核廃棄物から電力を生み出す技術が開発される

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 原子力発電は二酸化炭素をほぼ排出しないエネルギー源だが、放射性廃棄物の処理が大きな課題となっている。

 そんな中、アメリカのオハイオ州立大学の研究チームが、核廃棄物を活用してバッテリーの電源として利用する方法を開発した。

 研究チームは、核廃棄物から発せられるガンマ線を電力に変換し、マイクロチップを動かすことに成功したのだ。

 この技術が実用化されれば、原子力発電の持続可能性が高まり、エネルギーの新たな可能性が広がるかもしれないと期待されている。

 原子力発電は、核分裂によって発生する熱エネルギーを利用した発電のことだ。

 少しの燃料で大きな電力を発電でき、また化石燃料を使用しないために、日本ような資源に乏しい国にとっては大きな意味を持つ。また、温室効果ガスをほとんど排出しないことも大きなメリットだ。

 その一方、発電によってできる放射性廃棄物をどう処理するのかという問題もある。

 とりわけ高レベルの放射線廃棄物の場合、数万年にも渡り人体や環境に有害な放射線を放ち続ける。

 それによる被害を防ぐには、たとえゴミであっても適切に管理しなければならないが、それは極めて長期にわたるため、現世代はもちろん、将来世代の人類にとっても大きな負担となる。

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 今回、米国オハイオ州立大学の研究チームが考案したのは、その放射性廃棄物を有効利用する新型バッテリーである。

 その心臓となるパーツは、「シンチレーター結晶」と呼ばれる高密度材料だ。これは放射線を吸収して、光に変換する機能がある。

 そこで、この結晶を太陽光発電に使用されるソーラーパネルと一緒に使用済燃料貯蔵プールなどに設置しておけば、その光で発電できるようになる。

 実際に試作されたプロトタイプは、一辺4cmほどのキューブのようなもの。研究チームは、その発電性能を「セシウム137」と「コバルト60」の2種類の放射性物質で確かめている。

 その結果、セシウム137ではせいぜい288ナノワット程度の電力だったが、コバルト60では1.5マイクロワットの電力を発電することに成功したという。これは小型のセンサーなら十分稼働させられるくらいの電力だ。

この画像を大きなサイズで見る 新型バッテリーは、シンチレータ結晶とソーラーパネルを組み合わせたものだ image credit:Oksuz et al., Optical Materials: X, 2025

 家電の消費電力を調べてみれば、数百ワットや1000ワットを超えるものがほとんどだ。ゆえにナノ/マイクロワットのレベルでは、身の周りの電化製品は動かないということになる。

 だが、そもそも今回の放射性廃棄物バッテリーは家庭用に考案されたものではない。研究チームが想定する用途は、使用済燃料貯蔵プールや宇宙・深海探査用の原子力システムの近くなど、一般向けではないものだ。

 また放射性廃棄物バッテリーのスケールアップや出力アップも可能だと考えられている。

 たとえばシンチレーター結晶の最終的な出力は、形状やサイズによって左右される可能性がある。

 体積や表面積が大きくなるようなデザインにすれば、それだけ多くの放射線を吸収でき、かつソーラーパネルにも有利なので、より大きな電力を発電できる。

 もう1つ重要な点は、放射性廃棄物バッテリーによる環境汚染がほとんど問題にならないことだ。

 それが設置されるのは、人間が簡単には近づけない高放射線環境だ。そこにバッテリーを置いたとしても、それによる環境の負荷はほとんど変わらない。

 また、定期的なメンテナンスなしで長期間動作すると期待できるのも大きい。

 研究チームによれば、まだ改善の余地はあるが、いずれこうしたバッテリーはエネルギー生産やセンサー業界において重要なシステムになるだろうとのこと。

 研究を主導したレイモンド・チャオ氏は、「私たちはゴミとされたものを集め、それをお宝に変えようとしています」と、ニュースリリースで語っている。

 この研究は『Optical Materials: X』(2025年1月29日付)に掲載された。

References: Scientists design novel battery that runs on atomic waste

本記事は、海外の情報を基に、日本の読者向けにわかりやすく編集しています。

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