合意がなお遠いことを示している。
中国留学生に対する取り締まり強化は、 ルビオ米国務長官によって発表された。ルビオ氏は就任前に2度、中国政府から制裁対象に指定さるなど対中強硬派と目されている。米中が一時的な関税の相互引き下げで合意したことを受けて、トランプ政権内の対中強硬派が影響力を失いつつあるとの見方も出ていたが、今回のルビオ氏の発表はこれを打ち消す格好となった。
中国外務省は定例会見で中国人留学生のビザ取り消し措置を「差別的」だと非難。毛寧報道官は「世界における米国の評判をさらに損なうだけだ」と述べた。ただ、今回の反応は比較的抑制的であり、具体的な報復措置への言及もなかったことから、米中関係を再び冷え込ませたくないとの中国当局の意向がうかがえる。
それでも、中国人留学生への締め付けを強化するという決定は、米中関係に根深く存在する不信感を改めて浮き彫りにする。中国を国家安全保障に対する重大な脅威とみなすことは、超党派で認識が一致している。一方、中国側も対米不信を背景に、米国を含む外国人を対象とするスパイあぶり出しに乗り出している。
もっとも、米国内で外国人留学生に対して敵対的な環境を醸成すれば、優秀な人材を中国本土に引き戻す動きにつながりかねない。習主席がハイテク製造業を経済成長の中核に据える中で、中国にとっては高度人材が米国から帰国すれば、イノベーション強化を掲げる国家戦略と一致する。
中国人留学生は、米国の技術的な成功と科学に重要な貢献をしてきたと、ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院(SAIS)のジェシカ・チェン・ワイス教授(中国研究)は指摘する。
米国で共産主義への締め付けが強まった「赤狩り」の時代には、著名なロケット開発者である銭学森氏が米国で研究活動を続けることを阻まれた。同氏はカリフォルニア工科大学で米航空宇宙局(NASA)のジェット推進研究所を共同で設立した人物だ。
ワイス氏は「同氏は中国に帰国し、本国で弾道ミサイルの開発に寄与した」とし、結果的に同氏の帰国が中国を利することになったと述べた。
原題:Trump-Xi Truce Under Fire as China Hawks Target Students, Tech(抜粋)