ガザの物資配給所付近で銃撃との報告、赤十字は21人死亡と発表 イスラエル側はハマスの偽情報と主張

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画像説明, 1日の事案後に南部のナセル病院に運ばれた遺体

セバスチャン・アッシャー中東地域編集長(エルサレム)、ラシュディ・アブ・アルーフ・ガザ特派員(カイロ)

赤十字国際委員会(ICRC)は1日、パレスチナ・ガザ地区南部に設置した野戦病院に、銃創や破片による負傷者を含む多数の負傷者が搬送される「大規模な負傷者の流入」があったと発表した。この日、南部ラファの支援物資センター近くで発生した事案については、さまざまに異なる主張が飛び交っている。

ICRCの発表によると、搬送された人のうち21人が「到着時に死亡が確認された」。また、負傷者179人の中には女性や子どもも含まれていたという。

イスラム組織ハマスが運営するガザ地区の民間防衛隊はこの日、ラファの配給センター付近で「イスラエル軍による民間人への銃撃」があったと発表。これにより、少なくとも31人が死亡し、多数が負傷したと非難した。

一方、イスラエル国防軍(IDF)は、初期調査の結果として、自軍が配給センターの付近またはその内部にいた人々に対して発砲した事実はないと主張している。

IDFはまた、南部ハンユニス近郊で支援物資を受け取っていた民間人に対し、武装した覆面の男らが石を投げたり発砲したりする様子を捉えたとするドローン(無人機)の映像を公開した。ただし、BBCはこの映像の内容を直ちに検証・確認できなかった。

イスラエルは、BBCを含む外国報道機関のガザ地区立ち入りを認めていない。このため、現地の状況を独自に検証するのが難しい状況が続いている。

配給センターを運営する「ガザ人道財団(GHF)」も、同施設の近くで負傷者や死者が出たとの主張を否定し、これらの情報はハマスによって流布されたものだと述べている。GHFはアメリカとイスラエルが支援している。

2日夜の時点で、現地の状況は依然として不明確な状態が続いている。

ICRCは声明で、「ラファにある赤十字の野戦病院が、1日の早朝に女性や子どもを含む179人もの死傷者の流入を受け入れた」と明らかにした。

ICRCによると、「大多数が銃創または破片による負傷を負っており」、「21人は到着時に死亡が確認された」という。ただし、ICRCが報告した死者数が、ハマスが運営するガザの保健省が発表した人数に含まれているかどうかは不明。

ICRCはまた、「状況を証言した患者は全員、支援物資配給施設に向かおうとしていたと話している」と述べた。

「この野戦病院が1年以上前に設置されて以来、事案1件に関連してここが受け入れた武器による負傷者の人数としては過去最多」で、60床の施設の収容能力を「はるかに上回った」と、ICRCは述べている。

国境なき医師団(MSF)も声明を発表し、「多数の被害者」が発生したこの事案に対応したと明らかにした。負傷者が搬送されたナセル病院では、血液バンクがほぼ空になり、医療スタッフ自らが負傷者のために献血したという。

また、少なくとも2人の患者が、支援物資を受け取ろうとした際に自分や他の人々が銃撃を受けたと証言したという。

MSF広報担当のヌール・アルサカ氏は声明で、MSFのスタッフが患者の治療にあたっていた際、「同僚の兄弟が、支援物資配給センターで物資を受け取ろうとしていた際に殺害されたことが確認された」と述べた。

MSFの緊急対応コーディネーターを務めるクレア・マネラ氏も、「今回の出来事は、この新しい支援物資配給の仕組みが非人道的で危険、かつ極めて非効率だと、あらためて示した」と述べた。

IDFは声明で、「ガザ地区の人道支援物資配給所周辺で、ガザ住民への発砲に関し、イスラエル軍に対する深刻な主張を含め、虚偽の報告がこの数時間で広まっている」と述べた。

「初期調査の結果、イスラエル軍は人道支援物資配給所の付近またはその内部にいた民間人に対して発砲しておらず、これに反する報道は虚偽だと判明した」とIDFは主張した。

これとは別に、ガザ中部のネツァリム回廊にある別の支援物資配給所付近でも同様の事案が発生したとされと報じられている。パレスチナ赤新月社は、14人が負傷したと報告している。

BBCに連絡してきたハンユニスにあるナセル病院の医師たちによると、同病院には銃弾や破片による負傷者約200人が搬送されたという。

地元のジャーナリストや活動家らは、人々が、遺体や負傷者をロバに引かせた荷車に乗せ、アル・マワシ地区の赤十字野戦病院に運ぶ様子を撮影した映像を共有している。

BBCも、遺体が荷車やトラックの荷台に乗せられ、ナセル病院に運ばれる映像を確認した。

ガザの保健省は、病院への搬送された負傷者は200人を超え、そのうち31人が死亡したと発表している。

イギリスの慈善団体「パレスチナ人のための医療支援(MAP)」の医療スタッフは、負傷者のうち79人がナセル病院に搬送されたと話している。

また、死亡者および負傷者の多くが「主に実弾によって頭部や胸部を直接撃たれていた」と語った。

ナセル病院に勤務するイギリス人の形成外科医、ヴィクトリア・ローズ氏は、院内で同日午前に撮影した動画の中で、背後に患者が横たわるベッドを指しながら「すべてのベッドが埋まっており、すべて銃創の患者だ」と述べた。

各地の支援物資配給所を運営するGHFは、施設付近で事案が発生したとの主張を否定している。

また、BBCに連絡してきたラファに駐留するIDFの兵士は、「イスラエル兵が群衆の近くで発砲したが、群衆に向けたものではなく、誰にも命中していない」と主張した。

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画像説明, 1日の事案の後、ナセル病院には多くの負傷者が運ばれた

一方、ラファ在住のジャーナリスト、モハメド・ガリーブ氏はBBCに対し、GHFが運営する支援物資配給センターの近くにパレスチナ人が集まっていたところ、イスラエル軍の戦車が接近し、群衆に向けて発砲したと主張した。

ガリーブ氏によると、現地時間の1日午前4時30分(日本時間同日午前10時30分)ごろ、パレスチナ人の群衆はGHFの配給所に近いアル・アーラム交差点付近に集まっていたという。その直後にイスラエル軍の戦車が現れ、発砲が始まったと、ガリーブ氏は述べた。

「現場はイスラエル軍の支配下にあり、救助隊が近づくことができなかった。そのため住民らは、荷車を使って被害者を野戦病院まで運ばざるを得なかった」

ガザ民間防衛隊のマフムード・バッサル報道官は、AFP通信に対し、「イスラエル軍車両から市民数千人に向けて発砲があった」、と述べ、100人以上が負傷したと語った。

一連の事案は、ラファにおける深刻な人道状況を浮き彫りにしている。最近のイスラエル軍の軍事作戦により、ガザでは支援物資や緊急医療サービスへのアクセスが著しく制限されている。

世界食糧計画(WFP)によると、1日には食べ物を求めて必死の人たちがガザに入った支援物資トラックに殺到したことから、現場が混乱したという。

GHFは、今週だけで470万食を配給したと発表しているが、BBCはこの数字を独自に検証できていない。

イスラエルは、2023年10月7日に発生したハマスによる越境攻撃への報復として、ガザで軍事作戦を開始した。この攻撃では約1200人が殺害され、251人が人質として連れ去られた。

一方、ガザの保健省によると、これまでに少なくとも5万4418人がイスラエルの攻撃によって殺された。

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