記憶喪失前の結婚や契約はどうなる? 身元不明の男性発見、報道後に有力情報あいつぐ
突然、記憶をすべて失ってしまったら、法的にはどう扱われるのでしょうか。
ABCニュースなどによると、今年7月、島根県内の国道沿いの植え込みで、記憶喪失の男性が見つかったそうです。
近くにカバンがあり、衣類やメガネは入っていましたが、財布の中には身分証もなく、携帯もなかったといいます。
男性は自分の名前も思い出せず、身元を知りたいとの思いで取材に応じたようですが、放送後は有力情報が寄せられているとのことです。
一般的に、頭部を損傷したり、心的外傷や疾患によって記憶を失うことがあるとされます。ある日突然、男性のように「記憶喪失」になってしまった場合、法的にはどのように扱われるのでしょうか。冨本和男弁護士に聞きました。
●記憶喪失前の結婚や契約は有効だが…
──記憶喪失になる前に結婚していたり、何らかの契約をしていた場合、その効力はどうなのでしょうか。
当然のことですが、記憶喪失前に成立していた結婚や契約は有効です。
ただし、結婚については、記憶喪失によって「自分がどこの誰だかわからない」といった状況が続く場合、民法770条1項の「離婚原因」にあたるとして、配偶者から離婚を請求される可能性があります。
契約について、記憶喪失のままでは債務を履行できないので、相手方から契約を解除されたり(民法542条1項)、損害賠償を請求されたり(民法415条1項、2項)するおそれがあります。
また、財産を持っていても、自ら管理できず、元の生活に戻れない場合は、委任していた管理人や不在者財産管理人によって管理されることになります(民法25条、26条)。さらに生死不明の状態が7年以上続けば、失踪宣告(民法30条1項)で、相続手続きが始まってしまうこともあります。
●刑事責任に問われるようなことをしていたら?
──記憶喪失になる前に犯罪を犯していた場合も、やはり責任を負うのでしょうか。
記憶喪失以前の行為であれば、刑事責任自体は消えません。ただし、検察官の判断によって不起訴となり、刑事責任を問われない可能性もあります(刑事訴訟法248条)。
また、仮に起訴されたとしても、記憶喪失だけでなく知的機能に障害があれば、「心神喪失の状態」とされ、刑事裁判は停止されます(刑事訴訟法314条1項)。これは被告人が適切に防御できないまま刑事裁判を続けることは、公正な手続に反するからです。
●記憶喪失のまま生きていくと?
──記憶喪失になった後、日常生活ではどのような問題が生じるでしょうか。
記憶喪失になってしまったとしても、知的機能に問題がなく、お金があれば、店で買い物をするなど、通常の生活はできると思います。
しかし、「自分がどこの誰かわからない」ままでは、先述の法的問題が生じますし、戸籍や住民票を取得できず、身分証明もできない可能性があります。結果として、銀行口座の開設、免許取得、就職などが困難になり、社会生活に大きな支障をきたす可能性があります。
この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。