トランプ氏、クックFRB理事の解任を命令 理事は反発

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画像説明, クック氏は、アフリカ系アメリカ人の女性として初めてFRB理事になった

スチュワート・ラウ、ピーター・ホスキンス BBCニュース

ドナルド・トランプ米大統領は25日、米連邦準備制度理事会(FRB)のリサ・クック理事を直ちに解任すると表明した。トランプ氏はかねて、アメリカの中央銀行にあたるFRBと対立しており、今回の発表でその争いを一気に激化させた。

トランプ氏は自分のソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」に、クック理事に直ちに解任すると告げた書簡を投稿した。

トランプ氏は、クック氏が有利な条件で住宅ローンを受けるため虚偽申告をしたと信じるに足りる「十分な理由」があるとして、自分には合衆国憲法に基づき、FRB理事を解任する権限があると主張した。

これに対してクック氏は、トランプ氏には自分を解任する権限はなく、自分は辞任しないと表明した。

「トランプ大統領は、法律上存在しない『正当な理由』を根拠に私を解任しようとしている。彼にはその権限はない」とクック氏は声明で述べた。「私は辞任しない。2022年から続けてきたように、アメリカ経済のために自分の責務を遂行し続ける」とも述べた。

FRBは、25日夜の大統領の発表について、現時点でコメントしていない。

トランプ氏はこのところ、FRBとジェローム・パウエル議長が金利引き下げに消極的だとして、圧力を強めていた。パウエル氏の解任の可能性にも繰り返し言及している。

クック氏はFRB理事会の理事7人の1人。アフリカ系アメリカ人の女性として、初めてFRB理事になった。大統領がFRB理事の解任を発表するのは、FRBの111年の歴史で前例がない事態とされる。

複数の専門家らは、ホワイトハウスは、クック氏解任の正当性が十分あると、裁判で証明する必要があるだろうと指摘する。

トランプ氏が発表した書簡によると、クック理事はミシガン州の物件について「今後1年間の主な居住地」とする文書に署名した後、2週間後にジョージア州の別の物件についても同様の文書に署名していた。「二つ目の文書に署名した時点で、最初の約束を認識していなかったなどあり得ない」とトランプ氏は書いている。

トランプ氏は、理事が不動産詐欺にかかわったと主張し、先週の時点で辞任を求めていた。クック理事の不動産取引に関する疑惑は、トランプ氏に近い連邦住宅金融局(FHFA)のビル・パルト局長が20日に、パム・ボンディ司法長官宛ての公開書簡で最初に指摘したもの。

パルト局長はソーシャルメディア「X」に投稿した自分のこの書簡を「刑事告発」と位置づけ、司法省に捜査を要請した。局長は署名の写真も投稿し、「リサ・クックはすべての正当な質問に答えると言っている。ではこれから始めよう。これは住宅ローンに関するあなたの署名ですか?」と書いた。

クック理事に対する捜査が開始されたかどうかは不明だが、トランプ氏は20日、「トゥルース・ソーシャル」に「クックは今すぐ辞任すべきだ!!!」と投稿していた。

これを受けてクック理事はBBCに対し、報道で初めて疑惑を知ったと回答。この件は4年前、FRBに就任する前に行った住宅ローン申請に関することだと説明していた。

理事は、「誰かがツイートで質問したからといって、ごり押しされて辞任するつもりはない」した上で、「FRBの一員として、自分の財務履歴に関する疑問は、真剣に受け止める。そのため、正当な質問に回答して事実を提示するため、正確な情報を集めている」と述べた。

クック理事やFRBが、トランプ氏による解任決定に抵抗した場合、中央銀行とホワイトハウスの間で対立が生じる可能性がある。FRBは1951年にアメリカ政府からの独立を獲得した。

大統領が求める借入金利の大幅な引き下げにパウエル議長が応じないことから、トランプ氏はパウエル氏に対しても敵意を強めており、「能なし」、「頑固なまぬけ」などと呼んでいる。

しかしパウエル氏は22日の講演で、9月に金利を下げる可能性をほのめかした。ワイオミング州ジャクソンホールで開かれた各国中央銀行関係者の会合で、パウエル氏はさらに、トランプ氏の関税によるインフレへの影響は一時的なものにとどまる可能性があると述べた。

アジア各地の金融市場では26日、クック氏の後任が利下げを推進する可能性があるとの見方から、米ドルが主要通貨に対して下落した。

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