ソフトバンクG、エヌビディアやTSMCを追加取得-AI注力で

ソフトバンクグループは、米半導体大手エヌビディアと、受託生産最大手の台湾積体電路製造(TSMC)の保有株を積み増している。人工知能(AI)を支える半導体などハードウエアへの孫正義社長の強い関心を示す最新の動きだ。

  規制当局への提出資料によれば、ソフトバンクGは3月末の時点で、エヌビディア株の保有額を約30億ドル(約4400億円)に引き上げた。その前四半期末は10億ドルだった。またTSMC株を新たに3億2950万ドル、米オラクル株も1億7060万ドル分購入した。

  一方、ビジョン・ファンド(SVF)の保有株は年々減少している。同ファンドは2025年上半期に、公開・非公開の資産あわせて約20億ドル分を現金化したという。ファンドの活動に詳しい人物が、非公開情報だとして匿名を条件に明らかにした。

  同関係者は、SVFは投資収益の確保を優先しており、資産を現金化するようソフトバンクGから特別な圧力がかかっているわけではないと述べた。ソフトバンクGの広報担当者はコメントを控えた。

  ソフトバンクGのAI戦略の中核は、英半導体設計会社アーム・ホールディングスが担う。ただ、史上初めて時価総額4兆ドルを超えたエヌビディアと、同様に急成長したTSMCへの投資に乗り遅れた分を取り戻そうと、孫氏はアームを軸にAI領域でのポートフォリオ拡充を進める。

  「エヌビディアは、AIというゴールドラッシュにおける、つるはしとシャベルだ」。テナシティ・ベンチャーキャピタルの創業者であるベン・ナラシン氏は、こう表現する。またソフトバンクGは追加投資で、エヌビディアの高性能半導体を優先的に調達できるかもしれないと指摘した。

  ソフトバンクGは早くからAI領域に注目していたが、19年初めにエヌビディア株を4.9%分手放した。現在も保有していれば、2000億ドル超になる。またSVFの巨額損失の影響で、生成AIブーム初期段階での投資機会も逃した。

  エヌビディアやTSMC株の取得は、半導体サプライチェーンの中でも、最も利益率の高い領域への再接近を意味する。

投資家も歓迎

  AIが人知を超えると信じている孫氏は、普及に向けて中心的な役割を担おうとしている。代表的な計画が、オープンAIなどと進めるAIインフラ事業「スターゲート」や、米アリゾナ州での1兆ドル規模のAI拠点構想だ。

  孫氏の野心的なプロジェクトを投資家も歓迎している。6月には株価が38%上昇し、過去20年間で最大の月間上昇率を記録した。7月には上場来高値を更新した。

  米半導体設計会社のアンペア・コンピューティング買収計画や、オープンAIへの追加投資構想も、米スタートアップの成長を株価に取り込める手段として、市場は期待を寄せる。

  ただ孫氏自身は満足していないと、関係者は明かす。米国で進める大型プロジェクトで、AI分野のリーディングカンパニーを一気に追い抜き、時価総額1兆ドル超えも可能だと、孫氏はみているという。

  ソフトバンクGの時価総額は約17兆円と、保有資産全体の推定価値に対して約4割も割安な水準で取引されている。保有するアーム株(時価総額約21兆円)の約9割分も含む。エヌビディア(同647兆円)や、AI進展と最も深く関わる他のテクノロジー企業と比べれば、大きな開きがある。

  ソフトバンクGが7日に発表する4-6月(第1四半期)決算では、手元流動性確保に向けた資産売却に注目が集まる。同社はTモバイルUS株の一部を売却し、約48億ドルを調達した。

  ソフトバンクGが重視する時価純資産(NAV)は3月末時点で、25兆7000億円だった。後藤芳光最高財務責任者は、NAVを引き合いに出し、資金需要をまかなう十分な資本があると5月に説明していた。

  SVFは25年3月期に、食事宅配の米ドアダッシュ、米ガラス製造メーカーのビューに加え、サイバーセキュリティーの新興企業のウィズや、意思決定支援AIを手がける英新興企業のピークから手を引いた。一方でエヌビディア、TSMC、オラクルの株式を買い増した。

  孫氏は6月の株主総会で、「目標は一つ」で、「人工超知能(ASI)のナンバーワンのプラットフォーマーになること」だと宣言。スタートアップも含めグループ企業の力を結集し、ASIの世界を追い求めていくと意気込んだ。

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