脳波をコントロールできれば、薬なしでも痛みに耐えられる?
痛いと思うから痛いんだよ。痛くないと思えば痛くないよ!
…なんてバカなことをと思いきや、場合によっては、痛いと思う脳をコントロールできれば、痛くなくなるかもしれないそうで。
最新研究で可能性が広がる、「薬を使わない痛み止め」の話です。
慢性的な痛みの新たな治療法?
痛みと脳波について研究しているのは、オーストラリアのニューサウスウェールズ大学の心理学者が率いる研究チーム。
「PainWaive」というトレーニングシステムを開発しました。これで何をトレーニングするかというと、神経痛の根底にある異常な脳波を制御する方法です。
PainWaiveはニューロフィードバック系(脳波の動きを可視化し、被験者がそれをリアルタイムでチェックする取り組み)のゲームを通して、脳波のコントロールを練習する仕組み。脳波検査(EEG)ヘッドセットと専用アプリから成る脳波記録システムです。
被験者はEEGヘッドセットを装着し、専用トレーニングゲームアプリが入ったタブレットを使用。これと並行して、リラックスするコツなど、脳波を変える手助けをするメンタルガイダンスも受けます。
初期臨床試験では、眼の角膜が慢性的に痛い症状を持つ患者4人が、4週間かけて20回のPainWaiveセッションにチャレンジ。
その結果、4人中3人が、治療5週間後のフォローアップにて、劇的に痛みが低減したと回答しました。
研究が進めば、投薬なし、刺したり切ったりなし、家でできる新たな鎮痛手段に、また強力な鎮痛剤として知られるオピオイド(麻薬性鎮痛薬)の代替品になるかもしれません。
脳波に直接働きかける
PainWaiveは、痛みに関連する脳波に直接働きかけることはできないかというアイデアから開発されたシステム。
「慢性的な痛みを感じる患者の脳波には、ゆっくりなシータ波、低いアルファ波、速く高いベータ波という特徴的なパターンが見られます」と、ニューサウスウェールズ大学のプレスリリースで語った、臨床心理士で論文執筆者の1人でもあるシルヴィア・ガスティン氏。
チームは、神経細胞層の大脳皮質に、感覚と運動の信号を伝える「視床」という脳の構造での変化を調査。
ガスティン氏はこう語っています。
「脳の他の部分に情報をどう伝えているか、特に痛みに関する知覚運動皮質への伝達が、視床の変化に関連していると考えます。
ならば、その異常な脳波を正常にするよう直接働きかける治療法はないのだろうかと考えたのです」
厳密には角膜神経の慢性的な痛みの原因はハッキリわかっていないそうですが、脳波の制御で痛みを低減するこのシステムは、初期臨床試験では成功といえる結果となりました。
研究はまだまだ初期段階のため、今後さらに安全性や効率化、またプラシーボ効果の可能性など、さまざまな取り組みを進めていく必要があります。
論文はThe Journal of Painに掲載されています。